民主再生は可能か。無党派層と脱原発票の行方。     仲井 富

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●無党派層の離反、維新・みんなへ拡散

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 民主党が03年以来、衆参選挙で約2100万票の安定した比例区票を獲得できたの
は、都市無党派層の支持を得たことにある。とりわけ政権獲得時の09年衆院選挙
の選挙区投票で約2900万票を獲得した。投票時の民主党支持率は25%で自民の支
持率は37%だった。しかし無党派層20%のうち、民主は実に58%を獲得し、自民
は24%だった。加えて自民支持層の29%が民主に投票した。自民支持層で自民に
投票したのは58%だった。これが民主党大勝の原因となった。要するに無党派層
の圧倒的な支持と、自民支持者の離反が民主党の圧勝を呼んだのである。

 朝日新聞の出口調査(朝日新聞2012.12.19 無党派層、民主にそっぽ)によると、
昨年12月の総選挙では、投票時の民主支持率は16%、自民支持率は30%だった。
無党派層27%のうち、選挙区で民主に投票したのは23%、自民に投票したのは32
%、維新に投票したのは15%だった。加えて民主支持層18%のうち民主に投票し
たのは61%。残りは自民15%、維新7%など他党に流れた。09年に自民党に投票
したのは自民支持者の58%。今回の選挙で民主に投票したのは民主支持者の61%
だった。無党派層からも本来の民主支持層からの見放された結果としての惨敗で
あり、自民の09年の惨敗とコインの裏表のように酷似している。

 無党派層は比例区はどの党に入れたか。同じ朝日新聞の出口調査では、投票時
の無党派層27%のうち、維新がトップの23%を獲得、自民が19%で二位、さらに
みんなの党が民主と並んで14%を獲得した。そして卒原発の未来が8%、共産6%、
公明5%、社民3%となった。 政権獲得のためには、30%から時には40%台に達
する無党派層の支持を無視してはあり得ない。

 09年8月の衆院選挙で民主大勝の翌月、9月に行われた大阪堺市の市長選挙で、
自・民・公・社民・連合の推薦を受けた現職市長が、橋下知事(当時)の推した大
阪府の部長に5万票近い大差で敗れた。誰が考えても現職市長当選は間違いない
という図式で敗れた。もはや自公民社民連合という古い図式の選挙では無党派層
の支持は得られない。

 だが同じ過ちを大阪市長選で再現した。維新橋下に自公民社民共連合で対決し
て敗北した。すでに民主は2011年3月、名古屋の河村市長の減税改革に抵抗し、
民自公共社連合で対抗したが、市長選挙でダブルスコアで敗北、つづく市議選敗
北につながった。これらの選挙で無党派層の支持を失い、固有の民主党支持者の
大量離反をおこしている。

 国政では自公に抱きつき消費税値上げ、さらに自公民談合による国会通過と主
体性なき民主への鞭が今回の敗北である。しかも民主は地方選挙で自公民連合と
いう古い図式に回帰している。もはや独自の候補者擁立はできなくなった。東京
では都議会第一党の支持を得ながら、東京都知事選挙で独自候補を立てることが
できず、石原慎太郎の4選を許した。首都で首長候補も立てられない民主は政権
政党の資格を自ら放棄したようなものだ。

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●脱原発票はどこへ、民主より自民に流れた

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 昨年12月の総選挙前、脱原発グループのブログに要旨次のような呼びかけがな
された。「脱原発法賛成の国会議員の署名は民主党などの議員によって160名を
超えた。あと60人の脱原発議員を当選させれば、国会通過のための過半数獲得可
能。それを目指して頑張ろう」。脱原発運動を推進する中心部分の楽天的な見通
しにあきれた。ふたを開けてみれば脱原発議員は、民主、生活、社民、共産など
周知のとおりの惨敗である。
 
 脱原発運動を担う中枢と、有権者の意識のずれはどこから起きたのか。世論調
査では、原発ゼロあるいは脱原発を望む声は常に過半数を超えていた。だがこれ
らの声はどこにいったのか、なぜ原発ゼロで終始一貫たたかった菅直人をはじめ
としてほぼ全員が落選したのか。比例復活した菅は「原発ゼロの声が私を推した」
と強弁しているが、その脳天気さにあきれる。民主党の野田や菅の「原発ゼロ」
なる政策を、有権者は頭から信用しなかったのだ。

 朝日新聞の調査(朝日新聞2012.12.19)によると、「出口調査からは、原発ゼ
ロ派の票が分散し、脱原発を掲げる政党の議席増に結びつかなかったことがわか
る」としている。投票を終えた有権者に原発について「今すぐゼロ」「徐々にゼ
ロ」「ゼロにはしない」から選んでもらった。全国で14%を占めた「今すぐゼロ」
派と64%の「徐々にゼロ」派の比例区投票先は、維新、民主、みんな、未来など
各党に分かれた。

 自民以外の各政党は濃淡はあっても脱原発を掲げているため、原発ゼロ票は分
散。また脱原発に慎重な自民への「今すぐゼロ」派の16%、「徐々にゼロ」派の
28%が投票した。民主にはそれぞれ16%、18%であり、「徐々にゼロ」派では自
民への投票が10%多い。「ゼロにしない」派では48%が自民に投票した。

 一方、小選挙区の投票先を見ると、「徐々にゼロ」派の票が自民に全国では41
%、立地13道県では47%が流れた、民主にはそれぞれ24%、26%だった。比例区
よりも自民に流れた割合が多いのは、脱原発を掲げた第三極が候補者を立てた選
挙区が限られていたことも影響したとみられる。

 原発立地県における自民の巧妙な「原発ゼロ作戦」も功を奏した。自民党福島
県連は衆院選公約に「脱原発」を掲げた。自民党本部は「再稼働は三年以内に結
論」「10年以内に持続可能な電源構成のベストミックスを確立する」と、脱原発
には慎重姿勢だった。だが福島では、昨年10月の県議会選挙でも、自民党を先頭
に、県内の原発10基をすべて廃炉にする請願を採択した。その結果は自民、共産
が勝利し、民主は敗北した。

 「原発に依存しない社会を目指す」というのは菅民主党政権が言い出したこと
だが、12年6月、大飯原発の再稼働に踏み切り、首相官邸デモのきっかけをつく
った。そして、12年秋には、大間原発の工事再開を許可した。「2030年原発ゼロ
を目指す」と口では言うが「原発ゼロ」という閣議決定はしなかった。与党民主
党の変節と裏切りに対する不信と怒りが、脱原発票の分散を招き、自民党を勝利
させる一要因となった。泊原発のある北海道は伝統的に革新が強いといわれたが、
「脱原発」の民主は、12選挙区で横路議長を先頭に全員落選、比例で2名復活の
みという歴史的惨敗だった。

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●参院選の予兆 地方都市選挙での連敗と野党共闘

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 国政選挙の予兆はそれ以前の地方選挙に現れる。民主党は小沢氏をはじめとし
て、これを分析する能力を欠いた「地方音痴」ばかりだった。09年8月総選挙大
勝の翌9月から、大阪堺、鎌倉、宮城県知事選と敗北した段階で潮目は変わった
ことに気付くべきだった。やがて沖縄で県外海外移設の願いを裏切り、消費税で
決定的な「うそ」をついた。かくて10年参院選の惨敗に至った。加えて11年春の
地方選挙でも敗北した。地方主権だとか口では言うが、地方都市での首長選挙に
現れた民意を全く無視した結果、足を持たない根無し草政党となった。

 12月総選挙以降の地方選挙でも予兆はくみ取れる。衆院選後、初の大型地方選
挙となった北九州市議選(定数61)は1月27日、投開票が行われた。各党とも夏
の参院選の前哨戦と位置付け、激戦を展開した。初めて候補を擁立した日本維新
の会とみんなの党は、いずれも候補3人が全員当選を果たし、「第3極」の存在を
示した。衆院選で大勝した自民党は19人全員が当選、公明も全員当選。民主党は
現有議席から3減の7議席。党派別内訳は、自民19人、公明11人、共産9人、民主7
人、維新3人、みんな3人、社民2人、政治ネット1人、無所属6人。民主は共産に
次いで第4党となった。

 大阪の柏原市長選挙では、維新の候補が、自民候補に競り勝った。県議補選で
も維新が自民に勝利している。横浜市神奈川区の県議補選では自民候補が勝利。
元県議を出した民主は、共産の候補に次ぐ第3位だった。

 政党支持率でも低落傾向はとどまらない。時事通信の1月の世論調査では、民
主支持率は2012年の11月には12.7%にまで低下した。その後、解散直後や選挙中
は一定程度期待がかかったが、選挙の惨敗。自民党新政権成立の後の1月には7.6
%の低支持率となった。09年、民主への政権交代後の自民党の最低14.1%と比較
しても低さが目立つ。

 直近の読売新聞2月10日の世論調査では、参院比例で投票する政党は、自民42
%、維新13%、民主7%となっている。民主は野党共闘を持ちかけているが、複
数区ではそれぞれが独自候補を立てるであろうし、32選挙区となった1人区での
野党協力が成功する可能性は低い。参院選挙の帰趨は明らかと言えるだろう。

             (筆者は公害研究会代表)

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