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メールマガジン「オルタ」113号(2013.5.20)
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 ◎ 『サッカーのルールを変えるような96条改正は許せない』          
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改憲には賛成でも96条改正に反対というのは健全な立憲主義だ    五十嵐 仁

第2次安倍政権が発足してから、現行憲法を変えられてしまうのではないかという危機感が高まってきました。理由はいくつかあります.一つは、改憲を公言する安倍元首相が返り咲いたことです。安倍首相は第1次内閣のときに国民投票法を制定して改憲に向けての制度的整備に着手し、昨年の自民党総裁選や総選挙でも、改憲の意図を明確にしていました。 第2に、このような安倍さんの意図を実現するために必要な議席が衆院で3分の2を越えたことです。この勢いなら7月の参院選でも3分の2を超えるかもしれず、そうなれば衆参両院での改憲発議が可能になります。 第3に、当面の改憲戦術として安倍首相が96条改憲先行論を打ち出し、参院選でもそれを争点にしようとしていることです。9条改憲に先だって、手続きを定めた96条の改定を先行させた方が国民にとっては抵抗感が少ないと考えたのかもしれません。これを突破口に改憲グセを付け、「本丸」である9条改憲に取り組もうとしたのでしょう。

包囲どころか孤立の安倍外交-日台漁業合意は馬提案の具現化     岡田 充

■日台漁業合意は馬提案の具現化 スタートから来月で半年を迎える安倍晋三政権は、70%超の高水準支持率を維持している。円安・株高が主たる原因のようだが、安倍の「躁状態」は昂じる一方。麻生太郎副総理ら3閣僚の靖国神社参拝(22日)では、中国、韓国の反発を「わが閣僚はどんな脅しにも屈しない」(4月24日参院予算委員会)とかわし、「憲法改正に関する中韓両国への説明は不要」(5月1日 記者懇談)とまで言い切ってみせた。急務は、尖閣諸島(中国名:釣魚島)の国有化でこじれた中国との関係修復であろう。

TPP前夜に農業の価値と対策を考える      濱田 幸生

TPP以降をいやでも考えねばならない時代になりました。だからこそ、今こそなにが「農の価値」なのかはっきりしておかねばなりません。今後わが日本農業は動乱の時代に入ります。その時、何を私たち農民は守ってきたのか、何が農業の仕事だったのか同胞に対して説明していかねばなりません。 それを皆んな日本人なんだからわかってくれているだろう、という甘えが私たち農業にはありました。もう甘えは許されません。私たち農民は主張する時がきました。 TPPの関税についての考えは、国境での保護を撤廃しようというのが趣旨であり、国内で保護すること自体は禁止していません。 

≪連載≫海外論潮短評(68)

世界的に深刻化する若者の失業- 仕事と人生の目標が無い世代         初岡 昌一郎

イギリスの代表的週刊誌『エコノミスト』4月27日号が、世界的に最も深刻な社会問題となっている若年者の失業問題を国際欄「ブリーフィング」の解説記事として取り上げている。無署名なので、同誌編集部によって書かれたものであろう。要約紹介する。
  
≪連載≫宗教・民族から見た同時代世界    

ボストンテロ容疑者兄弟が繋ぐチェチェンと米国の闇   荒木 重雄

国際社会を震撼させたボストン・マラソン爆破テロの容疑者とされるツァルナエフ兄弟については、その出自、犯行の動機ともいまだ不明な点が多い。 だが、兄弟は、1990年代の前半に戦火のチェチェンを一家で脱出、中央アジアを転々とした後、2002年に米国に渡ったとみられること、しかし米国社会で味わう疎外感から故郷チェチェンへの思い入れを深め、さらに、昨年、兄がロシアを訪れた際、チェチェンにも立ち寄ったことがその思いを一層強めたとみられることから、「チェチェン人」としてのアイデンティティーがこの事件に大きくかかわっていると推察される。 ではそのチェチェンとはどのような土地なのであろうか。
  
≪連載≫落穂拾記(22)

橋下「慰安婦」「改憲」発言の意味するもの       羽原 清雅

橋下徹日本維新の会共同代表・大阪市長が「慰安婦必要論」「沖縄米軍の風俗業活用提案」を打ち出した。また、石原慎太郎同代表・衆院議員は「軍と売春はつきもの、歴史の原理」と援護の発言をした。維新の会は3月策定の綱領の中で、現行憲法について「日本を孤立と軽蔑の対象に貶め、絶対平和という非現実的な共同幻想を押し付けた元凶である占領憲法」と決めつけて、改憲への意欲を示している。 

■【横丁茶話】

罪なきもの石もて女を打て―内村鑑三と浅田タケ                西村 徹

●悪の張本人、羊の皮を着た狼  内村鑑三の「ことば」について鈴木範久という宗教学者が解説するのをテレビで見た。というか聞いた。内村鑑三にも無教会にも格別の興味があるわけではなかったが、知人に無教会の人がいて、それでちょっと付き合い気分で、この番組を見ただけのことである。NHK-Eテレで第三日曜の午前5時「こころの時代」という番組があって、話しはまだこれから何回か続きがあるらしいから短兵急にはいえないが、4月21日第1回のなかで、一つ、細かくいえば二つ三つ、どうにも解しがたいところがあった。はっきり言って不快に思うところがあった。

■【北から南から】
中国・深セン便り

『中国・頂き物あれこれ』  佐藤 美和子

かつて90年代の留学生時代は、誕生日プレゼントやお餞別などに記念品的なものを頂くことが多かったのですが、中国に住んで長くなると、頂き物の内容がずいぶん様変わりしてきていることに最近気がつきました。 留学生時代に私が恩師や友人知人から頂いたものは、たいていが大きくて嵩の高い飾り物でした。私、40センチ四方のずっしりと重い銅版の彫り物を、すっかり荷造りを終えた帰国日当日出立間際に頂いたこともあります。彼女の民族を象徴する伝統的彫り物だとのことだったので、頑張って背負って持ち帰り、今も実家に飾っています。道中は死ぬほど重かったけれど、きっと彼女のことやあのお餞別の品のこと、このエピソードのお陰で一生忘れないと思います(笑)。

ビルマ/ミャンマー通信(5)3つのメーデー集会       中嶋 滋

今年ミャンマーでは、メーデーを祝う集会が3つもたれました。いずれも最大都市ヤンゴンで開催されました。 1つは政府主催のもので、招待された労働組合や使用者団体の代表など1000名程度の人々が参加し、政府代表として労働大臣が大統領の挨拶文を代読し開会しました。この集会には各国大使館や、ILO、ITUC(国際労働組合総連合)、GUF(国際産業別労組の総称)、FES(フリードリッヒ・エーベルト財団)など国際組織の代表も招待され、私も参加いたしました。

オランダ通信(1)デモクラシーの擁護者としての君主       リヒテルズ直子

5月5日は日本では「こどもの日(端午の節句)」。他方、オランダではこの日は「解放記念日」です。第2次世界大戦終結間近、オランダはこの日にドイツの占領から解放されています。その前日4日は「戦没者追悼の日」で、アムステルダムのダム広場には2万人近くの市民が集まり、君主が戦没者追悼碑に大きな花輪を捧げ、20時ちょうどに2分間の黙祷が行われます。

■【アメリカ・レポート】

オバマの視点―イスラエルとパレスチナ       武田 尚子

「ご歓迎ありがとうございます。」(喝采、拍手)「すぐる二日以上、私はナタ二ヤフ首相とペレス大統領にお会いし、我々両国を結ぶ絆を再確認いたしました。Shrine of the Book (イスラエル博物館の一部で死海の巻物を含む多くの考古学上の遺物の展示がある)ではお国の古代史を目撃し、お国の科学者や企業家にはイスラエルの輝かしい未来を見ました。貴国は、博物館とパテントの国、不朽の聖蹟、死海の巻物と火星の遊歩ロボットテクノロジーが共に起源を有する国であります。」(拍手と歓呼) 「しかし私がもっとも待望していたのは、あなた方青年と直接お話しすることでした。それは我々を今日ここに集わせた歴史と、あなた方が未来の何年かに作られる歴史のためであります。」

■【書評】

「ヴラジーミル・プーチン」           藤生 健

4月末のマスコミ報道は安倍総理の訪露に伴うプーチン大統領との首脳会談一色となり、主要紙の一面を大きく飾った。その報道は、プーチン大統領が安倍総理のリーダーシップを認め、領土問題の解決と平和条約交渉を大きく前進させることで合意したというところが大筋だろう。外務省によれば、会談の俎上に上がったテーマは以下の通り。① 安全保障協力-アジアの安定化② 平和条約交渉-次官級交渉の立ち上げ③ 国際連携-特に対北朝鮮④ 経済協力-貿易促進とシベリア開発⑤ 文化・人的協力の充実-文化センターの設置 この中で具体的に決まったのは「文化センターの設置」くらいなもので、後は日ロ間における外交交渉の方向性について合意したというレベルであり、成果が過剰に評価されているように見受けられる。また、会談においてプーチン大統領から中露国境画定に際しては面積等分で解決されたという話がなされたことが強調されており、国民に過剰な期待を抱かせている。
■【書評】

「構造改革論再考―加藤宣幸氏に聞く」      堀内 慎一郎

「構造改革論再考―加藤宣幸氏に聞く」は、『大原社会問題研究所雑誌』No.650(2012年12月号)、No.652(2013年2月号)の二号に渡って掲載されたものであり(以下、「本インタビュー」とする)、法政大学大原社会問題研究所の研究プロジェクト「社会党・総評史研究会」が実施したものである。なお、脚注によれば、同研究会には「オルタ」の常連寄稿者である、岡田一郎氏、木下真志氏、山口希望氏も参加されているとのことである。 本インタビューは「上」「下」の二部構成となっており、「上」には事前に提出された質問状に沿って、まず加藤勘十の長男である加藤氏の生い立ちから、敗戦直後の加藤勘十周辺における状況、加藤氏の社会党入党と親友・矢野凱也氏とともに社会党本部専従となる経緯、結党当初の社会党本部であった第二堤ビルや書記局の様子について語られている。
■【投稿】

名古屋市長選挙と山口県参院補欠選挙結果から参院選展望  仲井 富

◆名古屋市長選挙で自民と組んで連敗 民主王国崩壊  4月には重要な選挙が二つあった。一つは4月21日投票の名古屋市長選挙であり、も一つが4月28日の山口県参院補選だった。 3年前までの愛知は民主党最強の地盤といわれた。07年、09年と参院選では3名区2名を当選させた。08年の衆院選挙では15選挙区すべてを制する完勝だった。名古屋市長選挙では民主党は2年前に現職の国会議員を出して、トリプルスコアで惨敗した。今回は候補者擁立はできなかったが、前回と同じく河村打倒のために、自民候補を支持したが、ダブルスコアの惨敗だった。 

■【俳句】   富田 昌宏

麦秋の関八州や紺筑波(つくば)  麦刈りの機械の機嫌損ねけり

【川柳】   横 風 人

この20年 国が育てた うらみ節  市民主権 見えるは選挙の 不平等のみ

■【【緊急アッピール】】

「日本がTPPを止める」米国議員に日本の主張を伝えよう! 

●日本の交渉参加阻止のために、まだできることがあります! 米国議員に自民党の決議文、衆参農林水産委員会決議文の英訳を送り、日本が現行のTPP交渉を丸のみするつもりはないことを伝えましょう。その送り状の署名欄に名前を連ねる人を募集します。 現在米国議会は、日本をTPP交渉に参加させるかどうかを議論するとともに、政府に通商条約を結ぶための権限を与えるかどうかを検討中です。2007年に失効している大統領貿易促進権限(Trade Promotion Authority)、略してTPAを米国議会が政府に認めるかどうか、注目が集まっています。TPAを取れない場合、アメリカはTPP協定締結を諦めなければならないからです。 年内に締結を目指すというTPPですが、ここに至っても、米国の議員たちは、ごく一部の推進派を除き、TPPについてはあまり意識が高くはなく、ただ日本がTPPに参加したいがために、ついに農産物を全面的に開放してくれて良かったね、などと考えているようです。

【編集後記】

◎安倍総理は、民主党の惨敗・野党混乱の今こそ念願だった九条改正のチャンスとばかり、まず手をつけたのが改憲のハードルを下げる憲法96条改正だ。これは改憲論者として知られる慶応大学小林節教授でさえ反対する立憲主義の禁じ手だ。いわばサッカー選手が点の入りにくいルールを変えようとするもので許されるものではない。 私たちは戦後60有余年、平和主義憲法のもとで立憲主義=議会主義体制を選んできた。この制度はルールを厳密に守ることでしか機能しない。安倍晋三氏はこの大切なルールを壊そうというのだ。彼が祖父岸信介を政治家として尊敬し、改憲による国防軍の創設をもくろんでいるのは良く知られる。改憲思想は岸・安倍家代々のDNAなのであろうが、私の記憶に残るのは60年安保審議における岸総理の強引な政治手法だ。