【時世時節】

国連の眼で見た日本の問題点

     ——「ジャニーズ」に厳しい見方

羽原 清雅

 国際連合の人権理事会「ビジネスと人権」作業部会の専門家チームが来日、12日間、東京、大阪、愛知、北海道、福島の各地を訪問。政府と各省庁、地方自治体、多数の中小を含む企業や経済団体、民間団体、労組や民間団体、人権活動家やジャーナリスなど広範に話を聞いて、日本の現状が抱える問題点を指摘した。
 その記者会見に筆者も出席したのだが、異様なほど多数のテレビなど報道陣が詰めかけていた。だが、投げかけられた質問の9割以上が「ジャニーズ問題」ばかり。
 確かに「人権」の調査団で、性的被害者にも事情を聴いており、会見でも「ジャニーズ事務所のタレント数百人が性的搾取と虐待の巻き込まれた疑惑」「日本のメディアは数十年も、この不祥事のもみ消しに加担」「政府や被害者の関係企業が対策を講じる気配がなかった」など、この問題の重大性を指摘した。それはそれで重要な報道の課題だ。
 だが、このチームの日本の人権問題の指摘は多岐にわたる。日本人の立場では「そうは言っても」「改革は難しく、仕方あるまい」と日常的に思いがちな課題を指摘された。ただ、<国連という海外から見た今の日本の姿はこうなのか>と、なにかあるべき姿を思い起こさせられ、望ましい方向に進むべきひとつの指標かとも感じられる会見だった。日本の対応をほめてもいるのだが、反省の部分をいくつか挙げてみたい。
 ・日本は2020年に「ビジネスと人権に関する行動計画」(NAP)を策定したが、東京以外の地方での認識が全体として欠如、政府は研修と啓発の主導的役割を果たすべき。全都道府県で企業、労組、市民社会、地域社会の代表たちの関係者に、人権上の義務と権利を十分に理解させる必要がある。
 ・幅広い人権問題への裁判官の認識が低い。裁判官や弁護士を対象に人権研修の義務化を強く推奨する。長い裁判手続きで救済へのアクセスが妨げられているとの声もあった。
 ・日本のジェンダーギャップ指数のランキングは146国中125位と低い。政府と企業はこの格差解消に努めるべきだ。女性のパート労働は非正規労働者全体の68.2%、男性の非正規労働者賃金の80.4%に過ぎない。日本の労働構成のジェンダー不平等を示している。
 ・LGPTQI+(性的少数者・トランスジェンダー)の人々の権利を実効的に保護する包括的差別禁止法が必要。一般市民の認知度はまだ限定的で、さらに進めて、施策の採用、支援、企業の取り組みを奨励する。
 ・福島原発での清掃と汚染除去の取り組み、廃炉についての憂慮すべき労働慣行、強制労働や搾取的下請け慣行、安全性を欠く労働条件など、深い憂慮をもって聞いた。東電の下請け構造は5層に及び、下層の下請けの賃金は極めて低い。懸念を漏らすと解雇されるとも。
 ・日本の外国労働者はリスクの高い状況、劣悪な生活状況、出身国仲介業者の法外の手数料、同一仕事なのに低賃金などの問題のあることを聞いた。技能実習制度をめぐる人権問題などを政府が検討中、と聞く。併せて出身国政府と連携し仲介手数料の廃止、申請制度の簡素化、実習生転職の柔軟化、同一労働同一賃金制の確保など、明示的な人権保護規定の盛り込みを期待する。
 ——言うべくして実行は難しい。とはいえ、マイナスの事態が起きての改革では遅い。海外の目線をもう一度率直に感じてみる努力は必要だろう。

  <この記事は山陰中央新報に掲載される予定です>

                 (元朝日新聞政治部長)

                           以上
(2023.8.20)
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