【視点】

政治に道理と常識の復活が急務

―政治は国民生活を直視せよ
栗原 猛

4代目 またや醜聞 まき散らし
赤鉛筆 もっといるわと またいわれ

 最近、新聞の時事川柳で見かけたが、わずか17文字だがなかなかの威力が込められている。

 岸田翔太郎秘書官の更迭は、公的施設である公邸での不行跡、つまり公私混同にある。昨年末の出来事が、解散・総選挙がうわさされたこの時期に明るみに出たというのは、政治的な臭いも感じるが、公私のけじめは、いつも注意してほしい心構えである。

 公私混同が批判されるのは、国民の汗と努力の税金を権限のあるものが無駄遣いすることだからである。秘書官の不祥事と言えば、少し前になるが菅義偉前首相が総務相時代、息子の大臣秘書官による同省幹部に対する接待問題が指摘された。

 日本人は忘れっぽいとされるが、2022年暮れには秋葉賢哉復興相をはじめ4閣僚のドミノ辞任、細田博之衆院議長には給与に対する不適切な発言や、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との関係が国会で問題になった。

 国会議員の不祥事は、2023年の通常国会にも続く。立憲の小西洋之参院議員は、参院憲法審査会について「毎週開催はやりたくない。毎週開催ってサルのやることだ」と発言。週1回開催している衆院憲法審についても「何も考えていない人たち。蛮族の行為だ」とも批判して、 野党筆頭幹事から外された。

 れいわ新選組の櫛渕万里議員は、本会議の採決の際に「与党も野党も茶番!」と書いたプラカードを掲げ、議会の秩序を乱したとして10日間の登院停止となる。同じれいわの山本太郎代表は、参議院法務委員会で、出入国管理法案の採決を阻止するため、委員長席に「飛びかかり2人の議員を負傷させた」として、懲罰動議を出される。立憲の田島麻衣子議員は、岸田首相の公邸忘年会問題を追及するなかで、各種手当を返納するのかについて質問。「住居手当、通勤手当…」などを「てとう」と読んでいる。

 閣僚や政府委員ののらりくらりとした答弁を聞いているうちに、怒りがこみあげてくることがあるかもしれないが、議論の舞台だからルールにのっとった議論が欠かせない。150日に及ぶ長丁場の国会では、これまでにも二つや三つ話題になるエピソードはあったが、最近は議員の基本動作にかかわるケースが多い。創立以来の維新の会の不祥事をインターネットで調べたら、1㍍ぐらいの長さになった。選挙のたびに党勢が伸びるので、新人教育に手が回らないのかもしれないが、議員のほかに秘書や党の関係者を含めてパワハラとセクハラも目に付く。

 翻って政治の現状をみると、狂乱物価と貧富の格差が国民生活を襲っている。すでに7000品目以上値上がりしたという調査もある。財務省が今年2月に発表した22年度の国民負担率47、5%だ。これは、江戸時代の年貢の割合「五公五民」に限りなく近づいている数字である。当時は全国各地に頻繁に一揆が起きたといわれる。今のように社会保障制度などはなかったといわれるが、例えば政府の信頼度を見ると、欧州連合(OECD)は41%だが、日本は24%とOECDの半分である。           
 人口問題研究所の将来推計によると、現在1億2450万人は、2071年には8700万人になる。そのとき日本に定住する外国人は全人口の10%になるという。65歳以上の高齢者は3400万人を超え、生産年齢人口は現在の7500万人から4500万人になる。岸田首相をはじめ政府与党の指導者は、日本を取り巻くアジア情勢の危機感を米国と一緒になって、あおっている感じがするが、真の危機はどこにあるのか、もっと広く目を転じてほしいところだ。

 防衛力強化の財源を捻出する「防衛増税」をはじめ、消費税増税をにらんだ「異次元の少子化対策」など問題点が十分こなされていないまま次々に成立した。野党もメディアもまだ十分対応していない。原発回帰に転換する原発推進等5法案(GX電源法案)についていえば、第2第3の東京電力福島原子力発電所のような事故が起きた場合の対応は議論しているのかどうかである。                                    

 敵基地攻撃能力に関心が向かっているが、日本列島の海岸沿いにある50近くの原子力発電所が反撃されたときはどうするのか。健康保険証を廃止してマイナンバーカードにする「マイナンバー法等改定案」では、マスコミが連日のように現場の混乱や問題を報じている。これらの多くの法案は自民、公明と維新、国民の4党で推進されているのも特徴だ。このままでいくと「新しい戦前」になってしまうのではないかといった有名なタレントの危惧が重みを増してくる。

 話は振出しに戻るが、かつて中国事情に詳しかった社会党の北山愛郎副委員長が「道理ずむで行こう」という著書で書いている。北山氏は「究極の政治は道理です。政治家に大事なものはモラルとか常識とか人間社会の道理ですね。難しい問題ではありません」と言っている。東洋の古典には、政治家は2つの目でしかものを見ることはできないが、政治家は、何十万何百万という目で注視されているから言動には特に注意が必要だといわれる。先ず隗より始めよで、岸田政治が取り組むべきことは、税金の無駄遣いに通じる公私混同を戒み、政と官に道義と常識を蘇らせることではないか。

(2023.6.20)
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