【コラム】
大原雄の『流儀』

安倍「退陣」会見と「センザンコウ」の謎

大原 雄

「コロナ」禍で、日本は新しいフェイズへ進むのか?
前号で予告したテーマは、以上のようなものであった。
見出しにした文言の新しいフェイズとは、何か。前号では、それを予告的に提示し、具体例を踏まえてこのテーマを考えてみたい、とお伝えしておいた。さて、私の答案は?

コロナ禍対応でウイルス抑制に人類(ヒト)が成功した後の社会のありようが、問われ始めている。私が提案した新しい日本のフェイズとは、次の二つだ。
一つは、政権交代論。二つは、オンライン会議。
前号の予告でこのコラムに、そう書いたら、実際に、早々と「政局」状況が生まれ、政権交代が実現した。

★ これも「政権交代」?

「政権交代」は、ただし、安倍政権から菅政権へ。自民党の各派閥の議員数を背景とした政治家の出世競争の果てに、「永田町の論理」、何度も「解消」されたはずの「派閥の論理」(要するに、「数の論理」)が、健在ぶりを示した政局だ。派閥解消が自民党の課題だった。自民党から派閥は既に無くなり、「政策研究グループ」かなんかになったはずだった。安倍時代の「一強体制」体質をすっかり(あるいは、ちゃっかり)「継承」し、安倍政権の「コピー(まるで新型コロナウイルス )」のようなしぶとさで、自民党総裁選挙(9月8日告示、9月14日投・開票)の投票の2週間も前に、事実上、「菅政権」(9月17日に臨時国会召集、新しい首班指名)が誕生したことになる。

★ 派閥が主導権争い「会見」

こうした自民党の古い体質丸出しの動きに対抗する石破茂、岸田文雄の二人が、安倍政治への「決別」をキャッチフレーズに9月1日、総裁選挙への正式な立候補表明会見をした。その翌日、9月2日に菅義偉も、安倍政治の「継承」を強調し、地方出身者としての立志伝を語るなどして立候補表明会見をした。ほとんど全く、菅色を隠したままの政策不在の記者会見であった。これでも、一応は、「政権交代」なのだろうが、真の政権交代にならない、自民党政治としても、政権交代からは、程遠いのは言うまでもない。

「政権継承」とは、何か。菅の立候補表明会見とほぼ同時刻、自民党の主要3派閥(細田派、麻生派、竹下派)の領袖たちが横並びで共同会見を開いた。国民不在の派閥政治の露骨な復活・顕在化。自民党は、まだまだ、こういう古風な政治風土が残っているのだ。これについて、有権者は、あきれ果てるのか。諦めるのか。これでは、店舗に例えれば、看板のみ差し替えただけで、店頭に並べた商品は、同じ。それも陽に当たって、包装紙の色も冷めたようなものばかりではないか。

派閥解消を提案していた自民党の先人政治家たちの努力は、水泡に帰した。有権者にとっては、目の当たりに泡が消えて行くのを見せつけられたような思いだったろう。共同記者会見に呼ばれず、横並びになれなかった派閥の領袖(特に、二階派の二階幹事長)は、怒りまくったらしい。もっとも、共同記者会見をした派閥の領袖たちの方は、呼ばなかった派閥に対して、「あんたらが先に」少数・抜け駆けで菅支持に動いたことへの「意趣返し」というから、子どもの喧嘩のようだ。

★ 談合政治から「菅・二階」政権が生まれた

派閥による自民党の談合政治の実態は、新聞(朝日新聞、毎日新聞などの記事を参照)の報道によると、次のようなことらしい。敬称略。

8月28日。安倍首相が、退陣表明。

8月29日。菅官房長官(党人派・地方議員出身)が、二階幹事長、森山国会対策委員長(二人とも党人派・地方議員出身)と会う。
二階が、菅に(安倍政権の継続性を考えると「あんた(菅)しかいない」と言う。菅も、「継続性は、そうですね」と受けた、という。
二階は、この答えを受けて(菅には、「立候補の意欲がある」)と理解する。同じ体質の老獪政治家同士の、阿吽の呼吸の良さは、なんだろう。

8月30日。二階派幹部が集合し、総裁選挙の対応を話し合う。二階派の河村元官房長官が、安倍政権の残り任期(1年ほど)について、官房長官の菅には、責任がある、とマスメディアに漏らす。二階派の菅支援が、外に漏れ始める。菅・二階・森山は、連携。既得権益護持のもたれ合いの仲か。

菅:4年前、安倍に「二階を幹事長に」と推薦。さらに、去年の秋、安倍の岸田幹事長説を潰し、二階の幹事長続投を安倍に進言。
森山(石原派):二階の信頼厚い。自民党の国会対策委員長を3年以上務め、「1強国会」を仕切る。

二階、森山が主導し、菅を冠に据えれば、自民党の党人派(地方議員出身)は、既得権益が増え、権勢が増す。岸田(「分断から協調へ」)と石破(「納得と共感」)は、安倍政権を「批判」する。安倍は、後継が、岸田(安倍政治との「違い」を強調)、石破(安倍政治「批判」を貫く)では、退陣後の自分の身の安全に不安があるのだろう。後継で安全・安心できるのは菅しかいない、と思い始める。

安倍は、8月28日の退陣表明の時点で、もう、「禅譲(後継)」は岸田ではなく、菅だと決めていたようだ。だから、岸田を含めて、誰の名前も上げられなかった。「安倍退陣、岸田への禅譲」は、岸田の勝手な見果てぬ夢であった。安倍が見ていた夢は、「安倍退陣、菅への禅譲」であった。同床異夢の典型のような話。その後も、二階と森山は、度々会い続ける。老獪な政治家たちは、夢の中ではなく、リアルに動き続ける。

★ 3人の略歴

*菅義偉(よしひで)官房長官:1948年生まれ。秋田県出身。衆議院議員8期。横浜市議を経て、国会議員に。第1次安倍政権で総務大臣、第2次安倍政権で内閣官房長官(2012年12月から)。安倍政権で、「大物」に成長したのだろう。

*二階俊博幹事長:1939年生まれ。和歌山県出身。衆議院議員12期。和歌山県議を経て、国会議員に。第2次安倍政権(の後半)で自民党幹事長(2016年8月から。自転車事故で負傷した谷垣前幹事長の後任となる)。

*森山裕自民党国会対策委員長:1945年生まれ。鹿児島県出身。衆議院議員6期。参議院議員1期。鹿児島市議を経て、国会議員に。第2次安倍政権で自民党国会対策委員長(2017年8月から)。

★ 自民「総裁選挙」立候補へ

9月1日。岸田、石破以外の5派閥が、安倍政治継承が期待できる菅支持で固まる。国会議員票は、菅への大きな流れができる。

安倍:菅に安倍路線の継続と身の安全・安心を期待。
麻生:石破の安倍政権批判を警戒。この日。岸田、石破。それぞれ、総裁選挙への立候補をマスメディアに正式に発表。
岸田:首相の座として、自ら描いていた安倍からの「禅譲」への期待は、途中で、「墜落」し始める。麻生も、岸田を支持しなくなる。
二階:岸田を目の敵にし始める。去年の秋、岸田の幹事長就任を阻害し、自分が続投できるように働きかけ、実現させてきた(今回も、菅政権発足に伴って、きっと、二階幹事長続投となるのではないか)。
石破:安倍政権には、批判的。非主流を貫く。

9月2日。
菅:記者会見で、総裁選挙への立候補を正式発表。細田派(安倍も所属)、麻生派、竹下派が、菅支持で、共同記者会見。二階派と石原派は、会見からは仲間はずれ。同席なし。
安倍、麻生:石破を警戒。自分たちの「既得権を守れ」で、利害一致。
菅:官僚人事で官僚を支配(「官邸官僚」を増やせ。ただし、官邸官僚には、首相直轄のタイプと官房長官に仕えるタイプの二つがあり、互いに主導権争いをしている、という)、大臣や党役員人事で政治家をコントロールするなど、戦略を実行してきた。安倍政権時代に官房長官を8年近く務めた実績をバックに、人事権を利用して、官界や党内での影響力を増して行った。「(派閥の領袖たちは)、総裁就任後の菅人事が怖くてまとまったのだろう」と、言われる。

派閥の領袖(ボス)たちは、こういう動きをして、談合政治、恐怖政治を進めて行った。それが、安倍政権、安倍継承政権の実態だ。継承政権に反対するのは、岸田派と石破派のみ。特に、安倍政権が警戒を強めたのは、石破である。

9月8日。自民党総裁選挙告示共同会見印象記。
石破:安倍政権の党内非主流派代表として、いろいろ発信してきた。その流れで、当然の安倍退陣・総裁選挙立候補。政策(私とは見解を異にするが、それについては、ここでは述べない)について彼流の自説を主張する。党内の地方議員や有権者の世論調査では、人気があるが、安倍病気退陣・菅後継候補の立候補で、風向き(安倍への同情)が変わってきているのが、懸念材料。

菅:安倍政権の「番頭」(官房長官)として、長年、政権擁護に徹して、発言してきたので、抑制的、はぐらかし、隠蔽的、否定的な表現は得意だが、今回のような自分を肯定する発言は苦手らしい。切れ味が鈍い。殺人剣ではあっても活人剣にはなりにくい剣筋と見た。家老が、主君の「御家」を引き継ぐような戸惑いが彼の中にあるのではないか。

岸田:安倍首相からの「禅譲説」を最後まで、信用していたようだ。政治は、一寸先は闇。安倍は、病気で退陣を決意した時点で、禅譲相手は、岸田ではなく、菅を頭に浮かべていたようだ。岸田は、脇が甘い。大局観がない。だからだろうが、彼の発言は、抽象的で曖昧。その上、同義異語を多用するので、メビウスの輪のように頭と尻尾が繋がり、論理が堂々巡りする。判りにくい。

★「継承」安倍政権って?

もっとも、継承政権派も、一枚岩ではない。「菅・二階派、石原派」連合対「細田派、麻生派、竹下派」連合の対立。安倍政権継承を巡って、大臣や党役員のポスト争い、という主導権争いがある。主導権争いの、いわば「お茶濁し」(あるいは、ガス抜き)に、自民党では、党員対象に総裁選挙の「予備選挙」という形で、よく分からない選挙運動が盛んに行われた。さらに、水面下では、安倍政権継承後の青写真づくりも進んでいたのではないか。青写真とは、例えば、以下のようなものか。

菅:安倍政権「継承(安倍疑惑からの、身の「保護」安全保証付き)?」を手土産に菅は、無派閥という自民党内での基盤脆弱を逆手にとって、新派閥を「補強」する。官房長官時代に積み上げた「官僚人事」(2014年に新設された内閣人事局という「装置」をベースにした官僚支配強化である。
二階:自民党幹事長継続で、党役員人事でさらに睨みをきかすつもり。

その結果、
菅・二階/連合政権の樹立。
石破派・岸田派への徹底した冷や飯処遇。
森山(石原派)の優遇(官房長官は、ないだろうな)。
細田派・麻生派・竹下派の処遇/有力閣僚など割り当て)。

★ 野党の動きは?

これに対して、野党の動きはどうか。この時期に、よせば良いのに、相変わらずの看板塗り替え(離反合流)騒ぎ。

9月10日。新党結成・代表選挙。党名は、「立憲民主党」(立憲主義を強調)か、「民主党か」(先の民主党政権の負の遺産も受け持つ。自戒宣言らしい)。代表は、枝野幸男か、泉健太か。
何れにせよ、来年の総選挙では、野党共闘代表となる顔を選ぶことになる。
与野党の政権交代を実現させるような、政治的ダイナミズムや大局観の持ち主でないとダメだ。

9月15日。結党大会(衆・参で、150人規模)。選挙での野党共闘が、どこまで徹底できるか。それができなければ自民党派閥の権力闘争を厳しく批判できない。本来なら、派閥による権力闘争中の自民を横目に、国民の生命と暮らしを脅かすコロナ危機克服を前面に押し出して実績を上げ、「国民第一」という政治姿勢を明確にし、存在感を強めるべきではないか。新党結成など、そういう政治実績を築いた上で、その後にでも推し進め、総選挙を前に看板の塗り替えをしても遅くはなかったのではないのか。それとも、秋口解散・総選挙を警戒しているか。

★ 無能な人

安倍首相のような無能な人が、いつまでも最高権力者の座についているということは、確かに、その国の有権者、国民にとって不幸である。安倍政権は、首相の病気を理由に崩壊した。本当は、コロナ禍対策の失敗や引き続いた様々な疑惑逃れが、理由ではないのか。
安倍退陣というコインの裏側には、菅官房長官昇格、という絵柄があった。安倍疑惑をひたすら、かばい続け、記者会見の記者の質問や指摘を「それは、当たらない」と否定するなど、結果的に国民に嘘を言い続け、重要なポイントになると、「意見は差し控えたい」、と知らんぷりを決め込んできた菅が、とうとうしゃしゃり出て来た、ということだ。

世間では国民の生命や暮らしが、日々破壊されているというのに、自民党では、派閥という、脱世間(脱世俗)の世界で生息する人たちがいた。地獄の釜の蓋が開いたように、出て来た保守政治家、有象無象による醜い後継争いが、酷暑の夏、大型台風の夏、新型ウイルスの夏に展開されたのだ。野党も与党も、然り。有権者は、特別な夏の、この光景を忘れてはならない。

★ オンライン会議は、オンライン社会のためのエチュード

もう一つの新しいフェイズ。オンライン・ミーティング、リモート・ワーク。オンライン社会は、新型コロナウイルス感染の大波に追いかけられて、ルールも決めないうちに、動き出してしまった。デジタル化は、なし崩しで新しいフェイズへ進むのか。

こうしてにわかに、実践され始めたのが、「リモート・ワーク、テレワーク(在宅勤務)」「オンライン・ミーティング(在宅会議)」など、インターネットを使った新しい生活・行動様式である。リモートワークは、実態を知らないが、オンライン会議は、実際に何度か体験したので、このテーマは引き続き次号で書きたい。「オンライン会議は、オンライン社会のためのエチュード」という仮タイトルを考えている。以上、予告。

★ 8年間の安倍政権の失政。なぜ、多くのマスメディアは書かないのか

安倍政権が倒れることになった。8月28日、午後5時。官邸で記者会見が始まった。それ以前から、安倍の体調不良説が流されていた。記者会見は、冒頭から、いきなり安倍自身による体調不良の説明がなされ、これがこの日の記者会見の流れを作った。体調不良による退陣というコンセプトが、安倍政権の8年間の失政という退陣の本質を隠してしまったのだ。さまざまな疑惑の解明もなく、責任も曖昧にされていて、「極めて『安倍政権的』な幕切れ」(中島京子)だと、私も思う。安倍政権によるマスメディアへの操作を象徴する記者会見であった。

贅言;「病気ならば、仕方がない。本人が、一番無念だろう」という同情論が蔓延し、マスメディア各社の世論調査では、「失墜」した政権のはずなのに、なんと、その後、安倍政権の支持率が上がったのである。自民党は、秋の臨時国会で後継首相の指名、衆院解散、総選挙、後継政権で自民復活へと流れ込もうとしている、らしい。有権者は、しっかりしなければならない。「何よりダメな日本」の原風景を見るような現象に惑わされてはならない。

「退陣表明」記者会見は、安倍の説明が15分程度で、残りの45分で、幹事社(記者クラブの「当番」。記者クラブでは、各社交代制で務める。官邸記者クラブの記者会見。今回の幹事社は、読売新聞と日本テレビ)の代表質問。日本テレビの記者は、病気辞任と後継者選びについて質問をし、安倍の冒頭発言の流れを補強していた。次の読売新聞記者の質問は、次の通り。これが、国民の知る権利を国民から負託されて、政界を監視するのが仕事の、政治部記者の質問スタイルか、と思われるような及び腰なので、呆れたが、そのまま引用する。社会部記者の記者会見とは、だいぶ違う。

「先ほど総理は、結果を出すことに全身全霊を挙げてきたとおっしゃいましたが、歴代最長となった在任中に成し遂げたことの中で、御自身、これは政権のレガシーだと思われるものがありましたら、挙げていただけないでしょうか。
 また、先ほどやり残したこととして憲法改正、北方領土問題、拉致問題を挙げられましたが、後継の首相に期待したいこと、託したいこと、ありましたら、併せてお願いします。よろしくお願いします」。

それに続いて、その後、各社から質問。記者が挙手をし、内閣報道官が記者を指名すると、記者は会見場の設えられたスタンドマイクの前に進み、所属会社名、氏名を名乗った上で、質問を始める。中央紙(新聞)、通信社、テレビ、地方紙、フリー記者などが、一人一問で問い質すことになっている。

政治部記者たちの質問の仕方は、概して似ている。官邸記者クラブと当局側との取り決めでは、安倍の答弁には、記者側の追加質問も、別の質問という判断をしているらしく、複数の質問などは許されないというルールがあるらしいから、安倍の言い放(ぱな)しで、答弁漏れも多いが、一度質問した記者には、追加質問も再質問も「権利無し」なので、テレビを見ている側でも、もどかしい限り。

要するに、安倍は、都合の悪いことは答えないか、はぐらかす。政治部記者たちも追加質問をせず、突っ込みが足りない。新型コロナウイルス禍「まっただ中」で、国民の生命と暮らしが脅かされている緊急事態(前回の緊急事態宣言発出の時に比べても、より深刻な事態になっている)なのに、今回は「緊急事態」という認識も示さず(経済優先で、「緊急事態」は禁句らしい)、自民党という政治屋(ポリティッシャン。「政治家」=ステイツマンではない)たちが、グループの中のボス選びで「政治」(国民を守る政治)に空白を引き起こしている。

それを監視すべき、各社の政治部記者たちは、概ね、おとなしい。政治の裏面を抉るような質問は、記者会見ではしないのだろう。個別に夜回り、朝駆けで、政治家の自宅などを襲うのだろう。いわゆる「夜討ち朝駆け」だ。そうでなければ、政治記者など面白味がない。

贅言;8月19日のNHKニュースから。「新型コロナウイルスの感染が広がる中、感染症の専門医などで作る日本感染症学会が19日から東京で始まり、舘田一博理事長が「今、日本は第2波のまっただ中にいる。この先、どう推移するのか注意が必要だ」とする見解を示した。にも関わらず、NHKを含め、多くのマスメディアは、安倍後継選びよりコロナ禍対応を優先(ニュースの価値判断では、コロナ禍問題が上)すべき、という論調での報道にならないのは、なぜか。

★ 「政治部記者」ではないぞ!

8月28日の官邸記者クラブの記者会見では、中央紙などではない一部の記者が、安倍政権の総括として、きつめの質問をしていたのが印象に残ったので、抄録する。質問したビデオジャーナリストは、私の知り合い。彼は政治部記者ではない。地方のブロック紙の記者は、社会部か政治部か?

贅言;9月2日、菅官房長官の総裁選挙立候補表明会見では、記者会見で質問のために挙手しても、菅から無視されるなど「いじめられていた」東京新聞社会部の女性記者も、ここぞとばかりに鋭い質問を投げていた。菅の質問「はぐらかしぶり」を暴いていた。マスメディアの良心たちの引き続く奮闘に期待したい。

★ ある質問(官邸記者クラブ会見)

*(ビデオジャーナリスト)「(安倍」総理の在任期間に是非どうしても伺いたいと思っていたことですので、ちょっと立ち入ったことになりますが、総理、安倍政権は、これまでの政権に比べて非常に徹底したメディア対策というものをなされた政権だというふうに思っております。例えば今まで輪番で出ていたものを個別のメディアに一本釣りのような形で出演されるとか、あるいは質問を事前に取りまとめて、それを出した社にしか記者会見で質問を当てないとか、かなり徹底したメディア対策というのをされた。
(略)それは総理御自身の指示によるものだったのでしょうか。それとも、ワーキングレベルで行われたものが、総理は知らずにやっていたものなのか。あるいは、総理が仮に知らなかったとしたら、総理は記者会見でですね、質疑の場面なのに、なぜか質問と答えが目の前のメモに書いてあるという状況を御覧になって、何か違和感を覚えられなかったのか。また、そのような関係がですね、メディアと政治という関係において、民主主義において、総理はどのようにお考えになっているのか、そこのお考えをお聞かせください」。

**これに対する安倍の答え:「まず、安倍政権が、例えば幹事社から質問を受けるというのが安倍政権の特徴ではなくて、ずっと、恐らく前の政権もずっとそれは同じだったと思います。安倍政権の特徴ではないということは、まずはっきりと。
(略)それは、幹事社からの質問については最初に受けるということは、これは今までの各政権が皆、そうだったのだろうと思います。また、当然、正確性を、総理大臣の発言ですから、これは正確な答弁をしなければいけないわけでありまして、どういう質問が出るかということは想定でつくっているということでありまして、これは必ずしも、あらかじめ、今日だって全部、私はこうやってお答えをさせていただいておりますが、それぞれ前もって頂いた質問ではないわけでございまして。それと、メディアにそれぞれどうやって出演するかどうかということについては、それはその時々の政権が判断するのだろうと思います。いいか悪いかというのは、また、それはそれぞれの判断だろうと思いますし」。

*(地方のブロック紙)「歴代最長の政権の中で多くの成果を残された一方で、森友学園問題や加計学園問題、桜を見る会の問題など、国民から厳しい批判にさらされたこともあったと思います。コロナ対策でも、政権に対する批判が厳しいと感じられることも多かったと思うのですが、こうしたことに共通するのは、「政権の私物化」という批判ではないかと思います。こうした指摘は国民側の誤解なのでしょうか。それについて総理がどう考えられるか、これまで御自身が振り返って、もし反省すべき点があったとしたら、それを教えてください」。

**これに対する安倍の答え:「政権の私物化は、あってはならないことでありますし、私は、政権を私物化したというつもりは全くありませんし、私物化もしておりません。正に国家国民のために全力を尽くしてきたつもりでございます。
 その中で、様々な御批判も頂きました。また、御説明もさせていただきました。その説明ぶり等については反省すべき点もあるかもしれないし、そういう誤解を受けたのであれば、そのことについても反省しなければいけないと思いますが、私物化したことはないということは申し上げたいと思います」。

何れにせよ、テレビの中継を見ている視聴者には、安倍政権の言い分の言い放(ぱな)しだけを聞かされる。官邸記者クラブの首相会見は終わる。

安倍「失政」課題としては、まず、「疑惑」。「森友加計学園問題」「桜を見る会問題」「河井克行選挙違反事件への関わり」など、安倍首相本人に関わる疑惑である。ついで、「新型コロナ禍対応問題」での、数々の判断ミス。「拉致問題」には、政権維持中も、ほとんど手をつけなかった。「未対応の施策問題」が、8年間の安倍政権で山積みになっているのに、個人的な体調不良で「辞任」などという「虚偽」(?)の理由で「退陣」させたら、安倍政権の悪事は、全て闇に葬られてしまうのではないか。先の質問には、そういう意味合いが込められていると感じた。マスメディアの諸君! 踏ん張りどころである。

★「センザンコウ」って?

ところで、パンデミックとして、全世界の住む人類(ヒト)を、今も攻撃しているコロナ禍は、突然、中国の武漢市を中心にした地域を襲ったのだろうか。新型コロナウイルスは、哺乳類を介して人類(ヒト)に感染する。コロナウイルスとヒトとの間に介在しているのではないかと言われる哺乳類は、何か?

その哺乳類として、通説として言われるのは、コウモリだが、近年取りざたされてきたのが、コウモリ以外に「センザンコウ」という動物がいる、という。しかし、コロナ禍が、相変わらず猛威を振るっているのに、センザンコウの方は、いつの間にか、人々の口の端に上らなくなってしまったように思える。

センザンコウとは、全身が硬い鱗に覆われた哺乳類。特徴的な長い舌を持つ。特定の地域では、人気の密漁品目だそうで、現在、世界で最も多く違法取引される動物だ。その多くが中国やベトナムから違法に輸入されている、という。肉が珍味だとかで、食用として珍重されている。今回のウイルス騒ぎも、武漢市場で、センザンコウの生肉を食べて、食中毒になったか、とにかく、体調を崩した中国人が原点らしい。センザンコウの魅力は、肉のうまさだけではない。うまい肉がまとっている硬い鱗が何やらの病気に効くと中国人の間では、信じられているとかで、かの地では、鱗は漢方薬の原料とされている、という(朝日新聞、4・16夕刊)。

インドネシア海軍が、インドネシアのスマトラ島の東沖合で、漁船に対して抜き打ち捜査をした際のニュース映像を見たことがある。この捜査では、生きたセンザンコウ101匹が押収された。その際、インドネシア当局は、センザンコウをマレーシアへ密輸出するために雇われたというふたりの男を逮捕した、という。

映像で見たセンザンコウは、全身が硬い茶色の鱗に覆われていた。この鱗は、ケラチンという人間の髪や爪にも含まれているタンパク質でできている。敵に対して防御姿勢を取る時、センザンコウは、身を守るために全身がボールのように丸くなる。異常に長い円錐状の舌を持っている。この舌でアリなどを舐めるようにして食べる、という。「歩く松ぼっくり」というあだ名が付けられているというが、確かに鱗は、松ぼっくりやパイナップルのように見える。映像で見える体長は、子犬か猫くらいの大きさである。両手両足と体長の連続のような太い尻尾がある。森の中では、手足と尻尾を使って、尺取り虫のような動作を繰り返しながら、器用に木を上っていた。

センザンコウは、武漢の市場で売り買いされていたようだ。ここの市場で買い求めたセンザンコウを食べた中国人が、体調不良になり、新型コロナウイルスを感染させた、と言われている。謀略説もある。

新型コロナウイルスは、その後、どういう道を辿って、今年、私が初めて体験したオンライン会議までたどり着いたのか。謎に包まれている新型コロナウイルスの軌跡を正確に辿ることはできないが、書き手の一人として、一つの仮説構築に止まるのは覚悟の前として新型コロナについて、物語ってみよう、と思う。

★ 新型コロナウイルス禍をざっと、振り返る

新型コロナウイルスは、遺伝子型で分類すると、いくつも、変種があるらしい。既に、武漢型、アジア型、ヨーロッパ型、アメリカ型などに「進化」(?)して、「変種」ができてきた、という。その後も、コロナウイルスは、変種に向かって進化し続けている。

★「東京型」ウイルス登場

東京の国立感染症研究所の研究者によると、「新しいタイプの遺伝子配列を持つコロナウイルスが6月以降、全国に広がっている」という(読売新聞、8・8、朝刊)。新聞によると、「研究チームは、コロナ遺伝子配列の変化と流行速度間の関係を調査した結果、6月以降、コロナウイルスの感染者が保有している病原菌の相当数が東京で出現した「新タイプ」に属するという結論を導き出した。 論文によると、1日当たりの感染者数が100人以下だった今年3月には、欧州系統の遺伝子配列を持つコロナウイルスが全国各地で報告された。 5月末に鎮静局面に入ったが、6月中旬に東京に突然新しいタイプのウイルスが出現してから感染が日本全域に広がり始めたと論文は説明している。 実際、日本のコロナの1日当たり新規感染者数は4月11日に720人を記録した後、減少傾向にあった。しかし、6月末から東京を中心に新規患者が急増している」という。

★ 第二波は、ピークアウトしたのか。さて、第三波は?

日本では、中国・武漢市からの帰国者が武漢型と分類された新型コロナウイルスを持ち帰ったのが、第一波。現在は、日本国内漂着後、進化してきた変種のウイルスが、東京発という形で、第二波として日本国中に蔓延している。

そういう差し迫った状況なのに、日本政府は、第二波より小規模だった第一波で出した(法律用語で「発出」という)「緊急事態宣言」という施策を、第二波では全く出そうとはせずに「傍観」し続けている。「傍観」という表現は、大人しすぎよう。国民を「見殺し」し続けているように見える。日本政府の軸となるべき安倍首相は、「逃げ回っている」と、マスメディアから揶揄される始末である(その後、持病の悪化に伴う体調不良で、密かに休務していたことが判明する。そして、今回の退陣につながった)。

その後の続報によると、日本では、全国的に7月末から8月冒頭の辺りで、第二波のピークアウト(峠を越える)があった、という説が専門家たちから発信され出した。さらに、秋には、インフルエンザ流行と「連合」して、第三波が来るのではないか、と懸念されている。これが、新型コロナウイルス対人類(ヒト)の最後の闘いになるか?
しかし、その変遷史について、私は、とりあえず、ここでは詳しく繰り返して触れることをしない。推測だが、ただ、私に言えることは、無生物であるコロナウイルスの「コピー」(細胞を持った生物ではないので、自己複写をする。従って、「増殖」という言葉は使わない)をつくり続けているらしい。

コロナ予防の決め手となるワクチンは、国際的な指導者になっている権力者・政治家であるトランプやプーチンも交えてワクチン開発にしのぎを削っているが、ワクチンづくりの元となるコロナは、その時点で、世界を席巻しているコロナではなく、それよりも「古い」(つまり進化前の「前世代」コロナになってしまう)タイプを素材とせざるを得ないらしい。開発に時間がかかるのは、蔓延コロナの世代に追いつき、コロナが世代替わりしないうちに、最新のワクチンをつくることが難しいから、ということのようだ。最新ワクチンは、一世代前のウイルスをベースにつくることになる。

 (ジャーナリスト(元NHK社会部記者)、日本ペンクラブ理事、『オルタ広場』編集委員)

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