【コラム】大原雄の『流儀』
★★8歳の少女に花束を、プーチンの戦略
★★ 8歳の少女に花束を、プーチンの戦略
髪飾りを付け、よそ行きの黒い衣装で着飾った少女が入って行くのは、ロシアの大統領・プーチンの執務室付属の応接室か。花束を抱えて、応接室の机の横に立って待っているのは、大統領? いや、影武者か? 何か、「肌触り」(オーラ?)が違う、という違和感が私には残る。
大統領に駆け寄る少女。大統領の胸の中に飛び込んできた少女。大統領は、少女を抱きしめる。少女のおデコにキスをする大統領。ロシア国民向けのプロパガンダ用のパフォーマンス画像。上映時間は8分あまり。
話の発端は? 実は、6月28日に実施した大統領の国内行脚。人気低落傾向挽回作戦。少女の住むダゲスタン自治共和国のデルベントを訪問したプーチンをひと目見ようとした少女は、プロパガンダの大統領一行に近づこうとしたが、熱狂的な、大人たち、プロパガンダ市民の、メディアスクラムのような人の波に阻まれて大統領に近づけなかった。「プーチンが見えないよう」と号泣している彼女の姿をメディアが動画撮影をしていた。その画像がニュースで流され、大統領も画像チェック。ならば、少女を大統領府(モスクワ)に招待しようということを側近が大統領に提案したか、大統領が自分で思いついたか。とにかく、大統領の賓客として少女は選ばれた。
贅言;ダゲスタン自治共和国のデルベントは、カスピ海に面した都市。アレクサンドロスの門の伝説が残る古都・デルベントはロシア最古の都市と言われる。
ダゲスタン自治共和国は、北カフカース地方とカスピ海の間にあり、ロシア連邦を構成する共和国の一つ。西隣は、ジョージアである。山岳地帯が多く、人々の自由な行き来を妨げたため、非常に多様な民族が混在して住んでいる。住民は今でも部族的な生活を送っている。
とにかく、少女は、そういう町から大統領に招待されて、両親とともに、大統領に逢いに来た。
さて、当日。大統領に抱きついた少女には、大統領から小さな花束がプレゼントされた。同伴した両親にも、大統領は大きな花束を手渡した。少女から見れば、大統領は、都会に住む祖父のような感じだろうか。
その後、執務室にも案内。大統領は、自分の執務用の椅子に少女を座らせる。机の上には、パソコン、電気スタンド、天眼鏡(老眼?)など。大統領は、突然執務机横にある複数の電話の中から、1台を取りあげるとシルアノフ財務長官に電話をかけるというサプライズの場面となる。いわゆる、やらせだ。少女の故郷の追加予算支援に50億ルーブル(約80億円)の予算計上を指示する大統領。少女に電話機を渡す。突然の、思いつき予算増加で、電話の向こうで戸惑っているのか、財務長官からの返事は無いような気配。少女は、電話機を大統領に返す。少女へ向けた満面の笑顔、大統領は、長官に電話で説明追加。気前のいい札束撒きへ。
この結果、海外メディアは、「国民に愛される大統領」と、提灯記事を書くことになる。例えば、イギリスの「スカイニュース」のコメント:「この全ての場面はプーチン大統領が温かくて思慮深く、統制力があるという点を見せるために考案されたとみられる」と書いたという。
執務室の机の横には、多数の電話機が並べられている。大統領の椅子に少女を座らせた大統領は、椅子の横に座り込み(蹲踞の姿勢)、同じ高さの目線で少女に話しかけるが、台本通りに演じているだけのようだ。大統領の背後には、ロシアの三色旗が見える(以上、「スカイニュース」「プライムオンライン」7月6日版ほか参照しながら再現)。
★ プーチンの「料理人」→「掃除人」:プリゴジン
ロシアの非合法民間軍事会社「ワグネル」(囚人部隊)の創設者・プリゴジンは、プーチンとは同郷のふるさとサンクト・ペテルブルク出身。川に浮かべた船のレストランなど外食産業で財をなし、プーチンの知遇を得た。情報機関の職員・つまりスパイ出身のプーチンと同郷出身の不良青年・プリゴジンは、ウマがあった。船のレストランは大統領主催のパーティ会場などにも利用され、プリゴジンは「プーチンの料理人」というニックネームで知られるようになった。その後は、プーチンがらみのヨゴレ仕事などを請け負いながら、財をなしてきた。プーチン政権の掃除人である。そのプリゴジンが、プーチンに叛旗を翻したという。本当かな。眉に唾を何度もつけて、新聞を読む。
朝日新聞6月23日付夕刊記事以降26日付け朝刊記事まで参照・引用。
★ 序幕:ワグネルの「武装蜂起」? モスクワ侵攻200キロ
以下が、その概要。特に、前掲同紙、6月28日付夕刊、6月29日付朝刊、6月30日付朝刊から適時関連記事を参照・引用。
「ロシア軍の攻撃で多くのワグネル戦闘員が死亡した」とプリゴジンは、告発した。「軍幹部の悪事をやめさせなければならない。抵抗する者は壊滅させる」として、ロシア軍への「武装蜂起」を宣言したという。「ワグネルの一部の部隊は、モスクワへ向かって侵攻を始めたとも伝える。ロシア当局は『プリゴジン氏を逮捕する構えだが、ワグネル側が抵抗すれば武力衝突に発展する可能性も出てきた』という。(略)ロシア国営テレビは24日未明から臨時ニュースを数回放映、プリゴジン氏の発言を『虚偽』や『挑発』とする当局の批判を伝えるなど、政権の衝撃の大きさをうかがわせた」という。
その後、6月25日には、メディアが、ワグネル軍のモスクワ侵攻は、200キロ地点まで接近したが、その後、自ら「撤退」となったと伝える。「逮捕」が控えていたはずのプリゴジンの前から、手品のように逮捕が消えていった。専制主義。法の支配ではなく、独裁者個人の意志(狂気)の支配。いったい、どんな取引があったのだろうか。なにか妥協する局面があったのだろうか。以下、メディアの情報から6月25日の各人の言動や発言などを記録した。時間は、現地時間を原則として記録。漏れは、あるだろうがお許しを。
* プリゴジン・ワグネル:「反乱」宣言(反乱を周到に準備した形跡)、ロシア南部都市の軍司令部占拠・「北上」(23日夜)。「進軍停止」・方向転換」・「撤収」(モスクワまで約200キロ。24日夜)。プリゴジンは、ベラルーシ大統領のルカシェンコの「保護下(?)」へ。ワグネルは、実質的に解体へ(軍の指揮系統の一本化)。「邪魔者は消せ!」ということか。独裁者の実相暴露。「『大丈夫だ。みんな、さよなら』。プリゴジンは、(ロシア南部の大都市ロストフナドヌーの)住民にこう語りかけて、去ったという」。それ以来、消息が分からないという。24日夜現在)。その後、ビデオメッセージで復帰・出演(生存)? ベラルーシに滞在か? その後、ロシアへ戻ったか? ワグネルのプリゴジン氏と見られる人物(影武者か?)が29日、同氏が拠点とするサンクト・ペテルブルクのヘリポートで目撃されたと、地元メディアが写真付きで報じた)という。一方、ベラルーシのルカシェンコ大統領の説明によると、(プリゴジンの所在について)、「(ロシアの)サンクト・ペテルブルクにいる」(6日、外国を含むメディアとの会見で述べた)という。まあ、プーチンから報復を受けたり、拘束されたりしている状態ではないらしい。
ベラルーシで国境を接するポーランド、リトアニア、ラトビアは、プリゴジンやワグネルの国境への「接近」を警戒。NATOに国境周辺の防衛強化を要求。
* プーチン・ロシア軍ほか:ワグネルの「裏切り」を非難、「反乱」を厳しく批判。ロシア連邦保安局(FSB)がワグネルの捜査を開始。(24日)。ルカシェンコ「提案」に感謝。プーチンの権力に陰り? プーチンには軍の部隊を適時に動かす能力がなくなったか? 政権も、非常に不安定。今回の反乱に対してプーチンは、何もできなかったという印象が残った。各メディアは、
「プーチン体制の終わりの始まり」と、歌った。
NHKの(29日)「ニュースウオッチ9」のロシア・ワグネル最新情報で、ロシア軍ナンバー2の地位にあるスロビキン副司令官が民間軍事会社ワグネルのプリゴジン氏の反乱に関与した疑いがあるとして逮捕されたと報じた。スロビキン副司令官は事前に反乱計画を知っていた疑いがあるという。
再び書くが、プーチン体制は、本当に「終わりの始まり」ということなのだろうか。この副司令官は、去年10月にロシア軍の総司令官に昇格となったが、3ヶ月後の今年1月副司令官に格下げされたという。プリゴジンと近い関係にあったという。
今後、ロシア軍や治安部隊の中で、ワグネルの協力者の摘発が進む可能性があるという。いよいよ、プーチンの粛清が始まったのではないか。
* ルカシェンコ・ベラルーシ大統領:「仲介」・「収束」・「提案」へ。
「全て誤解だ。2人とも愛国者であり、同じ目標のために協力したではないか」。ベラルーシ大統領は、プーチンとプリゴジンの双方に「提案」。プリゴジンの殺害も命令されていたとか。落としどころを模索か? → 事実上の「国外追放」か。反乱罪は不問。プリゴジンはショイグ国防相、ゲラシモフ軍参謀総長更迭提案へ(ワグネルの存続、指揮権の確保が狙いか)。だが、プーチンは、これを拒否するだろう。ルカシェンコが説得。「誰もあなたにショイグ氏やゲラシモフ氏(の処遇に関する権限)は与えない」。プリゴジンは、「正義を求めて、モスクワへ」。「途中で虫のように潰される」とルカシェンコは警告。プリゴジンを進軍中止へ追い込む。2012年11月から11年間も国防相在任を続けるショイグ解任を断念。プーチンはミスの目立つ国防相をなぜか、かばうのか。ショイグのどこがいいのか。何か、弱みを握られているのだろうか。ショイグは、意外としぶとい。柳に風か?
* ゼレンスキー・ウクライナ軍:「プーチンがクレムリンに長くいればいるほど、より多くの破滅が生まれるだろう」。「反転攻勢」継続。
* アメリカほか:「反乱計画」を事前に把握(最終的な目標は不明)。「兵器や弾薬を大量に投入するなど、準備の兆候を把握」。反乱によって、クレムリンとロシア国防省の深刻な弱点が露呈した(アメリカのシンクタンク戦争研究所)。「プーチンは裏切り者を許さない。ベラルーシで殺害される可能性がある」(アメリカ・CNN出演の専門家)。/「プリゴジンの乱」(柝頭にて幕)。
★ プーチン、再び
6月27日。国防相の軍人らを前に、プーチンは、次のように話した。
「ワグネルの費用は、すべて国家によって賄われてきた」。
あれ? プリゴジンが創設したワグネルは、「非合法」民間軍事会社だったのでは無いのか? 非合法な会社が潰されもせず、裏では「国営」国策会社だったとは!?「法はプーチンなり」。ならば、ここは、とにかくプーチンの「説明」(勝手な言い分)に耳を傾けよう。「(ウクライナ侵攻4ヶ月目の去年5月から今年5月までの間だけで)、ロシア政府からワグネルに報奨金や戦闘員の給与を含め約860億ルーブル(約1400億円)が支払われた」という。この説明に対して「(略)世界のメディアが注目したのは、プーチン氏が非合法組織のはずだったワグネルへの政府の関与をあっさりと、しかも自ら公表したことだ」(以上、朝日新聞7月5日付朝刊記事など参照・引用)。ワグネルは、公務員の軍事会社? だから、軍事組織の「ロシア軍」が、反発するわけだ。軍隊に指揮権が二つあるのは、可笑しい。
さて、次の人たちからは、どんな嘘が飛び出してくるか。
「プリゴジンもプーチンも嘘をつく」と言えば、日本人の多くは、あまり抵抗感がなく、そうだと思うのではないか。「ゼレンスキーは嘘をつかない」ということも同感の人は多いかもしれない。反転攻勢を「やるやる」となんども言い続けたウクライナは、6月に入っても、「作戦着手は明言しない方針を示していた」。小の虫が大の虫に食らいつくためには、ここ、一発の判断が要求されるのは、当然だろう。判断したら、判断と違う状況が生まれてしまったというのでは、ゼレンスキー政権も足元から揺らぎ始めるだろう。だから、ゼレンスキーも慎重に、それでいて必死にならざるを得ないのは理解できる。
(以下は、朝日新聞6月10日付夕刊、6月11日付朝刊の記事より参照・引用)。
「ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、ウクライナ軍が進めるとされるロシア軍の占領地に対する反転攻勢について、『反転攻勢も防衛戦も始まっている』と述べた。(略)プーチン大統領は、9日にウクライナ軍の反転攻勢について『始まったと絶対に確信できる』と初めて言及した。
ゼレンスキー氏は10日、キーウを訪問したカナダのトルドー首相との共同記者会見でプーチン氏の発言をめぐる質問に答えた」という。ウクライナのゼレンスキーは、さすが役者の出。例えば、引用したように手間をかけて、マスメディアに情報を漏洩(リーク)して書かせる。自分から口火を切らずに、ロシアのプーチン、カナダのトルドーなどという名前を利用しながら、何枚もの薄紙を剥がすようにして、情報をリーク(漏らす)。「ゼレンスキー政権は今年初めから反転攻勢で領土奪還を目指すことを内外に強調。欧米各国も作戦を支援するため武器提供を急いできた。(略)過去数日間では『ウクライナ軍のかなりの損害を確認している』と撃退に自信を示した」という。
ゼレンスキー大統領は6月22日夜のビデオ演説に先立ち、「ロシアが原発への『テロ攻撃を検討している』と SNSに投稿した。ロシア側は『恒例の嘘だ』と否定している。(略)災害を装った『テロ』が再び起きる可能性があると指摘」したという(この項、朝日新聞6月23日付夕刊記事より引用)。
アメリカのバイデン大統領も嘘(?)をつく。日本政府も?
「松野博一官房長官は23日の記者会見で、アメリカのバイデン大統領が、日本の防衛予算の増額を自ら説得したと受け取られるような発言をしたことに対し、アメリカ政府に『誤解を招きうるものだ』と申し入れたことを明らかにした。アメリカ側も予算増額は『日本の判断』との認識を示したという」(この項、前掲同紙6月24日付朝刊記事参照・引用)。
6月29日、NHKの正午ニュースで、この問題を、また、放送している。6月23日のNHKニュースで上記のように松野官房長官が事実上、「訂正」していたが、きょうは、アメリカからのニュースとして、バイデン大統領が改めて訂正したのである。以下の通り。
(リード)アメリカのバイデン大統領が日本の防衛費増額について、みずからが日本を「説得した」と発言したことについてバイデン大統領は27日、「説得の必要はなかった」とした上で「岸田総理大臣はすでに増額を決断していた」と述べ、発言を訂正しました。
(本記)アメリカのバイデン大統領は今月20日、日本の防衛費増額について「私が説得した」などと発言しました。これに対して松野官房長官は23日、「増額はわが国自身の判断によるものだという事実と、発言は誤解を招き得るものだったという立場をアメリカ側に説明した」と述べました。
バイデン大統領は27日、東部メリーランド州で民主党の支持者を前に「岸田総理大臣は私の説得を必要としていなかった。彼はすでに増額を決断していた」と述べ発言を訂正しました。
これはホワイトハウスが28日に公開した発言記録で明らかになったもので、日本側の申し入れもあり、発言を訂正したものとみられます。(以上、NHKニュースよりそのまま引用)
なぜ。このニュースを松野官房長官も、バイデン大統領も、くどいような言い訳発言を10日近くも経って、今の時点で、また繰り返すのか。最初の発言は、6月20日。発言記録の公開は6月28日、何か、裏に事情があるのでは無いか。誰か、取材しないかな?
かように権力者や政治家の発言は、背景を読み込まないと真意がわからないということがあるものだ。
でも、以下の話(朝日新聞6月16日付夕刊記事より、概要引用)は、また、別のこと。これは本当(事実)の話ではないか、と私は思う。
「アメリカのオースティン国防長官は15日、(略)ウクライナによるロシアへの反転攻勢について『軍備の損失は双方に出る。これは戦争なのだ』と述べ、ウクライナが使う車両などに一定の損失が出ていることを認めた」という。
当たり前のことは、ジャーナリズムの中では、普通はニュースにならない。オースティン氏の発言は、当たり前過ぎてニュースにならないとマスメディアでは、判断するものだ。だが、オースティン国防長官は、付け加えてこう言ったのだ。
「ロシアは(破壊・損傷した)同じ5台の車両(の映像・画像)を10種類の異なる角度から見せている。だがウクライナにはまだ多くの戦闘能力が残っている」(前掲同紙参照・引用)というのだ。そうだろう、ロシアがプロパガンダにして自国の都合のいいように「水増しした映像」付きのニュースのフェイクな度合いは、ジャーナリストには、見えてくるものだ。何か、違和感がある。として、気づくものだ。ロシアの映像ニュースを作り出す誰が、どこで「偽造」したのか知らないが、映像には、「背景」も映り込む。そうすると、偽造映像を作ろうとする製作者の意識を飛び越えて、「存在感を強調しようとする細菌」のように、見えないのに見えてきたり、どこかに隠れていたりして、慧眼の主にだけ見せてくれたりするものだ。この画像を10種類の異なる画像に仕立てたと思っていたのは、ロシアの国営テレビ局の映像編集者だったのか、上司の管理職だったのか、それとも、ショイグ国防相だったのか、いやいや、プーチン大統領だったのか。見えない映像の繋ぎ目が見え出す。アメリカ側でも、そういう水増しした映像ニュースを日常的に作っている編集マンは。皆、気付くよ。だから、オースティン国防長官も、それを踏まえて記者会見で披露したのではないのか?
★ <ダム決壊> ウクライナ、ロシアの双方が「破壊」を非難
もう、忘れているかもしれないが、戦場の規律が破壊される前に、戦場のダムが破壊された。地雷や爆発物が大量の水とともに流されたという。戦闘行動は、一瞬というか、短時間、あるいは短期間で勝ち負けが決まるかもしれないが(それでも、莫大な戦費もかかるだろうが)、「戦争災害」の後始末は、戦闘員に留まらず、非戦闘員の犠牲もあるだろうし、物損もあるだろうし、復旧の費用などもあるだろうし、戦後処理のために莫大な予算も調達しなければならないなどと、政治家にとっては、いろいろ厄介な(いや、やりがいのある)問題がたくさんありそうだ。いや、勝てば官軍で敵の領土などを収奪できるから儲かる、というようなことなのかもしれない。だから、権力者は、どいつもこいつも、「戦争商売人」としての国家による収奪を止められないのかもしれない。皆、ヨゴレ仕事をせっせとやる働き者。一般市民の目には、なんとも不思議な光景に思える。
ロシア軍の占領下にあるウクライナ南部へルソン州のカホウカ・ダムが6月6日朝に決壊した。ダムの貯水池の水量は約18立方メートルで(日本の)琵琶湖の3分の2に及ぶ。それは満杯の時。今は、干上がっていて、黒や茶色の底をさらけ出しているという。悪臭も酷いという。貯水池は、ウクライナ南部の農地の灌漑や飲料水の供給源となっているほか、ヨーロッパ最大のザポリージャ原発も、この貯水池から原子炉の冷却水を得ている。冷却水が無くなると、原発事故に繋がりかねない。国連人道問題調整事務所(OCHA)は、7日、ダム下流のドニプロ川流域で、少なくとも37市町村の約1万6000人が避難したと明らかにした。その後の報道では、4万人説もあるようだ。国連では6日、安全保障理事会の緊急会合が開かれ、ロシア、ウクライナの双方が意図的に破壊したとして相手を非難した(以上は、朝日新聞6月8日付朝刊記事ほかより参照・引用した。数字は、記事掲載の時点のママ)。その後も、ダム決壊の被害が続いた。作戦実行に当たって悪意芬芬(底意地が悪い)が容易に伝わってくるので、戦争犯罪行為として記事を読み返していても、腹立たしい。
ジュネーブ条約など国連人道法によると、ダム、堤防、原発については、軍事目標であっても「攻撃の対象にしてはならない」となっている。去年7月ごろから地元の親ロシア派幹部らは「ウクライナ軍がダムを破壊しようとしている」と主張し始めていたという。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、「外部から砲撃で爆破することは物理的に不可能だ」とし、改めてダムの決壊は(内側からの、つまり)ロシアの攻撃によるものと断じたという(以上、前掲同紙記事ほかより引用)。
一方、ロシアのプーチン大統領は「ウクライナ側の破壊工作によるものだとして、『環境と人道の惨劇を引き起こした』と批判した。ロシア大統領府が発表した。この問題でプーチン氏が発言するのは初めて。という。(この項のみ前掲同紙6月8日付夕刊記事より引用)。
<ダム決壊>・続報(以下、朝日新聞6月20日付朝刊記事概要引用)。
「決壊をめぐっては、ロシア、ウクライナの双方が、相手方による意図的な破壊だったと主張するなど原因はわかっていない」という。つまり、問題の状況は、全く変わっていない。どちらかが加害者だとすれば、どちらかは、事実を承知の上で意図的にフェイクニュースを流している。
前掲同紙同日付の別の記事がある。
アメリカのニューヨーク・タイムズによれば、「カホウカ・ダムの設計図や専門家の話から、「劣化による崩壊は考えられず、ダム下部のコンクリート構造物を内部からの爆発以外の方法で決壊させることは困難だと指摘。ダムを支配するロシアによる破壊の可能性が高いとする記事を掲載した」。
「ウクライナ保健省は19日、南部ヘルソン州のカホウカ・ダムの決壊による影響で同州とオデーサ、中南部ミコライウ州の貯水池で採取した水のサンプルの3割が衛生基準を満たしていなかったと発表した」(前掲同紙6月20日付夕刊記事より引用)という。
どちらがダムを破壊したかも大事だが、日が経つにつれ、住民の生活や環境への被害が広がって行く。戦争被害は、無差別で、かつ、強靭である。メディアは、逃げないで、ダム決壊の続報を出し続けるべきだろう。
「ダム決壊 死者100人超える/(略)ウクライナ軍参謀本部は6月28日、60体以上の遺体が見つかった」(と発表した。この項のみ前掲同紙6月30日付朝刊記事より引用)。
★「藪の中」:プーチン、プリゴジン、ゼレンスキー
ダムの決壊についてウクライナのゼレンスキー大統領とロシアのプーチン大統領は、それぞれの国軍の最高責任者として、以下の3つの対応のうち、どれかを演じているのでは無いか。
① 本当に何もしていないなら、その権力者は、自分がダム決壊を命じていないという真実を知っていて、まさしく本当のことしか言っていない。嘘をつく意味がない。
これは、報道される画像から受ける印象では、ゼレンスキーは、事実を語っている(つまり、破壊などしていないのだろう)と思われる。
ロシアのショイグ国防相は、反転攻勢がうまくいかなかったウクライナ軍が(腹いせに)仕掛けたテロ作戦だと主張する。そういう主張で、どういう利点があるのか? 戦争が終わっても続きそうな、長期的な復興・復旧作業が待っているだろうから、ショイグ国防相のいうようなメリットはないのでは無いか。「国破れて山河あり」ではないが、戦い済んでダムは無し。
自軍は、ダム破壊などは何もしていないが、敵軍のウクライナは、ウクライナ軍の部隊を送り込む口実として、戦争犯罪を続けていると主張する。
② あるいは、砲撃して作戦的にダムを決壊させたのに、自軍が不利になるからと、敵のテロ行為だと嘘をついているかもしれない。これは、報道される画像から受ける印象だが、プーチン大統領やショイグ国防相などが、やりそうなことだ。言論統制されている国で、権力者が主張することは裏付けが取りにくい。
③ あるいは、もう一つの道。占領していたロシア軍の管理が不備で、ダムに少しずつ傷(劣化)を負わせてしまい、その総蓄積+自然災害の大雨被害による圧力的溢水で一気に被害を広げたのかもしれない。だから、作戦として自ら指令を出したわけではないので、自分がやったという意識が無いか、希薄か、ということで、犯意を隠しているか、本気で自覚していないのかもしれない。そういう「上司」は、どこの職場にもいる。ウクライナで心配なのは、なんども書いたように、ロシア軍が、原発を占拠していることだ。
印象で人を評価するのは、ジャーナリストのやるべきことではないのだが、
ロシアのゲラシモフ参謀総長(軍事侵攻の総司令官)やショイグ国防相などは、私にとってこういう印象の人物かもしれない。ロシア軍の幹部は、なかなか有能な軍人には見えにくい。最大の忠誠は大統領のいいなりになる「忠犬度」なのだろう。そういえば、ショイグさんは、国防省の責任者になって長いという。「何もしないで出世する方法」という本でも書いたら良いかもしれない。いや、意外と世渡り巧者のしたたか者かもしれない。
マスメディアの報道を出来るだけ公平・客観的に状況の概要を書いて、引用してみたが、ロシア、あるいはウクライナのどちらかは明らかに、フェイクニュースを流している。それでいて、お互いを非難している。真実を知っているのは、どちらかの権力者一人であることには間違いない。ダム破壊者の意志。原発を破壊するぞと脅迫する意志。核兵器を使用するぞと脅迫する意志。非戦闘員だろうと年寄り・乳幼児だろうと、皆殺しにしろと叫ぶ意志。無差別に殺戮するぞと脅迫する意志。なぜか、この独裁者は、頑迷にも人々を殺したがっている。
プーチンの、あの顔の実相には、ひたすら憎しみを滾らせる強烈な「純粋殺意」が蟠っているのに間違いない。殺意が、自己目的化しているというような表情ではないか。地獄だ! 鬼だ! この男の胸底には、地獄しかないのだ。孤独な鬼。鬼が独りで棲んでいる。地獄孤鬼。そこへ、皆を何が何でも道連れにしようとしている。負けるわけにはいかない。そういうとんでもない「使命感」を持って、この狂える独裁者は、君臨している、のではないのか。
★ プーチン? プリゴジン? 「物狂(ものぐるい)」?
(以下、6月12日付ロイター通信より概要引用)。
ロシアの「ワグネル」(非合法の民間軍事会社)の創設者(プーチンの料理人)プリゴジンは、6月2日、ロシア軍が(同盟軍のはずの)ワグネル部隊に対し爆発物を仕掛けたと非難した。プリゴジンは、メッセージアプリ「テレグラム」に投稿して訴えたという。それによると、ワグネルの隊員は、ロシア国防省当局者が後方地域に数百個の対戦車地雷を含む様々な爆発物を仕掛けている場所(数十カ所)を発見した」という。なぜ仕掛けたのかという質問に対し、職員は「上官の命令だと答えた」という。仕掛けられた場所は後方地域であるため、敵のウクライナに向けた爆弾ではなかった(と思われる)。つまり、これはワグネルの先頭部隊を迎え撃つためのものであったと考えられる。ただし、いずれも爆発せず、けが人なども出なかったという(略)」(と、プリゴジンは主張しているという)。すでに、猿芝居は幕が上がっているようだ。
誰が、フェイクな仕掛けの台本を書いたのか、この時点では、まだ、判らないとしておいた方が、良さそうだ。プリゴジンも嘘をついているかもしれないし(いやあ、この人は嘘ばかりついているようにも思える)、ロシア国防省当局者も、「上司の命令」でフェイクニュースを流しているだけかもしれないからだ。
プーチン、プリゴジンは、ロシア国内でも、正面対決をしているのだろうか。している可能性を含む情報が、6月23日夜から流れてきた。ネタ元は、プリゴジン本人。23日のSNSに投稿した動画など。それとも、二人とも己の役どころを心得ていて、国際社会に向けて互いに猿芝居でもしているのかもしれない。状況変更を求めて、出来レースでも、やりかねない二人だから、国際社会は、暫くは静観か? ところが、24日、早くも幕引き。モスクワ侵攻は、「引き返せ!」。「ワグネルの乱」の終わり。
プリゴジン:「これは軍事クーデターではない」。
ロシア国防省:「情報による挑発だ」と反論。
イギリス国防省:「ワグネルの部隊は『ほぼ確実にモスクワを目指している』と分析した。
プリゴジンの軍事パレード?:「やはり、猿芝居だったのか」。
ワグネル・プリゴジン続報:ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は6月23日、SNSに投稿した動画などで「軍幹部の悪事を止めなければならない。抵抗する者はすぐに壊滅させる」と述べ、武装蜂起を宣言した。これに対し、ロシア国防省は「情報による挑発だ」と反発。ロシアメディアによると、ロシア連邦保安局(FSB)はプリゴジン氏の行動をめぐって、刑事事件として捜査を始めたという。(略)これらの発言について、ロシアのペスコフ大統領報道官は『プーチン氏はプリゴジン氏について、すべて報告を受けており、必要な措置は取られている』と報道陣に述べた(朝日新聞デジタル版「ウクライナ侵攻特集記事より引用」)という。プーチン大統領、ワグネルのプリゴジン、その天敵でロシア国防省のショイグ大臣、という3極の間で、互いの距離感(力関係)に変化が出ているようだが、ウクライナ戦争の戦況とどう関わってくるのか。無能に見えるが、実はプーチンが離したがらないショイグ国防相の対応については、暫く、客観的に冷静に見ておく必要があるように思われる。
★ プーチンとプリゴジンの二幕目
「裏切り者は許さない」。プーチンはプリゴジンを暗殺するかが、国際社会の大問題になっている。6月26日夜、プーチンは、鬼の面を被って、テレビ演説をした(以下は、朝日新聞6月27日付夕刊記事より引用)。
「プリゴジン氏の名指しは避けつつ、『反乱の首謀者は犯罪行為や国の分裂、弱体化を企てた』と厳しく批判した」。
今までにないプーチンのプリゴジン批判である。記事は続く。
「演説ではワグネル戦闘員のウクライナ侵攻への貢献をたたえる一方、『国防相などと契約し、ロシアの兵役を続ける機会がある。ベラルーシにも行ける』と述べ、実質的にワグネル存続を認めない考えを示した」という。プーチンはプリゴジンをよほど恐れているのだろう。プリゴジンとワグネルを分断して力を削ぎたいのであろう。もともとワグネルは、非合法民間軍事会社で、プリゴジンの私兵組織である。合法ではないという理由で、プーチンならいつでも潰せるし、そういう非合法会社を潰すことなどプーチンならいつでもできるのではないか。それができないということは、プリゴジンとワグネルが、プーチンとロシア軍を凌駕しているということなのだろう。
プーチンの演説の前に、プリゴジンは、SNSに投稿したという。
「7月1日にワグネルが消滅しなくてはならなくなった」と述べ、反乱の大きな理由はその阻止だったと説明した。ロシア国防省は6月、志願兵部隊に同省と契約を結び、傘下に入るよう求めていた。プリゴジン氏はこれを拒み、プーチン氏は国防省を支持していた」という。プリゴジンと国防省のショイグ国防相との対立が背後にあり、改めてこの対立の構図をプーチンは認めた上で、国防省側の肩を持ったことに対して、プリゴジンは、多数の戦車を連ねてモスクワの近くまで示威行動。デモストレーションをしたということだろうか。したがって、プリゴジンが使う次の言葉は真意ではないのか。「政権転覆の意図はなかった」。それをプーチンが過剰に反応したのか、政権揺らぎ、疑心暗鬼か、というところではないのか。いや、やはりワグネル商法を堅持したかったのだろう。プリゴジン。「プーチンの料理人」め!
<幕間>道化のプーチン:27日。クレムリン演説。/「祖国を動乱から守り、内戦を阻止した」と兵を礼賛。(略)指導力のアピールに躍起になっている。(略)
26日の演説。私の指示で流血を避ける措置が取られた」と主張した(朝日新聞6月28日付朝刊記事より引用)。
同じことを繰り返し、繰り返し言っている。プーチンの落日。本人は己を礼賛。
プーチンと戦術核:「ロシアのプーチン大統領は16日、戦術核兵器のベラルーシ領内への搬入がすでに始まったことを明らかにした」という(前掲同紙6月17日付夕刊記事より引用)。
これは、今後のロシアの核兵器の動向のために必要なポイントだろう。記録しておく。(27日)、ベラルーシには、戦術家・プリゴジンも「搬入」「追放」「逮捕?」。記録しておく。戦術核搬入後、10日あまりで、ベラルーシの光景は、こんなに変わった。
贅言;物狂(ものぐるい)とは、憑かれた人。
プーチンもプリゴジンも「厄介な人や」(筆者独白)。
物狂は、プーチン本人。プーチンは、そこまで力を低下させているようだ、と私は思う。
★ <ダム決壊>の「請求書」
ロシア側で言えば、権力欲に取り憑かれた独裁者・プーチン、戦争を商売とするプリゴジンなどが繰り広げる情報戦は、目を覆うものがあるが、どちらの仕業がダムの決壊をもたらしたかの検証は、今後の調査を待つとして、棚にあげて置く。戦争だから、いろいろなことが起こる。
ダム決壊の被害チェックポイント、および、今後に向けて被害予想をスケッチしておくことも重要だろうと思う。今、見込まれる目の前の被害をチェックするとともに、復旧(元に戻す)のために要する時間、労力、コストなどを考えるとダム決壊対応に絞り込んだだけでも、頭が痛くなる。権力者仕様の情報戦(嘘のつきあい)も、いい加減にして欲しい。
① 人的被害:死者、負傷者
② ダムの貯水量の70%が失われた
③ 農業生産の被害:農産物(穀物ほか)
④ 灌漑システムの破壊(田畑から砂漠へ)
⑤ 灌漑システムの復旧対策(砂漠から田畑へ、3〜7年が見込まれている)
⑥ 自然環境被害(ドニプロ川のダムから下流のデルタ地帯の浸水被害、野生動物・鳥類など生き物の生息地の破壊、油の流失)
⑦ 経済的被害:穀物の輸出減少など被害は世界に波及しかねない
★ <原発破壊>が、現実味を帯び出した
メディアが、ウクライナにあるヨーロッパ随一のザポリージャ原発の破壊の話を取り上げ始めた。プーチンは、ロシアが占拠している原発破壊という切り札をブラブラさせ始めたというのだ。朝日新聞は、7月6日付朝刊記事参照。NHKは、5日の「ニュース7」で、長めに放送していた。新聞も、テレビもネタ元は、ウクライナ軍参謀本部のフェイスブックへの投稿による。内容はこうだ。ザポリージャ原発の発電施設2棟の屋根に誰かが「爆発物」のような「異物」を設置したというのだ。
「ロシアとウクライナの双方が原発への攻撃を画策しているとして互いを批判している」。
「ロシアが、ウクライナ軍による攻撃を偽装する「偽旗作戦」を狙った可能性があると主張した」という。IAEA(国際原子力機関)によると、「ザポリージャ原発では、4日未明、メインの外部電源が失われ、バックアップの電源に頼らざるをえなくなった」という。また、IAEAは、5日、「爆発物などは、『今のところ確認されていない』(朝日新聞7月7日付朝刊記事より引用)という。
ロシアによる<ダム破壊>は、<原発破壊>の予行演習だったのではないのか、という疑念が浮かび上がる。ほぼ同じことを繰り返している。そういうフェイクなストーリーづくりが浮き彫りにされ始めた状況こそが問題なのだ。「核」という意味では、原発も、核兵器も被爆問題は同じことになる。
★ 「PAC3」部隊の沖縄展開
「北朝鮮は6月15日夜、日本海へミサイルを発射した」。
「北朝鮮による弾道ミサイル発射を受けて、日米韓3カ国は安全保障担当高官の声明を発表した」(以上、朝日新聞6月16日付夕刊記事より引用)。
北朝鮮の金正恩総書記は、「5月末の軍事偵察衛星打ち上げ失敗を『最も重大な欠陥』だと指摘。(略)担当者らの『無責任さ』が厳しく批判されたという」(
前掲同紙6月20日付朝刊記事より引用)。金正恩は、怒鳴り散らすのだろうなあ。
「沖縄では、北朝鮮の軍事偵察衛星を積んだロケット打ち上げ対応を巡り地対空誘導弾(「PAC3」)部隊の展開が続いている。権力は、北朝鮮対策をいいように利用しているように見える。その一つが、自衛隊対策だ。近年、自衛隊を増強する「南西シフト」が進んでおり、展開自体が本来の目的ではという指摘も出ている、という。
防衛省関係者によると、北朝鮮が期限とする6月11日午前0時までに打ち上げなかった場合、破壊措置命令を12日以降も延長し、宮古島、石垣島、与那国島などでの迎撃態勢を継続することも視野に検討している」(という)。延長は続いている。県民の緊張も続く。
「石垣島には今年3月、陸自の駐屯地が開設された。2016年には与那国島、19年には宮古島にも開設されており、中国を念頭に急速に進む自衛隊の機能強化に、戸惑う人も少なくない」(という)。
沖縄国際大学の前泊博盛教授は、『既成事実化して住民の意識を変えようという、軍事的な動きの一環であることは明らかだ』と指摘した」(という。前掲同紙より引用)。
ロケット打ち上げを強行する構えの北朝鮮、それを利用して軍事的な動きをする自衛隊。そういう構図が、垣間見える。
沖縄は、先の世界大戦では、アメリカ軍と日本軍の戦場の最前線に強引に立たされた。6月23日は、沖縄戦の戦没者を悼む「慰霊の日」であった。「沖縄戦最後の激戦地、本島南部の糸満市摩文仁(まぶに)にある沖縄県平和祈念公園では沖縄全戦没者追悼式が開かれた」(この項、前掲同紙6月23日付朝刊記事より引用)。
戦後の日米関係でも、沖縄は日本政府からアメリカ軍基地を押し付けられ、日米地位協定を押し付けられ、いまだに「戦場」の最前線に立たされている。去年改定された「安保関連3文書」では、沖縄は「国家安全保障上極めて重要な位置にある」と明記され、ミサイル部隊が配置され、県民の足元にはミサイル砲の筒先を向けられ「動くな」とばかりに脅されているように見える。なぜ、岸田政権は、広島では、核兵器を己の支持率アップに利用し、沖縄では、ミサイル砲を己の支持率アップに利用しようとしたのか。ロシアもアメリカも、軍事的な力を見せつけながら、国際社会の物事を決めようとしている。日本も、すでに充分に軍事国家になってきているということか。
抑止力って、つまるところ、軍事力のことだ。相手を抑止する軍事力。相手方に軍事力を行使することを諦めさせるほどの巨大な軍事力を所持するから抑止力になるということだ。やはり、抑止力も軍事力も、同じものだ。
★ 解散権の「乱用」論争
通常国会は、6月21日に閉会となった。会期末になって、「炎上」現象を演じたのは、通常国会中の衆議院解散・総選挙の動きだった。岸田首相は自らが思わせぶりな言辞で解散風を煽った。
「国会会期末間近になり、いろんな動きがある。情勢を見極めたい」。
メディアは、書きたてた。
「衆議院を解散する可能性に含みを持たせ、法案の成立を遅らせようとする野党の動きを止めた」(朝日新聞6月17日付朝刊記事参照、引用)。野党の一部が岸田政権に寄り添う場面が何度か演じられた。しかし、与党の一部からも岸田政権の国会運営を批判する声が上がった。
「解散権の乱用」。
解散権:衆議院議員の資格をすべて奪うという重い権限。学者・専門家は、岸田政権の手法を批判する。
憲法専攻の九州大学・南野森教授:「解散権は、衆議院議員を一斉にクビにする強大な権力。権力の行使について憲法には明確な定めがない。強大な権力を、憲法が首相に与えているとは思えない。そもそも解散権は首相ではなく内閣の権限だ。内閣不信任案可決の場合にしか解散ができないとは憲法学でも考えていない。『大義なき解散』は単なる権力の乱用でしかない。解散権は実に強大で恐ろしい権力だと国民はもっと知るべきだ」という。
私も、南野教授の解説に全く賛同する。解散権の正しい姿を国民はきちんと認識すべきだろうし、行政権という国政の執行者である内閣は、国民に理解させる責任がある。岸田首相は、解散権の乱用をむしろ誇りげに語っているという。「今秋以降も『解散カード』を使って、政権運営を進めて行く構えだ」という。マスメディアは、国民を巻き込み、解散権周知キャンペーンを徹底すべきである。
★ 「捏造」論を通させて良いわけがない〜高市発言問題〜
国会で、大臣たるものが「捏造」など、人格を否定するような言葉を使って相手の感情を逆なでするような、意図的で、いちゃもん的な発言を許すべきではない。こういう発言をする国会議員をもっと厳しく追及しなかったのはなぜか。相手が本質論を避けるために、感情的な発言を繰り返して挑発しているのが見え見えの戦術なのに野党はなぜきちんと高市氏を追及しなかったのか。私など国会は「許してしまった」という印象だけが、残っている。どうなのか。高市氏の方は、逃げ切ったつもりでいるのか?
本当に高市問題は、どうなったのか。「捏造」発言と辞任問題。国会での野党の追及時間が少なくないか。国会での野党の追及が甘いのではないか。国会で野党が鋭く追及している場面が少なかった印象で、野党の存在感がテレビを通じて伝わってこなかったように思える。
官邸、特に当時の高市、磯崎両氏による総務省への権力介入問題、法の解釈改正というずるさ。解釈で、改正できるなんて、なんか、変でしょう?
以前にも、この連載の中で取り上げた放送法の問題を再度取り上げておきたい。特に、当時総務大臣だった高市早苗氏の対応ぶりの問題性がマスメディアで十分に整理されていないまま、「風化」さえ、し始めているように思われるからである。
NHKと民放の、メディアとしての生命線を握る「放送法」について、安倍政権時代に放送法の政治的公平性について権力が「介入」したという、あの問題である。当時の官邸側が総務省に対して「解釈の追加」という形で権力に都合よく法解釈をして、行政をコントロールしようとした。今年の3月、その経緯が行政文書で明らかになったが、この問題について、朝日新聞は、5月18日付の朝刊記事で、映画監督の是枝裕和監督にインタビューをしているのが参考になると思い、これまでこの問題について書いてきた私も思うところがあるので、ここに書いておきたい。是枝監督は、映画のほか、「テレビマンユニオン」でテレビドキュメンタリー番組を演出した経験がある。また、2010年から19年までは、BPO(放送倫理・番組向上機構)の「放送倫理・検証委員会」の委員も務めた。
是枝氏の発言の概要を紹介したい。
捏造論などを振りまいた高市発言の結果、官邸による行政への「介入」は、本来論ずべき介入実態の解明に向かわず、「本質的な議論」にならなかったというのが、是枝氏の基本認識だと思われる。これは、私の認識と合致する。
法規範と倫理規範
当時の官邸が問題とした放送法の規範は、放送の不偏不党を保障する第1条も、番組の何人(なんぴと)からも干渉・規律されないとする第3条も、倫理規範であった。そして、番組編集にあたっての具体的な定めである「政治的な公平」など、第4条の例示は、権力の介入を阻止して自主自律を堅持する代わりに責任を持って国民の知る権利に応えなければならない「義務」を高らかに宣言する。そのために、表現の自由を保障する憲法の負託に応えなければならないというのが戦前の軍事国家から戦後の欧米流の民主国家へと変換する装置の一つとして模索された。放送というものの基本原理を列挙したものだと言え第3条で、放送は権力に介入させないから、その代わり、自主自律でしっかりと放送しろというのが、民主国家日本の放送の理念であったはずだ。放送法を読んでみると、そういう当時の若々しい意気込みが伝わってくるように思える。
放送法のあり方を本質的に議論するというのなら、主要な論点は、捏造か、捏造ではないか、などという議論ではなく、戦前戦後の日本の歴史の中でなされた権力の介入を拒否して、介入なき放送を自主自律で守って行く放送法の運営の仕方を改めて議論すべきではなかったのか。
放送局は、権力の介入を許さないと主張し、国民の知る権利を負託された憲法が保障する表現の自由を活用して憲法違反にならない放送法の運用を実現させるべく、政府(行政)に向かって立ち向かって行くべきであった。
しかし、是枝監督も言うように、NHKを始め民放も加わった放送局側は、今回のような政治介入があると、容易に萎縮し、権力の介入に脅され、自己規制に走って行く。そう言う実態を憂いて、対抗するものが出てきても、レールから外されてしまうことになる。結局、本来は憲法の表現の自由によって保障されていたはずの国民の知る権利が蹂躙され、痩せ細り、煙となって、うやむやにされて行く。
やっと、この問題について書いている岡村夏樹記者の記事(朝日新聞7月7日付朝刊)を見つけた。タイトルは、「国会を振り返る」。見出しの一つは、「放送法内部文書 解明進まず」(黒ベタ、白抜き。3段見出し)。
「(国会の)論戦は文書に記された高市氏の発言の『言った』『言わない』の水掛け論になった。与党側は首相補佐官や元総務官僚の参考人招致を拒んだ。総務省の調査は事実関係を曖昧にしたまま終わった」という。
高市問題は、まさにそういう意味で典型的な「煙処理・うやむや解決法」であり、このまま国会でも野党側は、自民党に押し切られてしまったように見える。メディアも、取材が弱腰だが、国会では与党より野党の存在感が薄い。
★ アメリカだって、同じ? トランプの『流儀』を見よ!
アメリカの大統領が、再選されたトランプで、ロシアの大統領がプーチンだったら.ウクライナ戦争は、どういう状況になっていただろうか。
アメリカの トランプ前大統領は6月10日、東部ニューハンプシャー州で開いた対話集会に参加し、ロシアによるウクライナ侵攻について、自身が大統領であり続けていたら戦争は起こらなかったという認識を示した(という)。
集会に参加した女性が、アメリカとしてウクライナへの軍事支援を支持するのかどうかと尋ねた。これに対して、トランプ氏は、次のように答えた。トランプ氏は、私自身が大統領なら「1日で戦争を終わらせるだろう」と述べた。
その上でウクライナのゼレンスキー大統領やロシアのプーチン大統領と会談するだろうと答えた。
「彼らはいずれも、弱みと強みの両方を持っている。私なら24時間以内に戦争を解決する。戦争は完全に終わるはずだ」。
その上でトランプ氏はプーチン氏について、「間違いを犯した」という認識を示した。
「私なら、ウクライナへの侵攻を示唆しながらも、実際には侵攻には踏み切らない。彼の間違いは行動に踏み切ってしまったことだ。私が大統領であれば決してそういうことはしなかった」と述べた(という)。
(以上、CNNニュースから概要を参照・引用した)。
トランプは、現役大統領時代の言動(機密文書の持ち出し)を巡って、さらに起訴される。「アメリカ・フロリダ州の連邦地方裁判所は、9日、トランプ氏に対する起訴状を開示した」という。(以下、朝日新聞6月10日付夕刊記事より引用)。「トランプ氏がスパイ防止法違反や司法妨害など37件の罪に問われ、側近の一人も起訴された(略)」という。「37件の罪のうち31件がスパイ防止法違反で、トランプ氏は権限がないのに国防に関わる31点の文書を故意に保持したとして罪に問われた。また、2人は文書の隠蔽などに関連し、司法妨害や虚偽陳述の罪にも問われた」という。プーチンにしろ、トランプにしろ、権力の座に就いた人は、多くが「物狂」になるのだろうか。
それとも、物狂になりそうな素質のある人が、リーダーにふさわしく見え、権力者、特に独裁者になりがちだというのだろうか。
贅言;「トランプが持ち出した機密文書」(330点以上)
・アメリカと外国の防衛・兵器能力、
・アメリカの核計画、
・「アメリカと同盟国の軍事的な脆弱性」、
・「外国からの攻撃に対する報復計画」ほか。
ロシアもアメリカも、それぞれの国にとって、いちばん持たせてはいけない人物に核のボタンや核計画などを持たせているということなのではないか。アメリカも、民主主義の国家だというのなら、国民を代表する最高の権力者に制度的にこういうことを惹き起こさせるようなシステムは、欠陥だという議論をさせ、これに替わるシステムの制度設計をしようとするように国際社会の機運を変えていかなければならないのではないか。
トランプ公判・続報
アメリカのトランプ前大統領による機密文書持ち出し問題では、アメリカ・フロリダ州の連邦地裁は20日、初公判を早ければ8月14日に開くことを決めた、という(前掲同紙6月21日付夕刊記事より引用)。
★ 規制のための国際的枠組み作りを急げ!
人類はAI民主主義の実践へ踏み出せるか
専制主義者、独裁者などという人たちが、国際政治の場からなくならないとするならば、そして、人類が、戦争とか権力の乱用をやめないのなら、どうすれば良いのか。未知数の段階にある「チャットGPT」(対話型人工知能)だが、それを上手く使って、人類を国際社会のルールに従わせるように社会システムを改革することを試みてみることができるのか。「チャットGPT」を扱う人類の問題と言われてしまえば、そこから先がなくなってしまうのだが、何か、良い方法があるだろうか。
「チャットGPT」を運営するアメリカの会社「オープンAI」のCEO・最高経営責任者・サム・アルトマンが来日して、最新のAI技術の是と非(危惧)について、6月12日のインタビューに以下のように答えた(前掲同紙記事参照引用)。
「最新の AI技術は、世界にとって、恩恵の方が(リスクより)はるかに大きい」と強調した。一方で、「性能が向上するにつれリスクも増大すると述べ、規制のための国際的枠組みの必要性を訴えた」という。「(略)すべての人に恩恵を与える汎用人工知能を実現する(ことを目指す)。(略)2030年までには極めて強力なAIが実現する。人間社会に著しい影響を与えるだろう」という見方を示した」。
責任者が是とすべき「恩恵」とか「汎用」とか言うのは、抽象的な言葉で言うほどには、まだ具体的に内容が伝えられていない、と私は思う。流行りの「差別問題への配慮」を強調するあまり、差別をしていない、「恩恵」が大きいというメッセージを伝えようとしているだけではないのか。「すべての人に恩恵を与える汎用人工知能(AGI)が、実現できるのか。言葉の表現としても、非現実な言葉の遊びのような気がしてならない。人類は、そこまで賢くなっていないのではないか。
それに対して、「非」の方、つまり、「規制のための国際的枠組み」を構築する必要性こそ、各国とも皆承知している課題なのに何十年経っても先に進まない。実現できない国際的枠組みの先例がばかりがあるからだ。それは、国連の悪魔の拒否権。
ご承知のように、国連の「安保理事会」のことを私は言っているのだ。国連創設の時代は、戦勝国は、戦勝気分に酔い痴れていたのか、近いうちに調整して、追加・補修すれば間に合いとでも思ったのか、「戦勝国クラブ」の常任理事国(5ヶ国)にだけ拒否権という絶対的な特権を認めるという瑕疵をつけたまま、国連を国際社会に船出させたのだった。当時のソ連(ロシア)、中国、いや、アメリカも、イギリスも、フランスも戦勝国の側で特権を持つに至ったのだ。特権など認めないという慧眼の主はいなかったのか。特権拒否などない制度設計ができなかったのか。なぜ、こういう制度を認めてしまったのか。浮かれた戦勝国。その顛末が、現在の悩みのタネになっているのではないのか。
そういう視点で見てみると、AI問題の懸念すべき事態は、幾つもある。
AIを使ったバイオテロやサイバー攻撃の可能性。何よりも、ロシア、中国、北朝鮮ほかの専制主義国家が、国際的なルールを無視して、AIを悪用すれば、世界に甚大な被害を及ぼすことだろう。戦争の道具としてのAIの廃棄。その前に、核兵器を無くさないと場合によっては、人類の破滅、地球の消滅をもたらすということを子どものうちから、脳裏に刻まなければならないのではないか。アメリカが軸になってできると思われるのは、最新のAI技術をアメリカのIT大手が独占しないというシステム実践へのルール作りではないのか。それができたら、アメリカは偉いと褒めてやれるのに。
そこで考えてみた。人類が、やろうとしても実現できなかった二つのビッグルール作りをこの際、思い切ってAIに任せてみてはどうか、というアイディアである。
①核兵器禁止の実践
AIの国際的な規制ルール作りは、核兵器を使用せず、禁止にし、核軍縮・廃棄の実現などの国際的な核規制(終局的には、核廃絶)に特化した先例を作る。これができないうちは、人類は進歩しない。
②AI民主主義の試み
次いで、それを参考にAIの国際的な規制ルール作りなどへと国際社会を導いて行ける新しい民主主義のルール作りや新しいリーダーの出現を促す。
つまり、人類の権力をAIに委ねるシステムを作る。それなくして、悪魔の拒否権廃止は、いつまで経っても実現しないのではないか。AIと民主主義の共存。いや、人類は信用できないから、今後必要になるのは、人類による妨害を封じる「AIの民主主義」実践である。キーポイントは、人類へのAI使用の禁じ手をシステムに埋め込んで置くことではないのか。人類は、信用できない。
★ 「人より賢いAIどう制御?
贅言; チャットGPTを運営するアメリカの新興企業「オープンAI」は、5日、「人より賢いAIは非常に危険で、人類を無力化させたり、絶滅させたりする可能性がある」と指摘。現在はそうしたAIを『操ったり、制御したり、暴走を防いだりする解決策はない』とし、「人間は、はるかに賢いAIシステムを確実に監督することはできないだろう」と見通している」。「(略)別のAIに監視させる」(などの想定で研究している)という。これでは、まるで、プーチンやトランプに自分自身を模型として作ったおもちゃを与えるようなものではないのか。(了)
ジャーナリスト(元NHK社会部記者)
(2023.7.20)
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