【投稿】

朝日新聞から転進した政治家群

羽原 清雅

 何年か前に、記者仲間と飲むうちに「朝日新聞から出た政治家はどれくらいただろうか」といった話が出て、調べたことがある。その時の資料が最近、出てきたので、披露してみたい。
 「アカイアカイ朝日」などと冷やかされたことがあったが、左翼系はごく少なく、共産党議員は聴涛克巳のみ。左派系の労農党を率いた大山郁夫は本来は学者、友愛会、日本労働総同盟を率い、社会大衆党で当選した鈴木文治は穏やかなまとめ役、日本労農党以来の戦前派議員だった河野密も社会党では右派だったように、「左翼」という激しいイメージからは遠い。
 では右派系がいるかというと、これも少ない。玄洋社系で論陣を張った中野正剛は東条内閣のもとで憤死的自害で果てた。終戦時を受けて朝日社説「一億相哭の秋」を書いた佐々弘雄はもともとは学者肌ながら、近衛ブレーンの一人として血盟団の四元義隆を近衛の秘書に紹介したり、頭山満、中野正剛、緒方竹虎らの支援もあったりして、戦時下ながら右に位置したようだが、東条首相に睨まれたことで、その印象を薄めているようだ。朝日記者だった三浦数平の子に右翼「室町将軍」の三浦義一がいるが、父親との関わりは不明だ。

 政界の役職に就いたトップは、ハプニング的に総理大臣になった細川護熙ひとり。首相の座寸前で急逝した緒方竹虎(吉田内閣)、総裁選には出たが実らなかった石井光次郎(岸内閣)、河野一郎(池田、佐藤内閣)の3人は副総理どまり。総裁・総理の道の厳しさを思わせる。
 衆院議長には、石井光次郎(佐藤内閣時)がいる。朝日では営業畑で専務まで上り詰めた。筆者は一時夜回りをしていたが、温厚な人物で、議長にふさわしい雰囲気があった。もうひとりは小山松寿。近衛・平沼・阿部・米内・近衛・東条政権の4年以上の議長を務めた。西尾末広の「スターリンのごとく」発言、斎藤隆夫の「反軍演説」に際して、懲罰委員会に送り除名処分とした。
 ほかに、朝日新聞創業の村山龍平は衆院3期、貴族院議員を務めている。終戦時の編集局長細川隆元の影は薄らいだが、戦後の言論界では直言型の物言いがおおいに話題になった。
 地味ではあったが、田川誠一の古井喜実を支えての日中国交回復への努力は忘れがたい。

 ところで、第2次世界大戦下の第21回衆院選挙(1942=昭和17年4月)は、東条内閣下の「翼賛選挙」で、大政翼賛会のもとに設けられた「翼賛政治体制協議会」(会長阿部信行前首相)が推薦する候補者を当選させるための組織によって仕切られていた。
 この協議会が定数いっぱいの466人を推薦し、ほかに非推薦の、つまりこの体制に反発する候補者が挑戦する形になっていた。
 結果は推薦組381人(81.76%)が当選、非推薦組が85人(18.24%)。非推薦組の当選 には鳩山一郎代表の「同交会」9、中野正剛総裁の「東方会」6、右翼など3の計18人が含まれていた。議会構成は、政府支持の推薦組が146議席の増、批判的な非推薦組は108議席の減。投票率は83.15%と高く、真珠湾攻撃から約5ヵ月の時点で、戦況はまだ華々しく、翼賛政治が支持されてはいたようだ。
 朝日側の動向を見ると、翼賛推薦の当選は小山松寿一宮房治郎伊豆富人池田秀雄野田武夫羽田武嗣郎、初当選の神尾茂頼母木真六。落選は高橋円三郎、春名成章。
 非推薦の当選は中野正剛安藤正純河野一郎河野密。同落選は田原春次。
 なお、鈴木文治は反軍演説の斎藤隆夫の除名問題で党の方針に反して棄権、除名となり、また戦後の衆院選出馬の直前に病死した。また、風見章はゾルゲ事件で朝日記者尾崎秀実の問題を抱え立候補を見送った。大山郁夫は当時米国に亡命中で、戦後に参院で当選した。
 ちなみに、次の衆院選で復活したのは、保守の野田、羽田、高橋、それに安藤、河野一郎、革新側では河野密、田原が戦後の政治に関わることになった。

 保坂正康は「ある新聞記者の手記を読んでいたら、昭和12、13年頃からは新聞記者たちが政治家になるために政治部に入ったと書いていますね。だから、昭和17年の翼賛選挙では元新聞記者がかなり当選しているんですって。当時の政治記者たちの間では、民政党か政友会から立候補するために、『俺は政友会の担当になりたい』とか、『民政党の担当になりたい』とか、社内では売り込みが激しかったと書いていますよ。つまり、当時の政治部記者にとって新聞は、政界に入るための一里塚に過ぎなくて、ジャーナリズムなんて全く頭になかったんじゃないですかね」(保坂と半藤一利「そして、メディアは日本を戦争に導いた」文春文庫)と述べている。
 最近は記者出身の政治家はかなり減ったが、明治期以来、記者から政界入りした人物は犬養毅、原敬、細川護熙、緒方竹虎ら、衆院議長でいえば保利茂、福田一、額賀福志郎らがいるが、政治理念あっての政治家志願か、政治権力掌握のための手段であるか、その違いは大きい。

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(2023.11.20)
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