【コラム】大原雄の『流儀』

★★民主主義に「抵抗」する大統領候補トランプ氏の「戦術」

大原 雄

 2024年11月アメリカ大統領選挙。この人は、前回敗れた大統領選挙への雪辱戦、復讐戦、己のメンツ回復しか頭にないのかもしれないが、それにしても世界のデモクラシーのモデルともいうべきアメリカン・デモクラシーの雄である大政党・共和党の大統領選候補を目指す政治家としては、まことに情けない言動を続けているのでは無いか。共和党には、アメリカのデモクラシーを引っ張って行くという気概がある政治家はいないのか。伝えられるところでは、10人もの党内候補がいるらしい。それでいて、メディアは、「大統領選挙に向け、共和党の最有力候補としてひた走る」などと書き、トランプをおだて上げ彼に免罪符を与えてしまう。

 この矛盾。ジャーナリストたちは、何を考えているのか、「トランプ候補が万一、当選したら」などと、選挙後も視野に入れて「忖度」でもしているのかもしれない。

 まず、トランプ優位説をチェックしてみよう。共和党の大統領選挙の候補者は、既に10人に達する見通しだという。候補者が乱立すればするほど、個別には飽き足らない候補者を「引き算」していけば、あの強烈な人格・性格が良いという結論になると言われる。トランプ優位説がまず頭に浮かんでくる。一旦支を決めたらなんでも許すタイプの強固な共和党支持層を一身に集め兼ねないトランプ候補の存在感がやはり良いという人たちが結構いるようある。世論調査、この考え方が単純なだけに、トランプ候補には有利という見方も広がり始めているという。

 客観的に考えれば、選挙戦では、高齢なバイデン候補が負け、高齢だがエネルギッシュな印象のあるトランプ候補が勝つ可能性があるのか。その場合、トランプ候補は大統領復活ということになる。

 トランプは候補になれないが、別の共和党の大統領候補が当選し、トランプに「恩赦」か何かの判断を出し、トランプの政治生命を延命させるということにでもなると、アメリカの政治は変わってくる可能性があるのでは無いか。ウクライナとロシアの戦争も変わってくる。アメリカと中国の国際的な環境も大きく変わってくるかもしれない。トランプ氏3回目の起訴というニュースに触れて、いろいろ考えてみた。

 まず、トランプ氏周辺の情報とアメリカの大統領選挙でポイントとなる論点を私なりに最小限だが、まとめておきたい。トランプ候補の戦術が見えてくるかもしれない。

 3回目の起訴:トランプ氏がワシントンの連邦地裁に起訴されたのは、今回で3回目。

 1回目は、3月、元・女優に違法に(スキャンダル隠しの)「口止め料」を支払ったという「下ネタ」事件。

 2回目は、6月、大統領の「機密文書」をホワイトハウスから自宅に持ち出したまま放置したという「スパイ映画(もどき)」事件。

 3回目は、8月1日に公表された起訴状によれば、トランプ氏が前回の大統領選挙の結果を認めず、当時の副大統領ペンス氏(元側近の一人・副大統領のペンス氏=副大統領は、上院議長を兼ねているので、大統領選挙の選挙結果を確定させる手続きにおいては、重要な役割を果たす)集計を確定させず、拒否するよう求めて選挙結果の確定を妨げたという「選挙妨害(お粗末)」事件。

 これは、女優とのスキャンダル隠しとか、大統領になって「嬉し、嬉し」で、お仲間に「機密文書」を得意げに見せびらかした、とかいうレベルの事件では無く、アメリカのデモクラシーシステムの「原理」に関わる論点を持っているので、きちんと記録しておきたい。以下、朝日新聞8月2日付夕刊記事、8月3日付朝刊記事概要参照・引用、論点整理をしてみると、記事全体が良く判った。

 ①起訴状:それによると、トランプ氏はその後もペンス氏に直接圧力をかけ続け、選挙結果を自分に有利になるよう不正に協力するよう求め続けたという。しかし、副大統領は、職責を全うして、「抵抗」したという。
 そして、21年1月6日、アメリカでは、議事堂襲撃事件が起こった。これについて、ペンス氏は、副大統領でなければ知り得ないことを検察側に提供しているという。今回の起訴を決めた大陪審の前で、それらを証言したとみられるという。ペンス氏は、「アメリカの憲法よりも自分自身を優先するような人物は決して合衆国大統領になってはならない、という重要な注意喚起となる」などという内容に声明を出したという。

 ②共和党の党内事情&民主党声明:共和党のペンス氏/次期大統領選挙に立候補表明済み。ワシントン記者/「ペンス氏の政治姿勢は共和党内で共感を呼ぶには至っていない」という(8月3日付朝日新聞朝刊記事一部引用。詳細は、前掲同紙参照)。世論調査では、共和党の指名候補争いのトップを走るのは、トランプ氏で、まだゆるいでいない。
 共和党のマッカーシー下院議長/「司法省は共和党の最有力候補であるトランプ氏を攻撃しようとしている」。ほかの共和党議員/「バイデン政権が司法を使って、政敵をねらっている」。共和党の党内事情は、まだまだ、いろいろあるのでは無いか。トランプ候補擁護論も相次ぐという。

 民主党上院のシューマー院内総務らの声明/「大統領を含め誰も法の上に立てないことを何世代にもわたって思い起こさせるものだ」。バイデン大統領は、休暇中。コメントなし。

 ③アメリカの専門家(A)の見方:トランプ氏の支持者は、今回の「起訴」レベルでは、「変わらないほど強固になっている」。「傷がつきにくい」。「メディアは、トランプ氏が嫌いだから狙い撃ちしているだけ」など。「トランプ氏が来年の大統領選の有力な候補者でなくなるとは考えにくい」。
 アメリカの専門家(B)の見方:今回の事件は、連邦レベルの事件で最も重要なものといえる。「(裁判終了前で)トランプ氏が当選して大統領に就任すると、裁判は停止されるだろう。現職の大統領を罷免できるのは、議会による弾劾手続きだけだからだ。トランプ氏が当選しても、大統領の宣誓前に有罪となっていた場合、自分に対する恩赦はできない。別の共和党大統領であれば、(略)恩赦することは可能だ。(略)選挙前に有罪になる状況は起こりにくいかもしれない」。
 アメリカ政治の専門家が描くトランプ周りの大状況に目を配った上で、ポイントについても考えてみたほうがよさそうだ。

★閑話休題・新連載/メディア断章/○○

 新しいことを始めることは、なにか心ウキウキするものがあるのではないか。
 冒頭で書いたものは、大原コラム「流儀」という、従来からのいわば普通サイズのコラム。新連載の「メディア断章」は、ワンポイントの新サイズコラム。この長短サイズのコラムが混在して、どこかでも読めるようにしてみたいというのが、新連載の狙い。前号から始まった新連載は、ニュースを判りやすく解読する「雄」(ゆう)流・メディア断章。小さいニュースを大きく、深く、掘り進める(分析してみる)というのが基本姿勢。果たして上手く行くかどうか。
 例えば、「トランプ」関連では、トランプ候補の「起訴」の効果がどうなっているかをこの視点だけで「断章」スタイルで分析してみたが、はて、どうなるか?

★ メディア断章/「起訴」は、トランプ流・錬金術?

 共和党のオンライン献金サイト「ウィンレッド」が7月31日付でアメリカ連邦選挙委員会(FEC)に提出した報告によるとと新聞は書き始める。トランプ氏の起訴や出廷に注目して、記者は報告をチェックしている。

 *1回目の起訴(3月30日):献金は、普段の10倍を超える。約224万ドル(約3・2億円)。
 *ニューヨーク州の裁判所に出廷(1回目)、無罪を訴える:献金は、約394万ドル(約5・6億円)。2023年前半では、最多だったという。
 *2回目の起訴(6月8日):献金は、116万ドル。

 *4日後(2回目)の出廷:129万ドル。

 *3回目の起訴:?(データ判明を掌握していない)
 *4回目の起訴(8月14日):19人起訴。後述。

 トランプ陣営は、起訴されるたびに「不当な捜査に立ち向かう」と訴えて、支持者に献金を呼びかけている。開示された献金の多くは、一口、百ドル以下の個人献金で、起訴を逆手にとって支持を伸ばす「戦術」こそトランプ流「錬金術」と言えるのではないか。

 トランプ氏は、「私の当選を確実に知るためには、あと1回の起訴が必要だ」と訴えているという。大衆心理に長けたトランプ流錬金術は、献金は集めることはできても、票まで集められるかどうか?
 (以上、朝日新聞8月5日付朝刊記事より、概要参照、一部引用)。

 続報:トランプ氏「ご希望」の4回目の起訴を報じる記事が新聞に載った(朝日新聞8月16日付朝刊記事参照、一部引用)。

 *4回目の起訴(8月14日):
 「2020年の大統領選で敗北を覆そうとジョージアなどで組織的な不正行為を働いたとして、ジョージア州大陪審は14日、トランプ前大統領ら19人を起訴した。当時の政権幹部や側近らも同時に起訴され、これまで問われた4つの事件の中でも最も大規模な内容となった」という。起訴されたのは、「トランプ氏をはじめ、顧問弁護士(元ニューヨーク市長)、元大統領首席補佐官ら総勢19人」。

 起訴状では、「トランプ氏の敗北を受け入れることを拒否し、選挙結果を違法に変えようと共謀した」とあるという。まさにアメリカ建国の基盤であるアメリカン・デモクラシーに対する前大統領自身の「反乱」ではないか。トランプ氏は、「魔女狩りが続いている」と反論しているという。
 トランプの裁判、大統領選挙の結果という、大状況を揺るがしかねない問題が待ち構えているわけで、アメリカの状況は不透明感が強まるばかりだ。

★メディア断章/「あれ」は、なんと呼べば良いの ?

 「処理水」、「汚染水」、「処理された汚染水」? なんて呼べば良いのだろうか? いや、なに、東京電力福島第一原発から、いわゆる「海洋放出」(「海洋投棄」とどう違うのか)されることになった、あれ。
 本来なら原発から排出される「廃水」、「排水」とでも呼ぶべきなのではないのか。

 日本のメディアは、なぜ、皆、「処理水」という用語で統一しているのか? 政府が、「用語統一」したのか。
 あれは、なんと呼べば良いのか。

 日本政府は、世界で孤立しないようにと、IAEA(国際原子力機関)を頼りに国際社会に働きかけてきた。IAEAから取り付けた「お墨付き」で、「一定の」支持を取り付けた形になっているが、中国は、国営メディアを含めて、「汚染水」とか「核汚染水」と呼んで、強く反発している。香港も同じような歩調だという。例えば、香港政府のトップ・李家超(ジョン・リー)行政長官は、22日、「食品の安全や環境汚染を顧みず、自身の問題を他人に押し付ける無責任なもので、強く反対する」と強硬姿勢を見せている。香港政府は、(8月)22日、「処理水」(朝日新聞)の放出が始まる24日から、「福島など10都県の水産物を禁輸にすると発表した。(略)禁輸対象は福島ほか、東京、千葉、栃木、茨城、群馬、宮城、新潟、長野、埼玉の10都県」という。(朝日新聞8月23日付朝刊記事参照、一部引用)。

 中国政府は2011年の原発事故以降、現在も新潟産のコメを除き、10都県産の水産物を含む全食品を禁輸としている。

 中国は、海洋放出前から日本の水産物に対する放射性物質の検査を厳格化している。日本からの鮮魚類は、事実上輸入ストップ、加工品も手続きに手間や時間がかかるという。中国のインターネットなどでは、
 安全なら、なぜ、日本の領土内で処理しないのか」という書き込みが目立っているという。日本の水産物を扱う中国内の料理店は、食材を中国産に切り替えているという。海洋放出が始まったら、中国は、24日の、当日から日本産の水産物輸入を全面的に輸入禁止とした。中国料理の食材から、日本産品は、追い出されかねないという。食材の「日本離れ」が、このまま「固定化」される恐れもあるという。

 中国税関総署が(8月)18日発表した統計によると、7月に日本から輸入した水産物の総額は、前月比33・7%減の2億3451万元(約46億円)だったという。その後のデータが発表されれば、減少は、もっと大きくなるのではないか。

 去年、日本から中国へ輸出された水産物の輸出額は、871億円という(朝日新聞8月25日付夕刊記事など参照、一部引用)。

 一方、韓国の尹政権は、日本との友好を政治的に演出しているだけに、政権レベルでは、日本への「理解」を示しているが、これはあくまでも政治的な対応に過ぎないかもしれない。野党や国民レベルになると、そうはいかないだろう。

 韓国最大野党の「共に民主党」は、「汚染水」と呼んで、海洋放出計画の見直しを求めている。
 日本沿岸で取れた鮮魚類などの輸入規制や禁止、不買運動などの反発が韓国でも広がる恐れもあるのではないか。

 南太平洋の諸国の理解も広がっているとは言えないという。南太平洋の18の国や地域で構成する「太平洋諸島フォーラム」は、6月に「引き続き強い懸念を表明すると声明を出している。

 欧米では、韓国同様、政府レベルでは、「一定」の理解を示すが、こちらも国民世論の反応は、未知数だという。例えば、メディアでは、アメリカのCNNが「処理された放射線水」と名付け、イギリスのBBCが「汚染水」と呼ぶ。日本では、政府の意向に従うメディアは、皆、同じように「処理水」と呼んでいるようだ。「汚染水が処理された水」などと呼ぶところもあったという。

 そこで、朝日新聞8月23日付朝刊社説では、どう書いているだろうかと思って、調べてみた。論説委員は、頭を悩ませて以下のような説明文を書いたのだろう。

 「海洋放出」、「処理水の放出」「処理水の海洋放出」=「汚染水から大半の放射性物質を取り除き、海水で薄めた処理水を放出すること」

 論説委員も苦心しながら、「処理」の意味を「汚染水から大半の放射性物質を取り除き、さらに、海水で薄めた」としたのだろう。これが、「科学的安全」という意味なのだろうか。「大半の放射性物質」を取り除いた後は、「残余」の放射性物質は、どのようなものが、どのくらいあると見込まれるのだろうか。さらに、残余の放射性物質がある処理水を海洋に放出するとでどの程度汚染が薄まり、最終的に「科学的安全」は、どの程度高まるのだろうか。

 8月24日の午後から、いわゆる「廃水」の放出が始まった。終了までに30年はかかるという。メディアは、東電のレクチャーを受けているのだろう。「廃水」の表記は、次のようになっている。

 「(大量の)海水で薄められた処理水」「海水で基準を下回る濃度に薄められた処理水」「トリチウムなど基準を下回る濃度に薄められた処理水」など。どう表現しようと、元々の「廃水」の量は変わらない。ただ、「廃水」は、希釈されているだけで、濃度が「基準を下回っている」
 というだけに過ぎないのではないか。必要なのは「総量規制」なのではないか。「総量」、つまり絶対量を減らす規制を実施しない限り、中国を代表とする規制派の国・地域を納得させることは、なかなか難しいのではないのか。

★メディア断章/中国からの「投石・抗議電話」

 原発の廃水海洋放出に対して、中国の人々の中からは、中国国内にある日本人学校の敷地内に石や卵が投げ込まれているのが見つかったという。「山東省青島の日本人学校では24日夕、敷地内に石が投げ込まれ、中国人の男性が拘束された」という。24日前後から、中国のSNS上では日本を批判する書き込みが急増し、特に、中国からの「抗議(嫌がらせ)」の電話が多数確認されているという。中国政府は、日本の海洋放出を受けて、「日本の水産物を全面禁輸とした」。この問題は、目下、日中間の外交問題の難題になっているので、引き続きウオッチングを続けたい。

★「放出」差し止め訴訟?反対行動(東電本社前)

 24日に始まった「処理水」海洋放出に抗議する集会は、各地で始まった。原発の地元・福島市内では、参加者が「海洋放出は福島の復興の妨げとなる」「漁業者や県民が反対してもスケジュールありきで強行する。民主主義を破壊する政治だ」などと政府の対応を批判した。東京・千代田区の東電本社前では、約400人(主催者発表)が集まったという。参加者の一人は、「福島では代々の土地に住めなくなったのに、今また福島の海に(汚染した処理水を)流すという。腹立たしく、やるせないと話した(前掲同紙、参照、一部引用)という」。

★メディア断章/[長崎]60年ぶり、台風接近で屋内開催

 少し、時間を戻って(記録)。
 「8・9」(23年)長崎市で平和祈念式典が開かれた。
 78年前、アメリカが広島に続いて、長崎に原爆を投下した日である。
 迷走する台風7号接近に伴って、急遽、会場が変更になった。長崎市の平和公園から、出島メッセ長崎へ。会場は屋内であり、規模を縮小しての開催となった。遺族、来賓、岸田首相、各国大使らが出席(招待)しない、異例の式典となったという。台風の進路次第では、中止になる可能性もあったという。覚えておこう。

 式典は主催する長崎市の関係者のみで実施されたという。こういう形での実施は、1956年以来、初めて、という。市長や市議会議員ら約50人が出席。長崎に原爆が落とされた午前11時2分。黙祷した。

 このうち、私が注目したのは、長崎市の鈴木史朗市長の平和宣言であった。「核抑止(戦力——引用者注)に依存していては、核兵器のない世界を実現することはできない。(略)今こそ核抑止への依存からの脱却を、勇気を持って決断すべきだ」と述べたことだ。今年5月広島で開かれたG7サミットの「広島ビジョン」が核抑止を肯定したことを批判している。さらに、日本政府に対しては、核兵器禁止条約の早期署名・批准、締約国会議へのオブザーバー参加を求めた(以上、朝日新聞8月9日付朝刊記事参照、一部引用)。

★メディア断章/ 映画「祝の島(ほうりのしま)」と「中間貯蔵施設」問題

朝日新聞8月19日付夕刊記事参照し、以下、一部抜粋・引用した。

 中国電力が山口県上関(かみのせき)町に建設を計画する「中間貯蔵施設」(使用済み核燃料を再処理工場へ搬出するまでの、いわば「中間的に貯蔵する施設」)について、同町の西哲夫町長は、(8月)18日、中国電による施設建設に向けた調査を受け入れると表明し、中国電に伝えた」という。

 「同社は、関西電力と共同開発する方針で近く調査の準備に入る。青森県むつ市に続き、全国で2例目の中間貯蔵施設の計画が動き出すことになった」という(前掲同紙引用)。

 「上関町では約40年前に原発計画が浮上。2009年に準備工事が始まったが、11年の東京電力福島第一原発事故の直後に工事は止まった。(略)
 中国電は今月2日、上関原発建設のために保有する(略)敷地内で、中間貯蔵施設を建設する計画案を提示した」という(前掲同紙引用)。
 今回の記事を読むと中国電の提案に対する住民説明会もなく、さらに18日に開かれた町議会の臨時会でも、「町側が賛否両派の議員の意見や疑問に明確に答える場面がなかった」と取材に当たった記者は、批判している。

 映画「祝の島」は、この原発計画をめぐる原発予定地の対岸にある「祝島」の住民たちの原発反対運動を記録したドキュメンタリー映画である。私も映画を観たが、島の路地を歩くお年寄りのデモの声も4キロ離れた対岸の予定地に届きそうであった。纐纈あや監督作品で、シチリア環境映画祭ドキュメンタリー部門最優秀賞受賞。上関町の原発や中間貯蔵施設問題は、また、時機を見て伝えたい。

 贅言;江戸時代の物流・交通手段は、大きく分ければ、2つであったと言える。
 その一つは、街道(陸路)を行く。人間の徒歩での移動や馬を使った荷の運送である。もう一つは、海を行く船を使って大量の荷を運ぶ海運(海路)である。つまり、船は、当時、現代のトラックのように評価されていた。

 原発と原発の敷地に建設が提案されたばかりの中間貯蔵施設計画で注目されることになった上関町は、瀬戸内海にある海の関所になるのか。海の関所は、今後、核の関所になるかもしれないという不安が住民の心を重くのしか   かる。一方、中国路を監視してきた下関市は、陸の関所。上関と下関。

★ コロナ禍部隊と熱中症部隊:まさか、人類の敵たち?

 ハガキが届いた。「2023年度(職場のOB会)総会・懇親会についてのお知らせ」というタイトルだ。この時期になると、近年似たような文面のハガキが届く。少し抜粋してみよう。
 「withコロナながらも、今年こそはと総会・懇親会の開催準備を進めてまいりましたが、本社への入館は今なお制限されており、今年も本社での開催は中止せざるをえないと判断し、決定いたしました」とある。本社は、慎重である。「コロナが終わった」、「○年ぶりでコロナ禍前のスタイルで営業再開」などという言葉が、テレビの画面からは頻りに流れてくる。しかし、私を含めて、コロナ終焉に向ける疑いの目にも説得力があることも事実なのだろう。

 コロナ禍は、国民には見えにくくなっている。「緩やかに増えている」かどうかは、判らないが、ひと頃より感染者数が増え続けていることには、間違いないのだろう。「施設で、クラスター発生とか」聞こえてくる。感染者が猛暑の中、熱中症の陰に隠れている部分もあるのでは無いか、という疑いも私は持っている。なにしろ、ジャーナリストは、まず、疑問から始まるのである。

 夏場。熱が出たり、体力の劣化を感じたりしたら、即、自治体の窓口に連絡すべし。目下、独り住まいの身には、病気発症、頼るべき親族は、近間にはほとんどいないという人にとって、これ以上辛いことはないと思って、保健所:自治体(県)や関係機関の窓口となる電話先番号は、どこかなと思って探したら、私が住む自治体の広報紙のどこにも載っていないではないか。載っていても目立たない。判りにくい。自治体に電話するにしても、番号、あるいは部署の名称(自治体も、最近はモダンな名称を使いたがり、一般住民いは、何が何だかわからない)ネーミングも目立つ。一方。読者の味方である新聞の紙面にも載っていやしない。探すだけで疲れてしまう。

★コロナ・入院患者増加から減少へ、いや、まだ増加?

 コロナ感染の「速報値」をチェックしてみた。
 それによると、新型コロナウイルスが感染法上の「5類」に移行(5月8日)となってからも、全国の新規感染者は、前週比で11週連続して増えていたが、8月14日の発表(厚生労働省)では、「初めて減少となった」という。定点医療機関(全国で約5000ヶ所)への報告では、1定点あたり前週比(15・91人)から前週比(15・81人)へと微減したという(朝日新聞8月15日付朝刊記事参照)。

 続報:
 8月18日の発表(厚生労働省)では、「2週連続の減少」という。
 1定点あたり前週比(15・81人)から前週比(14・16人)へと減少したという(朝日新聞8月19日付朝刊記事参照、一部引用)。今回の「感染減少」には、違う要素が反映しているかもしれないと思う。
 例えば、「週の後半が3連休で(定点の——引用者・注)医療機関が休みだった影響もある」(厚生労働省)とする。感染者が、お盆休みを分岐点にして変動しているのかいないのかは、もう少し、データと医療現場の現実感をチェックする必要があるだろう。

 ところが、8月17日のNHKニュースでは、入院患者のデータで裏付けられた数字ではないが、お盆明けとともに、現場感覚では、外来を訪れる新たなコロナ感染者は、また、増え始めたと報じている。

 久しぶりのお盆休みを利用して、ふるさとや有名な観光地の花火大会やお祭りを見に行った人や、ふるさとへ里帰りをした人々で、社会の移動が増えており、それに連れて、感染者が増えてきたという。いずれ、データが出てくるであろう。今年のお盆は、台風7号の迷走で、立ち往生した新幹線の列車内に長時間閉じ込められた人々の姿も目についただけに、感染増加は、説得力のある情報ではないのか。大状況的には、コロナ感染者は、減少というより漸増というところなのだろう。ウイルスと人類の戦いは、続く。

 案の定、8月25日の発表(厚生労働省)では、
 1定点あたり前週比(14・16人)から前週比(17・84人)へ、約1・26倍と、3週間ぶりに増加に転じている。いずれも速報値。コロナが感染症法上の5類になって以降、最多となっている。「例年お盆明けが流行のピークになる」(厚生労働省)という。経験に基づく予測通りの増減の波というわけだ。

 さらに、9月1日の発表(厚生労働省)では、
 1定点あたり前週比(17・84人)から前週比(19・07人)へ、約1・07倍と増加が続いている。いずれも速報値。コロナが感染症法上の5類になって以降、最多更新となっている。

 9月8日の発表(厚生労働省)では、
 1定点あたり前週比(19・07人)から前週比(20・50人)へ、約1・07倍と増加が続いている。いずれも速報値。コロナが感染症法上の5類になって以降、最多更新で、初めて20人超となった。

 連日の猛暑で熱中症患者も増えている中で、コロナ患者の急増に医療現場は警戒している。例えば、東京・府中市の医療センターでは、7月から増え始めたコロナ感染の入院患者は1ヶ月前の約2倍に増えているという。東京・文京区の大学病院では、7月に入ってじわじわ入院患者が増えてきたという。専門家の間では今回のコロナ禍は、「第9波」と言われている。私の連れ合いの妹が、ご夫婦で初めて感染したから、コロナウイルスは、私の身近にも忍び寄っていたのかもしれない。連日に高温の中、熱中症患者も増えたこともあって、救急車は1日に平均30台ほど受け入れているという。前回のコロナ禍第8波は、「急峻な山だったのに対して、今はゆっくりとじわじわ。現状は(第8波)ピーク時の半分くらいではないか」(文京区の大学病院の「新型コロナウイルス 対策室長」の話)。

 一方、熱中症は、日々39度越えという最高気温が日本列島各地のどこかで観測されている。今や、40度クラスの暑さは当たり前になってしまったのか? 8月5日福島県伊達市では、午後2時に40度を観測したという。「危険な」気温。今年、全国で初めて、という(その後、石川県小松市でも、8月10日、フェーン現象も加わって40度を観測した)。伊達市は、県都・福島市に隣接する都市である。私の母(1922年5月生まれ、2020年12月に満98歳7ヶ月で亡くなり、享年は数え歳ならば、99歳であった)は、伊達市の市町村合併の仲間である保原町で生まれた。私(筆者)は、戦後生まれであるが、母の実家で近所の助産婦の手を借りて、産み落とされたと聞いているので、私も、伊達市と所縁(ゆかり)ができたというわけである。さて、本題に戻ろう。

★「忌まわしいループの発生」

 「生」の対極にあるのは、「死」である。

 コロナや熱中症などによって死者が増え続けているという。ウイルスのしぶとい居座り、過酷な太陽の「メグミ」が吹き出す熱風(ねっぷう)。そう、今年の暑さは、「暑さ」などではなく、「熱風」だろう。熱(あつ)さが、直接肌に突き刺さってくる。ヘアドライヤーが機械的に吹き出す熱い風と同じような直線的な暑さだった。

 アメリカ・ハワイのマウイ島の大山火事。炎の悪魔は、地球を、人類を焼く尽くす。山を焼き、都市を焼いた。今や、地球の気候は変動し、異常な気候は、連日連夜、人類への軍事侵攻のように私たちを攻め立てる。ウクライナの要人たちが、プロパガンダを滲ませながら主張するように「ウクライナは、ロシアと戦っている」のではなく、人類の敵と戦っているのだろう。「敵」は、ロシアのプーチンだけでなく、プーチン的なもの。それは、何人もいるのだろう。
 強欲でバカな権力者は、何をトチ狂ったか、核兵器をチラつかせているではないか。そういう連中を今のところ誰も咎められないままのようだが、地球は廻る。地球は変わる。地球は燃える。地球沸騰。気候変動。気候危機。

 朝日新聞8月30日付朝刊記事「月刊安心新聞+(プラス)」で、千葉大学大学院の神里達博教授が、地球の気候変動を明解な文体で分析していたので、箇条書き的に引用したい。

 ・20年前に比べると、現在はおおむね2倍のペースで森林が消失している。
 ・山火事の原因の多くは落雷だと考えられる。地球全体で1日におよそ800万回もの雷が落ちている(推測)。
 ・森林火災の原因は、気候変動による。
 ・気候変動:温暖化→乾燥化→火災の頻度と規模の拡大→二酸化炭素が増える→二酸化炭素を吸収する植物が減る→大気中の二酸化炭素が増える→温暖化は加速する。

 近ごろ、みやこにはやるもの。暑さ。9月になっても、まだ暑い。

 「危険な」(暑さ)。
 「命に危険が及ぶ」(災害など)。

 命や危険が日常的な会話に紛れ込んで使われている。
 ならば、「命に危険が及ぶ」(核兵器)なども、プーチン一派が、流行らせようとしているかもしれない。出したり、引っ込めたり。
 それにしても、「命に危険が及ぶ」などという抽象的な表現では、具体的には、判りにくいのではないか。被災者の自己責任?

 贅言;「コロナ」の補充。前掲同紙に拠ると、日本では、他の地域よりも早く流行が拡大していた沖縄県では、県内の入院患者数は、7月以降、全国の傾向とは逆に、「徐々に減っている」という(沖縄県立中部病院医師の話)。

 このまま、減り続けてくれるかどうか。
 沖縄県では、今が「ピークアウト」になっていると、良いのだが。

★ メディア断章/クリミアの2つの橋攻撃

 クリミアの橋の攻防のニュースが、時々伝えられる。動きの鈍い反転攻勢と言われているようだが、その主戦場になってきているのがクリミアの橋のようだ。ウクライナ南部のヘルソン州とロシアが実効支配しているクリミア半島を結ぶチョンハル橋が8月6日、ミサイル攻撃を受けたという。ロシアが撃墜しきれなかったミサイルの一部が命中し、橋の一部が破損した。死傷者はいなかったという。攻撃は、ウクライナ軍による。また、近くにある別の橋もミサイル攻撃を受け、運転手1人が負傷したという。これについても、その後、ウクライナ軍が「ロシア軍の2つの重要な連絡ルートを攻撃した」と橋への攻撃を認めたという。インタファクス・ウクライナ通信が伝えた(以上、朝日新聞8月7日付夕刊記事、8月8日付朝刊記事、共に参照)。戦場の情報には、タイムラグがある。その「ラグ」の構造がどうなっているのか、それを戦場のジャーナリストたちは、見定めようと、命を賭けて取材をしている。

★ウクライナ・軍事委トップ全州で解任

 ウクライナのゼレンスキー大統領は(8月)11日、兵士の徴収、招集に当たるウクライナ各州の軍事委員会トップを全員解任すると明らかにした。同委員会のもとで活動する各地の徴兵事務所において、兵役免除と引き換えに賄賂を受け取るなどの汚職が相次いだための措置という。ゼレンスキー氏は(略)33人の容疑者に対し、112件の捜査が進んでいると明かした。(略)疑惑と関係のない軍事委員会トップも解任される」という。ロシアとの戦争の最中、それほど、ウクライナでは、軍の地方機関(徴兵、招集の窓口など)での汚職疑惑が目立つということだろう(朝日新聞8月13日付朝刊記事参照、一部引用)。ウクライナも、闇の部分があるから、情報の判断には、注意を要する。

★地雷作戦か、ドローン作戦か

 ウクライナは、ロシアの軍事侵攻の停戦に通じる「反転攻勢」を目指しているが、イギリス国防省は、ロシア軍が進軍を遅らせるために大量の地雷を設置し、一定の成果をあげているという見方を示している(以上、7月4日付、NHK「ニューズ・ウエッブ」を主に参照、一部引用してまとめた)。

 ウクライナ軍は6月上旬から大規模な反転攻勢を進めているが、当初の想定よりも進軍が遅れているという。ウクライナ軍の戦車「ブラッドレー戦闘車」などの駆動部分が破損し、タイヤは曲がっている。ロシアの地雷を踏んだことは明らかだという。

 イギリス国防省は、7月4日の分析で「ここ数週間のロシア軍の戦術は、南部でウクライナ軍の装甲部隊の進軍を遅らせることを優先してきた。対戦車地雷を非常に多く使い、ウクライナ軍の進軍を遅らせた後、ドローン(無人機)や攻撃用ヘリコプターなどでウクライナ軍の装甲車を破壊している」という。

 また、イギリス国防省は、「ウクライナの反転攻勢の初期段階では、ロシア軍の作戦は一定の成功を収めている。しかし、ロシア軍は依然として弾薬不足などに悩まされている」と分析しているという。

 一方、7月4日、ロシア国防省は、首都モスクワの南西部や西部郊外に、合わせて5機のドローン(無人機)が飛来したなどと発表した。いずれも撃墜し、死傷者や被害はなかったという。さらに、ウクライナ軍によるテロ攻撃だと主張しているという。

 ロシア軍の分厚い対戦車地雷(層をなして埋められた地雷原、遠隔操作できる地雷など)に対抗して、ウクライナ軍は、地雷に触れずに空から遠隔操作で「進軍」できるドローン(無人機)による攻撃に作戦を切り替えたようだという指摘も出ている。

 ロシア国防省は、ロシア軍が(8月)9日未明、首都モスクワ近郊でウクライナのドローン(無人機)2機を撃墜したと発表した。モスクワが標的とみられる無人機攻撃は6日以来。モスクワや近郊への無人機の飛来は常態化しつつあるという。ウクライナ軍の大規模反転攻勢は厳しい戦いを強いられており、ウクライナがロシア国民の動揺を誘うため攻撃を強化している可能性があるという(以上、8月9日付、読売新聞「オンライン」参照、一部引用。)

 ロシア:分厚い地雷原とウクライナ:最新型ドローン(無人機)との戦いになっているという。

 一方、ソビエト連邦が崩壊し、ウクライナが「独立」した8・24の独立記念日には、ウクライナによる特別な「大規模攻撃」が行われるのではないかという予測も出ていたというが、これは、なかった。

★メディア断章/ロシア歴史の教科書改訂

 ロシアでは、今月(9月)の新学期にあわせて日本の高校生に当たる学年向けの新しい歴史教科書が(8月)7日モスクワで公表された。新しい教科書の特徴はウクライナへの軍事侵攻についての記述が新たに盛り込まれたことだという。プーチン政権が、若い世代に対して軍事侵攻を正当化しようとする思惑が鮮明になっているという。10日、NHKやBBC(BBCニューズ・ジャパン)がニュース番組などで伝えた。以下、メディアの原稿(抜粋)を参照し、一部を引用した。NHKの原稿は、短くてプーチンの独りよがりさが滲み出てこない。BBCの原稿は、長くて、細部までリアルな表現でプーチンの「僻み」根性も滲み出てくるようである。

 新しい教科書には去年(22年)2月にロシアが始めたウクライナへの軍事侵攻についての記述が新たに盛り込まれ、
 ①軍事侵攻の理由としてウクライナ東部のロシア系住民の保護や安全保障上の脅威を取り除くためといったプーチン政権の主張が強調されているという。また、ウクライナを支援し、ロシアに制裁を科している欧米の姿勢に対する批判なども展開しているという(NHK原稿)。
 ②プーチン大統領がウクライナに対する「特別軍事作戦」を開始していなければ、人類の文明はおしまいだったかもしれないと教える。教科書は、「西側諸国は、ロシアの国内情勢を(略)不安定化させようとしている(略)。西側がロシアをさまざまな紛争に『引きずりこむ』ようになった(略)。西側の究極的な目的は、ロシアを破壊してロシアの天然資源を奪うことなのだと、教科書は主張している」(BBC原稿)。
 ③随分印象が違うニュース原稿だというのが判る。一面的には、いずれも正解なのかもしれないが、それぞれの記者が、戦場で取材して感じた心象で、これだけ違ってくるということを忘れずに、ニュースを判断したい。
 教科書の執筆に自身も携わったというメディンスキー大統領補佐官(顧問)は記者会見でNHKの質問に対し「教科書は国家の立場を示したものだ」と強調したという。

 いわば、プーチン版「国定教科書」ということなのだろう。

 ロシア政府によると、教科書は新学期からすべての学校(高校級)で使われるという。プーチン政権が教育を通して若い世代に対して軍事侵攻を正当化しようとする思惑が鮮明になっているという。

 軍事侵攻が続く中で歴史教科書にプーチン政権の視点で記載されることへの懸念や批判の声もSNSや独立系メディアから出ているというが、クラフツォフ教育相は「今や誰もが考え、家庭でも学校でも話しあっている『特別軍事作戦』について触れないのは偽善だ。作戦が終わり、われわれが勝利したあと、さらに改訂していくことになるだろう」と述べ、プーチン流の「歴史主義」の正当化を強調したという。

★ウクライナ独立記念日

 32年前。1991年8月24日。ウクライナは独立を「宣言」し、同年末のソ連邦崩壊の結果、ウクライナ「独立」が達成された。 武力衝突のない無血の独立だった。1990年夏には,キエフ(当時、現在は「キーウ」)大学を中心に学生のハンガー・ストライキがキエフ中心部にある独立広場で行われ、ソ連邦共産党の指導的役割を謳った憲法の条項を「削除」することなどを要求した。

 それを受けて連邦を構成していた共和国が主権国家として独立した。
 アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、エストニア、ジョージア、カザフスタン、キルギス、ラトビア、リトアニア、モルドバ、ロシア、タジキスタン、トルクメニスタン、ウクライナ、ウズベキスタン、15の独立国家が誕生した。

★日本周辺で増える米中ロの軍事行動

 「日本周辺で最近、アメリカ、中国、ロシアを中心とした軍事行動が増えている」という。「(略)防衛省によれば、中ロ両空軍は6月6、7の両日、日本周辺で戦闘機と爆撃機による共同飛行を実施。両国の国防省などによれば、中ロ両海軍は7月初旬に上海沖、7月20日から23日まで日本海で、それぞれ合同軍事演習を実施した。(略)また、北朝鮮は中ロ両軍の合同軍事演習前後の7月19日と24日に、それぞれ日本海に短距離弾道ミサイルを発射した。(略)米軍の動きも活発化ししている。7月、核兵器を搭載できる戦略原子力潜水艦が韓国・釜山に、攻撃型原潜が韓国・済州にそれぞれ入港した。米空軍によれば、……(以下続くが、略)」という。ウクライナ軍事侵攻による日ロ関係の悪化、北朝鮮の核開発、台湾有事をめぐる米中対立など、日本周辺が、きな臭くなっていないか? メディアは、ファクトの流れを確認し、積極的に国民に情報提供をすべきだろう。

★今年から、「対日戦勝記念日」

 ロシアは、日本に対する批判を強めている。「日本政府は新たに軍国主義化を進めている」(メドベージェフ・前大統領)。ウクライナ侵攻を巡り、対立する日本に対して過去の「軍国主義」を引き合いに出して、批判を強める狙いがあるのだろう。確かに、私の感覚でも、岸田政権が操る日本政府の動きは違和感がある。だからと言って、プーチンのロシアの舵取りが正解とは思えない。
 聞くべきは聞く、言うべきは言う。

 ロシアが定めた「9月3日」は、正式名称を以下の通りである。
 「軍国主義日本への勝利と第2次世界大戦終結の日」。去年までは、日本の降伏に伴う第2次世界大戦「終結」を記念する日という位置づけだったのが、今年からは「対日戦勝」を強調する表現になっているという。
 (以上、朝日新聞9月4日朝刊記事参照、一部引用)。

★メディア断章/「左記」と「右へならへ」

 どちらが、今や、日本語として「死語」になってしまったか?
 朝日新聞8月15日付夕刊記事の扱いについて、朝日新聞社に敬意を表したくて一筆書いてみた。
 その記事とは、「訂正して、おわびします」という不定期な連載ものである。短い記事なので、全文引用する。
 「▼12日付「朝日新聞写真館 戦争と家族」の伝言板の写真につく説明で、「復員セバ先ヘ来レ」とあるのは、「復員セバ左記へ来レ」の誤りでした。」

 記事は、朝日新聞の先人たち、特に写真記者(カメラマン)たちが、世相を写し撮ってきた多数の写真(朝日新聞フォトアーカイブで公開している380万枚の作品)の中から、今回は、戦後78年の8・15に関連して「戦争と家族」というテーマで特集した貴重な写真5点(このうちには、2022年のウクライナの写真が混じっている。避難する子どもたちと抱き合って別れを惜しむ男性の写真である)に「親子引き裂く悲劇 今も」という見出しを付けた連載もので、リードでは、「(略)だが今もこの世界のあちこちで、家族の絆は戦火にむしばまれ続けている。」と格調高い。

 さらに、5点の写真の一枚は、焼け跡の空き地に建てられた一枚の立て札(使われた板は、焼け残った貴重な廃材を利用したものと思われる)を写した写真である。1946年(昭和21年)のもの。キャプションは、以下の通り。写真のキャプションを読んでみよう。

 「終戦10カ月後の大阪市内の焼け跡に立つ伝言板には「良雄ニ告グ!!」「復員セバ先へ来レ」と記されていた。「帰りを待ちわびる家族の願いが込められているようだ」とある。

 せっかく、戦争と家族の姿をうまくまとめたのに、「左記」とあるべきところを「先」に打ち間違えてしまい、その間違いにも気が付かず、紙面に出してしまったということで、苦々しそうな「訂正」記事担当のデスクの顔が浮かぶ。また、「左記」ってなあに?とでも言いそうな若い(?)部下の顔も私の眼前には浮かんでくる。

 そもそも、パソコンやスマホで文章やメモを外国語の文章のように横書きするのが当たり前の時代になってしまった。縦書き文章のような、「左右に『追記』のできる余白がある世界」はすでに遠く過ぎ去った。横書き文章のような、『手本』は「上下にあるだけの世界」に移住してきて、「右へならへ」「右の如し」などという視点は、とうになくなった。こうした社会で長いこと暮らしてきた私たちは、『左記』など、という発想とは、縁がなくなってしまっているのではないのだろうか。

 それにしても、こういう「訂正とおわび」が、夕刊社会面の記事に並んで掲載できる朝日新聞は、えらい!!新聞社だ、と思った。

 贅言;「メディア断章/」は、いろいろなスタイルで書いてみようという大雑把な概念のまま、試行錯誤で適宜連載スタイルということでスタートさせてみた。「鳥瞰図とワンポイント深掘り」ということで、ニュースの持つファクトのおもしろさを引き出して、皆さんにもよろしく育てていただきたいと思っている。

★メディア断章/プリゴジンの死

 自家用ジェット機の墜落で死亡した(とされるーー引用者)ロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者・プリゴジン氏の葬儀が非公開で営まれたという。プリゴジン氏の報道担当が(8月)29日、SNSに投稿したという。
 プリゴジンの死は、リアルなのか、「猿芝居」(フェイクニュース)なのか。
 リアルなら、「暗殺か」。猿芝居なら、フェイクニュースか?
 私は、猿芝居説派で、プーチンの真実が明かされた時に、全てが初めて明るみに出るのではないかと思っている。証拠があるわけではないけれど……。

 ロシアの独立系メディアによると、29日午後、出生地であるサンクトペテルブルクの墓地にそっと埋葬されたという。

 「もう役に立たない」と、プーチンから捨てられたのか、「まだ、使い道がある」からとプーチンが、どこかに匿っているのか。

★「辺野古移設」、沖縄県の上告棄却

 大きなニュースが、入ってきた。

 アメリカ軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画をめぐり、軟弱地盤の発覚に伴って防衛省が申請した設計変更を承認するよう国が沖縄県に「是正指示」を出したのは違法だと県が訴えた訴訟で、最高裁判所第一小法廷(岡正晶裁判長)は、(9月)4日、県の上告を棄却する判決を言い渡した。裁判官5人全員一致の判断で、県の敗訴が確定した(以上、朝日新聞9月5日付朝刊記事引用)。

 この問題では、沖縄県民の意思は何度も示されてきた。賛成反対の論点が明確だった過去3回の知事選挙、いずれも反対を訴える候補が当選。4年前の県民投票では、7割が埋め立てに反対した。行政もダメ、司法もダメ、「おかしい、反対だ」と何度言っても聞く耳を持たない。県民は、民主主義に則り、訴えるところを失くしている。

 玉城知事は、9月中旬、スイス・ジュネーブで国連人権理事会に出席し、民意が顧みられていないとして国際社会に訴える予定だという。

★民主主義で抗(あらが)う県民

 専門家の見解:
 法的措置で敗訴した沖縄県の知事判断。今後の可能性の一つとしてあり得るのは承認しないという「政治判断」:工事を長引かせ時間を稼ぎ、国の譲歩や安全保障環境の変化、政権交代の可能性を待つ。

 一方、法的措置で勝った国は、県に代わって承認するという「代執行」に踏み切る可能性があるという。
 ただし、岸田政権は辺野古移設への関心が低い。関係を重視するアメリカへの配慮か忖度からか、工事を進めるだろうが、国は今後も法的措置の路線継続で行くのだろうか。
(了)

ジャーナリスト

(2023.9.20)
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