■中国の原発・その危険な実像 ~「脱原発一国主義」でいいのですか?~               濱田 幸生

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■中国の偏西風風下に位置する日本列島

中国の原発が事故を起こした場合、原子力規制委員会も想定するように「偏西
風に乗って風下の日本は大規模な被曝をする」ことになります。
中国の原発銀座である東部沿海側から渤海周辺で大量に放射性物質が放出され
た場合、ヨウ素やセシウムなどは揮発性ガスですから、偏西風に乗って西側海上
に吹き出され、短時間で我が国の九州、北陸、東北に到達します。

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この黄砂の月別観測日数は4月を中心として夏を除く通年現れているのが分か
ります。

http://arinkurin.cocolog-nifty.com/.shared/image.html?/photos/uncategorized/2013/06/05/photo_2.jpg

さて、福島事故の場合3月15日から3日間程度で放射性ヨウ素とセシウムがピーク
を迎え、セシウムは以後事故終息まで飛散し続けます。

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しかし、結局、あの国は原子力事故はチェルノブイリ・クラスならしかたがな
く公表するでしょうが、小規模な放射能漏れだと隠蔽するでしょう。

「中国広東原発集団公司の賀禹(ホー・ユー)会長は、福島第1原発事故は重
大な人為的事故であり、日本の作り出した災難だと指摘し、この2年間に中国政
府は国の原発安全基準をさらに引き上げ、原発の安全水準の向上と原発産業の安
全で効率的な発展の促進に尽力してきたと述べた。」(レコードチャイナ3月13
日)

この言葉が真実であることの可能性はかぎりなく薄いと思われます。私には中
国特有のプロパガンダにすら聞こえます。初期の放射性ヨウ素やセシウムが偏西
風に乗って私たちの頭上に降った後に、私たちはその真実を知ることになるでし
ょう。中国の原発は、事故を起こすべくして起こすだろうと私は思います。それ
も福島事故以上のシビアアクシデントを。

脱原発派の皆さん、我が国の原発のみ見ているだけでいいのでしょうか。世界
一危険な原発は私たちの風上にあって膨張し続けているのです。

■中国の原発大増設計画

現在のところ、中国において原発が占める割合はたいしたことはありません。
あのエネルギーに血眼になっている国とは思えないほどです。中国の現在有する
原発は6カ所・15基が稼働しています。発電量は12・5ギガワット。国内の総発電
量の1・8%を占め、世界の原発発電量の約3・5%に当たります。このていどで行
ってくれれば私も安心なのですが、そうは問屋が卸しません。

ニューズウィーク誌(2012年12月27日)によれば
「中国は今後数年にわたって原子力エネルギーを増産する──中国原子力産業
協会の理事長は先週、広州で開かれたセミナーでこう宣言した。張によると、中
国は15年までに原発による発電量を42ギガワットに拡大する。これは全世界の原
発発電量の約10%に当たる数値だ。」

張理事長によれば、15年ていどかけて41基の原発を新設し、さらにそこから20
基が増設され、40ギガワットにする予定だとのことです。
政府の5カ年計画はこの超理事長の計画より更に野心的で中国の第12次5カ年計
画(11年~15年)では、15年までの目標値は50ギガワットにするとのことです。

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いちおう中国も、福島事故を受けて1年間原子炉を停止させていましたが、そ
の間にやはり推進するべきだとの方向で国家方針が固まったとみえて、従来の推
進路線に復帰しました。
ただ、この停止期間に50から40ギガワットに下方修正が行われたようです。
現在、広東核電集団は計6か所、16基の原子炉をそれぞれ広東省と遼寧省、福
建省、広西省に建設中です。

黄学清技師長はこう述べています。
「中国で現在稼働中の原子力発電所は、用地選定、設計、建設、メンテナンス
などの各面にて細心の注意が払われ、それら全ては安全法に基づき実施されてい
る。また、稼働時には最も厳しい安全基準が採用されている。」(インサイトチ
ャイナ2011年4月20日)

また、張理事長は、「福島の悲劇から十分な教訓を得ている」と強調し、「中
国の原発の性能は優れており、立地場所も慎重に選んでいるため、福島と同じ轍
を踏むことはない」(同)と述べています。 しかし、この張氏や黄氏の一見慎
重に見える発言には疑問符がつきます。

中国の原発は東部沿海地域に集中しています。 既に、中国はその工業地帯で
ある沿海側に原発を集中させており、中国国務院は2012年10月には、今後も沿海
部にのみ原発建設を認めると発表しているからです。

日本原子力産業協会によると、中国政府が計画している51基(5980万キロワッ
ト)は大半が冷却用に海水を取り込める沿岸部に集中しています。
福島第1、第2原発、あるいは浜岡原発と同様に海の近くの原発の宿命である
津波や台風に極度に弱いことは既に立証済みなはずです。 中国当局が経済の要
請を、安全より上位に置いたことがここでも分かります。

中国原発事情に詳しいテピア総合研究所副所長の窪田秀雄はこう述べていま
す。 「中国は学生時代の序列がモノを言う社会です。当然、電力会社の社員は
威張っており、国家核安全局の職員が『もの申せぬ』雰囲気であることは容易に
想像できます。」

ここでもPM2.5大気汚染と同じ構図が現れています。原子力規制当局がエネ
ルギー会社よりはるかに格下のために、なんの権限もなく事実上放任状態である
ことが分かります。

国家核安全局が本来職務として検査すべき原子炉部品について、専門家は「品
質にばらつきが大きく納期も安定しない」と指摘しており、これが一挙に8000万
キロワット体制に大増産した場合、危険は予測不可能なほど高まるでしょう。

「日中協会が入手した中国側の資料によると、中国の原発1基当たりのトラブ
ル件数は05年2・6件(日本0・3件)、07年2・1件(同0・4件)で、日本の5倍以
上の割合で記録されている。トラブルがあった場合、日本は原子炉を止めて安全
を確認するが、中国では稼働しながら故障を修理するという経済優先の対処法も
みられるという。」(産経新聞)

■地震多発地帯の上にある中国原発群

中国は、意外に思われるかもしれませんが、地震多発国です。 中国人当人も
どうもそう思っているようで、事実、写真で見る上海の高架都市高速道路を支え
る橋脚の細さは、首都高や阪神高速道路を知っている私たちには、おいおいこん
なので大丈夫なんかね、というほど細いものです。

まぁ、逆に我が国が異常に丈夫(ただしメンテをケチったのでガタガタです
が)だとはいえるわけですが、少なくとも唐山大地震や四川大地震で数十万人が
死んだ国とは思えないほど耐震構造には気を配っていないのは確かです。

しかし、あいにく中国は世界的にも地震多発国であることは地震学的に裏付け
られています。 「中国の地震防災の現状と展望」(何永年)によれば、
「中国の国土面積は、全世界陸地の14分の1にすぎないが、一方、陸上地震の
発生数では全世界の直下型地震件数の3分の1が中国国内で発生している。」
(同) また「中国各地の広範な省、直轄市でM5以上の地震が発生しており、
国土の41%、都市の50%、人口100万人以上の中・大都市の70%で震度7の地震が発
生している。」(同)

そして直下型が多いのも特徴です。 何氏によれば、中国の主要工業都市にお
ける地震発生は
・M8.0以上の巨大地震は10~15年に1回
・M7.0~7.9の大地震は3年に2回
・M6.0~6.9の地震は1年に2回

というふうに多発しており、内陸部ではM8.5クラスの大規模地震が起きていま
す。これは2度に渡った最近の四川大地震をみれば理解できます。 また中朝露
の国境付近では直下型地震が起きているようです。唐山大地震などがこれにあた
ります。

「中国自然災害系統地図集」の地震発生マップと、原発立地を重ねてみます。
中国の原発はM5~6地帯に特に多く集中し、紅沿河原発などはM7~9地帯に立
地しています。

たとえば、紅沿河原発近くの唐山市では、1976年に直下型の大地震が起き、死
者24万人を出した唐山大地震があった地域で、中国当局の発表は例によってあり
ませんが、紅沿河原発直下には大きな活断層があるはずです。地震学上では、渤
海湾周辺には中国で最も地震を引き起こしやすいとされる2つの地震帯があるの
はよく知られていることで、今までもたびたび大地震が発生した「地震の巣」で
す。こともあろうにその真上に建設しているのが紅沿河原発で、07年に1号機の
建設が始まり、現在4号機まで着工済みです。

また、山東省は栄成原発、乳山原発、海陽原発と3カ所の原発がわずか300キロ
の沿岸部に展開しています。 既存の大亜湾、嶺澳の両原発に加え、建設中の陽
江、台山などでも建設中、計画中を合わせて山東省だけで六カ所もの原発が集中
しています。

福島第1原発事故の教訓では、沿海部の原発は津波への備えは必須なはずで
す。 防潮堤の設置も、外部交流電源全喪失時の非常用電源の確保など、我が国
規制委員会の基準も中国は知っているはずですが、やっているという話はついぞ
聞きません。こういうことこそ無条件で模倣してほしいのですが。あるいは、地
震から原子炉建屋を守る免震構造や重要免震棟なども持っているとは到底かんが
えられない以上、非常に危険な薄皮一枚の上にあるのが中国原発群なのです。

福岡-上海間の距離は890キロしかなく、チェルノブイリでは約600キロ超の距
離を放射性物質は飛びました。ましてわが国は中国から年間を通しての偏西風の
風下にあたっています。

「ところが紅沿河原発をはじめ中国の原発について情報開示はほとんど行われ
ておらず、震災・津波対策の実態も定かでない。こうした実態を把握するため
に、原子力産業協会は毎年、世界の原発に安全対策や稼働率を尋ねるアンケート
を配布しているが、中国からの返答は皆無という。安全対策の実態解明は全く進
んでいない、と同協会の担当者はこぼす。」(産経新聞2013年3月14日)

今後10年で世界中の原発の総数に等しい原発が燐国に雨後の竹の子のように林
立し、うち100基近くは北部九州の東1000キロ前後にあることになります。まさ
に悪夢です。

■基礎技術なき原子力技術の危うさ

中国は基礎研究には徹底して金をかけません。「倣文化」(模倣文化)の国で
あるために、いくら地道に研究してきても、製品化されたとたんバラバラに分解
されてそっくりコピーされてより安いものが幅を効かせてしまうからです。中国
は、原発の新設に当たって日本の第3世代原子炉技術を導入することを希望して
います。国家核電技術公司の関係者は我が国の原発の中核的技術を欲しがってい
ます。

現在、この原子炉容器の最先端の技術を持っているのは日本製鋼所室蘭工場で
す。 原子力格納容器は鋳物の鋳造などではできません。特殊な製造特許による
鋼鉄の部品、いやもはや建造物と言ったほうがいいでしょう。

原子炉の5重の壁の1つとして炉心からの高レベル放射性物質と放射線を確実に
外部と遮断するために、高温高圧に耐えて耐食性に優れ、冷却材と化学反応を起
こさないことが必要だとされています。

原子力関係者によると、世界の原子炉圧力容器に用いられる大型鉄製鋳造品市
場において、日本製鋼所は約80%という圧倒的シェアを占めています。つまり日
本しかこの技術を持っていないことになります。

しかし、日本製鋼所側は中国に対して渋い顔をしているようです。
国家核電技術公司呉総経理(社長)は、「日本企業が何でも売ってくれるわけ
ではない。特に原子炉圧力容器や鋳造品は重要な製品であり、そのほかの製品し
か売ってくれない」とこぼしています。

この中国の会社は2011年に、中国の4社の鋳造品メーカーを率いて日本製鋼所
を見学しました。 しかし同社の技術者は、「日本製鋼所からの技術導入は困難
だ」と述べたが、その理由については述べなかったそうです。

同じように中国原発学会の関係者も、「中国の原発事業発展において、このよ
うな状況は何度か発生している。日米は中核設備・技術を機密事項にしている」
と語って不満そうです。

その理由ははっきりしています。技術移転したら最後、中国企業がかならずそ
っくりパックった製品をダンピング価格で輸出攻勢をかけるからです。 日本製
鋼所の佐藤育男社長は、「今後数年後には、中国の多くの競合他社が当社の深刻
な脅威となるだろう」と述べて、警戒感を隠しません。中国は基礎的な研究にコ
ストを支払わず、安直に模倣して盗もうとします。

中国新幹線を見るとその急成長とつぎはぎがどのようなものかわかります。
2005年から高速鉄道建設をはじめたのですが、たったの6年間で日本の4倍です。
そして高速鉄道車両も、日仏独加が営々と40年、50年かけて作り上げたものをわ
ずか5年で400キロの車両技術を「自力で独自開発したのだ」と主張しています。

はい、わきゃありません。2011年7月21日に温州市で起きた新幹線事故は、信
号のミスという初歩的技術の欠陥により先に停車していた車両はカナダの技術で
作った「CRH1」、追突したのは東北新幹線の技術をパクった「CRH2」で
した。

ちなみに中国はパンフレットに日本の新幹線基地の写真を、そのまま社名だけ
合成したものを使っています(笑)。しかも信号機やダイヤ編成、運転士教育な
どといった鉄道の基盤技術はあいも変わらぬ旧態依然たる中華流で、ある鉄道技
術者にいわせれば、前世紀の水準だそうです。

そこにさまざまな国から盗んだ技術で作った車両を乗せて時速400キロで走ら
せようというのですから、これで事故が起きないほうが不思議なくらいです。そ
して、驚愕することにはそのような闇鍋技術を独自技術だと主張し、主張するだ
けならともかく世界各国で特許まで取ろうとし、あまつさえ売り込みセールスま
でかけるに至っては、中国という国が「技術」ということをとことんなめ切って
いるのが分かります。

技術とは体系です。新幹線なら、その車両のモーターやバネひとつから架線、
線路、車両運行システム、そして運転手管理にいたるまで一貫した技術哲学によ
って支えられています。それを各国の「いいとこ取り」をしようという考え方そ
のものが、現代技術のなんたるかもわきまえないもので、そこから既に破綻して
います。

中国は、初号機の秦山原発1号機は原爆用でしたので旧ソ連の技術を手本にし
て独自開発しましたが、以後一貫して外国製技術に頼っています。たとえば、フ
ランスのフラマトム(現アレバ)やロシアのアトムネフチ、東芝傘下の米ウエス
チングハウス、あるいはカナダのCANDU炉などです。

いままで中国は、基本設計や最重要部である圧力容器、蒸気発生器(SG)、
冷却系などは国産できなかったからです。そのために国内原発が各国仕様バラバ
ラの状況でした。広東核電集団はアレバの「CPR1000」のコピー、中国核工業
集団はウエスチングハウスの「AP1000」のコピーである「CAP1400」といっ
た具合です。それを2012年7月になって、国内の新規原発を東芝ウエスチングハ
ウスの「AP1000」一本にまとめる新原発方針に変更しました。

この「CPR1000」原子炉は東芝ウェスチングハウスの技術で作られています
が、例によって中国核工業集団公司は「我が国が開発した原子炉は世界一だ」と
豪語し、設計と建造の国産化を実現できるとのことです。そして冷却系のメイン
パイプは国産だと胸を張っています(人民網による)。

これが中国得意の数カ国の技術を闇鍋化するやり方です。このように各国の技
術を無節操に取り入れる方法は、ロケットや軍事用艦船、航空機の電子機器など
でも多用されている中国の特異な方法です。こういう技術摂取、いや剽窃をする
と、結局システムの統一性がとれず、トラブルに対して脆弱なものができてしま
います。おお、なんと恐ろしい。私はそんな原子炉の半径600キロ(※)には絶
対に近づきたくありませんね。世界一危険な原子炉、それが中国の原発です。

※600キロはチェルノブイリ事故時の放射性物質飛距離です。

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■資料

中国の原発事故想定、対応策を検討、原子力規制委「次々原発が建設され、事故
が起きた場合、日本に甚大な影響」 産経新聞 2013年2月25日

中国の原発で過酷事故(シビアアクシデント)が起こった場合、日本にどうい
う影響があるかなどについて、原子力規制委員会が事故対応の検討を始めたこと
が24日、規制委関係者への取材で分かった。国内の原子力規制機関が海外の原発
事故を想定し対応策を検討していることが判明したのは初めて。

規制委は今後、各国の規制機関とも協力、海外の原発事故対応について本格調
査に乗り出す。規制委関係者は中国を検討対象とした理由について、「次々と原
発が建設されており、事故が起きた場合、日本への甚大な影響が考えられる」と
している。

具体策は今後議論されていくが、中国などの近隣諸国の原発がトラブルを起こ
し放射性物質が放出されると、偏西風に乗って放射性物質が日本に流れ着くこと
が予想される。

日本はすでに、中国からの大気汚染物質の飛来に直面している。このため、放
射性物質がどのような経路で日本にたどりつくかを示す拡散予測シミュレーショ
ンマップを作成することも考えられるという。

4月からは特に、これまで文部科学省で実施されていた放射性物質の測定業務
が規制委に移管されることで、モニタリング態勢も強化できる。規制委はそのた
めのベテラン技術者の募集もすでに始めた。今月12日の北朝鮮による核実験で
は、文科省が放射性物質が大気中に漏れた場合の拡散予測を発表している。

(筆者は行方市在住・農業者)

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