【コラム】大原雄の『流儀』
★★ 蘇るのか国立劇場!「再整備」の正攻法
大原 雄
去年の10月。東京の国立劇場が老朽化したとして、閉場された。私も閉場式に参加したが、その後の国立劇場を巡る状況が伝えられてきた。当初、新たな施設は2029年度ころには建て替えられるという見通しだという話であった。それだって、5〜6年先だろう。私が国立劇場の職員に聞いた感じでは、なにか歯切れが悪かった、という印象が残った。新たな情報によると、その後実施した入札が2回も不調に終わっているという。「先が見えない」という状況になっているらしい。
建築家で、横浜国立大名誉教授の北山恒さんが、朝日新聞の「耕論」(2024年6月14日付朝刊)「どうする国立劇場」というインタビュー記事に以下のように答えている。
★★ ひどい「悪手」!
「国立劇場が古くなったから、壊して建て直す、しかも民間に任せて、ホテルなどと一体化し、観光の拠点とする。国が考えた計画は、ひどい『悪手』だと思います」と語っている。「悪手」は、「あくしゅ」、「あくて」と読む。囲碁、将棋などで打つべきでないまずい手のことを言う。教授は、建築家の立場から文化施設は、短期的な経済活動と結び付けるべきではない。「単独で整備するのが当然です」。だから、建て直すのではなく、今の劇場施設を活かしながらやる工法、「大規模改修が最適だと考えます」という。
「耕論」には、ほかに歌舞伎・文楽研究家で、早稲田大学教授、早稲田大学演劇博物館館長の児玉竜一さんと人形浄瑠璃文楽・人形遣いの桐竹勘十郎さんの2人のインタビュー記事もそれぞれ掲載されている。
児玉さんの批判は、次のようなものだ。
★★ 伝統芸能は積み重ねが大事
そういう伝統芸能の活動拠点たる東京の国立劇場が、工事のために長期間使用できないのは、「日本の文化にとって計り知れない損失」だと警鐘を鳴らす。
国立劇場が閉ざしてから、歌舞伎や文楽は各地の公共ホールで主催公演を続けているという。しかし、歌舞伎では、「花道」のような、「その演劇を特徴づける空間」の実現が難しく、「サッカー場で野球をやるような厳しい環境」が続いていると指摘する。伝統芸能に適したホールが少ないということだ。「公演が減ると、衣装、かつら、音楽奏者、邦楽器製作など関連する業種の廃業が増える心配」もあるという。「芸能の『生態系』は一部でも欠ければ全体が衰弱してしまいます」。
「国立劇場は、上演の途絶えた歌舞伎の演目や演出の研究、人気のある場面だけでなく物語全体を考える『通し上演』などの地道な取り組みで、文化の土壌を豊かにする役割を果たしてきた」。
「伝統芸能の担い手を育てる養成事業も重要です」。
「この状況が長引くと5年後、10年後が心配だ」と、国立劇場閉場の影響が多面に亘ると指摘している。
人形遣いの桐竹勘十郎さんの指摘も児玉竜一さんの懸念というか危惧と重なるように思われる。
★★ 「みどり」から「通し狂言」へ
文楽は、国立劇場では、小劇場で上演されてきた。当時の主流の演出は、長い作品の有名な場面だけを上演する「みどり」(名場面を選び抜いた、というような意味)であった。
1966年、国立劇場が開場された当時以来、国立劇場では、場面を割愛せず筋を通して上演する「通し狂言」(歌舞伎の「通し上演」と同様の上演形式)の方針を重んじてきたという。
さらに、勘十郎さんによれば、「国立劇場の舞台は、お客様が見やすい高さに人形がくるように、前面が36センチほど低く、奥の高い部分に大道具などを飾っていました」。
「(今)代わりの劇場では木製の台を敷き、高さを出しています。舞台と材質が違いますから、私たち『主遣(おもづか)い』の履く(高い)舞台下駄が突っかかってしまうなど(略)足の疲れを感じます」。
高齢化も進んでいる。
「太夫、三味線、人形遣いの一番上の世代は80代です」。
(再開場)の「時期がはっきりしないのが非常につらいところです」。
「新しい国立劇場が、一日も早く出来てほしいです」。
命と芸継承の競争が、続いている。
国立劇場の2回の入札不調から広がる、芸継承への不安感。人形浄瑠璃文楽・人形遣いの勘十郎さんの言葉の数々。長引く閉場の波が具体的に押し寄せてくるという懸念・危惧が生々しい。何度も舞台を見てきた身には、そのまま切々と伝わってくる。
国立劇場再整備の正攻法は、どうなるのか。芸も守り、人も守り、江戸時代の演劇空間を守るためにもためには、地道な正攻法が、結局、ゴールに向けての近道なのではないのか。
★★ 一方では、こんな屁理屈も!
「老朽原発を廃炉にしても、同じ会社の敷地内なら新しい原子炉を増設できる」という方針を経済産業省が検討していると、朝日新聞が報じている(24年6月16日朝刊一面トップの記事参照、一部引用)。3年に1度見直される「エネルギー基本計画(エネ基)改定関連のニュースだ。そうすれば、原発は新設されるし、総数は変わらずに規制されるという理屈らしい。いかにも頭の中だけで考えだした典型的な「屁理屈」ではないか。
東京電力の福島第一原発事故後、「エネ基」改定では、震災前のエネルギー戦略は「白紙から見直す」とか、電力の原発依存度を減らすとしてきた方針が見直されることになってしまうのではないか。新聞の説明では、今回の改定では、「原発を廃炉にした分だけ、新しい原子炉を自社の原発内で建設できるようにする」という。さらに、もう一段の緩和策も検討されているというではないか。「同じ電力会社なら、ほかの原発でも増設分を割り当てられるようにする」という。パンツのゴムが緩んできたら、どこまでもパンツはずり落ちるということだろうか。しかも、「エネ基」では、この屁理屈な表現を「増設」とは言わずに「リプレース」(建て替え)という用語で表現する方向だと伝える(前掲同紙参照、引用)。反原発運動をさらに招く可能性があるだろう。この関連の記事は、引き続き、見逃さないようにしたい。続報を待ちたい。
★★ 正攻法を突きつける!
日本ペンクラブ(桐野夏生会長)は、6月19日、マスメディアの民主主義的な原理である「取材源の秘匿と内部通報者保護制度」を脅かす鹿児島県警の強制捜査を強く非難すると題する声明を発出した。民主主義社会の根幹を脅やかす極めて深刻な事態だとし、公権力は今後これを前例にしないよう求めた。なぜ、ジャーナリストにとって、取材源の秘匿が大事かというと、報道の自由は、国民の知る権利に担保されているからだ。主権者たる国民が知るべきことを知る、その知識をもとに政治家や行政の公益性や公共性をチェックする。それを国民はジャーナリストに期待している。だから、ジャーナリストは、場合によっては、取材することに命をかける。だから、「正攻法」で攻めるというわけだ。
内部通報者を守れないような社会なら、公益通報者の保護に支障が出かねない。
それは、民主主義のシステムとは、言えないだろう。
鹿児島県警が引き起こした問題は、そういう意味では、底深い今日的な問題性を抱えているのである。
また、日本新聞労働組合連合(新聞労連)も、同日、今回の県警の行為は、「民主主義社会では許されない権力の暴走」だと抗議する声明を発表した。一方、朝日新聞は、同日の社説で捜査への批判を発信して来たウエッブメディアに対し権力がピンポイントの狙い撃ちのような手法を取るにあたって、どのような検討を経て捜索実行に至ったのか、「公の場で説明を尽くさねばならない」と、求められた。いずれも権力が直接介入する「家宅捜索」に踏み切った点を問題視しする、「正攻法」を突きつけた形となった。
この事件では、6月21日、鹿児島地検が県警の前生活安全部長を国家公務員法違反の罪で起訴した。記事を読んでいて私も思ったのだが、県警や検察は、形式的に処理しているな、という印象があるのだが、今後の動きを見守りたい、と思う。
★ ★ 「戦争」について〜 新聞を読んで・メディア日記
「加藤登紀子さんに聞く 4」(6月7日付朝日新聞地域総合面連載・「寂聴 愛された日々」)を読む。
ほかの記事を読もうと探していたら、「明るく笑って ひっくり返す力」という横見出しが、目の端に飛び込んできた。この連載記事は、読んだり読まなかったりしている。今朝は、なぜか読んだ。加藤さんが、生前の瀬戸内寂聴さんに聞いた話を新聞記者が加藤さんから聞き出すという、ちょっと、ややこしい構造のインタビュー記事である。
記者ーー加藤登紀子ーー瀬戸内寂聴ー→ 加藤登紀子ー→記者ー→読者(私)
という情報の流れか。
「思想犯」:私の目に留まったテーマ。キーワードか?
テーマは、私が勝手につけるなら、まず、「思想犯」とは? だろうか。
ご承知のように、加藤登紀子さんのお連れ合いは、藤本敏夫さん。1972年、当時の学生運動の中心メンバーで、獄中にいた藤本さんと歌手の加藤さんが結婚した。
加藤さんは、語る。引用は、メモのように、箇条書きにした。
(加藤さんの口調がおもしろいのだが、それは、新聞を読んで欲しい。)
「あのときの日本には『思想犯』を取り締まる法律はなかった。
今は特定秘密保護法や「共謀罪」がある。
藤本の罪名は道路交通法違反と公務執行妨害。
のちに凶器準備集合なども加わるが、思想犯ではない。
おまわりさんにたてついた、歩いてはいけないところを歩いた。それだけ。
それぐらいしか取り締れなかったんです。
藤本がよく言っていたのは「赤信号は守れ」。
つまり、別件逮捕。
思想犯を取り締まる法律がないときは、赤信号で横断歩道を渡った、おまわりさんの言うことを聞かなかった、それだけで捕まえられるし、懲役にも。その恐ろしさ。権力者にできないことはありません。
「戦争」:私の目に留まった次のキーワード。
戦争が終わって、15年しかたっていない。
(60年安保の頃ーー引用者・注)
あの戦争を経験した結果、スカッとした青空の下、もう二度と戦争をしない国になろうと戦後が始まり。
戦争が終わっただけでよかった。勝っても負けても人が死ぬわけですから、勝ち負けなんて意味がありません。
終わってさえくれればいい、それが戦争です。
これは、一体誰の文体なのだろう。藤本さん、加藤さん、寂聴さん、記事を書いた記者?
やはり、あなたも、迷った?
加藤登紀子さんだろうね。
ね、やはり、迷うよね!
★ パロディ版:政治家は、政治資金に「寄生」するの?
政治家は、人間なので、寄生もする。寄生によって「水を分解して酸素を出し、二酸化炭素を固定して生育に必要なデンプン(裏金)などの有機物をつくる。だけど寄生を食べることで、より多くの「華」を咲かせて、金(かね)をつくることができるってわけ。
どうやって寄生をつかまえているのだろうか。
★ 寄生のつかまえ方
「ねばりつけ式」:葉や茎の表面にある細かい毛からネバネバした液を出して、そこに触れた寄生をくっつけて動けないようにする。
「閉じ込み式」:二枚貝のような葉の内側にセンサーがあって、寄生が触れると素早く葉を閉じて捕まえる。
「落とし穴式」:葉が落とし穴のような筒状になっていて、そこに落ちた寄生はつるつるなので出られない。
「吸い込み式」:葉の先にある小さな袋にスポイトのようなもので水と一緒に寄生を吸い込む。
「誘い込み式」:管状の葉の隙間に迷い込んだ寄生を隙間から誘い込む。
いずれの方式も、つかまえた寄生は消化液で溶かして資金源として吸収しているみたい。
まるで、人間のマネーロンダリングみたいだね。綺麗にして、華になる政治資金に化けるのかな。
世界には、約500種の寄生がいて、南極や北極、砂漠以外の各地にいる。日本にも約30種が生育している。
でも、最近では絶滅の危機に瀕している「派閥」も多いらしいよ。
植物のように光合成して、足りない分を「規制」して補っているのかな。
★ 乾式と湿式
地震の影響を受けて、散々、地獄の苦しみを味わったはずなのに、原子力発電所を持つ大手電力各社が、「乾式貯蔵施設」と呼ばれる使用済み核燃料の保管施設を原発敷地内につくる動きを進めている。核燃料サイクルの完成が遅れて、各原発内の燃料プール(湿式)が向こう数年でいっぱいになり、原発を動かせなくなる状況を回避するためだという。各社とも一時的な保管とするが、燃料サイクルが進まなければ、「最終処分場」になるおそれもあるという。朝日新聞が調べたところ、少なくとも東北、東京、中部、関西、四国、九州の6社が原発内で乾式貯蔵施設の建設を計画しているという。東京電力は、廃炉を進めている福島第二原発(福島県)で計画中だという(前掲同紙6月9日付総合三面記事参照、一部引用、以下、(略)。
★ 久しぶりの「訂正、おわび」
6月21日付の朝日新聞朝刊と夕刊は、「訂正して、おわびします」のオンパレードぶり。朝刊の方は二段組、一段20行囲み記事という形で存在感があった。でも、訂正内容を見ると、単なる間違いとは思えない「不適切さ」ぶりに驚かされる。全文を再掲載するのも、しんどいことなので、ポイントのみ記録しておきたい。
▼14日付教育・科学面『大型望遠鏡の設置』の記事で、「組み立てた」「据え付けた」などとあるのは誤りで、「大型望遠鏡の設置は今秋以降の予定です」。
▼18日付社会総合面『環境負荷対応に課題』の記事では、「資料を読み誤りました」という。
▼18日付社会総合面『ベトナム人の技能実習生』の記事では、「実習生は含まれていませんでした。見出しとともに訂正します」とある。
▼20日付社会面『白石かずこさん死去』の訂正記事では、本名を間違えているとある。
さらに、同日付の夕刊では、▼「資料を読み誤りました」、▼「提供を受けた画像の確認が不十分でした」として、2本の記事におわび告知を出している。
老舗の大手新聞社よ。どうしたことだろう。社内で何が起きているのだろう。朝日新聞、危うしか?
★ 取材メモから 「アフガニスタン 脅かされる命と表現」
タリバンが アフガニスタンで再び権力を掌握して3年。女性の教育や就労が厳しく制限され、詩作禁止令も出された。アフガニスタンでは、命の危険にさらされている人たちの退避や保護支援を続けている女性表現者たちに繋がる認定NPO法人REALs・瀬谷ルミ子理事長の話を主軸にしたイベントが企画されている。
https://japanpen.or.jp/post-3685/
日時は、8月4日(日)午後2時から6時
日本ペンクラブ会議室で、
30人を相手に対面視聴で開催される。
演出は、オンラインと対面のハイブリッド方式。
開催場所は、中央区日本橋兜町20ー3
日本ペンクラブ「獄中作家・人権委員会」がREALsと共催で公開する。
料金は、対面視聴では、
一般:1000円、学生無料。
オンライン視聴は、無料。
視聴方法など詳しくは、7月26日までに知らせるという(日本ペンクラブ)。
申し込み:Peatix
以上
(了)
(2024.7.20)
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