【オルタの視点】
<連載対談・リベラルとの対話>

今の政治をどう見るか —「リベラル」と歴史認識をめぐって

武村 正義阿部 知子


【阿部知子】(以下、阿部) 参議院選挙があって、与党自民党と公明党のみなさん、そして憲法改正を前向きに、前のめりと言った方がいいかもしれませんが、そうした方々が3分の2になったというので、ある種の危機感を持つ人も多いと思うんですが、私はそれ以上に、私自身が国会に16年間いて、政治がどんどん見えなくなってしまっている。「与党と改憲勢力が3分の2になった。さあ大変!」という以前に、政治が融解しているというか、瓦解しているというか、本当に政治があってなきがごとくになったような気がしています。
 もちろん、去年の安保法制で自民党の方々が、強行に採決にもっていったというのもありますけれども、いったい何が政治なのか、なぜこんなに混沌としてしまっているのか、先生からご覧になって、先生もずっと政治の世界におられて、今の政治をどのように見ておられますでしょうか。

【武村正義】(以下、武村) 世の中は絶えず変わっていく。世の中を生きている人々の心も、世代が変わりますから、どんどん動いていくし、変わっていく。そういう捉え方をしないと、しんどくなると思っています。これまでの考え方だけでは対応できなくなるし、自分自身がつらくなります。本来、人の世というのはどんどん変転していくものだというふうに積極的に考えて、少し自分の気持ちを落ち着けているような感じでいます。
 たしかに戦争が終わってもう70年を超えましたし、新しい憲法ができてから70年近くになりましたから、かなりの年数が経ちました。今がとくに変わり目と言う気はありませんが、やはり時代は大きく動いていくる。避けがたいことだと私は思っています。

 但し、健全な方向に変わっていくならいいんだけれども、やっぱりとてつもない失敗を日本はした、あの太平洋戦争という、日本国の歴史の中でも最大の大失敗だと思うけれども、ああいうことをしたのだから、そう70年くらいで、気持ちが変わってもらっちゃ困る、というのが根本にありますね。あの戦争の反省の気持ちは、そう軽々しく変わってもらっちゃ困るのだが、一方でやっぱり70年というのは相当な長さですから、変わるのは必然だと思いますね。そこでどう新しい動きに自分が合わせていくか、あるいはそこに抗うか、抵抗するか、という選択をわれわれは迫られているのではないかと思いますね。

【阿部】 先生がおっしゃったように時代は変わっていくし、時の流れってそう言うものだと思うんですね。それで変わっていくものと変わっていってはならないものとがおそらくあって、今の政治状況で、政治って本当に融解しているなあと私が思う大きな理由は、昔、保守と呼ばれる勢力にも革新と呼ばれる勢力にも、リベラルというか、自由闊達な論議がありました。
 私は「リベラルって何だろう?」とこの頃よく考えるのですが、いまやっぱり先生がおっしゃった、あの戦争への深い反省、それを持った人たちが、保守にもいて、そして革新側にももちろんいた。その共通土壌の上にある人たちは、保守リベラルであるし、革新派のリベラルもいたんだけれども、今はあの戦争が何であったかとか、深い反省というところで、保守・革新を問わずそうした共通の土壌ができる、ということがなくなってしまっているのではないか。

 保守の中でも安倍晋三さんたちは、例えば南京大虐殺もなかったことであるかのような言い方をして、侵略の過去もなかったというような言い方をしています。反省ということばも、この前の8月15日でも口にされませんでした。天皇陛下が追悼式で反省することばを述べられたけれども、安倍総理の誓いにはないわけですね。歴史認識というところで、かつての戦争が何であり、特にアジアとの関係だと思いますが、そこを自分たちの出発点としなければならないということをわきまえた人たちが、もしかして少なくなっているのかなあという印象があります。
 保守においても革新においても、リベラルが弱くなっているというか、特に保守リベラルの方が弱いんだと思いますが、そこはどうご覧になっていますか。

【武村】 おっしゃるとおりですね。やはり70年という長い年月が流れると、あのできごとを、日本の大失敗というできごとをぼやけさせている。だから歳月がひとつの要因であると思いますね。

 しかし、あの失敗はぼやけさせてはならない。はるかに時代を超えてでもきちんと認識を持ち続けなければならない、それほど大きな傷跡を世界に与えたできごとだと思いますから、放っておくと、ぼやけることに便乗してものを言う人が増えてくる。安倍晋三さんなんかはその筆頭ではないか。日本会議なんていう、私も本を読んでみましたが、あんな恐ろしく偏った考え方の連中が活躍している。そういう一角から安倍さんが出てきている、そういう人たちから支持を与えられて安倍内閣が存在している。これは問題だなあと思います。

 憲法改正を言っているだけではなく、そもそも極東軍事裁判にしろ、もっと言えば、日中戦争や、日米戦争も含めて、あの戦争そのものの責任をとりたがらない、そういう日本人が増えてきている。

 ちょっと脱線しますけれど、今年オバマさんが日本に来て、広島に来られて、慰霊碑に花を捧げられた。あれは私は大変よかったと思っています。素直に肯定的に見ているのですが、そのあと、日本の中からお返しというのか、返礼というのか知りませんが、安倍さんがハワイに行くべきだという議論が出ました。真珠湾攻撃がありましたので。「そうだなあ」と言っている人もいますが、「待てよ」と私は思ったのです。「日本がまず戦争の反省として行くべきは、中国ではないか。ハワイではないぞ」と。南京でなくてもいいのですが、中国の一角に行って、大地に額をつけて、お詫びをしなければならないと。

 ドイツもかつてブラントさんがポーランドに行って、地にひざまずいて額を付けて、早々とお詫びしている。日本人なら中国にまずお詫びをするべきではないかと。そう私は思ったんですけれども、今ではこんなことを言っても、中国への反発が圧倒的に強い日本だから、なかなか賛成してもらえませんね。

 日米戦争のことは多少知っていても、その前から始まっていた10年間の中日戦争。まさに侵略としか言い様がない、あの中国に10年間戦争をし続けてきた。このことを忘れている、というよりも、あまり認識されていない。そこに大きな問題があると思いますね。

【阿部】 おっしゃるとおりですね。先ほど保守も革新もリベラルが衰退していると感じると申し上げたのは、武村先生も自民党におられて、田中角栄さんや大平正芳さんが日中国交回復のために、いろいろ多難なことはあったけれども、やはりかつての戦争に対する失敗ということを、自分の反省も含めて根本に置きながら、意義を考えていったということではなかったでしょうか。そうした考えは保守の中にも、革新の中にもあったと思いますし、自民党が長い政権でしたから、そこに戦争に対する認識とか謝罪とかがあったと思うんですけれど、いまの自民党は、安倍自民党だからなのかわからないけれど、まるで日本会議にハイジャックされてしまったかのような状況です。
 根っこにはちゃんとそういう反省があって、幹みたいなところに安倍政権があるのかというと、そうではない。本当にもう占拠されてしまっていて、自民党の議員の中に八紘一宇などと言う人もいるくらいです。そんなことってびっくりですし、私はそれがなぜなのか、もちろん70年たてば、自民党の議員も若くなるし、もちろん対抗する野党の議員も若くはなるし、だけどなぜ、もっとも中心になる自民党の中で、そうした歴史認識が断絶してしまっているのか。それはどうしてでしょうか。

【武村】 われわれとそう変わらない認識をちゃんと持っている人が、それでもまだかなりいるとは思いますけれども、数字ではわかりません。例えば、同期の自民党の石破くんなんかも安全保障論は私とは異なりますが、そういう歴史認識はあんまり変わりません。しっかりそういう認識を持った連中は自民党の中にも点々といます。
 日本の国全体としてとらえると、われわれはあの戦争を、国として、民族として総括をしなかった。自ら総括しないで、戦後を出発してしまった。アメリカ軍に総括されて、極東軍事裁判にまかせて、国民的な議論としては何もしなかったわけです。ドイツは今でもまだナチスの残党を追いかけている、政府が自ら追求している、ということをみても、日本とは違うのではないかと思います。

 侵略戦争であったかどうか、ということも議論があったとおりです。多くの日本人は、日米戦争の最後のほうで、非常に被害を受けたことはよく覚えている。原爆投下とか東京大空襲とか、そういうことはよく覚えている。こっちが攻撃をして、相手に被害を与えたことは、教えられていないし、認識していない。その最たるものが中国、あるいは韓国も植民地支配をして、もっとも大きな傷を与えてしまっている。

 私も実は敗戦の時は小学校5年でした。ただ、少なくとも小学校、中学校、高等学校で、あの戦争という日本の大きな歴史的事実をきちっと教わったことはないですね。だいたい日中戦争というのが何なのか、いったいどれくらい中国人はあの戦争で犠牲になったのか、あるいは日本の兵隊さんもどのくらい命を失ったのか、教わっていない。多くの国民も知らない。中国は1千万人の犠牲という言い方をしていますが、おそらく数百万くらい死んでいるんじゃないかと思うんです。巨大な犠牲を強いているんですよね。そのことを教えてこなかった。歴史の意図的な空白化です。
 例えば中国人と交流しても、会話がかみあわない。中国側はオーバーなくらい歴史教育をしているのに、日本は何もしていない。日中交流をすればするほど、違和感が強くなりぎくしゃくしてしまう。そういう残念な状況がありますね。すべては国が自らあの戦争を総括しなかった、しかも反省していないということに、ひとつ大きな原因があると思いますね。

【阿部】 2015年のお正月に、天皇陛下が「満州事変以降の日本の歴史を、国民には学んでほしい」と、ごあいさつのときにおっしゃった。

<2015年(平成27年)天皇陛下のご感想(新年にあたり)>
  http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/gokanso/shinnen-h27.html

 私はやはり本当にすごく大事なことをおっしゃるなあと思って、本当にその通りなんだけれども、日本の誰もが言わなくなってしまっていることを、一生懸命伝えようとしている。この前の象徴天皇についての8月8日の会見もそうでした。日本とは何で、どこへ行かなくてはならなくて、心を一つにするためにはどうするか、それを天皇陛下ならではの訴えかけでおっしゃっている。

【武村】 えらいですねえ。頭が下がりますね。

【阿部】 そうですよねえ。

【武村】 私もそういう意味で、何年か前に、小学校から高校の歴史の教科書を全部そろえてもらって、どういう記述があるのか調べたことがあるのですが、教科書でも現代史の主なことは書いてあるんですね。ところが、教えていない。日本史という教科もなぜか先生の話は明治維新ぐらいで終わっている。試験問題も現代は出さない。文部省と日教組の対立があったからか、現場の先生があんまり現代のことを語ると、あいつは右とか左とか言われるから、それを避けて教えないのか。しかし見事に明治維新で終わっている。一番大事な、ここ100年くらいの歴史については、ほとんど教わっていない。ただ教科書には南京のこともちゃんと書いてあります。何万人殺したかは書いていないけれど。教科書通りでもちゃんと教えていれば、満州事変も南京事件もそれなりに知っているはずです。

【阿部】 ドイツでは、キリスト教民主同盟も社民党も、与野党問わず、歴史認識と戦争への謝罪というのは共通の基盤になってスタートしているから、そこで与党と野党とか右とか左とか、分かれることはないんですね。認識の少しのずれはあるかもしれないけれども、やはり基本はドイツの周辺諸国、特にユダヤ民族に与えた傷は、侵略の過去であって恥ずべき過去であるというところは、統一されていると思うんです。
 なぜ日本だけ、そこで右と左になるのか。そこを分け目で右と左って言っていても、本当にその認識で右と左が分かれるんだろうか、というと、私はそれはあまりにも違うのではないかと感じます。先ほど、日本民族が行ってしまった最大の失敗とおっしゃいましたが、まさにそうで、歴史に対してのひとつの認識を、そこは共有した上で、次の政治が出てこないと、政治にはならないんじゃないかと、最近すごく思うんです。

【武村】 やはり日本は国を挙げての反省をしなかったことが、最大の原因かなと思います。ご承知のようにドイツは、私が知っている限りでも、ニュルンベルクで連合軍は戦犯を裁きましたよね。その後、例えばドイツとポーランドの和解とか、ハンガリーとの和解とか、政府を挙げて戦争のことをさかのぼって総括をして、国際的な合意をひとつひとつとっていってますね。一番問題のフランスとドイツの件についても、今でもフランスとドイツのトップは年に2回、オランドさんとメルケルさんですが、2人で会って食事をしながら会談するというルールをつくっている。

 一方で日本は、韓国の朴槿恵さんは、1回も日本を訪れることなくやめてしまわれそうだし、習近平さんも主席になってからは来ないし、安倍さんとの対話が全然行われていない。何年間も止まっていますよね。そういう日本と韓国と中国との関係と比べると、ドイツとフランスの関係は将来に向かって、会談がルール化されている。そういう戦争の反省に立った努力がされていることを考えると、われわれはそれをしなかった。国内的にも国論は二分化されたままで、ずっとそれが尾を引いている、それが今日に至っている。だから外交安全保障の大きなテーマになる。憲法問題も同じかもしれない。大きい問題では一致するけれども、他の問題では対立する、日本の政界の関係はそうであってほしい。大きい問題で対立したままでは困る。

【阿部】 さっき先生がおっしゃった、変わっていくもの、また変わってはならないもの、と言ったときに、もう70年たったんだから、せめて大きなところの歴史認識をきちんとして、そして、その他は与党野党対立してもいいし、各々主張してもいいけれども、そうでなければ、国として外国と、国際社会に打って出るときの国の姿とか、国の顔というものが見えなくなってしまうと思います。
 安倍晋三さんが、アフリカで3兆円ばらまくとやっていても、それってほとんど単に企業の利益に還元していくだけで、日本という国が尊敬されたり、認められていくためのものにならないのではないか。その根本がどこにあるかというと、「歴史認識置き去り事件」とも言うべき状況で、ずっとそう感じてはいましたが、最近とみにこれがすべての根本なのではないかと思うに至るんです。

◆◆ 自社さ政権を振り返って

【阿部】 先生にぜひお伺いしようと思っていたのは、自社さ政権というものが、先生が現役の時代に発足して、その中で新党さきがけはすごく大きな役割を果たしたと思うんですけれども、今から振り返ってみると、この自民、社会、さきがけでは、おそらく大きな歴史認識のところでは共有するものがあって、その上で、各々立脚するところとか、主張は違いがあっても、政策の一歩進めることができたのかなあと思うんですけれども、私はその時代はいなかったからわからないんですが、いかがでしょうか。

【武村】 小異を捨てて大同につくという中国の有名なことばがありますが、あの自社さ政権はそれを地でいったということだと思います。社会党の村山さんはそういう人でしたし、社会党が政権に参加するときに、大胆な転換をされた—日米安保とか自衛隊を認めるという、大転換をされました。それで、大きな柱では一致を見て、政権が誕生したわけです。村山政権は1年半、橋本政権が2年半、自社さ連立政権は4年近く続いて、前半は村山さん、後半は橋本さんということでした。あの連立が4年も続いたというのは、おっしゃるように、大きな柱だけは合意ができて、政権が誕生したという経緯にあると思います。

 最初、村山総理になってすぐ、1週間ぐらいしたらサミットがあって、私もついていって、ナポリまで行きました。一番われわれが心配したのは、村山さんとクリントン大統領の会談です。サミットの前に行われる日米首脳会談がルールになっていますから、その会談がうまくいくか、心配でひやひやしながら横に座って、固唾をのんで見守っていました。ここで村山さんは実にうまく、にこにこしながら、「クリントンさん、私は兵隊でしてね、アメリカ軍と戦ったんですよ」というところから自己紹介をし始めて、「どこどこへ転戦して・・・」という話まで紹介されたりして、クリントンさんもにこにこしていて、うまくいきましたよ。

 土井さんといい村山さんといい、政権を担えば、固有の主張はされなかったですね。社会党の中ではいろいろ議論があったでしょうけど。それもあって、私ども新党さきがけは、古い自民党と社会党という、二つの政党を調整する役割を担っていたとも言えるんですよね。自民党もその前には、土壇場で野党に転落して堪えていましたから。自民党は自社さ政権の間は謙虚でした。村山さんをたてましたし、自民党が謙虚だったと言うことが、自社さ政権が4年間もうまくいったひとつの理由なのかもしれません。

【阿部】 いま謙虚とはほど遠いような状況です。

【武村】 公明党もまたあんまりいちゃもんつけないから、余計、安倍さんの思うままでやっているんですよね。

【阿部】 「おごれる政権」状態になっているのではないかと思いますね。しかし、野党も萎縮してしまっているというか、些末なところでは反撃していくんだけれども、ふつうは「肉を切らせて骨を切る」みたいな、相手のもっとも問題なところをずばりと切り込んでいかないと、痛くもかゆくもないというと変ですが、あんまり響かないと思うんですよね。

 私がいま民進党にいて思うのは、「肉を切らせて・・・」というよりも、ちょこちょこ詰めてはいるのですが、じゃあ本当に自民党の何が問題で、いま社会の何が問題で、自分たちがそれをどう解決していくのか、というところの本当の対案がなくて、あるいは対案なんて言わなくても、態度の違いでも価値観の違いでもいいのですが、何かそういうものが、見えてこない。だから、国民は非常にフラストレーションがたまって、文字通り「やっぱり野党は頼りない」ということになっていくと思うんですね。

◆◆ 民進党はどうあるべきか

【阿部】 民進党の代表選も近いので、民進党はどうあるべきか、お伺いしたいと思います。健全な政治のためには、ちゃんと対抗する野党があり、それによって自民党も傲慢ではなくなると思います。私は正直言って、自民党はもう少し、先ほどの歴史認識をきちんとしていくことが、自民党の課題だと思っているんですが、一方の野党の民進党は、自民党の亜流ではなくて、例えば格差社会をどうするのかとか、本当に不安がすごく拡大する社会に、どう対処していくのか、一億みんな何か心の底で不安を感じているのなら、「受け皿をつくりますよ」でもいいですし、少なくとも「一億総活躍」ではないと思うんですよね。
 何かあると思うんですけれども、先生から見て「民進党はこう頑張れ」というのがあったらお願いします。

【武村】 すでに出ましたように、民進党が弱いから安倍自民党がのさばっている、傲慢になっている。民進党が元気を出して強くなれば、自民党もきちんとなる。そういう力関係だと思うんですね。半分は野党の民進党に責任があるし、結論的に言えば、「民進党よ、早く元気になってくれ」ということに尽きるのですが。
 代表選挙が間もなく行われますが、私は前原さんが立候補してくれてよかったと思っています。前原さんを支持するとは言いませんけれど、蓮舫さんと前原さんと新人の玉木さんとで対決ですからね。この間はテレビ等での報道も増えるでしょうし、国民の機運も高まるのではないか。そういう意味で、民進党が再出発するきっかけとしては、代表選挙が文字通り選挙になったのは大変いいことだったと思います。

 ただ、内容が伴うか、ですよね。単なる小さな内輪もめじゃ困るし、相手は自民党なんですね。安倍政権とどう対峙するかということで争ってほしいと思うのですが、そこのところが今まであんまり鮮明じゃなかった。岡田さんという人は誠実な人だけれども、あんまりパフォーマンスが得意ではないから、民進党の顔が際立たなかった感じがあります。だから誰が党首になろうとも、民進党の顔が際立つように頑張ってほしいですね。

 それは要するに、安倍自民党と堂々と向かい合ってほしいということです。安保、集団的自衛権については一貫して批判的で、迷う必要はない。憲法学者のほとんどが違憲だと言っているのに、解釈改憲をして強引にやっているわけですから、この法案は通ったあとですけれども、批判を続けてほしいと思いますね。

 それに貧富の格差が広がって、中流階級がだんだんなくなってきて、大きな社会矛盾をはらんでいる日本です。こういう現状については、明確にノーだと主張してほしい。それがリベラルの最良の主張だと思いますね。単に弱い人たちを助けるというスローガンではなく、健全な日本にする、働く多くの人が満足ができる社会に戻すということを、国会議員は具体的な政策を明らかにして、主張していただきたいと思います。

 外交的には、やはり日米外交は大事ですが、日中・日韓の外交も大事ですね。安倍さんは余り熱心ではありませんが、例えば尖閣列島のような問題は、トゲを抜いて、全面的に外交の交流を深めていくことが必要だと思います。それは民進党ならできるはずだと思います。

【阿部】 本当はできるはずだと思うんですけれども、尖閣列島を国有化したのが、前の民主党政権であって、これはどう見ても失策であったと思うんですね。国が前面に出れば、領土問題で譲れなくなっていくからです。なおかつ、前原さんも蓮舫さんもたぶん、日中・日韓をどうするかというところは、思っておられることはあったとしても、なかなか表向きに表現できないのではないか、という懸念が私にはあって、これは民進党内の事情もあるけれども、明確にできない。偏らなくてもいいから、私は基本の先をちゃんと、政治の基本を提案してほしいと思います。

 いま先生のおっしゃったことで言うと、やっぱりもうひとつあるのが、税と社会保障の一体改革です。消費税と社会保障というところで止まっているけれど、実は格差是正のためには、財源をどうしていくかと言うことは、前提全体を見直して、そして、どこにお金をさらにかけることによって、引き裂かれた社会をもう一度、共通に練り上げていくか、という点で大変重要です。前原さんは雑誌『世界』の論文にも少し出しているけれど、そこは前原さんが先んじておっしゃっているので、そこを私は評価して、そういう論評しないと、これから先、消費税の今のあり方ではとても今でもおぼつかないし、社会保障の削減につながっていくと思っています。

【武村】 国民のみなさんもそろそろわかってきている。要するに福祉にはお金がいる。サービスをしてもらうには、お金がいる。負担が伴うということもうっすらわかってきておられる。そこは、自民党がずるがしこくて、あんまり国民に嫌がられることは言わなくて、のらりくらりしてしまっている。民進党もそれに合わせている。民進党は正直に割り切って、わかりやすく言ったほうがいい。
 ここ数年間で、民主党はこの国民負担の問題で、大失敗をやり、大功績を挙げていると思います。

 大失敗とは鳩山民主党です。マニフェストの冒頭に子ども手当を支給するとありましたが、私はあのとき公約を見て、鳩山総理が誕生した直後に、鳩山由紀夫さんに電話して、「総理おめでとう。しかし鳩山さん、気になることがひとつある。(子ども手当を支給するという)あのマニフェストを凍結しなさい。」と言いました。あのマニフェストで選挙に勝ったんだけれども、「財源的に不可能だから、凍結します。再検討させてください」と言えと、言ったんだけれど、「わかりました、いい意見をありがとうございます」ということだった。子ども手当は6兆円いるんですよ。高速道路の無償化もそうです。何の根拠もなしに、お金がかかることだけ公約してしまって、財源のことを何も言わなかった。無責任な公約ですよ。これが大失敗なんですね。

 その反面、野田内閣になって、実は今も効いている消費税を5%から10%にあげるという大仕事ですね。もっとも嫌な仕事をやったのは民主党政権の野田さんなんですね。5%を8%にして、さらに10%にするということで、当時野党の自民党と公明党を説得して、法案を通した。

 財源の問題で、鳩山さんの時に大失敗した民主党と、その反省に立って、いちばんやりにくいことをやり遂げた野田政権と、二つの経験を民主党はされているわけです。本当はあとのほうはもっと胸を張っていいんだけれど、消費税を上げたことをあんまり自慢すると票にならないですけどね。でも本当に自民党に向かっては胸を張っていいんですよ。消費税を3%から5%にあげたのは村山さん、5%から10%にあげたのも野田さんで、自民党は1回もやっていないんですよ。民主党はそういう嫌なことをやっているんです。厳しいことも言う、しかし世の中のために必要なことも言う。甘いことばっかり言う党はそろそろ卒業してほしいと思います。つらいことも言いながら、まっすぐがんばってほしいと思いますね。

【阿部】 最初は「無駄を削減すれば、財源が出てくる」と、簡単に言えばそういう論法でした。子ども手当などは、社会が子どもを育てるという理念もあって、いいことなんだけれども、裏付けがなければ、結局実現もできないということになるし、さらにそのあと、野田政権で財源を消費税に求めてでも、社会保障を充実しようという訴えかけがあったけれど、これは当然ながら不人気なので、いま民主党は下野してしまった。でもまた今は、おそらくもうひとめぐりしていて、そのときよりもさらにまた格差が拡大していて、世界経済もいろんな意味でグローバルしたことの結果を受けて不安定になっているし、どうやって国を安定させていくか、必要な財源を確保するのかと、いうところで、もう一つまた生まれ変わるというか、もう一つ前に進めなければいけないところと思いますね。

【武村】 そうですね。しかし自民党にとっても民進党にとっても残念なところは、そういう前向きな議論をまじめにしようとすればするほど、ひとつ大きな壁があるということです。財政赤字なんです。1千兆円を超す赤字です。これをどうするかということを見過ごして、前へは進めない。
 福祉をよくするために消費税を上げます、それはいいでしょう、わかりやすい。しかし、赤字を減らすために、消費税をもう何パーセント上げますと言う。それは国民に怒られるでしょう。でも怒られたって本当は、これ全部、国民のサービスに使ってきたお金です。その結果が積もり積もって1千兆円を超すという、世界にも例のない、1年間の予算の20年分くらいの借金を積み上げてしまって、これがどーんと目の前に立ちふさがっていますね。これをどうするかを議論しないで、放ったらかしたままで前へは進めません。
 財政再建という問題を、大きな目の前の問題として、とらえる政党であってほしい。やらかしたのは主に自民党ですが、民主党も赤字を増やしましたから、一応責任はあります。おおかたは自民党政権の長年の借金の結果なんだけれど、これをどうするかということは、むしろ自民党が避けていますから、民主党が正面から取り上げてもらったら、国民はきっとわかると思いますよ。

 世界の青少年の調査結果を見ていますと、日本の青少年だけが、将来に対してはあんまり明るく思っていない。なぜかと思ったんだけど、ひとつには財政赤字がある。60年償却で、ずっと将来まで続くわけですから。だから将来は大変なことになる、こんな大きなことをやり残して、われわれは知らぬ顔しているわけにはいかない、という状況になってきていると思います。民進党が、つらいけれども、そのことに目を向けていったほうが、私はいいと思いますね。

【阿部】 今ことさらに、特段に政治はポピュリズムになっているから、なかなか骨太の、性根を据えた論議というのが受け入れられない、と政治家も思っているし、時の過ぎゆくままに流れているところもあると思います。けれども、ご指摘いただいたので、これからの党首選に活かしていきたいと思います。

◆◆ 自治、自治体をめぐって

【阿部】 武村先生はドイツに留学されていました。ドイツと日本を比べると、やはり大人と子どもぐらいに差ができてしまっていて、この日本が、これから世界の中で、何とか生きていくためにはどうすればよいか、ということを考えてしまいます。やっぱりドイツと日本で、すごく違うなあ、と武村先生の御本で感じたのは、地方分権、地方の自立です。自治体の数が日本とドイツで全然違いますし、自治に関する意識も違います。
 特に日本はこれから少子高齢社会なんだから、身近な自治体が、どう自分たちの支えとなり、自分たちも何を優先して自治体の中で暮らしていくのか、というところが、すごく問われると思っています。自治体の規模は大きくなればなるほど、自分とは遠くなってしまうので、果たして、これからの日本で地域再生や地方分権ということで、一番大事なことは何だろうか、と考えています。

 本来、民進党も自民党ももっと地域に根付いた政党だったと思うんだけれども、今や安倍政権の掲げる成長戦略などは、ほとんど地域にはお金は回らないで、大企業と世界の中でぐるぐる回っていて、地域、地方は冷え込んでしまっている、という状況です。民進党が本当の意味で、生活を支える政党となるのであれば、その答えを出さなくてはならないと思います。
 かつての民主党時代の政権交代の時は、沖縄への一括交付金のように、地方へ一括してお金を使っていただく、名目を付けずに使っていただくということをやりました。これからの日本の地方・地域について、民進党に「こうあれ」というご指摘をいただきたいと思います。特にさきがけはそのことを強く主張されていましたし、地域分権の政党であったと思います。

【武村】 過去を振り返ると、平成の大合併は失敗ですね。あれは民主党も賛成したと思いますが、なんであんな大合併をやったんだと。理由はどうも財政らしいんですけれども、大きくなったら財政がよくなる、政府が進めるから、県庁が進めるから、市町村がどんどんと合併をしたということでした。
 西ドイツなんかでも、あるいは世界の多くの国でも、市町村では合併をしていませんよ。300人、500人の村が、西ドイツにも残っていますし、300人になっても、村長と村議会はあるんですよ。村という名誉はなくさない。仕事はどんどん合併しても、なになに村、なになに議会だけは残して、名誉村長みたいなのが残っている。そのぐらい伝統的な町村を大事にしているんです。

 ところが日本はその反対で、無駄だと言って捨ててしまって、わけのわからない名前の大きな市をいっぱい作って、こんな大きくなったら、やっぱり地方自治体としては広すぎる。負担とサービスの関係も曖昧になるし、だから自治でなくなってきてしまう。合併を反省して、もとに戻してもいいぐらいに感じています。広域行政から狭域行政に戻してくれと言いたいぐらいです。極端なことを言うようですけれども。

 それに財政的には、紐付きの補助金はいろいろありますけれど、まとまって紐を付けない援助、というのがないですね。交付税は税制のバランスを保つためにやっているわけで、一般の補助金を集めてでも、紐付きをなくすか、しばりを薄めて、自治体の自由判断に任せるような助成金に変えることが必要ですね。そうすればすごい自治が進んで、知恵を絞り出すようになります。
 また、地域ごとの競争をさせたら、いいものが出てきますから、そこを支援する必要があるでしょう。国が全部細かいところまで干渉していたら、国の顔色ばっかり見てやってしまいますから、全然自治とは言えません。自治の精神がスポイルされている感じがありますから、悲しいですね。補助金の紐付きを弱めるところから、再出発したらどうでしょうか。

【阿部】 民進党も、民主党時代もそう主張はできたんですけれども、安倍政権では「スモール・イズ・ビューティフル」ではなくて、大きいことはいいことだとなってしまいました。ちっともよくないですね。

 地方に行ってみると本当にわかりますけれど、合併した市町村は大変だといいますね。いくつかの中心地があったものが、一つになるわけで、中心でなくなったところは間違いなく寂れますよ。周辺が寂れますよね。中核都市は末端の都市がなければ中核になれないわけです。やっぱり「末梢」が大事で、末梢循環の悪い身体というのはもたないのといっしょだなあ、と私は思っています。

【武村】 私も昔の村に生まれましたが、やっぱり村長さんは身近で、村長さんはみんなの顔から家族構成までみんな知っていますから、そういうかたちで自治が存在していたわけです。人口何十万の市にしたら、市長も住民のつながりはうすれますよね。経済合理主義精神で市町村合併までしてしまったという感じがありますね。

【阿部】 あと国民健康保険にしても、各自治体だったものを都道府県単位にしていくということで、そんなことしたら、みんなで健康作りをして、少しでも保険料を安くしようとか、手の届く範囲での協力もなくなってしまうと思います。私も嫌だったけれども、財政が厳しいから、これで何とかなるだろうと言うけれど、しかし余計厳しくなると思っています。

◆◆ 最後に

【武村】 最後にひとこと冒頭の話に戻りますが、私は最近、遠心・求心ということばを使っているんです。世界はせっかく、これまでは求心力を発揮してきた。国連もできた。NATOもASEANもできた。しかし、昨今の世界の政治の流れは、遠心力が強まってきているのではないか。要するにとなりの国と協調してやっていこうという考えではなく、わが道を行くという雰囲気に変わってきている。国威発揚と言うか自己主張と言うか、そのほうが国民にうける。

 中国の習近平も、偉大なる中華民国の復興なんていう、あんな古めかしいスローガンを掲げていますしね、プーチンはプーチンで、クリミアを強権的に自国の領土にしてしまうし、アメリカのトランプさんも強いアメリカを言っている。日本の安倍さんも、何となく隣と仲良くしようとしない。世界中がそういうかたちで、遠心的になってきていて、それぞれの国が我が道を行くようでは、世界はぜんぜんまとまらないですよね。いつか来た道をくりかえしてほしくないと思います。

【阿部】 まさにおっしゃるとおりですね。今日はありがとうございました。

<プロフィール>
 武村 正義 (たけむら まさよし)
   1934年(昭和9年)滋賀県生まれ
   八日市市市長、滋賀県知事(3期)、衆議院議員(4期)、新党さきがけ代表、内閣官房長官、大蔵大臣を歴任。
   政界引退後は龍谷大学客員教授、徳島文理大学大学院教授を務めた。

 阿部 知子 (あべ ともこ)
   1948年(昭和23年)東京都生まれ
   小児科医師 徳洲会千葉・鎌倉各病院長
   衆議院議員(6期)、社民党政調会長9年、日本未来の党共同代表。民主党 民進党

※この記事は2016年8月30日、東京神田・武村事務所で採録し著者の校閲を得たものですが文責はオルタ編集部にあります。


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