【視点】

日本の再興に「安倍的政治」の総括が欠かせない

栗原 猛

 岸田文雄政権が満身創痍である。自民党政治の憑き物とされる政治とカネの問題が噴出し、アベノミクスとも深くかかわる日本経済の立ち位置を示す経済データは地盤沈下が著しい。日本再生には安倍政治を一度、総括、検証することが必要ではないか。

 ◆アベノミクスに期待                          

 安倍晋三元首相の暗殺から一年半がたつが、まだ永田町は「安倍的なもの」が覆っている感じだ。裏金疑惑も世界平和統一家庭教会(旧統一教会)問題も、保守政治の本質の深いところで結び合っており、真剣な対応が待たれる。          

 裏金疑惑は、政治資金規正法の在り方に関心が向いているが、問題の核心は経済界を動員する議員のパーティーにある。安倍派でキックバックされた裏金は、5年間に5億円に上る。資金集めのパーティーを覗くと、企業の大御所が乾杯の音頭をとっている。安倍一強といわれた政治状況の中で、こうした光景があちこちでうかがえたのは、何を意味しているのか。アベノミクスといわれる経済政策が、期待されていたからであろう。     
 裏金問題は森喜朗元同派会長(元首相)の時代に始まったといわれる。そして、8年9カ月の長期にわたって経済、内政、外交など幅広い分野で、独特の影響力を発揮した安倍長期政権のもとで、資金集めと分配構造が急成長していく。そして政治家の役割の中に企業に対する補助金、給付金、助成金や租税特別措置などの比重が増したといわれる。 
                   
 ◆「官から民への利権誘導」

 したがってアベノミクスの柱の一つだった戦略特区とか岩盤規制改革とは、官から民へ利益を誘導するシステムの別名だったのではないかと思われる。行政や政策の優先順位などがゆがめられ、国民生活が後回しにされるなど、不利益を被っていなかったかチェックも欠かせない。               
 社会保障や医療などの分野で「増税」という言葉を使わないで、巧妙な負担増が進んでいる。弱者や高齢者にしわ寄せはするが、行政を改革するとか行政の無駄をチェックするという声は聞かれないのはおかしい。「先ず隗より始めよ」で、真っ先に取り組むべきテーマである。どのような組織やシステムでも何年か経てば、必ず垢や膿がたまるものだ。 新しい仕組みを作る場合には、「一事を起こすは一害を省くにしかず」といわれるが、常にスクラップ・アンド・ビルドの心構えが第一である。

 コロナ禍や東京五輪、2023年度から5年間で防衛費の総額を43兆円増、大阪・関西万博をはじめ能登半島地震もあり、予算ばかりでなく財政の使い方にも市民の関心が集まっている。膨大な補助金、助成金、給付金などが、優先的に配分されていないかなどがSNSなどでもこれまでになく関心があるという。予備費が増えているのは、国会で審議されないので国民の目をスルーできるからではないか。         

◆旧統一教会の実態                             

 政治と統一教会との関係も保守政治の本質と通底している。1960年の日米安保条約改定のころに、岸信介元首相と教団創立者の文鮮明氏との関係が始まった。保守政治の中枢と反日を教義とする宗教団体が、米ソ冷戦を背景に「反共」で一致したとされる。この関係は安倍元首相の祖父の岸氏、父の安倍晋太郎氏、晋三氏と三代にわたって引き継がれてた。       
 宗教団体は日本人の信者から膨大な額の献金を上納させて、そこから保守勢力が協力を受ける形になっている。保守政治の中枢と反共、反日を掲げる宗教集団が、日本人から搾取するという構図は、分かりにくいがまだ何か背景をうかがわせる。   

 最近の日本経済の沈滞を見ると、アベノミクスとは何だったのかという疑念が湧く。日本の栄光を語る場合に、よく引き合いに出されるのが1994年だ。この年は政治改革4法案が成立し、小選挙区制もできて自民党が再生のスタートを切った。この年の国内総生産(GDP)は世界の18%である。企業の時価総額トップ50のうち日本は32社を占め、絶好調だったが、アベノミクス後のいまはトヨタ1社である。GDPも4%に下がり昨年はドイツに抜かれ、2026年にはインドに抜かれそうだ。     
 世界第2位の経済大国は中国で、日中が逆転したのは2009年だったが、現在は中国と4倍以上開いている。最低賃金は韓国に抜かれている。名目賃金は上がっても、物価や社会的な負担が増えているので、実質賃金はこの10年間マイナスである。  

 岸田氏は閣僚など国家公務員特別職の給料を上げるのは、国民の給料が上がるのを先導するためだというが、これは強弁ではないか。特別職の公務員は総額1720億円、地方公務員は2870億円となる。東洋の古典に「先憂後楽」という言葉がある。為政者は 人々よりも先に国のことを心配し、楽しみはその後にすべきだという意味である。宏池会の先輩に当たる大平正芳元首相は、政治家の役割を聞かれて、「明日枯れる花にも水をやることだ」といった。日本の再建に取り組むにしても、政治改革を掲げるにしても、まず大事なことは、政治の信頼を取り戻すことに尽きる。
(24.1.12)
以上

(2024.1.20)
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