■世界一奇怪な米国農業~なぜ米国はTPPと遺伝子組み替え、バイエタが必要なのか?~                   濱田 幸生

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■米国農業その1 戦略「兵器」としての食糧

 米国ほど、世界の中で食糧が「戦略武器」だと自覚している国はないでしょう。

 米国ウィスコンシン大学に留学したある日本人研究者は、教授からこのような
言葉を聞いたといいます。

 「諸君らは、アメリカの威信を担っている。アメリカの農産物は政治上の武器
だ。だから安くていいものを沢山作りなさい。それが世界をコントロールする道
具になる。たとえば東の海の上に浮んだ小さな国は(※わが日本のこと。小さな
島で悪かったな)よく働く。でも勝手に動かれては不都合だからその行き先を引
っぱれ。」 (大江正章「農業という仕事」)

 ここまで露骨に言われると日本人としては燃えますなぁ。米国の食料戦略の第
1ターゲットはわが国だということです。

 米国は、今まで自由貿易の旗手のような顔をしながら、実はトリッキーな手を
使っていました。それが輸出補助金というやつです。
 これはたびたびWTOでもやり玉に上げられながらも、あの手この手を使って
1995年から2009年まで出された輸出補助金総額は、実に2452億ドル(22兆円)と
いうのですからハンパじゃありません。

 これらは、米国が農業輸出の目玉としている、トウモロコシ、大豆、小麦、米、
綿花に7割が投入され、それ以外にもピーナッツ、ソルダム、乳製品、キャノー
ラ(菜種)などにも支払われています。

 まさに日本と縁が深い作物ばかりです。残念ながら、米国産トウモロコシがな
ければ日本畜産は明日にも壊滅しますし、大豆がなければ醤油、味噌ができず、
小麦がなければパンもケーキも焼けなくなります。
 これだけ偏ったシフトになっているので、米国の作柄に毎年日本の食卓は左右
されることになります。

 もちろんリスク分散は考えてはいるのですが、なにせ安い。そして大量に確保
できるというメリットのために米国に対する穀物一極依存はなかなか改まりませ
ん。
 安さの原因は輸出補助金なのですが、農作物に特有の天候異変で市場価格が上
がったり下がったりすることで農業収益が低下することを防ぐ意味合いがありま
す。
 いわばよく言ってセーフティ・ネット、はっきり言えばズルです。

■米国農業その2 秘密「兵器」輸出補助金

 米国農産物の安さの理由にはワケがあります。輸出補助金を十重二十重につけ
ていることです。
 建前では、農作物に特有の天候異変で市場価格が上がったり下がったりするこ
とで農業収益が低下することを防ぐということを掲げていますが、本音は安定し
て安値で輸出攻勢をかけることです。

 これには5種類の補助金枠があります。

①直接支払制度(Direct Payments)・・・土地の価値を評価に対して農業者に
直接支払らわれるタイプの補助金。年間約50億ドル。

②CCP(Counter Cyclical Payments)・・・うまい訳語が見当たりませんが、
市場価格の低下による差損を補填するタイプの支払い。差損を補填することで、
安価な農産物を輸出し続けることができるために、WTOで禁止されている輸出
補助金に相当するとして国外からの強い批判を浴び続けている。

③マーケティング・ローンの提供・・・農産物の販売のための農業ローンを提供
しLDP(ローン不足払い)になった場合に差額を政府が補てんする仕組み。

④ACRE(Average Crop Revenue Election Program)・・・08年に登場した補助
金枠で、価格、低収量収入の最低保証をする補助金。トウモロコシ、大豆生産者
の全部が加盟していると言われる。

⑤作物保険 作物保険加入にあたっての政府補助金・・・農業共済加入に対して
与えられる補助金枠。

 至れり尽くせりですな。補助金漬けと揶揄されている日本の農業補助金など可
愛らしいものです。
 おそらくTPP交渉では間違いなく日本が言わずともオーストラリアやNZあ
たりからの猛攻撃に合っており、表面上は修正をかけています。

 特に②のCCPはひどい。もしこれが日本のコメならば、天候不順で収量が低
下したり、品質が悪いために市場価格が下がったら、その差損を政府が埋めてく
れるということになります。
 日本のコメは有名な700%超の高関税があってバッシングの対象になりやすい
のに対して、さすがは自由貿易の旗手、やることがまことに卑怯というか、シブ
イ。

 実は米国の穀物は、熱波や洪水で年がら年中作柄が変化しています。こうまで
よくやられるのを見ていると、後述するようにオガララ帯水層の危険レベルの水
位低下などに現れるように米国農地や灌水システムは相当にダメになっているな
ぁ、というのが私の感想です。

 化学肥料と農薬一本で突っ走ってきた世界の穀倉は、間違いなく疲弊しきって
いるように見えます。これによる作柄変動に税金をぶっ込んでやっとのことで安
定した輸出を続けているというのが米国農業の実態ではないでしょうか。
 ですから今や、外すに外せない竹馬と化してしまっているのが輸出補助金制度
なのです。

 しかも受給者が大規模アグリビジネスに偏っていることが、米国内部でも問題
となっています。
 たとえば受給者第3位の Dnrc Trust Land Managemen だけで、09年に政府から
受け取った補助金がな~んと290万ドル(約2億3千万円)。おそらく日本の農家
でこれだけ一年でもらってしまっては国会喚問ものです。もはやギネス級といえ
ましょう。

 輸出補助金第2位の綿花の場合、1999年から2005年の6年間に投入された補助金
が実に180億ドル(1.4兆円!)と、綿花だけでわが国の農家戸別補償の総枠丸ご
とが注ぎ込まれているわけです。
 ここまで巨額な補助金はもはや農家支援という次元ではなく、市場価格の86%
までもが補助金だという凄まじさです。

 私たち日本人は、米国の納税者の金を食卓に乗せていたわけですね(苦笑)。
新自由主義者に煽動されて、わが国農業が補助金漬けだという人が絶えませんが、
米国を見てから言っておくれ、と言いたいですね。
 このような9割までもが補助金での市場価格支持政策となると、他の輸出国も
黙っているはずがなく、ブラジルが綿花でWTOに提訴し勝訴しています。

 また、この受給者は先に述べたように上位1割に偏っており、この上位だけで
補助金の74%を独占しています。
 家族経営者の8割の平均受給額は、たったの579ドル(4万6千円)というのです
からよその国のことながら、バカにするのもいいかげんにせぇよ、と言いたくな
ります。
 まさに富んだ者は更に富み、貧しい者はいっそう貧しくなるという格差社会。
ウォールストリートを占拠したくなる気持ちが大いに分かります。

 この上位受給者は、農家というよりアグリビシネスであり、オーナー一族は土
に触ったことなどない億万長者であるわけですが、それに対してのみに集中した
農業補助金という仕組みのあり方は、国際競争力を強化する反面、建国以来の伝
統的な家族経営層を切り捨てていっているようです。

 このように見てくると、米国の農業界は輸出補助金という竹馬を外されれば、
即座に世界最大の食料輸出国から転落しかねない危うい構造を持っています。
 仮にTPP体制となった場合日本は、例のISD条項を使って米国の輸出補助
金を徹底的に禁止させるべきでしょう。

■米国農業その3 バイエタはなんのために?

 米国農業ほど奇怪なシロモノはめったにないとしみじみ思うときがあります。
その自給率の異様な高さです。
 「自給率」という概念ではなく、農業が輸出なくしてはもたない構造になって
おり、そのためにありとあらゆる手段を講じているのです。

 それを象徴するのは、昨日述べた過大な輸出補助金政策と、それと裏腹になっ
たバイオエタノール政策です。
 一見地球温暖化対策にみえるバイエタ政策の裏には、過剰な農業輸出補助金の
財政負担をしてまで穀物市場拡大をしたい米国の思惑がありました。

 このバイエタの主原料であるトウモロコシの作付面積は日本の国土面積にほぼ
近づいており、やがてそれを凌ぐとすら言われています。
 そして米国産トウモロコシは、世界生産の36%、総輸出量の41%を占めており、
シカゴ相場が世界の穀物市場の動向を決定します。

 近年、毎年のようにバイエタ使用量は伸びており、05年までは、バイエタ産業
のトウモロコシ使用量は全生産量の10%以下でしたが、今や12年には家畜飼料と
匹敵する約40%にまで達しています(ただし、同時に生産されるバイエタ発酵残
渣飼料は除く)。

 つまり、世界の5割弱のトウモロコシ生産の、そのまた4割がバイエタというわ
けで、ここまで比重が高くなってしまえば、それが与える人の食糧への影響は巨
大なものになります。

 ブュシュ政権が2007年に始めたバイエタ政策により、バイエタ生産を当時の50
億ガロンから一挙に350億ガロンに生産拡大する政策の流れがあります。
 この目標に掲げた350億ガロンのバイエタを製造するためには実に122億ブッシ
ェルものトウモロコシが必要となり、今の米国で生産されるトウモロコシ全量を
バイエタに回してもまだ足りない馬鹿げた数字でした。

 にもかかわらず、このバイエタ政策が単なる目標値ではなく、法的に再生可能
燃料基準(RFS)として義務づけられたためにバイエタには多額の投資資金が
流入し、今やトウモロコシを作ることは食糧生産ではなくバイエタ生産であるか
のような倒錯した構図が生れてしまいました。

 このバイエタ生産の急増による圧迫のために米国のトウモロコシ輸出余力はみ
るみる縮小し、既に2006年には輸出とバイエタが並び、翌年07年にはバイエタが
大幅に上回り全体の27%を占めるまでになってしまいました。
 結果どうなったのかといえば、供給が先に述べたように不安定になってしまい
ました。

 そもそもこのバイエタ政策は、毎年減り続ける穀物需要を押し上げるために考
えられたものです。

 この人の食糧に回さず燃料にしてしまうバチ当たりな政策により、今までダブ
つき気味で買い叩かれ気味だった穀物市場は一気に加熱するようになりました。
 トウモロコシ価格が上昇すると農家は、今まで大豆を作っていたり、小麦を作
っていた畑を一斉に金になるトウモロコシに転換するようになり、穀物価格は軒
並み上昇するようになっていきます。

 まさにこのような玉突き的穀物相場の上昇こそ、米国政府が望んでいた現象で
した。今まで輸出補助金でゲタを履かせて輸出していたために財政負担に苦しん
できた米政府にとって、国内市場の高騰は望んでいた状況が到来したわけです。
 米政府としては、穀物市場が拡大した上に、輸出補助金に対する財政負担が減
って万々歳というわけです。

 NAFTA(北米自由貿易協定)を押しつけられたメキシコは伝統的にトルテ
ィージャなどのトウモロコシの食を中心にしていましたが、米国から流入したG
M(遺伝子組み換え)トウモロコシにより大打撃を受けて壊滅状態になりました。

 しかも、それとほぼ同時期に起きたバイエタ・フィーバーにより穀物相場は高
騰し、国内産トウモロコシを失ったメキシコ国民はとんでもなく高額な輸入トウ
モロコシを食べるしかなくなったのです。
 これによって、メキシコはNAFTAがなければありえなかった2008年の食糧
危機に突入することになります。

 米国はバイエタ政策をあたかもエコであるような幻想を振りまきながら、実は
穀物相場を常にハングリーにしておくことで高値に貼りつかせ、食べ物を燃やし
続けているのです。
 はっきり言って狂気の沙汰です。

■米国農業その4 米国は自分の主食の小麦はGMを認めていなかった!

 NHKスペシャル「世界同時食料危機」(08年10月17日)で、米国穀物協会幹
部のぶったまげる発言がありました。
 この幹部はこうサラリと言ってのけたのです。「小麦は我々が直接食べるので
遺伝子組み換え(GM)にはしない。大豆やトウモロコシは家畜の餌だからかま
わないのだ。」

 冗談も休み休み言っていただきたい。小麦は自分が直接食べるからGMを使わ
ないが、大豆、トウモロコシは家畜だからいいだって!
 私たち日本人はいうまでもなく大豆はありとあらゆる方法で食べる伝統的穀物
です。味噌、醤油などがない日本の食卓など考えられません。
 しかし、この米国穀物協会幹部は、ニンゲンが直接食べたら危ないから米国で
は使わないとチャラッと言ってのけたのです。

 わが国は米国農務省(USDA)も認めるように、日本人こそ世界最大の1人
当たりのGM摂取量が多い国民なのです。

 わが国の穀物はどこから来ているのでしょうか。
・大豆    ・・・90%が米国
・トウモロコシ・・・90%が米国
・小麦    ・・・60%が米国

 うちGMの占める割合(モンサント・ジャパンHPによる)
・穀物・油糧穀物輸入量合計・・・約3100万トン
・うちGM作物の輸入量  ・・・約1700万トン
・GN比率        ・・・54.8%

 GM輸入量の1700万トンという数字は、わが国のコメ生産量が約850万トンで
すから、実に2倍に相当します。
 これが米国穀物協会幹部に言わせれば、ヒトの食用には適さないと言っている
ことになります。

 この幹部の言うとおり、米国ではほぼ全量に近いGMシェアを持つトウモロコ
シ、大豆に対して、小麦のGM品種は認可されていません。
 しかしどっこい、実はモンサント社は秘かにGM小麦を作っていたのが2013年
にオレゴン州で見つかっていますから、ズルイ米国政府vsもっとずるいモンサ
ントということになります。(バカめ)
 それにしても米国のなんという二重基準、二枚舌!

 このような米国人が絶対食べないGM穀物を食べさせられている日本人は、こ
れを拒否できるかといえば不可能です。
 理由は簡単。代替がないからです。わが国の小麦自給率は11%、大豆に至って
は6%です。
 その理由は日本人が安いものしか買わなくなったために、生産が壊滅したので
す。

 一方、EUは頑としてGM作物を承認していません。
 2014年まで承認凍結しただけではなく、EU域内のオーストリア、ブルガリア、
フランス、ドイツ、ギリシア、ハンガリー、ルクセンブルク、ポーランドの6カ
国はGM作物を制限どころか禁止作物にすらしています。
 EUが承認したモンサントのGMトウモロコシ品種「MON810」は、2014年
まで承認凍結となり、更新の可能性はないと言われています。

 他にも、EUは米国からWTO提訴されて敗訴しながらも、いまなお成長ホル
モンを使った米国とカナダの牛肉の輸入を認めていません。

 このような断固たる食の安全に対する姿勢をEUが貫けるのは、EUで牛肉95
%という高い自給率が背後にあるからです。
 ただ安いだけで自国の農業自給をすり潰してしまったわが国は、米国から「ヒ
トが食べないようなもの」を押しつけられても、唯々諾々と沈黙するしかないの
です。

 そしていま薄皮一枚で防衛しているこの安全基準やGM表示義務すら、TPP
で無防備になろうとしています。
 食の根幹部分は多少コストがかかろうと自立防衛できる基盤がなければなりま
せん。
 それがなくなると一挙に他国に蹂躙されてしまいます。安全補償はただ高い安
いというデフレ的基準で計れるものではないのです。

■米国農業その5 疲弊する米国の土と水

 昔、ヒューストンからの帰りの飛行機から地上を眺めたことがあります。行け
ども行けども土漠が続く乾燥しきった大地に、真円の巨大な染みが沢山あること
に気がつきました。
 後でわかったのですが、あれがセンター・ピボット灌水という奴です。「米国
のパンかご」と言われるグレートプレーンズ(大平原)では一般的な灌水方法だ
そうです。

 大きなもので半径1㎞もあるような巨大な自走式散水管に化学肥料入りの汲み
上げた水を高圧をかけて注入し、ザーッと散布していきます。
 ですから真ん丸の農場という異形のシロモノが出来上がるというわけです。ア
メリカ人はやることがなんにつけてもゴツイですな(笑)。
 私たち日本人の農家には考えもつかないですよ。

 この方法で地下のオガララ帯水層から地下水を大量に汲み上げ、日本のような
土づくりなんてまだるっこいことはいっさい省略。
 巨大トラクターで耕耘してから飛行機で種をぶん播き、後はピボット灌水で汲
み上げた水に化学農薬と肥料を入れてブッかけて、成長したら巨大コンバインで
収穫して一丁上がりです。最初から最後まで農場主は土に触りもしません。

 典型的な収奪農法です。自然環境から奪うだけ奪って与えない。与えることを
せず、土を生産にだけ隷属させ、絞り尽くせば使い捨てにして去っていくという
農法です。

 しかしやがて、強引な灌水は農地を地中から塩を噴かせるアルカリ土壌に変え
ていきます。
 また等高線に沿って計画的に土留めをしないために、いったんアルカリ化した
砂を大量に含んだ土砂は崩れて、低い土地をも呑み込んで拡がっていくことにな
ります。
 これが砂漠化です。米国農地では今静かに砂漠化が進行していると考えるべき
です。近年毎年のように続く熱波はこれと何かの相関関係があるかもしれません。

 このような収奪農法は米国やブラジル、あるいはロシアなどでしか可能な農法
ではありません。狭隘なわが国でこんな農法をとれば十年たたずしてすべての農
地は消滅してしまいます。

 私はこのような持続することをハナから捨てているような農法を、「農業」と
は呼びたくありません。これは水と土という貴重な人類が共有するべき地下資源
の私的略奪です。
 作物にとって水は欠くことのできないもので、特に主要作物のトウモロコシは
大量に水を必要とします。
 この水をグレートプレーンズではこのオガララ帯水層から汲み上げています。
ですからこのオガララ帯水層とグレートプレーンズは完全に重なっています。

 このオガララ帯水層と五大湖によって潤う湖周辺地域を合わせて、米国の穀倉
地帯は作られています。言い換えれば、「米国のパンかご」の過半はこのオガラ
ラ帯水層なくしては成立しないのです。

 オガララ帯水層は、ロッキー山脈東側の大平原の地下に存在する文句なしに世
界最大級の地下水層です。総面積は450,000km2で日本の国土の約1.2倍という馬
鹿げた広さです。わが愛する霞ヶ浦などここにくると針穴ていどになってしまい
ますな(笑)。

 オガララ帯水層は氷河期の地球が遺してくれた恵みとも言うべきものですが、
年間降雨量が500mmに満たないこの地域では、増えることは期待できません。
 むしろ、人間の乱開発がないとしても、大草原特有の乾燥した強風によって地
表水や降水の蒸発が促されているために蒸散し続けています。

 しかも、オガララ帯水層は地下水の蒸散を早め、降雨を浸透させない働きのあ
る炭酸カルシウムの不透水層によって覆われているために、降雨は地下浸透しま
せん。わずかに降った雨水は地表を滑るようにして川に流れ込んでいってしまい
ます。
 つまり、いくら巨大な地下水帯だろうと、新たな増水が期待できず、むしろ減
る一方なのにもかかわらず、それを戦後本格的にジャカジャカ乱費する潅漑農業
が盛んになったのですから結果は見えています。

 1980年の統計の時点で既にオガララ帯水層からの揚水量は地下水涵養量の3倍
に達していました。実に年間1.5mにもおよぶ水位低下の地域すらあり、枯れた井
戸が続出しました。

 オガララ帯水層の1980年から1995年の地下水位の変化を示した図をみると、水
位が著しい低下を示している赤とオレンジ色のゾーンが急増しています。
 テキサス州北西部、カンザス州南西部では危険なまでに水位が低下しています。
わずかに水位が上昇している地域は水色と紫色ですが、比較するまでもなくオガ
ララ帯水層は水位低下が顕著になっています。

 そもそも限りある水資源を収奪農法によって1911年から延々一世紀以上にわた
って収奪し続ければ水源の枯渇が起きて当然でしょう。近年になって一定の計画
下に置いたとしても既に手遅れであり、一時しのぎにすぎません。
 したがって米国の輸出を前提とする過剰な穀物生産を見直さない限り、米国の
農地の砂漠化は不可避だと思われます。
 このように自らの大地と水資源を荒廃させながら、飢餓輸出ならぬ、環境破壊
輸出に驀進する米国農業に救いがたいものをかんじます。

■付録・情報戒厳令下のTPP交渉

 悪い予想というのは、えてして当たってしまうものですか、TPP交渉はその
「悪い形」が現実になりつつあります。

 TPP交渉の最大の問題と目されていたのが、交渉経過の隠匿、それもハンパ
ではない戒厳令的情報隠匿という問題でした。
 というのはご承知のとおり、TPPは単なる交渉一般ではなく、「条約締結交
渉」なのです。ですから、政府の情報隠匿は合法的です。だから困る。

 大変にまずいことには、条約の交渉過程を国民に公開しないことは法的に保証
されています。オープンにしないのは、別に法律違反でも何でもありません。
 条約の締結は内閣の専権事項(日本国憲法第73条)であって、「三条約を締結
すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要
とする」という文言を楯にして、情報提供を拒否できてしまいます。
 憲法が要求しているのは、「事前あるいは事後に国会承認を経る」という点だ
けです。

 これが外交的案件であって、相手国の秘密の暴露にもつながることならともか
く、TPPはまさにわが国の関税、医療・保険制度など多岐に渡る内政上の問題
を多く含んでいます。
 というか、TPPとはそのような、「内政を外交問題として変更していく」と
いう奇形的な「黒い条約」なわけです。

 たとえば、TPPに国防上の案件かあるというならわからないでもありません。
在日米軍の部隊配置、移動などの交渉をやっているなら、「まぁ仕方がないだろ
う、途中でバラされたら相手国も迷惑だろうしな」と思えます。
 しかしこれが、医療制度、農業などといった国民すべてが利害関係者である
「内政問題」が、国内法を超越して改悪されようとしているのに、なにひとつ情
報が出てこないというのは、あまりに異様です。

 それが、国民はおろか、関係団体、与党国会議員まで秘匿されているのはどう
したことでしょうか。
 これでは、安倍首相がTPP参加について国民に約束したはずの、「今後状況
の進展に応じて、丁寧に情報提供していく」という公約に反していると考えざる
をえなくなります。
 つまり、TPP情報の開示は、いっさいの交渉を終了し、妥結した後の事後報
告と国会承認時まで隠蔽し続けるという悪夢です。

 かつて米韓FTAで、韓国政府はこのテを使いました。交渉がすべて終わった
後に、「国会議員の皆さん。こんなことが決まったんで批准してください」とや
ったわけです。
 当然、与党まで含んだ大騒動になりました。現代版不平等条約である米韓FT
Aなのですから、あたりまえです。

 もし、同じことを安倍政権が考えているなら、私たちは断固これを拒否せねば
なりません。
 最悪、この国会批准という選択肢ががぜん現実化しそうなイヤーな雰囲気です。

 TPP反対派(与党でも反対派が多数ですが)の中心である山田としお氏は、
「交渉関係者の発言として、「95%も維持は難しい」と予防線を張ってい」と報
道しています。これでは、党と国会が決議している重要品目を守れない」と述べ
ています。

 また、「党のTPP対策委員会の幹部が、これも現地で動きを見守っている団
体の関係者に対して、「重要5品目に踏み込まざるを得ない、覚悟してくれ。」
というような判断を伝えている」という情報も伝えています。

 そしてこのようなことが起きるのは、「ひとえに、交渉参加に当たって、また
は、交渉が一定程度進んだこの段階においても、内閣としての取り組みの基本方
針や、情報開示の在り方や、その工夫の実行がなされていない」ことだと山田議
員は指摘しています。

 私たちは、今の段階では繰り返し交渉内容の開示を求めていかねばなりません。

 (筆者は茨城県行方市在住・農業者)


最新号トップ掲載号トップページのトップバックナンバー執筆者一覧