【コラム】神社の源流を訪ねて(66)

ユネスコの無形文化遺産に登録

韓国に神社の源を訪ねる7
栗原 猛

◆独自の固有文化と評価

 長いこと儒教や仏教から迫害されてきた巫俗信仰の一つ、済州島のヨンドゥンクッ(風を司る霊登神を祀る)が、ユネスコの無形文化遺産に登録されたのは、画期的な出来事というべきだろう。1966年から96年までの間に済州七頭堂クッ、珍島シッキムクッなど14か所の巫俗信仰の施設が、韓国固有の文化と評価された。伝統美とか芸術性の高さが評価の対象になった。巫俗信仰の持っているもう一つの側面である村落の秩序機能とか、占い儀礼などは対象外だったと、新里喜宣・長崎外国語大教授は指摘している。
 済州島に、シャーマニズムの巫俗文化が弾圧を受けながらも人々に守られてきたのは、政治の中心地から離れていたので、排斥運動が避けられたのではないかといわれるが、やはり人々の生活、特に女性の生活に深く根付いていたことが、大きかったように思われる。

 巫俗の代表的な儀式を「クッ」という。クッは、神と人間の間を媒介するシャーマン、ムーダンのことで、済州島では「シンバン(神房)」と呼ばれる。神房が行う儀礼は、規模や形式などによって「一般クッ」や「堂クッ」などと呼ばれ、かなり儒教的な手法が取り入れられているという。
 「一般クッ」は各家庭が、生死、疾病、生業、季節などを司る神々を招いて行う」「家祭」である。「堂クッ」は、村を護る堂神に対し、村の人々が堂に集まって祭る「村祭」と呼ばれる。日本の神社の儀式に似ているといわれたので、ぜひ見たかったが、見る機会は年に一度しかないということだった。

 このヨンドゥンクッが韓国固有の文化財に当たると認められ、ユネスコの重要無形文化財に登録されると、若者の間に一気に関心が広がったといわれる。そして先祖からの大事な遺産だから継承していかなければ、という動きがあちこちで生まれる。

 済州市の伝統文化協会のご厚意で、祭りのビデオや写真集などを見せてもらった。巫女が赤青黄色など目の覚めるような色とりどりの服装をして、祭壇の前で語りかけた人々と踊ったり歌ったりという儀式は、色彩感覚が豊かで迫力が感じられた。祭壇には季節の花が花瓶に生けられ、色とりどりの果物が沢山並べられている。よく見ると花と果物はセットになっているので、ここに参加した多くの人がそれぞれ祭壇を作っているのだろう。

 村の誕生を祝う本郷堂、子供たちの成長と健康を祈るイルレ堂、海女や漁夫が漁の安全と大漁を祈るドンジッ堂などがそれぞれ、祭祀を行っている。クッが行われる堂は村を護り、万事を司る神が留まり聖なる場所だから、ことのほか祭祀は盛大に行われるようだ。
 規模などは異なるがこうした堂は、村ごとに必ず1か所はあり、少し前の調査になるが、400か所以上の堂があることが分かっている。堂は日本の鎮守の森の祭りに似た役割を担っているという感じを受けた。  以上

(2024.5.20)
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