【コラム】大原雄の『流儀』

★ 日本国憲法の3原則を壊すNSS改定

大原 雄

★ 日本国憲法の3原則を壊すNSS改定

 日本国憲法が、岸田政権によってハンマーで叩かれ、事実上、破壊されたりしてはいないのか?
  
 日本だけではないが、いま、デモクラシーは、分断の危機に瀕している、と言われて久しい。「民主主義」にとって、大事なことは、多数決のルール尊重ではない。「政治とは本来、公開の場で、みんなが平等な資格で議論する、そのなかで少しでもましな結論を見出していこうというもの」だと法政大学の杉田敦教授(政治理論専攻)が言うように、議論の尊重、つまり愚直なまでの「熟議」こそ、民主主義の要だろうと私も思う。安倍元首相の「一強他弱」という政治行動は「分断の政治」だった。「分断の政治」は、保守政権を担う政治家や経済人にとって都合が良いから、その後の政権にも継承され、岸田政権に至っては、政権と国民の間に生じている分断をますます固定化しているような有様で、それが国民の違和感表明として政権の支持率を押し下げ続けている。
 
 例えば、毎日新聞の世論調査(12月18日のデジタル版より引用)。毎日新聞は12月17、18日の両日、全国世論調査を実施したという。それによると、「岸田内閣の支持率は25%で、11月19、20の前回調査の31%から6ポイント減少し、政権発足以降最低となった」という。「不支持率は69%で前回(62%)より7ポイント増加し、発足以降最高となった」という。非常に明晰な世論調査ではないか。
 
 岸田政権は、支持率低下が続くのに、「平和主義」など保守政治でさえ戦後政治の原理(こだわり)としてきた重要なポイントを、いま破壊しているように思える。防衛費の倍増のための増税問題、反撃能力と言い換えた「戦力の保持」、原発の再活用など。この政権は、「安倍政権の亜流」だと以前から指摘されているが、国政選挙のない「黄金の3年」の中で世論調査が示す「支持率の継続的な低下」という国民の意思(違和感)表明をもろともせず、素知らぬ顔で安倍右翼政権の政治課題(国政施策の大転換)を次々と強行的に押し切ろうとしているように見える。
 
 マスメディアの世論調査をもう一つ紹介しよう。
 朝日新聞社は、12月17、18両日、全国世論調査を実施したという。
 それによると、「岸田内閣の支持率は31%(前月11月調査は、37%)で、昨年10月の内閣発足以降最低となった」という。不支持率は57%(同51%)で、菅義偉内閣、第2次〜第4次安倍晋三内閣までさかのぼっても最高となった。
 ここまでの概要を見ると、細かな数字は、両者で若干異なるけれど、それぞれの傾向や構造は、全く同じといっても良いだろう。内閣支持率から見れば、岸田内閣は、相撲に例えると、すでに「死に体(政治用語なら、レームダック)」になっている。
 
 では、各論。
 防衛費の拡大(向こう5年間の防衛予算)については、「賛成」46%、「反対」48%と割れた。五分五分だ。どちらかの政策をとっても、半分は反対に回ることになる。およそ1兆円増税に「反対」は66%で、このうち70%が岸田内閣を「支持しない」と答えた。防衛国債発行は、「反対」67%、「賛成」27%だった。
 防衛費増額に反対(48%)と回答した人の72%、増税に反対(66%)の70%、国債発行に反対(67%)の62%が、内閣を「支持しない」と答えているという。防衛費増額関連の政策について、3分2の有権者がことごとく岸田離れをしていることが判る。これでは、今年の地方選挙などやりたくなくなるだろう。都道府県レベルから下の組織は、どれだけのダメージを被ることになるのか?
 
 前号でも書いた「軍靴の響き」の続き。「国家安全保障」問題の国会での与党の議論を聞いていると、心配になる。そもそも、日本国民にとっての国家戦略として「『国民』安全保障」は、どうやって守るのか? 国民の生命・財産を守る戦略はどうなっているのか。問題点を整理しておきたい。
 
 「『国民』安全保障」
 日本国民にとって「国民安全保障」戦略とは、憲法によってのみ、それを定めている。
 
 憲法3原則:
  ①国民主権(国民ファースト)、
  ②基本的人権(「平等権」、「自由権」、「社会権」、「請求権」および「参政権」)の尊重、
  ③平和主義(戦争放棄)である。
 
 憲法は、国民を守るための装置(手段)。
 憲法は、国民の権利や国家像、統治機構など、いわゆる「国のかたち」を定める国家の基本法(設計図)。本来ならば、憲法を守ることが国(特に国民)を守ることになるべきだが、政権与党のうち自民党の憲法への姿勢が、そういうかたちになっていないため、日本の安全保障戦略は、防衛力増強に偏向し、それも数字(要するに、予算)優先という場あたり的な戦略のなさを見せつけている。戦後、代々の政権が向いている主たる方向は、アメリカだろう。アメリカを向いている政権の視線には、日本国民は入らない。その結果、国民は政権の後ろ姿ばかりを見ることになる。
 
 ★ NSSの「トリセツ」
 
 2022年年末に改定されたNSS(国家安全保障戦略)は、国際情勢を踏まえて日本国をどう守るかという、いわば「トリセツ」(取扱説明書。政策文書も一種の「トリセツ」だろう)。NSSが最初に策定されたのは2013年末であった。今回、9年ぶりに改定されたNSSとは、どういうものであろうか。
 
 「安保3文書」の一つが、NSS。「国家安全保障戦略」と訳す。「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」で、三種の神器が出揃う。この順番で連動し、より具体的になって行く。(以下、朝日新聞12月17日付朝刊「いちからわかる!」コーナーから、概説的に引用)。
 
 ①「国家安全保障戦略」(NSS)は、10年先を見据えて日本の外交・防衛政策の基本方針を示す。
 安倍政権が2013年に初めて作った。今回が初めての改訂版作り。
 ポイントは、中国や北朝鮮、ロシアによる核兵器やミサイルの増強の動き、軍事活動の活発化など、世の中がきな臭くなっていると強調する。それを踏まえて、「周辺国」からの攻撃に備えて、相手のミサイル発射拠点などを叩く「反撃能力(敵基地攻撃能力)」、つまり迎撃的な軍事力を持つ必要があるという。「戦争放棄」「専守防衛」という憲法原理に基づき戦力を持たないとしてきた日本の防衛政策からの転換表明である。
 
 贅言:「専守防衛」とは、日本では、敵国から「武力攻撃を受けてはじめて防衛力を行使し、その態様や保持する防衛力も自衛のための必要最小限に限る」(同紙、12月17日付朝刊記事より引用)としてきた原理である。
 
 ②「国家防衛戦略」(元の「防衛大綱」)は、今後10年間の防衛力強化の目標を示す。敵基地攻撃に使うミサイルの確保、ウクライナ戦争などで急激に活用されだしたドローンの活用、宇宙・サイバーなどの新分野への軍事対応強化など。
 
 ③「防衛力整備計画」(元の「中期防衛力整備計画」)は、今後5年間で整備する戦闘機や護衛艦など装備品の数とそのために必要な予算を定める。要するに毎年の防衛予算計画の青写真がここにある。その上、「降って湧いた」GDP2%という天の声。戦争を放棄して戦後日本の国づくりが始まった原点の大黒柱を「骨(柱?)抜き」にする安保政策の大転換の表明である。さらに、いま問題とされているのは、政策の大転換に対する国民への説明が十分に行われていないということで、野党ばかりでなく、与党の中からも批判の声が沸き起こっていることである。例えば、マスメディアは、次のように批判する。「議論を煮詰めず、場当たり的にことを進める『岸田流』の政権運営の危うさだ」(朝日新聞12月17日付朝刊記事より引用)。例えば、「国債を防衛費に充てないという戦後日本の不文律を破り、財源確保に最も需要な増税時期の決定は、(別の政治的な理由で--引用者注)先送りされた」。自民党政治にこういう無責任とも言える風潮(うるさい議論は、後回し)が高まったのは、安倍元首相が、2020年9月の談話で、敵基地攻撃能力の保有をにじませて以降であるという。日本列島の右傾化の陰に安倍政権ありで、安倍 →菅 →岸田の各政権が、中国(習近平)、北朝鮮(金正恩)、ロシア(プーチン)の動きを踏まえて、日本の背後にいるアメリカのバイデンはこういう風潮を意図的に煽っているのではないのか。権力者政治は、どこの国の権力者であれ、腹黒い感じがして嫌になる。熟議などしないのだろうな。こういう人たちは。
 
 特に、ウクライナ戦争の影は、プーチン、ゼレンスキーらが演じる表舞台の「戦争」のかたちの中で、日本の「専守防衛」という憲法原理を吹き飛ばした。「『財源』の裏付けがないまま、防衛力の強化だけが走り出すことなった」と朝日新聞の記者が書く。防衛予算枠ありきの政策って、なんなのだろう。国民の税金が予算案を支えていることを岸田首相は忘れていやしないか。
 
 ★ 戦時国債の悪夢か、「建設国債」
 
 私たちの親の世代は、戦前期に戦時国債を買わされ、軍事費膨張を招いた悪夢を見ている。我が家の財産とばかりに押入れに大事に保管されたまま、戦災に遭い消失させられたか、戦後のインフレでただの紙切れにさせられたか、苦い経験を持っていた人たちが身近にいた。その世代は、すでに大半がこの世を去ってしまった。親の世代から、そんな話を聞いて育った私たちの世代も、そう長くない先には鬼籍に入るのだろう。
 そして、10年も経てば、その時代の新しい景色は、すっかり変わっているのではないか。
 コロナ禍に見舞われた3年間でさえも感染を恐れて、「出不精(隔離、あるいは避難)」な生活をしていたら、久しぶりに出かけた都心の風景がすっかり変わっていた。古いビルが壊され、新しい高層ビルを建てる工事が進められている。それに伴い、ターミナルの地下街から地上へと出る出入り口が、新しい高層ビルの出入り口に付け替えられているから、地上に出て、出入り口の周りの風景を見定めないと、地上のどこの地点に出てきたのかも、すぐには判らない。デジタル社会も激変、リアルな社会も激変では、老人はうろうろするばかりで、地上を彷徨する羽目に陥る。
 
 ★ 反撃能力:敵基地攻撃能力:戦力
 
 贅言:「反撃能力」(敵基地攻撃能力)とは、つまり、「戦力」のことではないのか?
 ① 敵(相手)の攻撃を受けてから反撃することなのか。
 ② 敵(相手)が実際に攻撃していなくても、相手が攻撃に『着手』すれば(したと味方が判断すれば)、日本に対する武力攻撃が発生したとみなすことができるのか。後期の場合の状況判断は、そんなに簡単なものではなかろう。撃たれる前に「反撃」なんてできるのか。いな、撃たれた後、直ちに「反撃」できるのか。しかし、それは、誰が判断することなのか。こっちの判断とあっちの判断は、違うかもしれない。反撃だか、先制だか、判断できる立場の権力者は、限られているだろう。事象が歴史になる前に、事実は、歪められ、権力者のいいように、歴史修正主義の餌食になりかねないのではないのか。この「反撃能力」は、その場の判断が実に難しいだろう、と思う。
 
 ロシアが、2022年2月24日から、1日も休まず、ウクライナで演じている権力者の「道化芝居」のような戦争は、引き込まれた側の被害が深刻。直接的な被害をウクライナやロシアにもたらしただけではなく、北朝鮮のミサイル発射実験や日本の防衛費(軍事費)増強などといった点でまで、さまざまな由々しき傷跡を残しているのである。
 
 去年の2月24日から始まったロシアの軍事侵攻は、プーチンの矛先が少し狂っただけでも、日本にも関係してくることがあるかもしれない。一方的に他国の領土を我がもの顔で「占領」・「併合」してしまうロシアの侵略感の凄まじさをつくづく考えさせられたウクライナ危機は、アジアでは、中国や北朝鮮、それに日本の軍拡にも繋がりかねない。ロシアにとって、西端の隣国の一つはウクライナであるように、東端の隣国の一つは日本である。中国や北朝鮮も東端にあるが、ご承知のようにロシアにとって中国や北朝鮮と日本は違う。日本は、アメリカの同盟国だから、敵対しうる。ロシアが仕掛けたウクライナ戦争が始まったように、将来、ロシアが日本に侵攻する可能性は、ないとは断言できない。むしろありうるかもしれない。ウクライナ戦争の、この1年を思い起こせば、少なくとも可能性は「なくはない」と多くの人たちが思っているのではないか。ある朝、北方領土の島々をロシアの戦車群が大地を踏みつけるようにして姿を表すかもしれないではないか。北方の島々の間に横たわる海原や海峡をロシアの艦隊が波を分けて突き進んでくるかもしれないではないか。
 

  ★ 初のアメリカ・ウクライナ首脳会談

 ウクライナのゼレンスキー大統領が、アメリカのワシントンを訪問した。
 隣国のポーランドから米軍機に乗り、12月21日昼には、ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に到着したと見られる。ホワイトハウスでバイデン大統領に会い、約2時間会談したという。首脳会談の後、ゼレンスキー大統領は、上・下両院合同会議で演説した。演説は20分ほど。アメリカ政府は、高性能地対空ミサイル「パトリオット」1基を含む18億5000ドルの追加軍事支援を発表した。ゼレンスキー大統領は、アメリカには「泊まらず」日帰りで、帰国の途についたという。(以上、朝日新聞12月22日付夕刊記事より概要引用)。
 

 
 ★ ロシア「本土」にウクライナ軍攻撃か?(2)

 前号からの続きである。気になるので、前号でつけた見出しをあえて残し、そのまま活用することにした。その後、ロシア国内の二つの空軍基地での爆発(前号で既報)と似たような「爆発」が起きた、という。以下、朝日新聞12月7日付夕刊記事より引用。
 
 「ロシア南西部クルスク州のスタロボイト知事は(12月)6日、同州の飛行場付近にある石油備蓄施設がドローン攻撃を受け、炎上した」とSNSに投稿した。「ロイター通信によると、石油備蓄施設はウクライナとの国境から約90キロの距離にある」という。(略)ロシアは、5日の攻撃にはソ連時代のドローンが使われたとみているという。ウクライナ側は攻撃への関与を認めていない。(略)」。
 
 どちらが嘘をついているか? 何より、12月5日、6日と2日続けて同じ手口でやるというのも奇異だし、旧ソ連時代の古いドローンを使って実行しているというのも、どちらに罪を着せるか、意図的に演出しているというのが判るというものだ、と私は思う。「犯行」が露骨すぎる。
 いかがであろうか。
 
 さらに、朝日新聞12月15日付朝刊記事より以下、引用。「キーウ(キエフ)中心部のシェフチェンコ地区で14日朝、爆発が起きた。ウクライナ軍は、ロシア軍がアゾフ海方面からイラン製ドローン「シャヘド136」「シャヘド131」で攻撃したとしている。(以下、略)」という。
 
 ★ ウクライナ戦争の「年末・年始」
 
 ウクライナのゼレンスキー大統領は、クリスマスの25日演説で次のように言っていた。「クリスマス中もウクライナ各地で砲撃の手を緩めなかったロシア軍が、年末にかけてさらに攻撃を強める可能性がある」。
 
 さらに、プーチンが去年の2月24日に侵攻を始めたように、年始になったら、「侵攻1年」に向けて、大砲撃をして来るのではないかと私も思う。
 戦争の普通の日々も目につく限り、書き留めておかなければならない。
 
 ウクライナ軍参謀本部発表など:
 24日:ウクライナ南部のヘルソン州で砲撃あり。多数の市民死傷。
 25日:きのう(24日)に続いて、ヘルソン州では、ロシア軍のミサイル攻撃あり。民間人にも犠牲が出ている。
 25日:北東部のハルキウ州クピャンスク周辺で、昼間、ロシア軍によるミサイル攻撃が10回以上あった。
 29日:「ウクライナの首都キーウや西部リビウを含む複数の都市で、爆発音が鳴り響いた。ロイター通信などが伝えた。報道によると、ウクライナ当局は、ロシアから大規模なミサイル攻撃を受けたと話しているという。全国的に空襲警報が鳴り響き、(略)ロシアが120発以上のミサイルを発射した」と見られている。
 29日:(NHKニュースからも引用。細部が、違う。)「ロシア軍は、ウクライナへの大規模なミサイル攻撃を行いました。/ウクライナ軍の総司令官によりますと、各地のエネルギー関連のインフラ施設に向けて空と海から合わせて69発のミサイルが発射され、このうち54発を迎撃したということです」。
 ウクライナの市民は、厳冬期にも関わらず、停電や電気による暖房が使えない生活を強いられているという。
 31日:「ウクライナの首都キーウでは31日の日中、複数の地区の住宅などにミサイル攻撃があり、市当局によると2人が死亡、21人が負傷した。朝日新聞の記者2人が滞在するホテルも直撃を受け、映像報道部の関田航記者が足に軽いけがをを負った。
 1月1日:「(略)キーウは、(1月)1日午前0時ごろにも、年越しとほぼ同時に再び攻撃された。
 2日:「(略)2日未明もキーウに攻撃が繰り返され、クリチコ市長によると40機のドローンが撃墜されたが、住宅が爆発した。(略)。緊急停電が起き、市内の一部で暖房も止まった」(同紙、1月3日付朝刊記事より引用)。
 
 29日:一方、「(プーチンは、)「最新兵器を搭載するさまざまな艦船の建造を急いで行く」と述べ、欧米に対抗して海洋でも核戦力を強化する考えを強調しました(NHKニュースから引用)。
 プーチンは、相変わらず、核兵器をチラチラと出し続けている。
 
 ロシア国防省発表:
 26日。南部のエンゲリス空軍基地で「ウクライナのドローンを撃墜した」という。すでに書いたように、この基地では、5日にも「ドローンが飛来した」という。(ウクライナから)「ロシア本土への攻撃が続いた可能性がある。ウクライナ側は攻撃への関与を認めていない」(朝日新聞12月27日付朝刊記事より引用)という。エンゲリス空軍基地は、「ウクライナとの国境からは450キロ以上離れている」ことから、ウクライナがドローンでロシア本土を攻撃したか、ロシアがウクライナの関与を装って自作自演をしたかなどフェイクニュースの検証も必要だろう。
 1日:「ロシア軍の支配地域にあるウクライナ東部ドネツク州マキイウカで1日未明、臨時兵舎が攻撃を受け、少なくとも89人のロシア兵が死亡した」。
 2日:「ロシア国防省は2日、臨時兵舎が、ウクライナにアメリカが提供した高機動ロケット砲システム『HIMARS』の砲撃を受け、兵士63人が死亡したと発表」。
 4日:「4日には死者数が89人に増え、連隊の副隊長も死亡したと明かしたと明かした」(朝日新聞1月5日付朝刊記事より引用。ニュースは、他のメディアでも伝えている)。
 5日:プーチンは、「ショイグ国防相に6日正午〜7日にかけての36時間、戦闘を停止するよう命令」した(同紙6日付夕刊記事より引用)。
 6日:「ロシアのプーチン大統領が一方的に自国軍に命じた『停戦』が始まった6日、ウクライナ側によると、各地でミサイルなどによるロシア軍の攻撃があった。ロシア側は『停戦順守』を主張しているが、ウクライナ側は批判を強めている。(略)。(同紙1月7日付朝刊記事より引用)」。
 
 7日:プーチンによるクリスマス一時停戦提案。「ウクライナ軍は7日、過去24時間で1回のミサイル攻撃と、20回のロケット弾攻撃をロシア軍から受けたと発表した。(略)。一方、ロシア軍もウクライナ側の攻撃を受けたと主張しており、『停戦』は実体を伴わない状態が続いている」。(同紙1月8日付朝刊記事より引用)」。新年、年頭にあたって、双方早速フェイクニュース合戦か。それとも、ロシアの自作自演か。
 
 両者の攻防が続いている。さらに、続くかもしれない。ウクライナ軍がロシア「本土」を襲い、ロシア軍が反撃をするなら(あるいは、逆かもしれない)、プーチンは、核兵器を持ち出すかもしれない。世界各国が、息を潜めて(あるいは、息を吐き出して)ロシア「本土」の動きを注視していることだろう。やはり、ウクライナの主張のように、ロシアの攻撃は続き、クリスマス休戦などはなかった。
 
 国際政治学者の藤原帰一は、専門家の発言を引用して朝日新聞5月18日付夕刊コラム「時事小言」というコラムで、次のようなことを書いていた。
 ロシアは、「核を盾に使って核攻撃を阻みつつ戦争を展開している」(スコット・セーガン。政治学者、著作は「核兵器の拡散 終わり無き論争」など)という。
 「ロシアの核兵器使用はロシア本土の安全が脅かされた場合に限られると考えて良い」「ウクライナがロシア本土を攻撃しない限り、核使用の可能性は低い」「同盟(NATO)の強化は核抑止への依存を強め、核軍縮を逆行させる危険が大きい」「抑止は常に破綻する危険を伴う」など。以上は、藤原教授の弁。
 
 核戦争とは、「勝者のない、(略)勝利の意味がない(勝利しても意味がないような--引用者注)破滅が待っている」。
 「ロシアが恫喝には使っても実戦での核の使用をためらう現実」(以上、前掲、藤原教授)がある。
 
 核を使用すれば、己も「破滅」するという認識は、プーチンもバイデンも共通している。でも、この時の藤原教授の認識より、現段階は、ウクライナ戦争の新局面になりかねない状況だと思うだけに、些細な情報でも見逃せないと思う。
 
 ★中国が生み出す、アジアの「もぞもぞ感」の正体
 
 中国のアジアの海や空への「拡張感」「もぞもぞ感」「モヤモヤ感」という尻の落ち着きのなさや、北朝鮮のミサイルの配備計画は、頻繁な「試射」ぶりを見れば、そのシステムには、すでに「スイッチが入っている」ように思える。「脅威」を感じている国民も多かろう。そういう思いを否定しない人たちも増えているのではないか。ロシア、中国、北朝鮮からの「脅威」は、日本国民も明確に認識していて、国家として「外交」努力を続けて脅威の解消、関係の改善などに努めるとともに、それでも、万一の有事発生になった場合を想定して具体的に備えておくべきではないのかと考えているのではないか。そういう思いに駆られたゆえの岸田政権の最近の主張「GNP2%」論というような「初めに数字ありき」という「焦り感」に、あるいは緊迫感の裏返しとしての「高揚感」に繋がってきているのではないのか。
 
 この私の連載も、だんだん新聞スクラップ記事のチェックのような様相になってきた。しかし、細部の情報をこそ見逃さないためには、この「新聞を読んで」というような視点の持続は、結構有効性のあるやり方だと思うようになってきた。現役の記者たちが、もう少し、新しい情報の発掘に精を出してくれると、新聞ももっと読み甲斐があるものになる、と思う。
 
 贅言:閑話休題。女性の社会活動という意味では、遅れている日本だが、それでも、最近の新聞を読んでいると、以前の紙面では見かけなかった視点で書いている記事を見つけるようになったと思う。そういう記事を改めて読み込み、記事の末端に明記された執筆記者名を見ると多くが女性記者である。頑張っているな、と思う。私が仙台の放送局でデスクをしていた頃、NHKにも女性記者が定期採用で入局し全国各地の放送局に配置され始めた時期だった。そう言えば、自身も新聞記者出身であり、歌人である松村百合子は、歌人の大先輩であり、新聞記者の先輩でもある与謝野晶子像を再構築した著書「ジャーナリスト与謝野晶子」をまとめている。パリでル・タン紙のインタビューを受けた時、晶子は記者の質問に応えて、次のように述べたという。「最上の職業は新聞記者」。紙面で活躍する各社の女性記者も、そういう思いで取材をしているのだろうな。
 
 ★ 核兵器の前に。ドローン、今昔
 
 ウクライナ戦争。戦争で使われたドローンも最初は旧ソ連時代の古いドローン、最近は、イラン製のドローンだという。イラン製もメイド・イン・ジャパンの家電用の部品がふんだんに使われている。古いソ連製なら、ロシアもウクライナも手に入りやすいだろうし、イラン製なら、ロシアの方がウクライナより手に入りやすいのではないか。
 
 さて、ドローン戦略。何れにせよ、両事案とも、ロシアか、ウクライナかが仕掛けたのか。あるいは、お互いがそれぞれ仕掛けたのか。またも、「うやむや」のまま、推移しているようだ。うやむやが仕掛け人の最初から狙った着地点なら、仕掛け人が誰かは、容易に判るというものだ。
 
 権力者批判としては、「フェイク」、「フェイク」の声が聞こえてきそうだが、厳冬期の寒さに耐える民間人たちは、日々確実に被害に遭っているのだから、たまったものではない。
 
 朝日新聞(12月18日付朝刊記事より引用)によると、イラン製のドローンでロシアが現在使用している機種のうち、攻撃型の「モハジェル6」、自爆型の「シャヘド131」と「シャヘド136」をウクライナ軍情報局がマスメディアに公開した。このうち、「モハジェル6」に搭載されていた大小3つのカメラのうち、一つは「メイド・イン・ジャパン」と明記されていたという。攻撃型の「モハジェル6」は、全長が約6メートルで、最大速度は時速200キロ。偵察機能を持つほか、搭載する複数の誘導弾などで攻撃することもできるという。日本では、輸出される製品が軍事転用されることは規制(「外国為替及び外国貿易法」:いわゆる外為法違反)されているが、家電などに日常生活の中で幅広く使われているような、高度ではない部品は、基本的に規制の対象外となっているという。問題は、日本製品が軍事用として使われているということより、「家電製品のようなもので兵器を手軽に作れる時代になったということだ」という東京大学の鈴木一人教授(国際政治経済学)の指摘が鋭い。むしろ、大事なことは、兵器を手軽に作れないようにする、兵器が役に立たないで済むような外交社会を建設することこそ人類に求められている命題だということなのだろう。
 
 ドローン問題について、防衛省防衛研究所政策研究部長の兵藤慎治さんが朝日新聞に寄稿しているので、その後の情報入手の「彼らしい情報の豊かさ」を求めて引用しておこう、と思った(朝日新聞12月13日付朝刊記事より以下、概要引用)。
 
 「ロシア国防省が5日、国内の二つの空軍基地がウクライナ軍のドローン攻撃を受けたと発表した」という。ただし、この発表は、あくまでもロシア国防省の一方的な見解である。
 
 これに対して、ウクライナは、「公式に関与を認めていない」として、次のように語った(兵藤推論——引用者注)。それによると、「ウクライナの反攻であるならば、ロシアに対する意趣返しだ」と兵藤氏は解説する。さらに、兵藤氏は「今後もこうした攻撃が繰り返される可能性があり、一挙に戦線が拡大してしまっているように見える」ともいう。私は、ロシアの対応があまりに見え見えであるので、当初からロシアの「自作自演」の可能性を疑っているので、兵藤氏の懸念は、懸念のままで終わるのではないかと、いまの段階では思っているのだが、いかがであろうか。今回の事案のようにロシア「本土」をウクライナが攻撃したら、プーチンは核兵器のボタンを押すという危惧の方にリアリティーがあるように思うからである。兵藤氏は、「ウクライナがどこまでアメリカの顔色をうかがうのかわからないが、徐々に踏み込んできているように見える」と強調する。よほどの情報源があるのだろうか。「ドローンを(ウクライナの——引用者注)領土内から発射した」、(ロシアの空軍——引用者注)「基地近くで特殊部隊がドローンを誘導した」などと、米紙ニューヨークタイムズの取材に隠さず言っている」という記事の一部を引用しているが、根拠となるべき発信源は、「ウクライナ側」というだけで、クレジットをつけていない。どうもおかしい。「アメリカとの関係を含め、(ウクライナは——引用者注)何か吹っ切れている感じがする」とまで、踏み込んで推論しているが、その根拠は何か? 裏にきちんとした裏付け情報があるのだろうか。こうした書き方では、真実性が逆に削り取られてしまうのではないか、と懸念する。ウクライナは、ロシア「本土」まで、まだ戦略を伸ばしてはいないのではないか、と私は思っている。
 
 突然、この段階で、兵藤寄稿は、私が11月の「大原雄の『流儀』」で、すでに触れていた「ウクライナ国境に近いポーランドの村にミサイルが着弾した事案」が取り上げられ、私は、どういう決着かと期待したのだが、「ウクライナのゼレンスキー大統領とアメリカのバイデン大統領の認識が違ったままで、うやむやになった」という結論だけが、軽く、それでいて断定的に記述されている、というのはどういうことか。ウクライナとロシアの間で、プーチンの脅迫通りに「核兵器が使われるのか」、「核兵器は使われずに停戦外交へとカーブを切るのか」という重要な局面ではないのか。
 いま、この段階というのは、そういう重要な局面だろう。「停戦」提案は、まだ、機が熟していないのだろう。
 
 核兵器は、万が一使用されたら、「うやむや」にはできない、そういう厄介な兵器であるからだ。
 
 ★「虐殺」という歴史を否定するということ
 
 プーチンがウクライナの人々を虐殺し続けている。すでに、この連載でも、何度も指摘しているように一般の人たち、女性や子ども、乳幼児さえもロシア軍は殺しまくっている。例えば、ウクライナの首都キーウ(旧キエフ)近郊のブチャである。ロシア軍が2月から3月にブチャ地区を占領した時、虐殺があった。あれから10ヶ月、親族を虐殺された4遺族9人がロシア政府を相手に「欧州人権裁判所(ECHR)に提訴したのだ。ECHRは欧州人権条約に基づく国際裁判所で、ウクライナを含む46ヶ国の欧州評議会の加盟国が対象で、同条約で定められた権利を侵害した「国家」を裁くシステムになっている」。
 
 ロシアの戦争犯罪については、国際刑事裁判所(ICC)が訴追を目指して捜査をしていて、国家の首脳や軍指導者ら「個人」を裁くシステムである。
 
 さて、ロシアは最近では厳しい冬の季節を利用してウクライナの人々を寒さの中に放置しようとしている。家を破壊し、学校や病院を破壊し、暖房を、つまりヒトの温もりを破壊する。寒さを「兵器」のように利用しているのである。それでいて、「〇〇の面に🔽□」というように白ばくれる。平気で嘘をつく。そう、歴史修正主義者のように。事実をないもののように捨てて、空いたところにフェイクのピースを埋め込んで行く。
 
 12月12日の新聞朝刊。「ウクライナで16日朝、各地が再び大規模なミサイル攻撃を受けた。ウクライナ空軍報道官によると、午前11時までに60発以上のミサイルがウクライナ上空に飛来した。住宅や電力施設が破壊され、少なくとも2人が死亡したほか、ウクライナ全土で緊急停電した」という(朝日新聞)。ミサイル飛来がなければ、もう、交通機関の事故のニュースのように読める。ロシアによるウクライナ市民の生活破壊は、戦争というより、嫌がらせ、意地悪の類かと錯覚する。嫌がらせにしても、やっている「ガキ」(「ガーキン」とでも呼ぼうか)は、陰湿で執念深い。相手が困っていることを承知の上で、いや、だからこそ、冷笑を浮かべながらどこまでも意地悪く追っかけてくる。決して諦めない、確信犯のタチの悪いいじめだ。
 
 ★贅言;歴史修正主義は、フェイクである
 
 ひとつの妖怪があちこちを徘徊している。——歴史修正主義という妖怪が。
 
 歴史修正主義とは、何か。
 朝日新聞の12月7日付朝刊記事の「オピニオン&フォーラム 交論」では、虐殺をめぐる歴史修正主義について取り上げていた。歴史修正主義とは、何か。学者の声を聴いてみよう。以下、同紙より引用。
 
 「歴史修正主義」とは:「歴史的事実を意図的に否定したり、矮小化したり、一側面のみを誇張したりすることを通して、過去の歴史の評価を変えていこうとすること」(歴史研究者・武井彩佳(あやか)=学習院女子大学教授。「歴史事実の否定自体が人格侵害につながります」(日本近現代史研究者・外村 大(とのむら まさる)=東京大学大学院教授。)
 
 歴史的な「事実」(ヒストリー)を否定してまで、自分に都合の良い「歴史」(ストーリー)をでっち上げる人たちの考え方のことである。
 
 
 ★ 歴史修正主者とは?
 
 歴史修正主義者とは、過去の歴史の中で熟議にさらされ共通理解として定見化された歴史的事実の評価を意図的に変えようと主張する人々。安倍元首相も確信犯の歴史修正主義者であったと思う。東京・新宿御苑で桜を観るのも、彼は修正主義者的であった。
 
 「旧・統一教会」問題の陰に隠れて、見えなくなっているのが、「日本会議」の問題である。「旧・統一教会」から「日本会議」へ連想するのも、嫌がられるだろうが、それにしても、「日本会議」は、どうなっているのだろうか。「日本会議」については、いろいろな関連本が出版されているので、手に入りやすいだろうから、今回の引用は、次の一文だけに留める。

 贅言:日本会議の勧誘文を読むと、以下の通りのソフトムード。

 「私ども日本会議は、元気で誇りある国づくりを目指して、超党派の国会議員懇談会のみなさんとともに、全国で国民運動を推進しています。
  北は北海道から南は沖縄に至る都道府県に本部を持ち、10万人ネットワークづくりをめざしています。どうかこの機会に、私どもの国民運動にぜひご参加ください」。

 この短い文章の中に、「国民運動」という彼らにとってのキーワードが、2回も出てくる。国民運動も、いろいろ手垢にまみれたタームになってきたのではないか。
 歴史的な事実を修正(捏造)し、それを己の政治活動に利用していた、東京都の小池百合子都知事もやはり歴史修正主義者であろうと私は思っている。政治家と「旧・統一教会」との接点が問題なら、政治家と「日本会議」との接点も問題はないのか。小池知事は、知事になってから、2017年以降、朝鮮人犠牲者を悼む式典への追悼文を送ることをやめた。このことは、当初こそマスメディアでも伝えられたが、いまでは、この事実を工夫してきちんとした記事にする記者もいなくなったのではないか。小池知事は、虐殺はなかったとか、直接この問題を取り上げて自論を主張するような姿勢は見せないが、問題の所在にある事実を無視するという姿勢を貫くことで、逆に歴史的事実を否定するという極めてずるいやり方を取り続けているように思う。都政担当の記者たちは、記者が国民・都民の知る権利を代行しているから、記者会見をする「特権」を持たされているということを忘れてはならない、と思う。記者は、きちんと記事を書く。
 
 ★「逆算」でも通用、軍靴を履いた数字が独歩する
 
 岸田政権が掲げる防衛力の抜本的強化策では、2023年度から27年度までの5年間で総額40兆から43兆円だという。過去最高水準だった現行計画(19年度から23年度)の25兆円から、1・5倍以上が見込まれている。岸田首相は、関係大臣に対して「GDP比2%とするように指示した」(朝日新聞12月2日付朝刊記事より引用)という。
 
 岸田首相が言う「逆算」の方程式とは? 首相の説明は、以下の通り。
 
 歳出改革・決算剰余金の活用・税外収入を活用した防衛力強化資金の創設・増税=GDP比2%(同紙、12月9日付朝刊記事より引用)
 
 防衛予算とは、どうあるべきか、という発想ではなく、落穂拾いのように葉っぱ(予算額)を集めて、「2%」という山を作り、防衛予算に大盤振る舞いをする(アメリカのバイデン大統領に良い顔をする)、ということのようである。首相「2%に達するよう予算措置を講じる」と改めて表明した」。まさに「逆算」の方程式。家庭の家計簿でこのような「逆算」の方程式を振り回したら、家計は破産するだろう。
 
 これでは、軍靴の響きというより、軍「貨」か。金の音が聞こえてきそうだ。
 
 ★「アメリカ政府から武器購入4倍」
 
 上記の見出しは、朝日新聞12月29日付朝刊記事より引用。来年度予算案の見出しである。「過去最高1兆4768億円」という副見出しが付く。以下、記事抄録引用。
 
 「防衛省の2023年度当初予算案で、米政府から装備品を買う『有償軍事援助(FMS)』による契約額は過去最高」になったという。国民は、年金を削られて生活できないと叫んでいるのに、聞く耳を持たない権力者は、大尽遊びをしているように財布の紐を緩めている。「アメリカの安全保障政策の一環として同盟国などに装備品を有償で提供する制度」というFMSでは、「価格がアメリカの『言い値』になりやすく、開発費の上乗せもあることから高額になることが多い」と朝日新聞の記者は平気で書く。「言い値」は、「いいね」と親指を立てて喜んでいるのは、アメリカだけだろう。日本という国を売っているのは、売国奴・岸田政権ではないのか。
 
 そもそも。「アメリカの安全保障政策の一環として同盟国などに装備品を有償で提供する制度」という説明は、公平な記事の書き方ではないだろう。どこが、「提供」なのか。
 アメリカの安全保障政策の「片棒」を担がせて仲間内に「市価より高い値段」で売りつけ、利ざやを稼ぐ阿漕な商法で仲間からさえ搾取する制度」とでも書くべきではないのか。「FMSは、(略)。前年度の4倍近くの大幅な伸び率となっている」というから、呆れ果てる。
 
 ★ 軍靴のエスカレーション
 
 こういうことをやっていれば、軍靴(貨弊)のエスカレーションが起きるだろうと思っていたら、案の定だ。ヨーロッパに飛び火した。バルト三国の一つ、風光明媚なエストニアでは、レインサル外相が、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、国防費をGDPの「3%」まで引き上げるという意向を明らかにしたという。ロイター通信のインタビューに答えたと朝日新聞11月29日付夕刊記事より引用。NATOの加盟各国は、すでに国防費を自国のGDPの2%とすることをそれぞれ目安としているが、ロシア侵攻後、各国は国防費を増やす流れのなかでウクライナへの軍事支援にEU全体でGDPの0・2%を充てているが、これを1%まで増やせれば、ロシア・ウクライナの戦局を大きく変えられるとレインサル氏は語ったという。こうやって、一人歩きをして軍靴は、ジャラジャラと銭(ぜに)の音も喧しくなって行くのだろうか。軍靴の先に見えてくるものは、ウクライナの世界ではないのか。
 
 アジアでも、北朝鮮のミサイル、中国の戦闘機などの空域拡張行為に刺激されて煽られる危機感に乗ってグーンと増えた防衛費を批判する声が聞こえにくくなってきている。7年前の、安保法制化反対の声の高まりは、どこへ行ってしまったのか。
 
 ★ 「復興」に便乗し、「破壊」(戦争)を準備する岸田政権
 
 「防衛費(軍事費)」の財源については、与党内でも議論が生煮えである。特に、財源の一部を増税で賄おうとしていることについては、自民党の一部と公明党からも、批判の声が強いという。
 以下、朝日新聞12月15日付朝刊記事より引用。
 2027年度には1兆円を超す大増税となるが、「『増税ありき』の拙速な議論の進め方に批判が続く。熟議なきまま、週内にも大方針が決まろうとしている」。
 「熟議なきまま」は、自民党のいつものやり口だろう。マスメディアは、この程度の批判で良いのか。もっと、有効な論調はないのか。
 14日、自民党本部で開かれた税調小委員会の会合で配られた資料。以下、引用。「『法人税額に対し、○%の付加税を課す』『令和○年1月1日から適用』などと記されているだけで、(略)具体的な税率や増税時期については空欄のまま」という。こういうやり方に、さすがの自民党の議員らも、「いらだちをあらわにした。『1年かけて議論して決めてほしい』(略)」(同紙、引用)。
 岸田首相が、防衛増税を表明したのが12月8日。10日も経たないうちに「国民に広く負担増を強いる増税の方針が決まる可能性がある」とマスメディアは、批判する。多分、自民党政権は、誰が新たな政権を握るにせよ、増税分は、2027年度にとどまらず、今後も増税額を基準にして毎年毎年積み上げられて行くのではないか。そして、いつかは、私が危惧するように、軍靴の響きが音高く、国民を蹴散らし、メディアを蹴飛ばし、近づいてくるのではないか。
 
 ★ 軍靴の音高らかに、国民の声低く
 
 1945年以降、戦後政策として、一つひとつ積み上げられてきた平和日本という、この国のかたちが、コロナ禍で騒いでいるうちに音を立てて壊されている。自民党政権は、一貫して軍事色を強めてきた。中でも岸田内閣は、内閣支持率を下げ続けながらも、防衛費(軍事費)増大政策を推し進めている。防衛費倍増と赤で染め抜いた白い鉢巻きを締めた顔面蒼白の岸田首相の顔が夢にでも出てきそうである。「敵基地攻撃能力の保有」とは、日本国憲法で放棄したはずの「戦力」を再び手にするということだろう。
 
 例えば、「安保法制化」問題。2015年9月19日、参議院本会議で「安保法案」が可決された。政府が憲法9条の解釈を変更し、これを踏まえて法律によって集団的自衛権の行使を容認した。憲法原理(立憲主義、恒久平和主義、国民主権の基本原理)に違反するとして法律家たちは、反対した。多くの国民が国会周辺に集まり、「反対」「廃案」と声を高めた。戦後日本の防衛政策の大転換(戦争への傾斜)と危惧された。
 
 2022年12月。NSSなど「安保関連3文書」が閣議決定(12月16日)された。憲法に基づき専守防衛に徹し、軍事大国とならないと誓った戦後日本の防衛政策は、大きく転換されると懸念されているが、7年前より、国会周辺の国民の声が低くなっているのではないか。軍事大国日本に抑え込まれたか。北朝鮮の金正恩の方が、NSSを厳しく批判して、せっせとミサイル計画と実験を磨き上げている。
 
 ★ 岸田政権——大局観なき権力者
 
 軍靴が響く「防衛財源」。
 新聞は、一面トップ記事の大見出しに「裏付け先送り」と名付けた。「与党税調 増税時期示さず」という副見出しが左に並ぶ。岸田首相から「年末までに決めるよう」、指示が出ていたが、「事実上先送りする」ということで、岸田政権の与党内での政治情勢さえも、読めないという大局観なき権力者の実態をさらけ出している。

 この岸田さんという人物は、思いついたら、あるいは誰かから助言でも受けたなら、直ちに走り出す粗忽な「性急体質」の持ち主なのだろう。こういう前のめりになって、それでいて、斜めに走り出す人。そういう人って、いますよね。こういう人を日本の戦後史を塗り替えるような「歴史的な大転換となる防衛力の強化」に踏み出させて、良いのだろうか。一旦、踏み出させてしまったら、この際決められる防衛予算の枠は、それ以降、毎年、毎年、その上に税金が積み上げられ続けるということを与党の反主流派や野党も認識しているのだろうか。黙ってではないにしろ「結果的に見過ごしたという責任は、あなたがたにもあるのだ。特に、与党税調は「わずか1週間で増税を決めようとする税調の姿勢に、与党内からは『議論が拙速だ』との意見が噴出した」と(朝日新聞12月16日付朝刊記事より引用)伝えるが、最後は、「執行部一任」というわけのわからない「保守政治の極意」のような手法で既成事実が未舗装の道路をひとり、前のめりに走って行く。それが、いずれは、がっしりした舗装道路になっているから不思議な国の不思議な政党だ。これも、一種の専制主義。
 
 ★ 専制主義の動静
 
 さて、前号から始まった「専制主義の動静」。各国の専制主義の動きを記録しておくコーナーだ。
 
 北朝鮮:北朝鮮は、1ヶ月ぶりに弾道ミサイルを発射した。「韓国軍は12月18日、午前11時13分から午後0時5分ごろまでの間に、北朝鮮北西部の平安北道東倉里(トンチャンリ)付近から日本海に向けて、弾道ミサイル2発が発射されたと発表した」(朝日新聞12月19日付朝刊記事より引用)という。これより前の、同紙16日付夕刊記事では、「北朝鮮は15日、高出力の固形燃料エンジンの地上噴出試験を行った。朝鮮中央通信が16日に伝えた」という。北朝鮮では、「新型戦略兵器」の開発への成果と位置付けている」という。
 
 北朝鮮:軍事偵察衛星1号機準備。北朝鮮の朝鮮中央通信は、12月19日、同国の国家宇宙開発局が「偵察衛星の開発に向けた最終段階の重要試験」を18日に行ったと報じた(同紙19日付夕刊記事より引用)」以上、一連の記事ということだろう。さらに、「2023年4月までに軍事偵察衛星1号機の準備を終えるだろう」とも伝えているという。
 
 北朝鮮:韓国軍によると、北朝鮮・平壌近郊の黄海北道中和郡付近から12月31日午前8時ごろ、日本海へ3発の短距離弾道ミサイルが発射された」。「北朝鮮が2022年に発射した弾道ミサイルは、約70発に達し」たという。「北朝鮮が核・ミサイル開発に注力するのは、旧ソ連製の戦闘機を使うなどしている通常兵器の戦力が米韓などに圧倒的に劣るためだ」と朝日新聞の記者は書く(同紙、1月1日付朝刊記事より引用)。
 「北朝鮮は1月1日午前2時50分ごろ、平壌の龍城付近から日本海へ短距離弾道ミサイル1発を発射した。(略)北朝鮮が元日にミサイルを撃つのは異例で、先の(去年12月31日の)短距離弾道ミサイル3発に続いて、年末年始に2日連続の発射となった。北朝鮮にしてみれば、予定通りなのかもしれないし、ウクライナ戦争などに対する国際社会の「空気」を読んで、予定を変えてミサイルの連続発射に戦略変更しているのかもしれない。何れにせよ、専制主義国家の権力者として力を誇示したいのだろう。
 
 アメリカ/北朝鮮:アメリカ政府は12月22日、ロシアに民間軍事会社「ワグネル」が北朝鮮から武器を輸入したと発表した(朝日新聞12月24日付朝刊記事より引用)。ワグネルについては、この「大原雄の『流儀』」でも、何度か取り上げているが、「創業者エフゲニー・プリゴジンはプーチンの側近として知られる。北朝鮮は、この発表について、「最も荒唐無稽な世論づくり」(北朝鮮の国営メディア・朝鮮中央通信の報道)と反発しているという。
 
 インド:地元メディアは12月15日、インドが核弾頭搭載可能な弾道ミサイル「アグニ5」の発射実験を実施したと報じた。射程は約5千キロ、国境対立を抱える中国全土が範囲内に入るという。
 ところで、中国の人口は、2022年:14億2589万。当年をもって、対前年比が減少に転じたという。代わりに上がってきたのが、インド。世界最多の人口になるというが、数字は見当たらない(国連の世界人口推計)。
 
 中国:習近平政権は、コロナに翻弄されているのではないか。サッカーのワールドカップの応援合戦で、中国と欧米各国のサポーターの対応やコロナ対策の違いが中国国民にも鮮明に受け取られられた。それを踏まえて、中国では、習近平政権が推し進める「ゼロコロナ」対策への国民の反発行動が高まり、政府の対策を緩めさせたようだ。その後、「ゼロコロナ」政策は、実質的に廃止されたようだ。この国も情報統制が凄まじい。その結果、「中国では新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大による混乱が広がり」、習近平政権を揺るがしている。「それでも、習近平国家主席ら共産党指導部の動きは鈍い」。「中国では、『コロナの死者が増えている』との見方が広がる」。(略)「だが、中国政府発表の死者数は連日「ゼロ」が続く。(朝日新聞12月18日付朝刊記事より引用)。ロシアも中国も、大国なのに、フェイクニュースばかり流す。最も、アメリカの、前の大統領はフェイクニュースを垂れ流しながら、善悪にこだわらず、なんでもアメリカファーストなら良さそうな表情をし続けていた。それでいて、2年後の大統領選挙にも立候補するという。先行きの状況は、変わりそうになってきた。
 
 中・欧/非難決議:EUの欧州議会が12月15日、中国の弾圧を非難する決議を賛成多数で採決した。「決議は、ゼロコロナ政策に関連し、中国全土で『表現、結社、集会、報道、メディアの自由が侵害され、大規模な監視が強化されている』と強調した」。
 
 中・ロ/接近:中国の核と中・ロ接近。「アメリカ国防総省は、(11月29日、中国の軍事力を分析した米議会向けの年次報告書を公開した。中国が核戦力の拡大をこれまでのペースで続ければ、2035年までに『約1500発の核弾頭を持つ可能性が高い』と指摘し、改めて強い懸念を示した。
 
 ロシアがウクライナで軍事侵攻を続けている。そういう状況が去年の2月24日以降、継続している。その一方で、西日本の空域では、中国のH6爆撃機やロシアのTu95爆撃機が合同で編隊飛行を繰り返していたという(朝日新聞12月4日付朝刊記事より概要引用)。
 
 朝日新聞の記事は、次のように伝える。
 「欧米とのあつれきが強まるほど、中ロは接近し、軍事的連携も見せ始めている」。
 
 ロシア:ロシアの少数民族「最も残忍」という発言。誰の発言だと、思われるか? 「ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇が、キリスト教徒が多いロシア民族ではない少数民族が残忍な行為をしていると発言し、ロシアで波紋を広げている。(略)ウクライナでのロシア軍の残忍さについて多くの情報があるとして、『一般的に最も残忍なのは、おそらくロシアの伝統に属さないロシア人、例えばチェチェン民族やブリヤート民族などだろう』との見方を示した。ロシアで主流の宗教はキリスト教のロシア正教会で、チェチェン民族は主にイスラム教を信仰し、ブリヤート民族は仏教徒が多い。(略)一方で、フランシスコ教皇は『確かに、侵略しているのはロシア国家。それは明確だ』とも話した」(以上、朝日新聞11月30日付夕刊記事より引用)という。本音は、思いがけず、プリッと出てくるものだ。
 
 日本:ロシア軍使用のイラン製ドローンに日本の最大手メーカーの集積回路も使用。「非常に古い画像処理用のLST(半導体集積回路)」、「軍事目的で開発された製品ではない」、「イランに輸出したことはない」、「兵器用途としての出荷、販売はしていない」、「一般的に使用される製品、流通・転売・使用のルートは把握できない」、「ドローン部品に使われたとされる日本製品は、パソコンや冷蔵庫、ゲーム機といった幅広い商品に使われる」(朝日新聞12月18日付朝刊記事より引用)など、言い訳は、いろいろ思いつく。
 
 ★ ロシア軍は撤退?移動? 〜ザポリージャの「憂鬱」
 
 ロシアが一方的に「併合」を宣言したウクライナ中南部ザポリージャ州では、ロシア軍の一部が「撤退」の動きを見せているという。ウクライナ軍が伝えているという。ロシア系の独立メディアによるとロシア軍が占拠しているザポリージャ原発でも、ロシアは条件付きで撤退する可能性があるという。衛星画像などから伝えられるデータに基づいて推論しているのだろうが、撤退の動きというのは本当に撤退なのか、作戦変更によるよその地への移動なのか。フェイクニュースの海のような情報過多社会。情報(話やデータ)の裏付けとなる具体性は乏しく判りづらい情報の中から、真実を見極めることは、難しくなってきているように思えるが、いかがか。ロシアは、再び、ウクライナの原発周辺で動き回っているようだ。
 
 ★ 旧・統一教会/被害者救済新法の今後
 
 旧・統一教会の問題を受けた被害者救済新法は、12月10日の参議院本会議で可決、成立した。被害者たちは、新法成立で問題を終わりにするのではなく、被害者を取り残すことがないよう、新法の実効性を高めて欲しいと訴えている。
 
 閉会後記者会見した岸田首相は、次のように述べた。
 「野党の意見もできる限り採り入れつつ、与野党の垣根を越えた圧倒的多数の合意の下で新法を成立させることができた」。
 
 この人の認識力は、どこか故障している。与野党の合意というけれど、これは、与野党の思惑で呉越同舟しただけ、と読むべきだ。
 
 これについて、作家のN氏は、朝日新聞のインタビューに答えている。
 作家で、俳優であり、いっときは、参議院議員、それに日本ペンクラブの理事や委員長を務めておられた。日本ペンクラブでは、私も同じ時期に理事会のメンバーだったので、同じ会議に同席し、直接謦咳に接することもしばしばあった。直言居士でありながら、直言ぶりがストレートの直球のようで、私も「その通り!」と思うことが多くあり、N氏の「常識」は聴いていて清々しかった。ご本人に直接言ったことはないが……。
 もちろん、私も言論の徒であるから、何から何まで1から100まで、N氏と同じ意見という場面ばかりではなかったが、「熟議」の果てに一定の方向が出ると、今回はこの線までかと落とし所を納得し、私も矛を収めることになったものだ。
 
 「旧・統一教会」問題は、「宗教と政治」論(それも、原理論)を絡めるからおかしくなる。宗教団体の装丁を纏っているにせよ、不法で反社会的な集団の問題行動と信仰の自由という原理は別次元の問題である。
 
 宗教の大切さは、古代から「宗教」とは、「学問」のことであり、「学問」とは、後の「哲学」のことであり、というように現代から古代まで連鎖が続く、人類の思索の形跡を残した体系であると私は思っている。人類の原初的な思索こそ、現代の哲学から逆算される宗教のことであると思う。従って、宗教に政治家が絡んでくると、私などは、違和感が溜まり出し、宗教と政治というテーマにさえ、拒否感が生まれてくるということになる。
 
 さて、「大原雄の『流儀』」らしく、話の軌道に戻りN氏のことを話そう。朝日新聞12月9日付朝刊記事に目を向けよう。テーマは、「世界平和統一家庭連合(「旧・統一教会」)の問題を受けて作られた「被害者救済新法案」について、「与野党が合意し、成立の運びとなった」この着地点をどう見るか。「旧・統一教会」の動きを半世紀追い続けるN氏(82)に聞いたインタビュー記事がある。直言ぶりを残すために、同紙、同日記事をそのまま引用する。
 
 N氏の結論:「あれだけ大騒ぎした末に、この法案とはお粗末に過ぎる」。
 理由:「40年ほど前からマインドコントロールを駆使して霊感商法などで収益を得ていた団体なのに、今さら『配慮義務』を求めてどうするのか」。
 本当にそうだ。宗教2世の女性が、「政治家が短期間で法案を作ってくれたのは、感謝するが、被害者の私たちのことを忘れないでほしい」と涙ながらに訴えていたことが印象に残る。被害者たちを岸辺にとり残しながら第三者の政治家たちが、呉越同舟ならぬ、与野党同舟で乗り込んだ舟で、明後日(あさって)の方角へ漕ぎ出して行ってしまった、という絵が残ったという印象を持った。
 
 「教団」は、被害者を振り捨て、政界に勢力を広げ「選挙支援を通じて政治に浸透していった」(以下、同紙より引用)。当時政治家だったN氏は、現場を見てきた。「その実態が安倍元首相はじめ自民党議員中心に広く明らかになったが、追及は徹底されない」と言う(同紙)。「政権はその場しのぎの法案を出し」、野党も「妥協した」。なぜ、そうなるの?
 政治家は「何かを成し遂げるより、政治家であり続けることを優先する議員が多い」からだ、とN氏は解き明かし、強調する。
 
 「社会の問題の本質を理解し、解決しようとする人の言葉は強い」(同紙)。
 「もう一度やり直しだ」。これぞ、熟議デモクラシーの見本ではないか、と私は思う。「圧倒的多数」で可決したことより、「熟議」を尽くすことの方が大事なのではないか。
 
 ★ 「第三者」か「独自性」か、日本学術会議のありよう
 
 もう一つ気になっているニュース。「学問の独立」。日本学術会議は、政府から突きつけられた「方針」(組織改革案)について、12月8日、総会を開いて議論したという。それを踏まえて、21日には政府の「方針」の再考を求める声明を全会一致で決議したという。声明では、「学術には固有の論理があり、政府などと問題意識や時間軸を共有できない場合がある」などとしている(朝日新聞12月22日付朝刊記事より引用)。
 
 会員の意見:「学術の独立性をこそ重視すべき」。「学術が政府や経済界と最初から問題意識が一致するのはまずい」。
 
 この方式は、昔から産学協同と言われてきた。「学術会議は、(独自の改革方針に沿って)改革を着実に進めてきた。政府方針は学術会議のあり方や活動に極めて深刻な影響を及ぼす」と言い切れば、まだしもながら、学者たちは、「(及ぼす)可能性がある」と腰が引けた一言を付け加えてしまう。学会には「不覊独立」の学者もいるだろうに。学術会議が「曲学阿世」にならぬよう、真理にこだわる学者の集まりで、良いではないか。これでは、国民も政府ばかりでなく学術会議をも注視せねばならなくなる。学問や学術に「第三者」などというものが大事なのか。そもそも先端を行く学問に「先端が判る第三者」などというものが存在するものか。「独自性」(独自ではない学説など、何の価値があろう)「独立性」(政治権力からの独立性。軍隊や産業からの距離感)こそ、学問の自由、自立の原点ではないのか。学問の評価の世界に「第三者」(権力から息のかかったもの)など不要ではないか。
 
 ★ 熟議デモクラシーの芽生え
 
 ウクライナ戦争に対するプーチンの狙いは、なにか。去年、2月の軍事侵攻以来、私はこの連載を書きながら、いつも考えている。その答えは、「デモクラシーの破壊」ではないか、と思っている。
 
 プーチンは「改憲」や「国民投票」という自分流の手法で有権者の8割の支持を集めないと気が済まないという。専制主義者を目指すプーチンは、支持率を100%に近づけたいと思っているのではないか。80%、100%へのこだわりこそ、おかしい。徹底熟議の末に、少数者が異論を付帯しながら多数者の意見を「半分納得」するような結論をまとめることこそが、デモクラシーの適切な手法ではないのか。
 
 項目(論点)別の投票結果ではなく、まとめて(オール・オア・ナッシング)投票結果を問おうとするのは、フェイク(虚偽)な投票結果へと主導する、ずるい手法。権力者が主導する、こういう投票は、究極的に「権力者は権力を自由に振るっていいか」を問う強制投票だと思う。
 
 直近の例で言えば、ロシアのプーチン政権が実施した国民投票の行き着く先は、なんだったかを思い巡らせば、容易に目の前に答えが出てくるだろう。そう、その答えは、国民が自身の投票によって「戦争に行き着いた」と思い込むことだろう。「戦争に行き着いた」「ウクライナ戦争しか、道はなかった」などなど。12月で10ヶ月に及ぶウクライナ戦争は、大国・ロシアに抗ったウクライナが、大きな犠牲を払いながらも、この戦争の本質は「国の存立」に関わることだと見抜いたウクライナ国民がプーチンに打ち勝ったということだろう。熟議の果ての意思決定をしたであろうウクライナ国民たちの勝利である。
 擬制の投票結果というのは、「熟議デモクラシー」とは、対極にあるものだが、そんなことは、とうに、どこの国の有権者にも見透かされている。
 
 ★ 熟議デモクラシーを求めて
 
 デモクラシーは、多数派が構成員の多数決で少数派を抑え込むことではない。多数決で「結論」を急ぐことより、正確な情報を基に少数派が納得するまで、議論(熟議)することが大事だろうと思う。熟議の果てに、少しでも良い結論に近づく。私は、この方式を「熟議デモクラシー」という用語で呼んでいる。
 
 熟議デモクラシーと「似た」、あるいは「同義」の用語に「熟議民主主義(じゅくぎみんしゅしゅぎ、英語: Deliberative democracy)」がある。この用語は、熟議を重んじる民主主義の形態をいう。ここでいう「熟議」とは、他者の意見に耳を傾けながら自らの意見や立場が多数派の意見とは違うと悟ったら自分の意見などを「調整」、「修正」などして、全体に少数派の意見を少しでも反映させようと努める態度を持って議論に加わり続けるということを指す。あるいは、異なった考えの違いを抽出し、それらを多数派も少数派も、問題点として出し合い、話し合い、互いの違いの理解を深めることが大事だろうと思う。「熟議デモクラシー」、あるいは「熟議民主主義」という手法は「多数派による多数意見の押し付けをいわば「横暴」(この横暴さを「ポピュリズム」と、私は呼ぶ)に陥らないようにデモクラシーを成長させる社会の意思決定のあり方とでも、いうことができる、と思う。国論を最左翼(極左)と最右翼(極右)に二分し、国の施政方針が両極化(分断)にならないように注意し、「中間層」がいなくなりそうだと懸念したら、己の意見を「削り」、互いの意見を調整し、お互いの拠り所の共通点(中間層の形成)を増やす努力をするべきだと思う。そして、そういう各国の熟議の蓄積を国際社会でも受け止めてくれるようになれば、ロシア、中国、インド、アメリカ、イギリス、フランスなどが国際社会の中で各国の意向を尊重しながら、積極的に調整するような時代がくる。そうなれば、国連の機能も少しは改善されてくるのではないか、と思う。
 
 ところが日本の国会の現状では、議論中断、数の力で採決優先、少数派が不満なまま多数派に「負ける」という場面が大半だ。
 
 デモクラシーならば、これではなく、熟議の末に少数派も納得して多数派に協力するというのが、熟議デモクラシーである。
 
 ★ 付言;朝日新聞「おことわり」(同紙、1月3日朝刊紙面より引用):世界の新型コロナ感染者の掲載は昨年を持って終了しました。全数把握をやめる国が増え、(略)米ジョンズ・ホプキンス大の集計が実際の感染者数を十分に反映できていないことなどが理由です」。
 
 ジャーナリズムは、これで良いのか。なぜこのようなことが起きたのか、検証記事を載せて欲しい。日本では、感染者数が増えているのに、行政は施策の手綱を緩めている。中国も専制主義の「ゼロコロナ」対策をやめたら、そのやめ方が急ブレーキ過ぎてか、副反応として感染者が増えているようである。日本も中国も、行政の責任者や権力者は、やっていることがちぐはぐではないのか。
 
 
 ジャーナリスト(元NHK社会部記者)

(2023.1.20)
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