【オルタの視点】

今こそ辺野古に代わる選択を(1)
―新外交イニシアティブ(ND)からの提言―

新外交イニシアティブ

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  ≪目次≫

  政策提言
  概要
  本文
   はじめに
    沖縄は基地を受け入れない
    安全保障環境は変化した
    辺野古に固執すれば同盟の危機となる
   第1部 辺野古に代わる選択肢
    沖縄は日米政府の「不正義」に怒っている
    基地の歴史と現状
    辺野古が最善の選択肢という論理は破たんしている
    米国の戦略上の利益のためには海兵隊が沖縄にいるべきではない
    海兵隊の位置づけ
    抑止のメッセージ
    本格的武力紛争への対応
    東アジアの公共財としての海兵隊
   第2部 海兵隊新ローテーション方式の提案
    米海兵隊の現状 
    31MEUと普天間飛行場
    提案:海兵隊新ローテーション方式
   1. 運用――ランデブーポイントと高速輸送船
    海兵隊配備のカギはランデブーポイント
    海兵隊の予算難を救うカギは高速輸送船
   2. 財政負担の転換――ホスト・リージョナル・サポート
   3. 同盟深化――日米 Joint MEU for HA/DR
    自衛隊にはすでに実績がある
    HA/DR の実例
    アジアの安全保障と HA/DR
   まとめ
   結論
   米海兵隊の歴史
   執筆者紹介
    柳澤 協二/屋良 朝博/半田 滋/佐道 明広/新外交イニシアティブ(ND)
  _______________________________________

<政策提言>

 米海兵隊普天間飛行場(普天間基地)の名護市辺野古移転計画は沖縄県民に受け入れられない。日米両政府が海兵隊の航空基地を維持するため辺野古埋め立てを強行すれば、空軍嘉手納基地の安定維持を犠牲にする可能性さえある。本提案は、海兵隊の運用自体を見直すことにより沖縄県内はもとより日本国内への新しい基地の建設なしに、普天間基地の返還を可能とするものである。即ち、沖縄県名護市辺野古への新基地の建設の必要もない。
 それは具体的に下記の方法により可能となる。

1. 現行の米軍再編計画を見直し、第31海兵遠征隊(31MEU)の拠点を沖縄以外に移転する。
2. 日米 JOINT MEU for HA/DR を常設する。
3. 日米 JOINT MEU for HA/DR の運用などを支援するため、日本が高速輸送船を提供する。
 米軍駐留経費の施設整備費を移転先で現行のまま日本政府が負担する。
4. HA/DR への対応、その共同訓練などアジア各国の連絡調整センターを沖縄に置き、アジア安全保障の中心地とする。

<説明>

1. 米軍再編を再検討し、現在行われているローテーションをさらに拡大し、ハワイを含む米本国からMEUをアジアへ展開させる新たなローテーション方策を検討すべきである。

2. フィリピンやタイで実施される HA/DR (Humanitarian Assistance/Disaster Relief/人道支援・災害救援活動)の訓練に米軍、自衛隊はもとより中国軍も部隊を派遣している。こうした軍事外交、協調関係を良好に維持するため、沖縄に連絡調整センターを設置し、 海兵隊司令部が各国代表と共同訓練の連絡調整をする。中国を含むアジア諸国が安全保障について議論する場所として沖縄を活用し、東シナ海、南シナ海の緊張緩和を含めアジア安保について議論する。軍事的に競い合う時代を過去のものとし、ソフト パワーを軸としたアジア安保の輪を沖縄からアジア全域へ広げていく。戦中戦後にわたり、多大な犠牲を払ってきた沖縄の21世紀にふさわしい姿であると考える。

3. 31MEUが HA/DR など平時任務で活用できる高速輸送船を日本政府が提供する。アジア各国で実施している多様な訓練ニーズに対応し、輸送所要にかかる高速輸送船提供コストを日本政府が恒常的に負担する。海兵隊にとっては経費の軽減が可能となり、日本にとっては日米同盟の目的であるアジアの平和と安全に貢献できる。

4. 日本政府が在沖海兵隊基地に提供している施設整備費を31MEUが拠点とする先で使える仕組みを創設する。

5. 沖縄配備の31MEUは1年の半分以上の期間をアジアへ展開し、同盟・友好諸国と共同訓練などを実施している。特に東南アジア諸国は HA/DR の需要が高く、この分野で日米同盟が新たな役割を確立することはアジア地域の安全保障にとって大きな意義を持つ。

<概要>

● 日本政府の政策は日米安保の根幹を揺るがす
 現在の政治的状況の下で辺野古新基地建設を強行すれば、沖縄県民の米軍基地への反発は、海兵隊のみならず、米空軍の拠点である嘉手納など他の基地への反対にも拡大し、米軍の駐留を不安定化させるとともに、日米同盟の基盤を揺るがす恐れがある。
 日米両政府は、沖縄県宜野湾市の普天間基地を同県北部の名護市辺野古に移設することで合意している。しかし、日本政府が普天間基地の辺野古移設に着手して以降の沖縄県における各種選挙の結果をみれば、辺野古への新基地建設に対する沖縄県民の反対の意志は不変である。基地建設予定地辺野古を抱える名護市の市長選はじめ、市議会議員選、沖縄県知事選、沖縄県議会議員選、そして、衆議院議員選挙・参議院議員選挙のいずれにおいても、辺野古基地建設に反対する候補者が勝利してきた。

 その背景には、沖縄県民12万人が犠牲となった1945年の沖縄戦に続く米軍の占領統治、さらには、日本への復帰後も続く基地の集中と米軍による度重なる事故と犯罪によって、沖縄県民の生活が脅かされているという県民共通の認識がある。近年、それは沖縄差別という強い言葉となって県民に広く共有されている。
 日米両政府は、沖縄県民の歴史的経験に基づく米軍支配に対する不満と失望を直視し、沖縄県内移設以外での解決策を早急に実行に移すべきである。「工事を強行して既成事実を作れば沖縄はあきらめる。彼らは金が欲しいだけ」といった妄想は捨てなければならない。まして「辺野古基地建設に反対すれば世界一危険な普天間を固定化する」といった脅しは、沖縄県民の怒りをさらに高め、怨念を生み出すだけである。怨念のマグマの上に作られる基地は、脆弱といわなければならない。

● 人道支援・災害救援(HA/DR)に特化した海兵隊の平時の所在は沖縄でなくてもいい
 日米両政府の計画によれば、海兵隊の主力である第4海兵連隊のグアム移転、第12海兵連隊の海外移転の後に沖縄に残留する主な部隊は、第3海兵遠征軍(3MEF)などの司令部機能と普天間の航空部隊を含む第31海兵遠征隊(31MEU)のみである。31MEUは、米本土から6か月の期間で交代配備され、沖縄から約430マイル(約700km)離れた長崎県佐世保に所在する海軍の揚陸艦に乗って東南アジア諸国を巡回し、HA/DR の共同訓練を主任務としている。31MEUが沖縄に滞在するのは、訓練と休養のためであり、平均して1年の3分の1に満たない期間となっている。

 HA/DR 活動は、東アジア地域の安全保障環境の改善に役立つものであるが、その実体を見れば、沖縄が提供しているのは、休養と練度維持のための訓練の施設である。そうだとすれば、31MEUの駐留先は沖縄でなくてもいい。必要なものは、佐世保に所在する揚陸艦との合流における利便性であり、それは、31MEUが米本土やハワイ、グアム、あるいはオーストラリアにいても、適切な輸送手段の選択により解決可能な問題である。
 日本政府は、辺野古への新基地建設のための巨額な財政負担を確約している。これを、31MEUの兵員や物資を輸送する高速船などの提供費用に転用すれば、大規模な海面埋め立てを伴う新基地建設よりもはるかに少ない費用で実現できるはずである。
 日米両政府は「移設先がどこか」という発想を切り替え、技術と運用による現実的な解決を見出すべきである。

● 日米 JOINT MEU for HA/DR による同盟深化
 31MEUの平時任務である HA/DR に関しては、自衛隊も高度な能力を有している。東アジアの HA/DR について自衛隊の能力を活用することは、地域の各国軍隊との連携を高め、安全保障環境の改善に寄与する。
 日米両政府は、現在31MEUが行っている HA/DR に自衛隊が参加するような制度を検討すべきである。
 沖縄に残留する3MEF司令部は、域内諸国が参加する東アジア HA/DR の共同センターの役割を果たすことが期待される。こうした地域共同の作業は、同じく地震や台風、干ばつや水害の被害に直面する内陸やASEAN諸国にも開放されるべきである。
 31MEUの沖縄県外・国外への移転にあわせてこうした構想を推進すれば、3MEFなどが残ることにより、海兵隊の「旗」を沖縄に維持するとともに、31MEUが単独で行う HA/DR を通じた地域の信頼醸成を、日米同盟を基軸に一層発展させることが可能となる。

● 海兵隊の有事来援基盤・・・事態拡大への実効的な抑止
 「海兵隊が沖縄から撤退すれば、中国に誤ったメッセージを与えるのではないか」という懸念が日米の安保関係者から聞かれる。だが、南シナ海の島々をめぐる領有権争いについては、外交手段を優先する柔軟な選択肢を維持することが米国の基本的国益である。
 この観点から言えば、海兵隊の抑止機能を過度に強調することは、中国のみならず域内の同盟国・友好国に「米国が第三国の領土紛争に海兵隊を必ず投入する」という誤ったメッセージを与え、緊張を高めるとともに、米国の手を縛るおそれがある。

 それでもなお、将来、武力をもって同盟国の領域が直接攻撃される事態に至る場合に備えて、米国は、海兵隊を含む来援の基盤を保持しなければならない。必要となる兵力は、2,000人規模の31MEUをはるかに上回る兵力が必要となる。米海兵隊の抑止力とは、島嶼をめぐる限定的な紛争に備えるものではなく、事態が拡大して本格的な侵略に至るような事態に備えるためのものである。

 したがって、重要なことは、31MEUが沖縄に駐留し続けることではなく「大規模な増援部隊が戦闘に参加する用意があること」である。それは、これまで米海兵隊が行ってきた装備の事前集積と、今回本報告書が提案する輸送手段の改善など、有事の来援基盤を目に見える形で維持することによって米国の意志を示すことである。日米両政府は、海兵隊実動部隊が国外に移転した後、引き続き沖縄を含む西日本の米軍・自衛隊基地を使用した自衛隊との共同訓練を定期的に実施することにより、有事に備えた日米連携要領を確認するとともに、実効的な抑止を追求すべきである。

<本文>

◆◆ はじめに

● 沖縄は基地を受け入れない
 日米両政府は、沖縄県宜野湾市の米海兵隊普天間基地を同県北部の名護市辺野古に移設することで合意している。現在の普天間基地の移設計画は、辺野古沖を埋め立て、2本の滑走路、揚陸艦が接岸可能な岸壁に加え、普天間基地にはない弾薬搭載エリアを備えた基地を名護市辺野古に建設するというものである。
 しかし、1996年4月、橋下龍太郎首相とモンデール駐日米国大使の間で普天間基地の返還が合意されて以来20年間、移設先とされた辺野古沖を埋め立てて新基地とする計画は、住民の反対に遭遇し、実現できていない。

 1996年の合意を促したのは、前年に起きた米海兵隊員による地元の12歳の少女へのレイプ事件を契機に、85,000人の抗議集会や、普天間基地を包囲する「人間の鎖」など、多数の県民による基地反対運動が高まったことにあった。このため日米両政府は、東アジアに10万人の軍事プレゼンスを安定的に維持する米国の戦略を確実なものとするため、普天間基地の返還を実現し、米軍基地の整理・統合・縮小を実現する必要に迫られた。

 およそ12万人の沖縄県民を犠牲にした1945年の沖縄における地上戦の後「銃剣とブルドーザー」によって土地を接収して建設された普天間基地は、米軍による占領の象徴であるとともに、危険の象徴でもある。普天間基地の周辺には、密集した市街地と複数の学校、保育園などの施設が存在する。普天間基地の返還は、地元住民にとって緊急の課題であった。同時に、占領と危険の象徴である普天間基地をなくすことは、極東最大の空軍基地である嘉手納基地など沖縄に所在する他の米軍基地が沖縄県民から許容されるための条件でもあった。

 2013年末、当時の仲井眞弘多沖縄県知事は、新基地建設のための辺野古沖の埋め立てに同意した。これに反対する現在の翁長雄志沖縄県知事は、仲井眞知事の埋め立て承認を取り消したが、政府はこれを認めず、埋め立て工事を強行してきた。
 翁長知事は、2014年の知事選挙で、埋め立てを承認した仲井眞知事に対する県民の反発を背景に、自民党支持者を含む6割を超える県民の支持を得て当選した知事である。沖縄自民党の最高責任者でもあった翁長知事を動かしたものは、沖縄に対する過重な基地負担は、沖縄が事実上の占領状態にあって日米両政府から差別されていることの象徴であり、沖縄の人々の意志によって沖縄の将来を決定するために、これ以上新たな基地は作らせない、という沖縄のアイデンティティーの再認識であった。

 2015年末から、翁長知事の埋め立て承認取り消しを巡って、沖縄県と日本政府間の訴訟が複数継続し、裁判の一つにおいては両者の真摯な協議が必要との和解もなされたが、結局現在に至るまで、政府が沖縄県の主張に理解を示すことはなく、沖縄県側の反対の姿勢をより強硬にしている。2016年12月、最高裁判所は、翁長知事による埋め立て承認の取り消しを違法と断定し、政府による辺野古沖の埋め立て工事が再開されることとなったが、大規模な埋め立て工事には必然的に設計変更が生じ、その都度知事の承認が必要になる。翁長知事は、すべての承認を拒否する方針であり、新基地建設には、さらに大きな障害が待ち構えている。

 加えて、2016年4月に発生、5月に容疑者の逮捕に至った元米海兵隊員による沖縄女性への残虐な強姦・殺害事件は、沖縄県民の怒りをさらに高め、沖縄県議会は、海兵隊の撤退を求める決議を満場一致で採択した。6月には65,000人が参加した県民集会が開催され、海兵隊の沖縄からの全面撤退を求める決議が採択された。また、12月に名護市沿岸で普天間基地所属のオスプレイが海面に衝突・大破した事故は県民に恐怖を与え、オスプレイの県外撤去を求める世論は一層高まった。

 辺野古に新基地建設を強行し、それが実現されなければ普天間基地を返還しないという日米両政府の姿勢は、沖縄県民の更なる怒りを招いている。この悪循環により、辺野古での新基地建設と、その基地への米海兵隊駐留を県民が受け入る可能性は失われた。

● 安全保障環境は変化した
 1996年の普天間返還合意から20年の間に、東アジアの軍事情勢は大きく変化した。アジア太平洋地域の米軍は、より機動性を重視した組織に再編され、地理的な制約を克服した新たな抑止力を構築しようとしている。20年前のように、この地域に常続的な10万人のプレゼンスを維持する必要性は失われている。
 沖縄に所在する定員19,000人の海兵隊のうち、主力の第4海兵連隊を含む約9,000人は、すでに沖縄からグアム、ハワイ、オーストラリアに移転することが予定されている。沖縄に残る唯一の実戦部隊である31MEUは、短期間の訓練で沖縄を使用するほかは、 東南アジア周辺を巡回している。辺野古の埋め立ては、従来の政府の試算でも3,500億円にのぼる莫大な費用を必要としている。この費用は、工法の変更によってさらに増大する。31MEUの休養と訓練だけのために、沖縄県民が許容しない新基地の建設を強行することは、軍事戦略や費用対効果、そして何より実現可能性の観点から、不適切な選択である。

● 辺野古に固執すれば同盟の危機となる
 今日、我々は、二つの現実を直視しなければならない。第1に、沖縄県民の忍耐は限界を超えたという現実である。このまま強制的手段によって新基地を建設すると、新たな基地反対のシンボルを作りだすことになる。米政府は、かつて米占領軍として「銃剣とブルドーザー」によって作った基地の代わりとして、日本政府の警察があからさまな反対運動弾圧を行い、海洋環境を汚染する工事によって作られる基地を望まないだろう。沖縄の怒りは頂点に達しつつある。
 第2に、海洋進出する中国に対する抑止の要は嘉手納に駐留する米空軍と横須賀を拠点とする米海軍であり、これらの基地の安定的使用が最優先課題となっているという現実である。
 辺野古の新基地建設に固執することは、嘉手納を含む米軍基地全体への反発を強め、かえって日米同盟の基盤を破壊しかねない。
 こうした観点から、新外交イニシアティブ(ND)では、辺野古に代わる現実的な選択肢を提示するため、過去3年間にわたって研究を進めてきた。本報告書は、その成果である。

◆◆ 第1部 辺野古に代わる選択肢

● 沖縄は日米政府の「不正義」に怒っている
 2015年9月、翁長雄志沖縄県知事は、ジュネーブの国連人権理事会総会で以下のように述べた。「沖縄県内の米軍基地は、第二次世界大戦後、米軍に強制接収されて出来た基地です。沖縄が自ら望んで土地を提供したものではありません。沖縄は日本国土の0.6%の面積しかありませんが、在日米軍専用施設の73.8%(2016年12月の北部訓練場過半の返還により、2017年2月現在は70.6%)が存在しています。戦後70年間、いまだ米軍基地から派生する事件・事故や環境問題が県民生活に大きな影響を与え続けています」。

 沖縄は、軍用機の騒音・爆音、墜落事故、山火事、有害物質の流出による環境汚染、性犯罪、殺人事件などの犯罪など、米軍基地から派生する様々な問題に悩まされてきた。例えば、米兵の犯罪率は高く、施政権が日本に返還された1972~2013年の間に限っても、米兵による犯罪件数は5,833件(年平均142件)で、うち 1割は殺人、強盗、強姦、放火などの重大犯罪であった。また、同期間において、飛行機事故は5,94件(年平均14件)起きている。米軍基地の過度な集中が犯罪件数の発生数につながっていることは容易に想像できる。
 また日米地位協定により、基地への立ち入りが極めて限定的で、基地内で起きる猛毒のダイオキシン汚染、PCB汚染、日常的なオイル漏れなど、県民の健康と生活に直接影響を及ぼしかねない環境汚染に地元自治体が直接関与できないのは地方自治の見地からも到底、適切とはいえない。

 「基地の島」とも呼ばれる沖縄では、沖縄本島の約20%が米軍基地に占められている。これらの米軍基地は、第二次大戦中の米軍の占領や1950~60年代の日本本土からの基地移転により建設され、現在まで使用され続けているものである。

● 基地の歴史と現状
 普天間基地は、大戦中の1945年6月頃、米軍が沖縄上陸ののち、宜野湾村(当時)の農村集落を占領し、日本本土を爆撃する最前線基地として利用するため建設した基地である。同年8月の終戦後、収容所や避難先から戻った住民が家に帰ると、一帯はすでに強制接収され、滑走路が出来上がっており、住民の立入りが禁止されていた。
 第二次大戦後も沖縄では米国による支配が続き、米軍が住民の土地を強制的に収用できるとする米占領当局の布令により、土地収奪が続けられた。

 また1951年のサンフランシスコ平和条約締結以降、日本本土では基地反対の世論が高まった。これを鎮め、同時に、米国の軍事費を削減するため、日本本土の米陸軍部隊や米海兵隊が沖縄へ移された。現在沖縄に配備されている米海兵隊も、岐阜県、山梨県、静岡県などから沖縄に配置されたものである。1972年に沖縄が日本に返還されたのちも、こうした現状は変わっていない。

 沖縄の人々は普天間基地の沖縄県内移設に強く反対し、大規模な反対運動を行ってきた。2004年4月に始まった辺野古建設現場における座り込みも12年以上続いている。日本政府は、反対する住民を排除するため、東京の治安対策部隊である警視庁機動隊を投入している。
 このように、普天間基地返還の条件と称して、これまでと同様の手法で新たな基地を押し付ける日米両政府の強制的な姿勢が、沖縄県民に負の記憶を呼び覚ましている。

● 辺野古が最善の選択肢という論理は破たんしている
 日米両政府が2013年4月の日米安全保障協議委員会(2+2)で合意した普天間代替施設の判断基準は、以下の4点であった。
 (1)運用上有効であること。
 (2)政治的に実現可能であること。
 (3)財政的に負担可能であること。
 (4)戦略的に妥当であること。

(1)運用上の有効性
 基地の規模と設備が、所在、来訪する航空機の運用上のニーズを満たし、飛行に制約がないことを意味している。
 現在建設が進められようとしている辺野古の新基地には、集落の上空を飛行しないように2本の滑走路を建設する計画が示されている。この設計では、天候の急変の際、作戦上の柔軟な運用が妨げられる可能性がある。規模と設備の面でみれば、現在および将来の配備機種・機数に見合う地積さえ確保できればよい。こうした候補地は、沖縄のような狭い島でなくとも、世界中に存在している。
 オスプレイが輸送する地上部隊との適正な距離も、運用上の判断基準である。地上部隊が必要とするのは隊舎と訓練場であって、31MEUの地上部隊と航空部隊がパッケージで移転することを前提とすれば、やはり候補地は世界中に存在する。

(2)政治的実現可能性
 これは、地元の自治体や共同体が基地の存在を許容することを意味している。
 辺野古の新基地建設は、計画が公表されて以降20年間、県、名護市および辺野古周辺地区の住民を分断する政治的対立の火種であり続けている。
 賛成する住民も、積極的に歓迎しているのではなく、住民を分断する対立状態に耐えられなかったり「世界一危険」と言われる普天間基地の返還の実現のためにやむなく受け入れようとしているに過ぎない。そのような消極的賛成の世論を根拠に基地を建設しても、 基地運用への十分な支持が期待できないばかりか、予期せざる事故や事件の発生によって一気に反対の世論に発展する可能性がある。ましてや建設に反対している住民の怒りはすさまじく、基地の安定使用は望むべくもない。
 したがって、辺野古は、最も政治的に実現可能性がない地域と言うべきである。

(3)財政的負担可能性
 日本政府の試算によれば、辺野古移設のために必要な財政負担は3,500億円である。この金額は、今後の設計変更などによってさらに増額されると考えられている。これは、日本の防衛関係費1年分の7%に上る額であり、決して小さな額ではないが、日本政府は、これを負担可能であると判断している。
 したがって、この3,500億円以下の経費で実現可能な計画であれば、財政的に負担可能ということになる。例えば、海兵隊主力のグアム移転に伴い日本政府が負担する金額2,700億円は、辺野古の基地新設よりも少ない。このグアム移転計画のように、既存の施設の拡張計画に併せて、大規模な埋め立てを必要としない施設を新設する代案であれば、現行計画よりも少ない財政負担で済む。そのような既存施設は、米本土をはじめ、アジア太平洋地域に数多く存在している。

(4)戦略的妥当性
 辺野古案の最大の問題は、戦略的妥当性を主張できないことにある。後に詳述するように、移動速度が遅く、ミサイル攻撃に対して防御力に欠ける海兵隊陸上部隊が中国の中距離弾道ミサイルの射程内に存在することは、米政府のアジア地域におけるリバランス政策において最も弱い「脆弱性の窓」となる可能性があり、米国の戦略にとって妥当とは言い難い。

● 米国の戦略上の利益のためには海兵隊が沖縄にいるべきではない
 1996年、普天間返還合意当時の米国の戦略は、中東および北東アジアの二つの大規模紛争(2 Major Regional Conflicts)に対処することを念頭に、欧州および極東にそれぞれ10万人の前方展開兵力を維持するというものであった。
 20年後の今日、米政府は、アフガニスタンおよびイラクにおける戦争の長期化の中で、膨大な財政赤字に対処するため国防費の強制削減に取り組んできた。大規模な軍事介入を控えるとともに前方展開兵力の配備を見直し、日本や北大西洋条約機構(NATO)などとの協力を必要としている。
 アジア太平洋においては、近年、中国の軍事的進出が急速に進んでいる現状を踏まえ、力のバランスを長期にわたって維持する再均衡化(Rebalance)を目指している。

 再均衡化戦略を特徴づける要素は、以下の4点である。
(1) 中国を封じ込めるのではなく、共有されたルールの下での共存を目標とする。
(2) 万一中国に対する軍事的対応(Hedge)が必要となった場合には、戦略目標を明確にしたうえで、それに見合う軍事力を展開する。
(3) そのため、米軍の態勢としては、宇宙・サイバーを含むC4ISR(指揮、統制、通信、コンピュータ、情報、監視、偵察)の優位性を維持するとともに、大規模な前方展開兵力よりも、必要な時に適切な規模の軍事力を必要な場所に展開できる輸送能力とアクセス可能な基地ネットワークを構築する。
(4) 同盟国・友好国の自助能力を高める。

 こうした軍事戦略の流れは、米国が「世界の警察官」としての役割を減らそうとする場合にも、米国自身の安全保障上の国益を長期にわたって維持するために必要であり、かつ自らの負担を軽減する意味でも、将来にわたって合理的であり続ける。

● 海兵隊の位置づけ
海兵隊の配備は、こうした戦略的トレンドの中で考慮しなければならない。その際、考慮すべき要素として、以下の点があげられる。

(1) 東アジアにおける再均衡化の焦点は、南シナ海、東シナ海および西太平洋という広域な戦域における力のバランスの維持である。
(2) 海洋のコントロールを担うパワーは海軍力と空軍力であり、これに対する脅威は、基地および空母を標的とするミサイルおよび潜水艦である。
(3) 陸上拠点となる基地および周辺海域の防衛は、主として受け入れ国の役割であり、日本の自衛隊は、防空作戦、対水上艦戦、対潜水艦戦および米軍と連携したミサイル防衛の能力を向上させている。

 これらの要素からみて、東アジア・西太平洋のパワーバランスの維持にとって、海兵隊の沖縄駐留が不可欠とは言えない。加えて、 沖縄は、中国の中距離弾道ミサイルの射程内にあり、海兵隊を含む地上兵力は、ミサイルの脅威に対して脆弱である。東アジア・西太平洋における海兵隊の前方展開を維持するのであれば、ハワイ、オーストラリアなど、中国の中距離弾道ミサイルの射程外に拠点を置くことが合理的である。

● 抑止のメッセージ
 日米の安保関係者の中に「海兵隊が沖縄から撤退すれば中国に誤ったメッセージを送ることになる」という懸念を表明する向きがある。これは、客観的に見て妥当な懸念と言えるだろうか。
 これまでの日米両政府の合意によれば、最終的に沖縄に残留する海兵隊の実戦部隊は31MEUのみとなる。上記懸念は、31MEUのような規模、機能を持った部隊が残留すれば、中国に対する十分な抑止力になるという認識を前提としている。
 加えて、日本では、海兵隊が沖縄にいることが尖閣防衛にとって必要であるとの考え方が一般的である。この考え方は、米政府が、日本と中国との紛争要因となりかねない尖閣諸島の防衛に必ずコミットし、沖縄に残る31MEUが尖閣防衛の抑止力になるという認識を前提としている。

 しかしこれらの認識は、2015年の日米防衛協力指針における定義と矛盾する。この指針では、一義的に尖閣を含む離島の防衛は日本の自衛隊の役割であって、米軍は「支援し、補完する」という役割に留まるとしているからだ。
 さらに、日中固有の領土問題である尖閣に米政府が海兵隊を使って必ず介入するとの認識を放置すれば、将来の紛争における米政府の対応の自由を奪い、米国の国益を損なう可能性がある。

 一方、陸上自衛隊は、尖閣を含む離島防衛を目的として、オスプレイを保有する3,000人規模の水陸機動団を2018年度に新設する計画を持っている。これは、辺野古新基地を使用する予定の31MEUと同等以上の規模であり、沖縄周辺の離島防衛を主任務としている。
 この部隊は、航空自衛隊の輸送機や、海上自衛隊が保有する揚陸機能を持つ輸送艦に搭乗して遠距離の作戦にも従事できる予定であり、東南アジア地域における HA/DR にも対応可能である。

 したがって「中国に対して誤ったメッセージを送らない」という配慮は必要であるとしても、それは、沖縄の海兵隊でなくても日本自身の防衛努力によって代替可能である。他方、海兵隊の沖縄駐留に固執すると「海兵隊さえいれば、離島防衛は万全」という日本国内に対する誤ったメッセージとなることを考慮しなければならない。

● 本格的武力紛争への対応
 離島をめぐる領域紛争の枠を超える本格的武力紛争が生起した場合、31MEUが沖縄に所在すれば、台湾、朝鮮半島に比較的短時間で駆けつけることはできる。だが、こうした本格的事態において必要となるのは米本土から動員される1個あたり1万人を越える師団および旅団規模の大規模な兵力であり、沖縄に残留する2,000人の31MEUでは戦局を左右できない。
 米国の抑止力にとって不可欠なのは、中国の眼前に小規模の即応戦力を置き続けることではなく、必要な時に来援する大規模兵力を受け入れる基盤を維持することである。それこそが米国の選択的コミットメントの象徴となる。全国各地にある自衛隊の基地、駐屯地および演習場は、有事の米軍来援を受け入れる基盤として活用することができる。
 沖縄から撤退した米海兵隊がこれらの施設を使って共同訓練を行うことによって、米国のコミットメントの意志を示し続けることが可能である。

● 東アジアの公共財としての海兵隊
 東アジアの安全保障上の懸念は、中国による海洋進出と北朝鮮の核開発にとどまらない。この地域は、台風・地震・津波など世界有数の大規模な自然災害が多発する地域でもある。
 31MEUは、こうした災害において大きな役割を果たすとともに、日ごろから域内各国を訪問して2国間および多国間の訓練を行い、各国の能力向上と信頼醸成を通じた安全保障環境の改善に貢献している。これは、海・空軍が提供する軍事的な抑止力とともにこの地域の安定を支える二本柱の一つである。

 HA/DR の分野では、自衛隊も、その高い能力を活かして米軍とともに活動しており、さらに連携強化する余地がある。第2部で述べる「日米 JOINT MEU for HA/DR」は、この地域の現実の脅威である災害対処において、日米が主導する中国を含む多国間の安全保障協力関係を構築する絶好の機会を提供する。
 また、日本は、フィリピン、ベトナム、インドネシアに対する巡視船の提供などを通じ、海洋の安全管理に関する能力向上を支援している。こうした一連の施策によって、日米同盟は地域安全保障の中核的な公共財として深化を遂げることができる。

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※提案は長文のため、第一回はここまでで終わり第二回は10月号(166号)に掲載します。

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