【視点】

「将来」を考える政治を!

羽原 清雅

 日本の政治は、「現在」にとどまり「将来」を見ていない。将来を見据えた長期的な視野が、政府、与野党ともに欠落している。政府・与党は将来展望を持って政策、当面の課題に取り組み、野党はどれだけ問題点を指摘し、修正させうるか。この国会は近年になく、今後に影響を及ぼす重要法案が山積するのだが、その論議を見る限り、暗い思いを覚える。

・まず予算案のうち防衛予算の急膨張。23年度だけで6.8兆円増で、27年度までに1.5倍の43兆円、新たに総額17兆円が必要だ。財源は、国民負担の増税と借金の建設国債に依存する。現在、国は1000兆円超の国債(借金)を抱え、今年度は25兆円の利払いがある。利払い分がふえれば、将来の発展のための投資が乏しくなる。
・この施策は、NATO加盟国の国防費をGDP比2%とする目標に準じるという。ウクライナ戦争を念頭に置くのだが、元防衛相の石破茂氏は欧州の事情をそのまま日本に当てはめることを問題視する。また、これらの具体的な財源は示されないままだ。
・防衛費の使途を見ると、「敵基地攻撃能力」の保持の問題がある。敵基地を先制攻撃の事態や民間人への誤射にでもなれば、相手国に日本攻撃の口実を与える。日本憎悪の念を高め、将来の外交関係を阻む。むしろ、緊張関係をほぐす事前の外交努力こそが必要だが、外相訪中はなんと3年3ヵ月ぶり、こんな会話のない外交でいいのか。
・そのうえ、失敗もあった。北朝鮮のミサイル実験の際、日本政府はJアラート(全国瞬時警報システム)で誤報を流した。この程度の情報把握能力では、敵基地攻撃時の兆候を読み違え、相手の攻撃を誘発しかねない。さらに、師団長ら10人の幹部を載せたヘリ墜落も、最高レベルの機体で丹念な保全を図ったうえでの事故のはずで、これもまた防衛省任せの「安全保障」に不安を抱かせた。
・岸田首相は、米国製巡航ミサイル「トマホーク」400発購入を言い、予算化したが、米側は「日本配備見送り」と言う。2000億円を予算化しながらの、米側の対応であり、いったいどんな交渉だったのか。さらに、自民党内では、核兵器の保有をめぐって開発論や米国核の国内配備論も出始めている。また、「同志国」への防衛装備品の制約を拡大し、防衛産業に資する構想も出ている。この論議もきわめて乏しい。
・安保三文書に基づき、有事の際には、海上保安庁の機能を防衛相の指揮下に置くことも着々と進んでいる。海保はこれまで、軍事的な活動とは一線を引く方向にあり、ここにも軍事力強化の路線が国会の論議が見えないままに進められる。軍事優先、が横行する危険を感じる。

・国会は「GX(グリーン・トランスフォーメイション)脱炭素電源法案」を審議中だ。これは、原子力基本法など関連5法案改定を1本に束ねたもの。内容は、「脱炭素化」「不足電力の確保」の名目で、原発の新規建設や60年超の運転を容認するもので、福島原発の事故の反省や核のごみ処理問題を棚上げし、また再生可能エネルギー導入策を軽視した大きな方向転換の論議が必要な案件だ。折からドイツでは、最後の3基の運転を停止し「脱原発」を実現している。日本政府との基本姿勢の違いを問わなくていいのか。

・4月から子ども家庭庁が発足したが、具体策はまだ出てこない。少子高齢化の問題はすでに30年以上も前から統計に示され、総合的にはこれまで手を付けられなかった。もっと早く責任政党は具体策を講じておくべきで、今なお踏み切れていない政治責任は大きい。
・さらに、「LGBT理解増進法案」の扱いもある。統一教会的な影響があって慎重論が出たり、一方で首相秘書官の「同性婚、見るのも嫌だ」の発言で蘇りかけたりする。賛否はあっても、国際的に性のありようは多様化し、事実として多くの事例が表面化した以上、論議は必要だ。

 これらの問題で、岸田首相は明確で十分な説明をしていない。抽象的な言葉の繰り返し、防衛問題では「機密」に逃げ込む。紙を読み上げる場合も多い。
 他方、野党の追及も手ぬるいし、調査と準備が足りない。国民への真摯な問題提起が見られない。話題が分散し、しかも底が浅い。才覚のなさか、不勉強か。

 これからの若い世代にもたらす影響をどう考えるのか。与野党議員の「未来」に残す罪過は大きい。長く政治の世界を見てきたが、これまでの中でも最低に近い国会審議に感じたところである。
                            以上
 <この原稿は5月5日付の山陰中央新報紙に掲載されました>

(2023.5.20)
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