【運動資料】

TPP参加に極秘条件あり!後発国、再交渉できず!    濱田 幸生

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 安倍首相が前のめりになって、あとは「決断」だけという時期になってとんで
もない爆弾が炸裂しました。東京新聞のスクープです(※資料参照)。 これを
受けて3月8日の衆院予算委員会において、共産党笠井亮議員が追及しました。

 なかなか鋭い舌鋒で、いままで野党の質問を軽く一蹴しできた政府側が初めて
たじたじとなった様子がみてとれました。 私もこの国会中継を聞いていたので
すが、岸田外相もその秘密条項の存在を認めています。
 http://www.dailymotion.com/video/xy1tgl_yyy-yy-yyy-yyyyy-yyyyyyyyyyy-y
yyyyyyyyyyyy_news  う~ん、推進派にとって致命傷になりかねない秘密条項で
すね。

 この秘密条項は、日本より後に交渉参加の意志を示したにもかかかわらず、先
に参加表明してしまったカナダ、メキシコのNAFTA(北米自由貿易協定)諸
国が、先行参加国から「さて、ご参加されたなら、お教えしましょうか」とばか
りに突きつけられたものです。

 内容に入る前に、TPP交渉の流れをおさらいしてとかないと分かりにくいか
もしれません。TPP交渉の時系列はこんな流れです。

①TPPは、2005年6月3日に、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーラン
ドの4カ国間で調印し、2006年月28日に発効しました。
 これが原参加国による原協定 (original agreement)で、いまの拡大版と区別
するために「P4協定」とも呼ばれることがあります。

②2011年現在このP4協定に、米国、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、
ペルーが加盟交渉国として、原加盟国との拡大交渉会合に加わっています。この
9カ国による拡大交渉は、2011年11月12日に大枠合意に至り、2012年最終妥結。

③2012年11月までにさらにカナダとメキシコが参加表明。
④日本は2011年11月13日、野田首相がオバマ大統領に参加の意向を伝達。
⑤2013年2月安倍首相は、オバマ大統領の日米首脳会談の結果、「一方的に全て
の関税撤廃をあらかじめ約束することを求められるものではない」という条件で
TPP交渉参加することに事実上合意。

 さて、問題は言うまでもなく、P4諸国、あるいはその拡大版のP9諸国に対し
て、その後の2012年以降に入った後発諸国が不利な条件になることです。
 これは新たに交渉に参加する国に対して3ツの秘密条項を課すというものです。

①合意済みの部分をそのまま受け入れ、議論を蒸し返さない。
②交渉の進展を遅らせない。
③包括的で高いレベルの貿易自由化を約束する。

 この3条項はカナダとメキシコが去年6月に交渉参加した時点で、既に参加して
いた9カ国から「念書」(レター)で知らされたものです。
 この「念書」は、念がいったことには極秘とされており、協定発効後4年間秘
匿されることは既に、ニュージーランドのTPP首席交渉官の発表で分かってい
ます。

 ①の「合意済み部分は蒸し返さない」というのは、「先行して交渉してきた9
カ国が合意した条文はすべて丸ごと受け入れなさい、2012年以降の参加国には拒
否権はありません」ということです。

 これは既に去年6月時点で野田政権も知っていたようですが、国民には黙って
いました。 おそらくカナダ、メキシコ両国に対して外務省ルートで、いかなる
ことが条件となったのか調査していたはずですが、この守秘義務があるために詳
細な内容まではわからなかったはずです。

 ②の「交渉の進展を遅らせない」ということは、特定の交渉分野について9カ
国が既に合意した場合、その合意に従えという意味です。
 既締結国9カ国にとっては、原協定(P4協定)が発効したのが2005年、9カ国
の拡大版となって交渉開始が2011年ですから、既に3年から8年の時間が経過して
いるわけです。
 この8年の交渉の蓄積を、いくら日本が経済規模がデカイからといって、遅れ
てやってきてちゃぶ台返しされてたまるか、というのが既参加国の言い分でしょ
う。
 意地が悪いようにも聞こえますが、多国間交渉とはそのように各国の利害が錯
綜するために、一国の利害だけで押し切れないということです。
 だから難しいわけで、こんな多国間自由貿易で一方的に得をするのはシンガポ
ールやブルネイのような国だけなのです。

 ひとことで言えば、入っては見たものの、内容的に日本にヤバイこと、すなわ
ち③の「包括的で高いレベルの貿易自由化」を無条件で約束させられてしまうこ
とになります。  言い換えれば、「交渉力」があろうとなかろうと関係のない
決め事があったと
いうことになり、おまけになにが決まっているのかが分からず、いったん入って
しまえば日本には拒否権がないのです。

 推進派のみんなの党の江田憲司氏は国会質問で、「今まで外交交渉で交渉途中
でノーといって打ち切った事があったでしょう。国益にそぐわなかったら打ち切
ればいいのです」と述べていましたが、TPPは「途中でノー」と言えないのが
多国間交渉で、それも既に9割9分出来上がっているということをお忘れのようで
す。

 よく推進派は、今入らないと「交渉のルール作りに入れなくなり、遅れれば遅
れるほど不利になる」と言いますが、そんなルールは既参加国だけで勝手に決め
てあり、参加の意志を示せば、教えてやるという実に高ピーなものだったわけで
す。

 まさに二重三重に始末におえないシロモノがTPPだったのです。  私に
は、こんなお化け屋敷のようなものに入りたいという人の気持ちが理解で
きません。

 別に参加できなくとも、個別の国とFTAなり、EPAなりを締結して行けば
いいわけであり、こんな筋が悪い多国間FTAにのぼせ上がる必要はないのです。
 米国とも、そんなにやりたければ日米FTA交渉をすればいいのであって、2
カ国間交渉なら安倍首相が言っている「聖域なき関税撤廃はない」という合意も
活きてくるのです。 自民党はもう一回頭を冷やして、外国の作ったルール通り
になるのか、否かをしっかりと判断したほうがいいでしょう。

※資料 TPP後発国に不利条件 首相 説明は後ろ向き
 東京新聞3月9日
 環太平洋連携協定(TPP)への交渉参加に関連し、後から交渉に参加したカ
ナダとメキシコが著しく不利な交渉条件を求められた問題が、八日の衆院予算委
員会で論戦の主要テーマになった。野党側が事実関係の公表を求めたのに対し、
安倍晋三首相らは終始、後ろ向きな姿勢。TPPは国民生活を大きく変える可能
性のある重要な課題なのに、首相は説明責任を軽視したまま、交渉参加表明に踏
み切ろうとしている。

 日本維新の会の松野頼久氏はこの問題を報じた本紙を片手に「不利な条件で参
加しなければいけないのか、カナダやメキシコに確認したのか」と、何度も政府
に迫った。

 問題は、二〇一〇年までにTPP交渉に参加した九カ国が、一一年十一月に参
加の意向を表明したカナダとメキシコに対し、すでに合意した条文は後発の参加
国は原則として受け入れ、再協議も要求できないなどの不利な条件を提示したと
いうもの。

 岸田文雄外相は松野氏の質問に「他国のことをコメントする立場にない」と繰
り返した。自民党の山本有二委員長が「日本の立場を明確に」と促しても、答弁
を変えず、松野氏は「議会として聞いているのに怠慢だ」と憤った。

 首相も「交渉にまだ参加していないから情報収集が難しい」と釈明したが、こ
れには松野氏が逆襲。松野氏は、自民党が野党時代の二〇一一年十一月、当時の
野田政権による交渉参加表明に反対する決議案を衆院に提出した際、「政府の情
報収集と国民への説明が不足している」と批判したことを指摘し、現在の首相の
姿勢との矛盾を突いた。

 また、共産党の笠井亮氏は、七日の予算委で「既に交渉に参加している国と、
後から参加する国では条件が違うのか」との質問に、首相が「判然としない部分
がある」と答えた点を取り上げた。

 笠井氏が「判然としない内容を把握しているのか」と聞くと、首相は「取って
いる情報もあれば、輪郭がぼやっとしているものもある」と答弁。笠井氏は「ぼ
やっとしたものがあって、入ってみたら大変だったら責任問題だ」と情報把握が
不十分なまま、近く交渉参加を表明しようとしている首相を批判した。

 八日の質疑では、岸田氏が、後発組の国には包括的で高いレベルの貿易自由化
を約束し、交渉進展も遅らせないなどの要求があることを明らかにした。

 日本のTPP参加では、コメなどの農産品が関税を撤廃しない「聖域」となる
かが焦点。笠井氏は、林芳正農相が岸田氏の説明を知っていたかと聞くと、林氏
は「そういう情報を事前に知っていたことはない」と述べた。閣内でTPPに関
する情報共有が不十分なことも露呈した。

 笠井氏は「国民や国会には都合の悪い情報は出さず、国のあり方に関わる重大
問題で、拙速に結論を出そうとする。絶対に許されない」と迫った。

 (筆者は行方市在住・農業者)
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