【コラム】大原雄の『流儀』

続・「二人大統領」の三角関係

大原 雄

 心配されたウクライナの、「一時停戦受諾」の報。プーチンロシアとトランプアメリカという先の見えない『闇』のニュース。新聞の見出しには、停戦に続いて「米提案 ロシアの同意 条件」という、尻尾がついており、まだまだ、一山も、ふた山もありそうな気配。判りにくい見出しだが、ロシアは、意向を漏らしただけ、同意も、今後の条件次第というところだろう。
 「トランプ氏、プーチン氏と協議意向」という見出しもあった。肝心の首脳会談は、これから。ということだろう。全体的に米・ロの高官取材をベースにした意向と見込みの記事。アメリカ・ロシア・ウクライナで描く三角形の中に入り込んだウクライナが、三角形の内部で押し込まれ、ツメ(詰め)の足取りが乱れているというような現状の感じではないか?
 とは、私の推測。→ その後の展開は、やはり、トランプも、プーチンも、ーーー。 余りに予測通りで、ガックリ。
 
 ★ 記事の検証
 
 この記事の「検証」を続けよう。
 記事には、ロシア、ウクライナの、双方の協議は「9時間に及んだ」という。なのにウクライナのゼレンスキー大統領は、記事からは、姿が見えぬ。二大強国の陰に隠れてしまったのか。もう一つ、国際的な外交政治の『闇』とでも、見出しを付け加えたいところ。やはり、まだ闇の中。11日の日付を入れた「停戦受諾」の記事は、3月13日付けのプーチン記者会見記事の見出しでは「停戦案を否定」と、早くも揺さぶられる。記事本文では、プーチンは、「従来の強硬姿勢を保った」と記者は本音を書く。
 14日付け夕刊の紙面だから、新聞の国際版は、既報ニュースの再録が多いようだ。
 
 既成メディアは、SNSが登場してから影が薄い。若い世代は、既成メディアをオールドメディアと呼び、批判する。再録版のような新聞の国際版では新聞とは言えないだろう。いつまで、メディアとして存在感を維持できるのか。現場を卒業したオールド・オールドメディアのデスクは、声も出せない。荒廃した原野。
 
 停戦期間の30日は、「ウクライナ軍の立て直しに使われるのでは無いかと懸念している」とプーチンは、言っているという。
 トランプは、(線引きは)「国境線を作り出すようなもの」だから重要だ」という。
 ゼレンスキーは、「事態を長引かせようと、非建設的なのは、ロシアにほかならない」と非難する。停戦どころか、まだまだ、という感じ。
 新聞の連載コラムニストも、現役らしくジャーナリスト魂を燃やす。
 「そうでなければ、ロシアを利するだけの停戦合意になってしまう」と、自分のコラムに補足の筆を入れる。
 
 ジャーナリストは、情報に対する「現場医師」であらねばならない。最前線で最新の情報を掴む。これまでの経験を踏まえて、的確な判断をしなければならない。
 各社の見立ては大丈夫か。
 
 ★ メディアの見立て
 
 メディアの見立ての多くは、以下のようなものだと思える。
 
 (ロシアの)「最終的な狙いの一つは、「ゼレンスキー氏の排除と親ロシア政権樹立とみられる」。孤軍奮闘の印象が残るゼレンスキー氏は、役者(コメディアン)出身だけに「外連味(けれんみ)」も、ないわけではなかったので、私も密かにケレンスキー(外連味好き)と、呼んでいたことを告白しておこうか。大局的に見ればゼレンスキー氏は、孤軍奮闘し続けたことには、間違い無いだろう。優れたリーダーだろう、と思う。トランプやプーチンとは明らかに違う。人間味がある、と思う。トランプは、観客のウケばかり狙っている。プーチンは、落とし所にしか、関心がなさそうだ。
 
 ここでも、「二人大統領」の三角関係構造が、その都度、それぞれ組み合わせを自在に巧妙・微妙・奇妙に分けて使われている。オールドメディアとSNSの役割分担には、まだ、議論が必要なようだ。
 
 さて、このページのトップには、今回は、当初から違う原稿を見込んで予定していのだが、事態が動き出して変わり始め、それに伴い私のコラムの内容も変更した。但し、毎回、大きなテーマは変わらず、役者は変わる。いや、違った。舞台に出てくる役者の顔触れは代わらずで、テーマは替わる。「表現と権力」という永遠のテーマを掲げてほぼ毎回同じような芝居を続けているから、不思議なことだ。先に触れたテーマを今回は「二人大統領」に絞って一部、深掘りを重ね、書き直したので、内容に重複があるが、許されたい。
 
 ★ 一人で飛び出したのは?
 
 それにしても、世界のトップクラスの報道カメラマンたちを呼び込んでおいて、二人の大統領がアメリカのホワイトハウス大統領執務室で、掴み合いまでには至らなかったようだが、それに近い「大激論」を演じるとは? 二人とも呆れてしまう。早くも、この「大激論」は、「やらせ」(フェイクなニュース)という大芝居絡みの説が、飛び交い東西で火の手を上げたのではないか? どうか、私は知らない。
 
 今は、「もう、どっちも、どっち」。似たもの同士の猿芝居。ロシアのプーチンとウクライナのゼレンスキーが上がっているリンクに近い観客席にいた金髪のアメリカ老人トランプが、興奮のあまり倒れて、腰は骨折、口は泡を吹くという大騒動にもならず、ヨヨイノヨイ、と、立ち上がり、そのままリンクサイドでは、はしゃいでいたのではないか。いやあ、最近のお年寄りは、元気溌剌。但し、多くの人は、歳には勝てない。まあ、無理は禁物。
 
 お邪魔虫を装ってレフリー役に化けたりしていたもう1人の高齢者、トランプ老人もリンクの中央で微動だにもせず、堂々と立ち続けているではないか。影武者のいる二人大統領の強みか。
 
 ほかにやることがないのなら(失礼!)と3月11日には、共同声明を発表したというわけだ。声明によると「ウクライナは即時かつ暫定的な30日の停戦」というアメリカの提案に同意し、アメリカは軍事支援と機密情報の共有を再開する」としている、という(朝日新聞3月12日付夕刊記事参照、一部引用)。アメリカはトランプさんのお芝居の幕開きか。メディアも、同じ感触らしく、「戦場で優位に立つロシア側にとって直ちに停戦に応じるメリットは少なく、実際に戦闘が止むかは、見通せない」と、記者の筆先は、ちと冷たいではないのかと受け取られかねない雰囲気。
 
 ★ 「金(かね)、金、関税」
 
 国際秩序も、なんのその。トランプは、「横から失礼します」の、断りの言葉もなく、それどころか、「金(かね)、金、関税」の幟旗を押し立ててリンク内に飛び入りして来た、という場面か。毎日のように「関税」アップの大統領令を書き飛ばしては、いないか?
 
 二人とも、人類全体のありようを決める重要な責任者として、大局観を持って、世界最高レベルの判断をし直せるように、改めて態度で、気持ちを示す必要があるだろう。おじいさんが先頭に立ち、若い頃の話をしながら。前へ。前へ。いい歳をしたおじいさん軍団よ、どこへ行く!という感じがする。迷路に立ち入り、進む道がわからないように見えるが、私には。
 
 さて、幕前(まくまえ)の座興は、この程度に留めて、演目(外題)の「二人大統領」については、私が勝手に付た架空の歌舞伎の演目を真似た虚偽の外題である。「ににんだいとうりょう」と読む。日本の歌舞伎や人形浄瑠璃では、「所作ごと」と呼ばれる。主役の立役(たちやく)や女方・女形(おんながた・おやま)の役者が本来は一人で踊る演目を主役級の二人に同じ衣装を着せて出演させて、つまり、主役をだぶらせる演出で見せる。つまり、舞台を豪華に華やかに見せる。こういう演目の場合、題目(タイトル)などに使われる。趣向が上手(うま)くいくと舞台に奥行きや幅が新たに生まれることになる。二人目の主役は、主人公の夢、まぼろしのようなものと考えられているようであった。歌舞伎や人形浄瑠璃は、演目や演出によっては、モダニズム、シュールリアリズムの味付けが可能である。江戸時代の歌舞伎は、世界の演劇の最先端を疾駆していたかもしれない。
 
 「二人道成寺」や「二人椀久」などは現在も上演回数が多いように思われるので、私も題目に勝手に寄り添った次第。
 
 ★ デジタルとオールド
 
 iPadの具合が悪い。型式がオールドになったからだろうか?
 いやあ、それなら実は人工知能(AI )の、私の方も、誤魔化しながら書いているから、似たようなもんだ)。お互い様だよ。デジタル文化には、そのスピードに驚かされる。
 
 私も、免れないが、人間も、毎年、型式がオールドになっている。そんなことくらい私にも、判りきっている。しかし、ものが大統領の話だけに、それでも、話は大きくなりがちなのは、勘弁して欲しい。
 
 昔の大衆演劇の上演の際に、歌舞伎のような「中村屋」、「高麗屋」、「音羽屋」、「成駒屋」などのスマートな屋号ではなく、「立役」にだけだが、「大統領」などというような掛け声がかかっていたことがあったのを覚えているだろうか。どういう意味を持たせていたのか?!
 
 「待ってました、! 大統領、ニッポンイチ」とでも、聞こえたか。勿論、誰か、大人の男性の声。
 
 東京育ちの私は、駒込・巣鴨界隈の商店街の、焼け爛れた跡が残る映画館ビルで、小屋の中に入り込み流しの芝居でも見ていたような記憶があるのだが、幻想か、まあ、記憶違いだろうか? 時は、1950年代前半。戦後10年の頃か。木洩れ陽のたっぷりしたような、昭和の時代味の光景。私の少年時代。
 
 スピーカー(話主)の性格のせいか、能力のせいか、判らないが、兎に角一旦、話を閉じないと、先へ進まない気分なのだ。話を大袈裟にしないためにも話半分くらいという感じで聴いて欲しい。
 
 どうも、私らは、話がくどいかもしれないですがね。ご勘弁を。
 
 ここは、
 大原雄のページである。
 と、強調するか。
 
 iPadから送信している。とは、再び、AIの声。
 
 ★ AI 対 人間
 
 失礼しました。90%、AIが執筆したという女性作家の実験小説が登場するとか。新聞だけでは無い。文学も変質を迫られている、ということか?
 
 以下は、すでに引用済みか。
 
 いやあ。新機軸の、新小説のつもりだがね。なに、そうは読めない、って?
 まあ、そこは、実験小説たる所以だよ。
 冗談、冗談。AIの声が遠去かる。
 
 あまり、お仲間の新聞記者の悪口は書きたくないと思いながら、最近ではつい目が行ってしまうのが、朝日新聞朝刊の、いわば、「ゴールデンページ」。社会面などに随時、不定期掲載の記事。
 
 ★ 訂正とおわび
 
 さて、「訂正して、おわびします」というコーナーだ。
 
 今朝の朝刊にも・・・。出たあ!
 以下、そのまま引用する。まずは、アトランダムに、メモ記載へ。
 
 ▼(朝日新聞25年4月1日付社会総合面転載)
 3月29日付総合3面「与野党協議 結論得られず」の記事で、企業・団体献金禁止法案について「2025年度末までに結論を得る」とあるのは「2024年度末までに結論を得る」の誤りでした。
 
 ▼(朝日新聞25年3月8日付社会面転載)
 2月22日付社会面「ドキュメント2025」の記事で、ニセコ周辺の山で「ナキウサギの『ピー』という鳴き声が聞こえる」とあるのは誤りでした。ニセコ周辺ではナキウサギの生息は確認されておらず、他の動物と見られます。
 
 どなたかが書いた記事を動物の生態に詳しい先輩記者が直し、訂正記事まで出させる。素晴らしいことだ。
 
 ▼3月7日付社会総合面「『責任明らかにしたかった』無念の涙」の記事で、「福島県川内町」とあるのは「福島県川内村」の誤りでした」という。地名の訂正でも見出し抜きで、2段組7行の、大きな記事を掲載。
 
 以下、全てでは無いが、大原メモに記載していなかったものも記載しておこう。担当者の誠実さには、頭が下がる。
 
 > 2025年1月2日付、新年早々最初に目に入って来た記事本文をそのまま引用する。
 > 
 > ▼ 1日付の別刷りbe テレビ週間番組表2日午後2時からの「テレ東(てれびとうきょう)番組「刑事の十字架」(略)の出演者に「陣内智則」とあるのは、「陣内孝則」の誤りでした。
 
 > こういう訂正とおわびもある。こうした記事というより番組情報の訂正とお詫びの掲載基準は、どうなっているのか。
 
 3月14日付朝刊参照、一部引用。以下、記事はそのまま。
 ▼7日付朝刊国際面の中国全人代の記事で、今年の政府活動報告に「消費」という言葉が登場する回数が、昨年よりも「10回多い32回」とあるのは11回多い32回」の誤りでした。昨年は21回でした。
 
 > (以下、略)。訂正・おわび記事のジャンルは、縦横無尽。数本の記載でもお判りであろう。
 
 以上、すべてでは無いが、毎月平均で、2本は、「訂正とおわび」を読まされている。
 
 > ★★ 矛盾の極みーー核兵器禁止・廃絶
 
 何度でも書かざるを得ない。大事な記事。だから、二つ星。
 
 > 核兵器の保有や使用を全面的に禁じる核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加を巡っては、去年12月、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノーベル平和賞を受賞したことを踏まえて、連立政権与党の公明党からの参加を促す声も高まるという状況になったのは、忘れまい。しかし、自民党内で、いわば「野党的な非主流派の立場維持を看板としていた石破「現政権」は、「慎重姿勢」、要するに、二の足を踏んでいて、足をブラブラさせている。石破首相にオブザーバー参加を明確に求めた広島県原爆被害者団体協議会(広島県被団協)理事長の箕牧智之さん(82)は、「政府はなぜ正々堂々と参加できないのか」と怒る。苦い体験の最初の体験国として、積極果敢にアメリカを批判すべきだろう。日本の歴代政権の、この脆弱さは、どこから由来しているのか。なぜ、二の足を踏むのか?
 >
 > アメリカは、トランプ大統領自身が言うように、トランプという「切り札」を国際社会に持ち出して、あるいは、担ぎ出して、本当に国際貢献できるのだろうか?
 私には、国際貢献ならぬ、国際迷惑では無いのか、としか見えてこない。「訂正とおわび」。
 矛盾の極み、とは、こういうことなのか!
 真の国際貢献を伝える記事は、いつ、掲載されるのか。
 
 ★★ 大統領令というマジック
 
 アメリカのメディアによると、トランプ氏は1月20日の大統領就任以来、1000に近づいたかどうかは知らねども多数の大統領令に署名してみせた、という。前政権の誤謬(?)指摘など現政権だけに特別持たせた大統領令は、演出的な政策指示という実態は、ともかく判った。しかし動画で伝える「演説」では、ことある毎に前任大統領の近くから悪口を言っているような印象が強い、と感じる。「バイデン政権が作り出した災難をひとつ残らず私が修復する」などと主張して、小手先政治な政策を連発したり、極端な、空疎な発言で、結局はトランプお家流の自画自賛しているだけの発言では無いのか。バイデン前大統領は、いたたまれないのでは無いか。それでいて、トランプ大統領も実際に公約通りに進むか見通せない分野も少なくないと特派員は、慎重にトーンダウンを滲ませながら報告記事のキーポイントを強調する。トランプ氏は、強硬な言辞で新たな政策を掲げながら、得意の「ディール(取引)」という土俵に相手を引き摺り出そうとする。トランプ氏は、トランプ流のやり方でビジネスの世界を牛耳ってきたのだろう。だからと言って、大統領後の、優雅なリタイア生活を故郷でノンビリ過ごしたいとして来た、前大統領の、カントリー・ジェントルマンは、毎日、新聞紙のトップ記事や演説を世界のニュースで厳しく「罵倒」される日々が待っていたとは、埒外なことだったのではないか。政権譲渡の初期のころのある日など、現職の大統領に前の大統領の悪口を言いたい放題言わせて、その後ろの椅子に力無く座り込んでいる無様な、己の姿がSNS で、リアルに写し出されていたとは、前の大統領も気づかなかったかもしれない。オールドメディアとSNS。どちらがコミュニケーションの役割を果たしているのか。
 
 ★失職・大統領
 
 韓国・尹大統領は、4月4日、国会の弾劾訴追の果てに、憲法裁判所で、罷免された。直ちに、失職。
 
 韓国の憲法裁判所は、4日、去年の12月の「非常戒厳」宣布を受けて国会に弾劾訴追された尹錫悦大統領について「憲法秩序を侵害した」などとして裁判官の全員一致で罷免を宣告した。この結果、尹氏は失職し、60日以内に大統領選挙あ行われることになった。
 現職のままで、大統領が弾劾訴追で罷免されるのは、2017年の朴槿恵氏に次いで、2人目。
 韓国大統領は、顔が代わるが、アメリカ大統領は、大統領令にサインをしている。サインをすれば、大統領の本も売れるのか?
 
 地球を無人の荒野にしない。このためにマスメディアの重責は、オールドメディアとSNSのどちらが、担うべきか?という問題がたちはかって来た。

(2025.4.20)
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