ミャンマー通信(28)

【北から南から】ミャンマー通信(28)

高まる総選挙モード

街に貼りめぐりされる選挙人名簿登録要請ポスター

中嶋 滋


●本格化する雨期の中で

 ヤンゴンの街は雨期の本格化に伴って乾期とは違った佇まいに変っていきます。半年間続いた乾期は樹木の葉をはじめ多くをホコリまみれにします。それをすっかり洗い流してくれますから、ヤンゴンの街の緑(その多さは世界の大都市の中でかなり上位にランクされると思っています)は清らかになり美しさを増します。ヤンゴンは野良犬がやたら多いのですが、至るところにある糞を洗い流してくれることと並んで、それは、雨期になって良い方に変化する数少ないことだろうと思います。
 雷を伴う激しい雨は、電波障害を頻繁に引き起こしテレビが見えなくなることはしばしば起こします。見たい番組が突如映らなくなる腹立たしさは、怒りの矛先が向けようがないので始末に困ります。こんな時、友人たちは「This is Myanmar.」と笑っていますが---。笑っていられないのが、黴です。出張でしばらく家を空け帰って来ると、ワードローブの中の服に黴がびっしりついていて悲しくなることがあります。扇風機で風をあてながら掃除機で黴を吸い取る作業をかなりの時間続けることになります。
 この時期は細菌も蔓延るわけで、食べ物には特に注意が必要になります。ミャンマーはコレラ菌や赤痢菌の常在国で、それにかかるリスクは常にあるのです。私にもコレラに罹り強制入院させられた経験があります。先日も、日本のNPO関係者が罹病して、ちょっとした騒ぎになりました。不幸にして命を失う人もいます。その多くは極度の脱水症状によるものとのことで、早めの治療が肝心で、それが出来た私は幸いでした。

●街のあちこちにポスター

 そんな雨期が本格化した今月初旬、街のあちこちに選挙人登録確認を求めるポスターが貼り出されました。それは選挙管理委員会によるもので、今秋に予定されている総選挙に向けた準備活動の一環です。私が住むアパートのエレベーターホールにも3枚ものポスターが貼ってあります。いよいよ選挙戦が実質的に始まったと感じさせられます。

 2010年11月に実施された現行憲法下での第1回総選挙は、約77%の投票率で、大方の予想通り当時の軍政が全面的にバックアップした連邦団結発展党(USDP=Union Solidarity and Development Party)が上下院とも80%近い議席を獲得し圧勝する結果でした。しかしその結果は、国民民主同盟(NLD=National League for Democracy)が総選挙をボイコットしたことによっていたといえます。NLDは、総選挙の前提となる新憲法が非選挙軍人議席や大統領資格など民主的でない規定を多く含んでいることや、新たな政党登録法が「受刑中」のアウンサンスーチー氏(当時書記長)を党から排除しなければ登録させない内容であることを主な理由に、ボイコットを決定しました。これによってNLDは政党登録法に基づき解散させられました。ボイコットに反対するグループが離反し新党・国民民主勢力(NDF=National Democratic Force)を結成して総選挙に臨みましたが惨敗でした。

 実際の選挙戦では、USDPによる悪質な違反活動が行われたと聞きます。選挙前から軍政の支援を受けて不正な利益誘導や他党に対する妨害活動を行ない、投票への駆り立てや数々の不透明な不正行為がなされたと言われています。国際組織や外国からの選挙監視団やマスコミの取材は一切受け付けなかったのですから、何が行なわれたかは分かりません。民主勢力側や少数民族政党、更にネウィン「ビルマ式社会主義」政権の流れを汲むビルマ社会主義計画党(BSPP=Burma Socialist Programme Party)の継承政党で軍政寄りと言われていた国民統一党(NUP=National Unity Party)からも多くの不正行為が指摘されましたが、ほとんど問題にならず選挙結果は確定しました。
 選挙管理委員会への不服申し立てには、1件につき100万チャット(約10万円)必要な上に実質的に勝てる見込みは立たないので、ほとんどなされなかったのも大きな混乱なく選挙結果が確定した要因のひとつであったようです。
 一方でシャン州などの開票結果から、投票・開票・集計に関する大規模な不正はなかったのではないかという指摘もあります。しかし、もしNLDが参加していたら、USDPの違反活動は大規模で周到なものであったに違いないと多くの人が言います。これが来るべき総選挙で現実のものにならないようにすることが、民主化促進のための総選挙実施とする重要課題としてあります。
 
●ボイコットの回避か

 街のあちこちに選挙管理委員会のポスターが張り巡らされるのと機を一にするかのように、アウンサンスーチーNLD党首の重大発言がありました。6月初旬の教員の集会で教育改革に全力を尽くす決意を述べ、教員らに来る総選挙でNLDに投票するよう訴えたというのです。この発言は、本年はじめから言われてきた憲法の民主的改正がなされなければ次期総選挙ボイコットもあり得るという方針の転換を意味する、と思われるものです。非選挙軍人議席の撤廃と大統領資格(明らかにアウンサンスーチー氏をターゲットにした、家族に外国籍保有者がいると無資格とされるなど)改正を主な点とする憲法改正を選挙前に実現するよう求め続けてきましたが、現在までに実現の目処は全く立っていません。その状況を前にして方針の貫徹を断念したと受け止められかねないのですが、そうではなく、憲法改正はギリギリまで追求し続け、選挙運動と一体的に展開するとしています。
 その先のことについては、民主化推進の立場にたつ何人かの労働組合活動家や市民に尋ねましたが誰もが分からないと言います。10月最終週か11月初旬実施といわれている投票日までもつれ込む可能性も大きいと思われます。ということは、憲法改正は選挙前に成し遂げるべき課題から選挙戦の重要争点に変ることになるのでしょうか。この時点で断言することは難しいのですが、NLDの総選挙ボイコットは回避されると考えるのが妥当だと思うのです。しかしミャンマー人の友人は、「すべては軍の判断による。残念ながらそれが現実だ」といい、私の意見を肯定も否定もしないのです。

 NLDが総選挙参加となると心配なのが、大規模で周到に計画される不正選挙の実施です。これを防止する有効な手段として国際選挙監視団と外国マスメディアの取材活動があります。2010年の総選挙では両者とも完全にシャットアウトされました。この壁を破ることが求められます。ミャンマーが民主化に向けて飛躍するために「報道の自由」を保障することが必要で、世界中から注目を集める次期総選挙は、そのための格好の舞台です。ミャンマー政府に影響力を持つと言われる国々の政府は、この飛躍のチャンスを逃さず活用するよう積極的に働きかけるべきです。その先頭に日本政府が立つことは無理なことなのでしょうか。

 (筆者はヤンゴン駐在・ITUCミャンマー事務所長)


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