【コラム】大原雄の『流儀』

国際社会は<負の連鎖>懸念の「挑発」ばやり?

大原 雄

★北朝鮮の80発の「挑発」ということ

 例えば、マスメディアが「韓国軍合同参謀本部は、(11月)4日、北朝鮮が3日午後11時28分ごろ、韓国との軍事境界線に近い江原道金剛郡周辺から日本海に向けて約80発の砲撃を行ったのを確認したと発表した」(朝日新聞11月4日付夕刊記事より引用)という記事を掲載する際、「韓国軍は北朝鮮側に対し『こうした挑発は(略)すぐに中止するよう(略)
』と警告した」という記述が添えられている。朝日新聞は、これより先、11月4日付の朝刊記事で一面トップには、「黒ベタ白抜き」の4段見出しで「北朝鮮ICBM発射か」、左隣りの副見出しで「新型『火星17』失敗と推定」、さらに3段の見出し「朝夜弾道ミサイル計6発」という同じ事変についての記事があった。これらの見出しは韓国、アメリカ、そして日本政府の視点で書かれている。この時の記事は、この視点に基づき全体が北朝鮮による「挑発」というトーンでまとめられていると思う。

 ところが、長い記事を注意深く読むと、次のような記述が挟まれている。
 北朝鮮は、10月31日〜11月4日の日程で予定されていた朝鮮半島付近での米韓両空軍の大規模な訓練に対して『史上最も大きな代償を払うことになる』と批判する声明を出しており、(略)」とか、「北朝鮮は9月下旬以降、米韓の軍事演習などに反発してミサイルの発射を加速させている」、「米韓両軍は3日、北朝鮮のミサイル発射を受けて、4日までの予定だった(略)訓練の期間の延長を決めた」などという記述が散見される。
 要するに、本記記事を丹念に読むと、北朝鮮ばかりが「挑発」しているわけではなく、米韓もまた北朝鮮を「挑発」しているということが判る。

 これは、北朝鮮と米韓のお互いの情報戦の実態をきちんと書かないとメディアの視点としては、よろしくないのではないか。日本のメディアは、「ミサイル発射」というニュースについては、場合によっては、アクシデントが重なり、偶発的に北朝鮮による日本侵攻という事態につながってしまう可能性もないわけではない、いやなりうるということで、「ミサイルが飛んだ、落ちた」と熱心に記事を書くが、なぜか、北朝鮮がミサイルを飛ばす、その裏にあるものは、あまり書いていないのではないか。

 例えば、11月5日の朝刊一面ながら、見出し1段のベタ記事が重要だと思う。見出しは「北朝鮮の軍用機警戒線近く飛行」、記事をピックアップ的に引用しよう。まず、韓国軍の情報として、
既報の「北朝鮮は3日(略)約80発の砲撃を実施。(略)北朝鮮の軍用機が韓国側の定める警戒線の北方で飛行した多数の航跡が把握され、韓国空軍の戦闘機約80機が緊急発進した」。
緊迫感が生々しい。問題の米韓空軍の合同訓練については、延長は1日間だけで、韓国側の要請で延長したという。さらに、韓国軍は7日から10日の日程で、演習を実施するという。
朝日新聞は、11月8日の朝刊記事では、(北朝鮮軍は、)「一連の軍事行動を米韓両空軍が10月31日〜11月5日に実施した合同訓練への対抗措置と位置付けている」と報じている。

★中国は、ロシアのようにダメにならないのか? 
10年後の習近平は、いまのプーチンか

 中国共産党の新たな指導部が(10月)23日、発足した。朝日新聞24日付朝刊記事より引用。一面トップ記事は、4段見出し。「習氏1強が完成 新体制」。隣の副見出しは、「後継者不在 4期目も視野か」。なんとも息苦しい国になってしまったものだ。中国は?

 習氏以外の6人で構成する中国の最高指導部政治局常務委員・「七人衆」が1対6でバランスが取れるとでも思っているのだろうか。この人工的なバランスでは、早晩値崩れを起こすだろうと私は思っている。人民大会堂で先頭を歩く習近平の姿を思い出してほしい。習氏のみが微笑んでいる。機嫌よく手を振っている。後ろからついてくる茶坊主6人組の表情は硬いまま。毎日が「習さんの日」。ますます、習氏の顔がプーチンに見えてくる。「プーチンの眼を見よ!」あの眼が人間の眼に見えるだろうか? あんな眼をしたまま、さらに5年も生き延びられるのか。ましてや、10年なんて生き延びられるのか。指導者ではない専制的権力者。批判に晒されないまま腑抜けになり、君臨しているつもりでも、いつの間にか後ろ向きにされている。背後の世界には、サポートしてくれる後継者は誰ひとりいない。不在なんだ。

★中国、「主席制復活せず」

「中国共産党は26日、先の党大会で採択した党規約の全文を公表した」。朝日新聞10月27日付朝刊記事引用。「台湾独立に断固として反対し、抑え込む」ことなどが新たに明記されたが、「一方、習氏への忠誠を意味する『二つの確立』のほか、党主席制の復活、『領袖』の称号はいずれも盛り込まれなかった」。誰か具眼の士がいるのか。愚鈍だが、「民主主義制度」のおかげか。

★ロシア発フェイク情報戦とメディア

 「ロシア発SNS 情報戦」という4段見出しが躍る。情報戦というよりフェイク合戦。朝日新聞10月26日朝刊記事引用。副見出しは、2本並ぶ。①反政権派(黒ベタ白抜き)「動員の実態を投稿」②親ロ派(黒ベタ白抜き)「プロパガンダ利用」。本記記事は、概要以下の通り。

 「ロシアによるウクライナ侵攻で、SNS『テレグラム』の存在が高まっている。ロシア国内で接続可能なため、市民が悲惨な動員の実態を告発したり、…(略)プーチン政権側も負けじとプロパガンダを流しており、(情報戦は、——引用者補筆)もう一つの『戦場』となっている」、という。

★TOKYO FILM 2022

 映画の秋。今年で35回目の開催。毎年秋に定着した東京国際映画祭(10.24〜11.2)が、去年に引き続いて開催された。東京のコロナ感染者は、第8波を窺うような不気味なウイルスたちの「高止まり状態」のままだが、映画祭は、感染予防の対策をいろいろ据えて、コロナ禍を乗り越える。「飛躍」をキーワードに乗り越える構え、と見た。

 東京メトロ日比谷線の日比谷駅。地下改札を出ると、その界隈は、現代風の店舗街もない昔から都民らが馴染んでいる昭和的なムードのままの空間であり、ありふれたの通路が見える。黄色地にA1、 A2などの案内も古めかしい。バイパスのような通路の曲がり角を曲がると通路の先にエスカレーターがある。通路の続きの感じ。エスカレーターに乗って、上に上がると、そこには全く別の街が、突然出現する。日比谷地区の再開発で生み出された「東京ミッドタウン日比谷」という空間。エスカレーターの上の空間は、メトロの日比谷線の日比谷駅外の通路とパラレルながら異次元の全く違う別の街に変身しているように見える。

贅言;ちなみに、メトロの管理領域は、各駅の改札口内まで。改札口に外は、メトロではなく、地上と同じ一般的な地域社会。だから、車椅子などに載っているとホームから改札口までは、エレベーターなどで繋がるようになってきているけれど、A線の改札口からB線の改札口までは、車椅子利用者には繋がっていない。

 以下の年表が物語るように、日比谷・有楽町・丸の内・銀座界隈は、地区として一つのものとして見ると、東京の映画館「街」の発祥の地と言っても、良いかもしれない。ならば、東京国際映画祭も、もっと一体感を工夫した方が良い。私もバラバラな会場探しで苦労した。

 いつから、地域開発に映画館街というコンセプトが付け加えられたのか、気になり出した。

1903(明治36)年、浅草、電気館。活動写真の初の常設館。
1920(大正09)年、新宿、武蔵野館。
1921(大正10)年、銀座、金春館。松竹初の直営館。
1927(昭和02)年、丸の内、邦楽座。パラマウント初の直営館。
(以下、略)

 年表を見ると、日比谷・有楽町・丸の内・銀座界隈には、その後も新たな映画館の開館が相次いだことが判る。「映画館街」は、今なら「デジタル街」ということか。

 今年で35回目となる東京国際映画祭は、一昨年まで東京・六本木地区をメイン会場に開催されていたが、コロナ禍の中、去年からメイン会場を日比谷・有楽町・銀座エリアに移された。今年は、さらに・丸の内も加わった。それに伴い、映画祭参加作品の上映会場も増え、上映本数も増えた。去年の86本から今年は111本に増えたという。その結果、観客数も約6万人と増えた。第35回東京国際映画祭の最高賞の東京グランプリには、スペイン・フランス合作の「ザ・ビースト」が選ばれた。映画はスペインの寒村に移住してきた夫妻が風力発電施設の建設で沸く地元住民と対立する物語。
 今年は「今、東京でしか観られない映画」、「誰もが観たくなる映画や誰も観たことのない映画」を「この10日間でお見せします」というのが、キャッチフレーズ。

★映画「東京公園」監督・青山真治、主演・三浦春馬

 東京国際映画祭は、新しい映画、若い世代の映画を観ることが出来るので毎年興味深い。そういう映画は、誰もが映画批評を書くかもしれないので、
ここでは、古い映画、見逃してしまった映画を取り上げたい。

 映画「東京公園」は、2011年製作・公開。119分。監督、主演俳優の二人ともすでに亡くなっている。原作・小路幸也。東京国際映画祭で一般公開。

 東京ミッドタウン日比谷横の「日比谷ステップ広場」で野外公開していたので大画面で観てきた。映画「東京公園」は、当初、登場人物の人間関係が判りにくく、さらに場面展開に当たっていろいろなことが曖昧に、曖昧になるように意図的に描かれていて(途中から、監督の演出意図が判り、筋を理解しようという気持ちを棚上げにしたら、観る方も楽になった)困惑した。

 しかし、もっと困惑したのは、大画面が設置されたステップ広場が吹きっさらしで、午後6時半からの上映中、気温低下が感じられた上に、高層ビルとゴジラの像がある辺りは、ビル風の通り道になっているようで、時折、山のむき出しの尾根道を歩いているような感じで強い風がビュービュー吹き付けてくることであった。今は亡き青山真治監督作品・三浦春馬主演作品ということで、観客席には若い女性も、高齢者も姿が見えるということで上映前には、簡易椅子席はほぼ満席だったが、1時間もしないうちに、寒さにたまげて席を離れる人が目立ち始めた。皆、2時間前後の長編作品が多い。

 私自身は寒さを忘れて大画面に気持ちを集中する。まずは、主な人間関係。
写真家志望の大学生:志田光司(三浦春馬)は高井ヒロ(染谷将大)という幽霊と同居している。幽霊の姿は光司と観客(私たち)にしか見えない。今や幽霊になったヒロの恋人で光司にとっては幼馴染:富永美優(榮倉奈々)が料理などを持って光司を訪ねてくる。光司はゲイのマスター:原木健一(宇梶剛一)の経営するカフェバーでアルバイトをしている。光司の義理の姉:志田美咲(小西真奈美)と富永美優はバーの常連同士。

 光司は公園で家族写真を撮るのが好きだ。隠し撮りで写真を撮っていたら見知らぬ男:歯科医師:初島隆史(高橋洋)が脅し半分の調子で変わった依頼をしてくる。公園で幼女を乗せたベビーカーを押して散歩している女性:百合香(井川遥)の写真を本人に気付かれずに尾行して撮ってきてほしいという。腑に落ちないまま依頼を引き受ける光司。

志田杏子:美咲の実母(井川遥)が倒れたと聞いて光司は美咲と一緒に両親(連れ子同士の再婚というのが、青山監督アイディアの「カラクリ」機構)のいる伊豆大島へ向かう。大島の両親の家で光司と美咲は初島や富永のことを話し合う。翌日、光司と美咲は父親:志田実(小林隆)に連れられて筆島(ふでしま)を見に行く。母の連れ子:美咲は筆島を見ながらなぜか涙を流す。志田実は、光司の実父。

贅言;「筆島」は、伊豆大島・元町側にあるパワースポット。形が筆の穂先に似ているところから「ふでしま」と呼ばれている。島だが、岩のように見える。海中から高さ約30メートル程の小島だが、後ろの断崖絶壁とあわせてダイナミックな景観が楽しめる。
実は、筆島は100万年前から数十万年前まで活動していた3つの火山の一つで、「筆島火山」と名づけられたという。現在では筆島火山の「火道」(マグマの通り道)で固まった岩であると考えられている。
帰京後、光司は大島での出来事を富永美優に話す。富永美優は光司に美咲の写真を撮るようにと勧める。光司は姉:美咲のマンションを訪れ、美咲の写真を撮り始める。レンズを通して美咲を見ていた光司は、やがて姉に近づき、接吻する。「姉さんが姉さんでよかった」「光司が弟でよかった」と言葉を交わした後、二人は別れる。その夜、美咲は仕事を辞めてしばらく大島で暮らしたいと父親に伝える。

 光司は初島に頼まれたアルバイトを辞めたいと告げる。女性:初島百合香が幼女を乗せたベビーカーを押して巡った公園の場所を地図上に記載して繋ぐと線の奇跡がアンモナイトの(つまり、螺旋状の)形になると光司は初島に報告する。女性:初島百合香(歯科医師の妻)の浮気を疑っていた夫:初島隆史は驚く。アンモナイトは初島が(恋人時代の)百合香に贈った最初のプレゼントだったという。光司は、初島の謝礼の受け取りを拒否し、自分のデジカメのSDカードを手渡す。さらに初島に妻の写真を撮るようにとデジカメも渡すのだった。

 後日、富永美咲は光司の家を訪れる。頼れるのは光司だけだと言う美咲を受け入れ、二人は光司の家で同居することになる。光司の家の押入れに住んでいたヒロの幽霊はいつの間にか姿を消す。光司にもヒロの姿が見えなくなる。

 さらに、後日。光司と美咲はホームセンターに行く。娘を連れた初島夫婦を見かける。お互いに相互に無言で会釈を交わす。美咲の「よかったじゃん」という微笑みに包まれ、二人はホームセンターの店内に入って行く。

 配役が判りにくい。人間関係の再構築をしながら、画面を観ていたので、疲れた。
ストーリー展開が、緻密にできていないので、穴が空いていると思った。
タイトルになった「東京公園」の意味も判りにくい。結末は、二組のカップルは、それぞれ、危機を乗り越えそのまま再出発する、という大団円で難しくもないラスト。

 東京公園=都心部に大きな公園(皇居が基軸)がある大都会。それをさらに抱き込んだような街が大東京か? 「大東京の大公園」がコンセプトか?

 映画の中の科白:「宇宙人に東京の中心には何があると聞かれたら、巨大な公園があると答える。君の写真は被写体を温かく包んでくれる。まるで公園を包む東京のようだ」。

 国際的な受賞歴の作品なのに、一般公開後の批評子は、なぜか、アラ探しが多かったようだ。

★クリミア橋、渡れるか?

 こちらの画面の方が、アクション好きなアメリカ映画のようだが、これは、「陰謀事件」である。

 クリミア橋。互いに接近してくるトラックと燃料タンク車を牽引する貨物列車との「接点」への連携の手順がまだ判らない。犯行グループは複数だろうから誰かが爆発事件の「絵」を描いたとして、誰が複数でその絵の通りにトラックから燃料タンクへ「炎の道」を直線で繋げたのか。人を介在させて「放火」を実行したのか、あるいは、人を介在させないシステムで炎を引火させ燃料タンクを爆発させたのだろうか。爆発を「実践」させたことは、間違いなくその犯行実現が証明している。熟練テロリストの仕業か。しかし、トラックに積んであった貨物と燃料タンクの「接点」の瞬間がどうであったのかが、まだ見えないだけだ。

 10月8日早朝。ロシアの領土からウクライナに向けて走るトラック。トラックを運転する51歳のロシア人は、インターネットを通じて荷主から貨物を受注し、運送中だったという。命懸けの作業の報酬はいくらだったのだろうか。社会の下層で真面目に生き抜く中年のロシア人とは、どういう人だったのだろうか。

 クリミア橋は、鉄道・道路併用橋(道路と鉄路の二重構造からなる橋。道路橋は、片側2車線。鉄道橋は複線)である。青い海が輝く海峡に浮かぶ白い橋梁は、道路と鉄路がほぼ並走する構造の橋だ。

 道路として利用される橋梁をトラックはロシアからウクライナに向けて疾走する。一方、道路より橋脚が高い鉄路をウクライナからロシアの領土に向かって驀進してくる貨物列車。長い車列だが、機関車はいったい何両の貨車を牽引していたのだろうか。貨車のうち、燃料タンク車は、爆発した7両だけなのか。トラックと列車は、橋の上のどこですれ違えば、引火・飛び火で、「効率的に」炎の連鎖が成り立つとは誰が計算をし、その数式通りに解答を出したのだろうか。現場検証をすれば、分かりやすそうな基礎的な疑問の情報がまだ伝わってこない。

 10月7日は、プーチンの70歳の誕生日だった。その翌日の早朝、クリミア橋上では、予兆もなくいきなり大きな爆発が起きた。橋梁に設置されている固定監視カメラが爆発直前と直後のクリミア橋の現況を映し出し録画もしているので、爆発の凄まじさがよく判る。特に爆発によって一気に噴出した黒い煙の量がもの凄かった。爆発物の強力さか?

 2014年にロシアが一方的にウクライナを併合し、8年経ってもロシアが実効支配を続けているウクライナ南部のクリミア半島。本来は半島の最先端に位置する岬の部分で海は、二つに分けられている。つまり半島の南側が黒海、北側がアゾフ海である。二つに分かれる海の部分がケルチ海峡である。ケルチ海峡では、橋ができる前は、フェリー航路で結ばれていた(フェリーは1時間半ごとに1便出ていて、両岸を30分で結んでいたが、いまはどうなのか)。

 ウクライナから見れば、半島の玄関は、半島の付け根、西端が地政的にも歴史的にもウクライナ領土側との接点が、本来の位置だろう。まるでロシアは、他人の家のベランダに「外から」梯子を掛けて新しい接点構築を「工作」して室内に忍び入るように、そう、ロシア領土とウクライナの半島を「裏から」結ぶように工作して「クリミア橋」を架けたのである。長さ18キロ余の橋は、クリミア半島とロシア領土を繋ぐ形になっている。

 クリミア橋は、欧米からの批判の声をよそに、2014年の併合後に建設に着手し、プーチンが通算4選を果たした2018年の大統領選挙に合わせて道路橋を完成させた。「クリミア併合の象徴としてプーチン氏が威信をかけて架けた橋」(防衛研究所・政策研究部の兵頭慎治部長)だ。まさに、プーチンお手盛りで建造された橋梁なのである。それだけにプーチンのような人柄なら、クリミア橋の爆破・崩落は、顔に泥を塗られたという思いは強いだろう。彼の面子意識も格段に強いものがあるのだろう。

 クリミア橋は、2015年5月着工で、まず、道路橋が2018年5月に開通した。鉄道橋は2019年12月に開通した。わずか3年ほど前に完成した新しい橋である。ロシアがこれまで建設した橋の中では、最も長く、ヨーロッパ全体で見ても最も長い橋である。それに地層の関係もあるのだろうが、海上で幾重にか曲がる曲線のフォームが美しい橋である。

 ケルチ海峡に架橋するという夢は、ずいぶん昔からあったと言われる。しかし、実際の橋の建設では、第二次世界大戦(独ソ戦)中の1943年、ナチス・ドイツの軍需大臣アルベルト・シュペーアが架橋計画を提案した。コーカサスの戦いでドイツ国防軍を優位に進めることが狙いであったが、すでにドイツ軍は劣勢に傾いていた。1943年3月、ドイツ総統アドルフ・ヒトラーは「6ヶ月以内にケルチ海峡に鉄道道路併用橋を建設するように指示した。4月には工事が始まったが、9月1日にはソビエト軍の総攻撃が始まり、ドイツ軍は撤退を余儀なくされた。この時点で橋梁の全体の3分の1が完成していたが、ドイツ軍は撤退の段階ですでに完成していた部分を爆破して敗走した。

 クリミア橋は、また、「ケルチ海峡橋」とも言う。ロシア領土のクラスノダール地方のタマン半島とクリミア半島(ロシアが一方的に「クリミア併合」をした後は、「クリミア共和国」として、ロシアが実効支配しているのはご承知の通り)の間を結ぶ鉄道・道路併用橋(道路と鉄路の二重構造からなる橋)である。鉄道橋は全長18.1キロ、道路橋は全長16.9キロである。

 クリミア橋は、真っ先に見た朝日新聞記事で「クリミア橋」となっていたのを引用したこともあり、今後も「クリミア橋」で統一しておく。他紙やテレビ番組などでは、「クリミア大橋」という表記・表現を使っている。

★ 古都(キーウ)を守れ!

 10月10日早朝から、ウクライナ全土は、ロシアからのミサイルの軍団に襲われた。首都キーウ(旧キエフ)では、4ヶ月ぶりの攻撃に見舞われた。キーウ中心部を含めて、ウクライナの30ヶ所以上の各地をロシア軍のミサイルなどが攻撃した。ロシアの大統領・プーチンは「テロ行為への反撃(つまり2日前にロシアとクリミア半島を結ぶクリミア橋の上であった爆発に対する反撃だ)」と主張し、さらに継続して報復攻撃を続けるという構えを見せていた。
防衛研究所・政策研究部の兵頭慎治部長は、(今回のロシアのミサイル攻撃は)
「クリミア橋の爆破に対して取り得る通常兵器による最大限の報復措置といえる」(朝日新聞10月12日付朝刊記事より引用)とコメントしている。

 マスメディアなどの報道によるとミサイルなどによる被害の概要は次のようである。まず、ウクライナ軍参謀本部の説明によると、ロシア軍は、合計84発の巡航ミサイルと合わせて24機の無人航空機(ドローン)で、各地を襲撃したという。

 これに対して、ウクライナ軍は、43発のミサイルと13機のドローンを打ち落としたという。ウクライナの撃退率で見ると、ミサイルで、51.2%、ドローンで、54.2%ということになる。

 極東の何処かの国が、目下、盛んにさまざまな様タイプのミサイルを演習と称して撃ち続けているが、日本が襲撃された場合、単純に言えば、ミサイル攻撃の半分は、撃ち落とされずに、日本の領土を襲うということになるのだろうか。

 迎撃ミサイルを避けて敵地内に着弾した半分近いミサイルは非戦闘員の市民の生命の財産も奪うということになる。こういうものを見せつけられた後、国民は、防衛予算は今のままでは不十分なのではないか、という議論が巻き上がってくることは自民党を支持する保守層では「必至」なのではないかと、危惧する。

 ウクライナ各地で被災・破壊されたものは、人間の生命を始め、電力設備、水道、住宅を含む建物、文化施設、公園などが破壊された。大統領府や独立広場、キーウ大学、劇場などがあるキーウ中心部。キーウ大学に近いタラス・シェフチェンコ公園では、普段なら子どもが遊ぶ滑り台や赤いシーソーがある場所の真横に深さ3メートルほどの穴が開き、ミサイルとみられる焦げた残骸が落ちている。子どもが遊ぶ時間帯なら、子どもたちも戦禍に巻き込まれていた可能性がある。この公園は、大統領府まで1キロあまりしか離れていない。意図的なディスタンス(距離感、接点)ではないのか。

 キーウ市のクリチコ市長は、「市内では、70以上の住宅や学校、医療機関などが被害を受けた」と説明している、という。プーチン、狂った権力者は、苦し紛れに市民生活の中に「戦場の狂気」を持ち込み始めたのか。ロシアによるミサイル攻撃は、11日も、同じように続けられた。

 「ウクライナ軍参謀本部は11日、ロシア軍が同日ウクライナ全土に対して行った攻撃が、巡航ミサイル約30発のほか、多連装ロケット砲による攻撃25回などにのぼったと発表した。このうち、ウクライナ軍は21発のミサイルを撃ち落とし、11機の無人航空機(ドローン)を破壊したという」(朝日新聞10月12日付夕刊記事より引用)。

 「巡航(じゅんこう)ミサイル」とは、航空機のように翼と推進力を持ち、長距離を自律飛行し標的を攻撃するミサイルである。また「多連装(たれんそう)ロケット砲とは、複数のロケット弾を一斉に発射することができるロケット砲のことである。「弾道ミサイル」とは、空気が非常に薄く、抵抗が少ない大気圏の高層や宇宙空間といった高々度を飛行するため、同じエネルギーでもより遠距離に到達することが可能であり、また、大気中を飛行する航空機や巡航ミサイルよりもより高速となる。このため、弾道ミサイルには、一般的に「長射程」、「高速」、「高々度」などの特徴がある。

贅言;「ロシアのショイグ国防相は8日、ウクライナ侵攻の総司令官にセルゲイ・スロビキン大将を任命した」(朝日新聞10月12日付朝刊記事より引用)という。彼には「完全な冷酷さ」という渾名(あだな)がある、とか。10日のウクライナ各地への攻撃を彼が指揮した可能性もあるという)。

 また、国民の日常生活に直結するエネルギーインフラについては、(2月のロシアの軍事侵攻以来)「最大規模の攻撃」(ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相)だったという。ロシアのミサイルによる「インフラ攻撃」は連日行われている。

 これについて、ロシアのプーチンは10日に開かれた国家安全保障会議で、「エネルギーや軍司令部、通信の施設に対して(のみ)、大規模な攻撃を実施した」とフェイクな情報を発信している。これに対してウクライナのゼレンスキー大統領は10日、「国中で文化、教育施設などが被害を受けている」と説明をし、ロシアの攻撃は軍事施設に限らず、市民生活そのものを標的にしていると、非難したという。フェイクな情報戦は、拡大するばかりである。

★ クリミア橋「爆発」の謎

 「独立(国営ではない)系」のメディアが9日、伝えたところによると、クリミア橋で起きた「爆発」でトラックを運転していたロシア人運転手(51)は、「インターネットを通じて貨物を受注し、運送中だった」とみられることが判ったという。「貨物」が爆発の原因だとすると、運転手は被害者で、荷主が計画に関わっているか、荷主を騙った人物が計画に関わっているという可能性があるという。

 ロシアの大統領・プーチンは9日、(クリミア橋の爆発に関し)ロシアの「自作自演」説を否定するとともに、ウクライナの情報機関のウクライナ保安(局)庁(SBU、ウクライナのKGB後継機関)の犯行と主張し始めた。それは、こういうカラクリらしい。「クリミア橋の爆発に関し、ロシア連邦保安(局)庁(FSB、ロシアの治安機関)は12日、『犯行に関わったロシア人5人と、ウクライナ人とアルメニア人計3人を拘束した』と発表した。『テロの首謀者はウクライナ国防省情報総局だ』とした」という。朝日新聞10月13日付朝刊記事より引用。

贅言;ロシア、ウクライナの情報機関の実態が判りにくい。ソビエト連邦時代の情報機関が、ソビエト連邦崩壊後、それぞれの組織を引き継いだ上、ロシア連邦の構成国(CIS、独立国家共同体、9ヶ国が加盟)、それに加わっていない国というように分かれたまま、情報機関や治安機関をそれぞれ使っているようだから、ややこしい。さらに、メディアが発信する情報を読んでいても、ウクライナ戦争の影響で、構成国の政治情勢も流動化(つまり、プーチン離れ)しそうな気配がある。

ウクライナの情報機関
*ウクライナ国防省情報総局:軍事情報
*ウクライナ対外情報庁:対外諜報
*ウクライナ保安庁:国家保安機関

同紙によると、見出しは、こうだ。
4段記事。4段見出し。
「橋爆発 ロシア人ら8人拘束」。
右横に副見出し。「ロシア 『ウクライナが首謀』」

国際版のデスクも、判断に迷っている形跡がある紙面づくりだ。

見出しは、拘束された人物にスポットを当てているが、記事は、冒頭から「貨物(爆発物)」の航跡を追う。「FSBは、爆発物がウクライナからブルガリアや黒海などを経由する複雑なルートで2カ月かけて運ばれた」としているという。以下、FSBの説明によるストーリーを整理してみる。

*爆発物(とりあえずここからは「貨物」と呼ぼう——引用者)は8月初め、ポリエチレンフィルムに偽装されウクライナ南部オデーサ港からブルガリアの港に輸送された(重量は約23トン)。
*さらに、貨物は黒海を挟んだジョージアの港を経てアルメニア(ロシアの同盟国)に到着。
*再び、貨物はジョージアを通過して10月6日(プーチンの誕生日前日)にロシア南部クラスノダール地方に着いた、という。

 つまり、問題の貨物は、ウクライナ南部のオデーサ港から船で黒海を南下、ルーマニアの沿岸沖を通り、隣国のブルガリアの港へ。その後も船で黒海を西から東へ横切り、ジョージアの港で陸揚げされて、陸路、ロシアの同盟国であるアルメニアへ。再びジョージア国内を通りロシア国内のクラスノダール地方へ。
時計の針と逆回りで、黒海を船からトラックへと引き継ぎながら、廻っている。

 貨物の最終的な受取人は、クリミア半島シンフェロポリの実在しない会社だったとする。「とする」という表現は、この筋書きを信用しないというシグナルが込められている。ロシア連邦保安局は「作戦」を指揮したウクライナの国防省情報総局員が使った偽名や関わった人物の名前、生年を情報公開。

 荷主がウクライナの会社からアルメニアやロシアの会社に何度も変わるなど。いかにも、怪しげな痕跡をいくつもくっきりと残しているのも、怪しい。

 これに対して、ウクライナの国防省情報総局の報道官は、次のように答える。
「ロシア連邦保安局はプーチン政権に仕える偽りの機関であり、発表にはコメントしない」。

 プーチンは9日、『ウクライナの特殊部隊が首謀者』と指摘。ロシアは10日、「報復」として、ウクライナ各地をミサイルなどで攻撃。11日にも各地への攻撃が続いた。

 これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は、この爆発の「真相」(あるいは、カラクリ)については、なかなか情報を発信しなかった。マスメディアの情報を見た限りでは、いまのところ、ウクライナの主張は次のように整理されるかもしれない。

 ロシア連邦保安庁は「ウクライナ国防省情報総局のブダノフ長官」を首謀者だと名指ししたが、ウクライナ国防省情報総局はプーチン政権が爆発を事前に準備していたと主張する。爆発については、10日以降、ウクライナの市街地への大規模攻撃を強行する理由づくりのためのロシアによる「自作自演」だった、という説を唱えている。プーチンとゼレンスキー、二人のうち、どちらかが
必ずフェイクニュースを発信している。二人とも、事の真相は知っているだろう。何しろウクライナ戦争の加害者と被害者という限られた責任をそれぞれ持つ当事者なのだから。自分じゃなければ、相手だ、という簡明さ。

 さらに、プーチンは、14日、「クリミア橋『爆発』への報復として、ウクライナへの大規模攻撃を実施した。(略)いまは大規模攻撃の必要はない。別の任務がある」と述べたという。朝日新聞10月15日付朝刊記事より引用。朝日新聞の記者は、「核兵器の使用を含めた攻撃拡大への懸念が出ていた」と書いている。

 一方、プーチンは、また、9月に決めた予備役兵の、いわゆる「部分的な動員」については、「すでに22万人を動員し、2週間以内に終える」と述べたという。同紙から引用。

 ロシアの予備役兵の動員(「部分的な動員」)は、複数のメディアの報道によると動員兵士たちは十分な訓練も受けずに、備品も自前で用意させられた上、最前線の戦場に送られて、死亡者が相次いだという情報が流れたという。ロシア国内では、動員に対する不安が高まり、プーチンの動員兵訓練の視察となったらしい。朝日新聞10月22日付朝刊記事も参照引用。

 その後、クリミア橋爆発のニュースの方は、暫く途絶えた。朝日新聞10月21日付夕刊に、「パリ発」の記事がやっと掲載された。2段記事で、2段見出し。「橋爆発 ウクライナ関与否定」。以下、記事概略引用。「ゼレンスキー大統領は20日、カナダのテレビ局とのインタビューで関与を否定した。ロシア側はウクライナによる『テロ』と主張しており、双方の言い分の対立が続く。(略)8日に起きたクリミア橋の爆発について『私の知る限り、我々は絶対に命令していない』と発言。軍や特殊部隊などロシア内部の主導権争いが爆発の原因とする見方を示した。プーチン大統領は9日、『ウクライナの特殊部隊が首謀者』と指摘。『テロ』に対する報復と主張して、10日には(略)ミサイルなどで攻撃した」。

 ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問からの情報では20日、ロシア軍が「カホウカ水力発電所のダムの爆破を計画している」と伝えてきた。ウクライナのゼレンスキー大統領も、同趣旨のことをテレビの画像で伝えている。

 その後のメディアの報道では、ロシアの背後にイランがおり、アメリカ国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調査官は、「クリミア半島にイランが人員を送り込み、イラン製ドローンによるロシアの攻撃を支援しているとの見方を示した。」という。以上、同紙より概要引用終わり。

贅言;マスメディアの報道を注意してみてきたが、「クリミア橋爆発」の続報はなかなか出てこない。

 朝日新聞10月24日付夕刊記事より引用。4段の記事。見出しのみ記録しておこう。3段見出し。「『ウクライナが汚い爆弾』」。隣に副見出し。「ロシア『可能性』主張 自作自演の懸念」。記事の内容は、ロシアのショイグ国防相が、フェイクニュースを流しているという、いつもの話。
「汚い爆弾」(ダーティボム)とは、放射性物質を含んだ爆弾のことで、要するにロシアとウクライナ双方が、互いに相手が核兵器を使用しそうだと足の引っ張り合いをしているというもの。

 「ウクライナ全土 電力施設に攻撃 エネルギー危機悪化か」という見出しのついた記事。11月1日付朝日新聞朝刊記事より引用。

 「ウクライナに侵攻するロシアが10月31日、首都キーウ(キエフ)を含む全土をミサイルなどで攻撃した。電力施設が集中的に狙われ、各地で停電が発生。一部で水道などにも影響が出た模様だ。ロシア軍は10月に入ってインフラ設備への攻撃を繰り返しており、(略)」。プーチンのいじめ体質と粘着質な「性格」が合間って、牙をむいてウクライナ国民に飛びかかっているように見える。「体質」「性格」という抽象物体も、兵器か。

★旧・統一教会の命運

文部科学省・文化庁:
宗教法人法 専門家会議 宗教法人審議会 「質問権」 
/永岡桂子大臣

消費者庁:
消費者契約法 有識者検討会 「取消権」 
/河野太郎大臣

主に二つの省庁が、旧・統一教会の命運を巡って、活発に動いていた。文化庁と消費者庁。なぜか?

「旧・統一教会を調査 首相指示」の横見出しが、朝日新聞10月17日付夕刊一面トップ記事である。縦見出しには黒ベタ白抜き6段の大見出しを立てている。「宗教法人法に基づく質問権 消費者庁検討会が提言」。黒ベタの大見出しは、細長いだけにまさに煙突のように見える。

 河野太郎デジタル大臣は、内閣府特命担当大臣(デジタル改革、消費者及び食品安全)、国家公務員制度担当である。担当している省庁はデジタル庁がメインの担当となる。消費者庁などは、官僚の組織論的に言えば、サブ的なものである。消費者庁長官は新井ゆたかであり、普通ならば担当大臣は名前だけで長官任せなのではないのか。ところが、ユニークな河野太郎のことである。目下は、デジタル担当よりも消費者担当、消費者担当でも、旧・統一教会担当の趣がある。旧・統一教会担当は、本来ならば、文部科学大臣・永岡桂子のはずである。

 その河野太郎が、なぜか担当違いである旧・統一教会の問題で口を出し、その存在感を増し、いわば「旗振り役」をしているように見えるのではないか。母屋にいながら、軒先で旗を振っているように見えないか。以下、朝日新聞の、主に朝刊記事参照引用した。加えて、自民党内での岸田文雄と河野太郎の政治家同士としての動きについては、政治ジャーナリストの青山和弘氏のリポートなども「東洋経済/ONLINE」(オンライン版)より参照しながら概要的に引用した。

★河野太郎の「愛と冒険」

 このタイトルが、野呂重雄原作「黒木太郎の愛と冒険 」(1974年刊)のもじりであることは、この本が50年近く前の刊行物だと言うことを考えれば、若い世代ばかりでなく、当時から作家野呂重雄と特に波長や感性に合った人くらいなどにしか読者は限られていたことから、いまや知名度はあまり高くないかもしれない。それでも、私などは、こんなチャンスしか野呂重雄の名前を蘇らせて唱える機会がなくなってきたことを懐かしむ意味でも掲載させていただいた次第。

★岸田首相の「決断」
 「岸田首相は、(10月)17日の衆議院予算委員会で、旧・統一教会に対し、宗教法人法に基づく「報告徴収・質問権」を行使し、事実関係の把握や実態の解明を目指す考えを明らかにした。予算委に先立ち、官邸で永岡桂子文部科学相に指示。永岡氏は」予算委で「年内のできるだけ早いうちに権限が行使できるよう手続きを進める」と述べた」。以上、朝日新聞10月18日付朝刊記事より引用。この短い記事の中の、綱渡り的に判断をし、そこを頼りに動く岸田首相の「首相動静」がぎっしり詰まっている。今回のコラム連載は、それの解明である。
「旧・統一教会から宗教法人格を剥奪(解散命令請求)できないか」。首相を動かしたのは、河野太郎担当の消費者庁有識者検討会の提言であったという。
提言を踏まえて、「消費者契約法」の改正(契約の「取り消し権」の要件緩和、行使期間の延長、包括的な取り消し権の創設など)、宗教法人に対する寄付の規制(寄付を否定した人への勧誘継続の禁止など)を盛り込んだ消費者庁所管の新法が、検討されているという。
 また、文部省の文化庁所管の宗教法人としては、法人の業務や事業の管理運営について報告を求めたり、法人の役員らに質問したりできる「報告徴収・質問権」を行使し、実態解明を進め、組織的な不法行為責任が認められれば、宗教法人の解散命令請求に繋がる可能性があるという。永岡文科相は「手続きの途中であっても、解散命令を請求するに足る事実関係を把握した場合には、速やかに裁判所に解散命令を請求することを検討していく」と踏み込んだ。
 岸田首相の衆議院予算委員会での発言を受けて、消費者庁は18日、霊感商法や高額献金の被害救済などの法整備に向けた専従チームを発足させた。専従チームは、法務省、文部科学省、警察庁の職員合わせて11人態勢。調査の実務を担う文化庁の宗務課の定員は8人にとどまっており、態勢を増強して一連の手続きに入る方針だという。普段なら腰の重いはずの官僚たちが、手早い対応を見せたのか。消費者庁の「有識者検討会」のメンバーが、次のように打ち明けたという。「岸田首相は(検討会の報告書を読んで)解散命令請求に向けて踏み出すしか選択肢がなくなったのだろう。今回は河野さんが、首相を動かした」。

 内閣改造から2日後、河野新任担当大臣は12日、大臣就任後初めて開いた記者会見で「消費者庁に旧・統一教会問題をめぐる検討会の設置をする」といきなり宣言したのだ。私も、この時の会見をテレビで見ていて、河野太郎一流の「言動」であり、大臣担当業務と違う「畑違い」なアクションをする人だなあと思ったものだ。岸田首相からの指示もないままの発言だったという。河野一流の独特の政治的な勘による行動だったと思うし、その後の「岸田丸」の航跡は、河野の読み通りにシュプールを描いたのではないか?
 河野担当大臣は検討会のメンバーにこだわった。二人の弁護士が登場する。一人は長年、旧・統一教会と闘ってきた紀藤正樹弁護士。もう一人は野党議員として霊感商法の問題に取り組んでいた菅野志桜里弁護士。
8月29日の検討会初会合の冒頭挨拶で河野大臣は次のように言ったという。
「場合によっては消費者庁の担当の枠を超え、政府に対して提言することになろうかと思いますが、境界を定めずにご自由にご議論いただきたいと思っております」。
 これに紀藤弁護士が呼応した。「今までの先例に捉われずに、消費者庁が(宗教法人の)解散命令請求を主導できるくらいの情報を集め、法務省との交渉のあり方も検討しなければいけないと思います」。
こうして検討会の議論は冒頭から「高額献金被害」に対応できるような消費者契約法の改正とあわせて、旧・統一教会に対する「解散命令請求」の是非を主要な論点に据えて始まったという。

 菅野弁護士も発言する。「(旧・統一教会に関して)伝道、教化、献金要求行為などに組織的な違法が認められた裁判例が積みあがっているわけですし、(解散命令の)要件に該当すると考えるのが自然だと思います」。
週1回のペースで開かれた検討会は、二人の弁護士のリードの下、大きな異論もなく進んだという。そして報告書は、10月17日に提出された。検討会は旧・統一教会の法人格を剥奪する解散命令請求も視野に入れて調査するよう求める報告書をまとめ、公表した。
 報告書がなぜこのタイミングで提出されたのか。それは衆議院予算委員会の本格審議が、この日から始まるからだろう。予算委員会へ向けて報告書は政府内の検討会から提出されてきたものだ。世論の多くは、この提言の内容なら報告書を支持するだろう。しかし、岸田首相が従来のような慎重姿勢のままでは批判が高まり、逆に岸田政権の支持率を下げる可能性があるかもしれない。
 こうした状況を見越し、岸田首相は河野大臣とも相談をして、報告書が提出された直後、そして予算委員会の直前に、永岡文科相に対して調査の「指示」に踏み切ったというわけだ。国際政治の場では、イギリスのトラス首相が支持率低下の先行役を務めている(最後の支持率は、一桁、7%であった。10月20日に辞任表明)とはいうものの、支持率低下にあえぎ気味の岸田首相にとっても、選択肢はそういくつもあるとは思えない。
 報告書によると「旧・統一教会については、社会的に看過できない深刻な問題が指摘されているところ、『解散命令請求』も視野に入れ、宗教法人法第78条の2に基づく『報告徴収及び質問の権限』を行使する必要がある」。宗教法人法では解散命令の要件である「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」・「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をした」かどうかについては、消費者庁ではなく、文部科学省所管の文化庁が教団の業務や管理運営について『報告』を求め、『質問』する権利(質問権)がある。こうした『調査』の結果、要件に該当する疑いあると認められれば、文科省が裁判所に解散命令を請求して裁判所が最終判断するという『段取り』が消費者庁と文化庁が『接点』となる仕組みなのだろう。この仕組みを解読する場合の私の認識は、これだ。報告書は、政府に一気に解散命令請求をするようにとは求めてはいないが、請求に向けて『段取り』を踏むことを求める内容にはなっている。自民党内では、この報告書を巡って、賛否両論が出ているという。旧・統一教会の対処の結末は、岸田政権の支持率にも影響してくるだけに安直に旧・統一教会との接点を増やしてきた自民党の国会議員諸氏は慎重に、ただし効率よく、的確な議論をしてほしい。

★政府の法解釈変更
 わずか1日で法解釈の変更をするというのは、褒められたことではない(要するに、事前の勉強不足か、嘘を言っていたか、だからだ)としても、間違っているのに、あるいは嘘をついているのに、それを頑として認めず、嘘の上塗り、己の面子を保とうとした安倍政権よりは、岸田政権の方がまだマシだと私は思う。岸田首相も、対応がまだら(ポイントによって、温度差がある)ではないのか。どれもこれも、正直に言っているようには、聞こえないと私は思っているのだが。いかがであろうか。
 政府側は、従来民事訴訟では不法行為があっても、解散命令請求できないとしていたが、野党からの論点整理の強い要求に対応するため、官邸周辺で見解を再検討した結果、法解釈を変更した。旧・統一教会への対応をめぐり、岸田首相は19日の参議院予算委員会で、宗教法人の解散命令を裁判所に請求する要件に「民法の不法行為も入りうる」と述べた。18日の衆議院予算員会では、民法の不法行為は入らないとしていたが、法解釈を変更した。(略)行為の組織性や悪質性、継続性などが明らかとなり、宗教法人法の要件に該当すると認められる場合には、民法の不法行為も入りうる」と説明した。指揮監督関係がある人物や法人の責任を問う「使用者責任」もこれ示した。に含まれるとの考えも示した。
 こうした状況で岸田首相は河野大臣とも相談し、報告書が提出された「直後」、そして予算委員会開会の「直前」に、永岡文科相への「調査の指示」に踏み切った。
 さらに、朝日新聞10月20日付朝刊の一面トップ記事では、「教団側、自民議員に「政策協定」という黒ベた白抜きの大見出しが踊った。内容は、旧・統一教会の友好団体「世界平和連合」「平和大使協議会」が、今年の参議院選挙や去年の衆議院選挙などに立候補した国会議員に対して「推薦確認書」という文書に署名させ、事実上の「政策協定」を求め、複数の署名を集めていたという内容であった。
朝日新聞の記事によると、政策は次の通りだという。「憲法改正、安全保障体制の強化、家庭教育支援法、青少年健全育成基本法の制定、LGBT問題、同性婚合法化の慎重な扱い、『日韓トンネル』の実現を推進、国内外の共産主義勢力の構成を阻止」などだという。一読すれば判ると思うが、文面の裏から一方的な主張と差別意識が滲み出てくる奇妙な文書ではないか、と思う。
 旧・統一教会の「推薦確認書」(国会議員との事実上の「政策協定」)に署名した自民党の政治家に、目下、旧・統一教会関連の法整備に向けた準備を進めている消費者庁を担当する副大臣の大串正樹氏が関わっていたことが明るみに出た。「行政の中立性に疑問符がつく事態」(朝日新聞10月27日朝刊記事より引用)と指摘している。
 「大串氏は8月の内閣改造でデジタル副大臣兼内閣府(消費者など担当)副大臣に就任。消費者担当としては消費者行政全般について、河野太郎消費者相を支える役回りを担う」。(略)「教団をかばうような発言が大串氏から出たこともないという」。以上、同紙より引用終わり。 
 以上、NHKニュースほか新聞各紙の記事、政治ジャーナリストのリポートなどをチェックしながら、朝日新聞記事をベースに概要的に引用した。(了)

ジャーナリスト(元NHK社会部記者)

(2022.11.20)
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